パンデミックの襲来
– 真壁智治「臨場」から窺う渋谷問題への気付き(第20回)|連載『「みんなの渋谷問題」会議』

この連載について

渋谷再開発は百年に一度とされる民間主導の巨大都市開発事業で、今後の都市開発への影響は計り知れない。この巨大開発の問題点を広く議論する場として〈みんなの「渋谷問題」会議〉を設置。コア委員に真壁智治・太田佳代子・北山恒の三名が各様に渋谷問題を議論する為の基調論考を提示する。そこからみんなの「渋谷問題」へ。

真壁智治(まかべ・ともはる)

1943年生れ。プロジェクトプランナー。建築・都市を社会に伝える使命のプロジェクトを展開。主な編著書『建築・都市レビュー叢書』(NTT出版)、『応答漂うモダニズム』(左右社)、『臨場渋谷再開発工事現場』(平凡社)など多数。

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パンデミックの襲来

 渋谷再開発工事現場の臨場で思いも掛けない事態が突然訪れた。

 それは桜丘口地区の工事現場から人影が掻き消え、全く工事が動かなくなったのだ。

 工事の進捗は凍りつくように止まり、時が止まった眺めを生んでいた。

 新型コロナウイルス感染が地球規模で蔓延まんえんし、日本での緊急事態宣言が発出された直後の事態で、オフィス街や繁華街から人影が失せるのと違い、工事現場が止まることの事態は工事が常に変化する動態を伴うだけに、そのサドンデス状態にはむしろ異様さが際立ちました。

 パンデミックが都市の日常を明白あからさまにする。

 都市は生産と消費とを繰り返し、その持続性を誰もが疑わないし、更なる生産性を都市に担わせようとする。まさに欲望の資本主義が暗躍する舞台こそが都市であり、その日常となるものだ、と言うことがパンデミックの事態に都市が停止して改めて現実として知らされることになった。

 しかし、こうしたパンデミックと言う非常事態は想像を越えたクライシスを社会にもたらす。

 今、改めて工事現場が一切止った光景から学ぶべきは視えないものから都市に対して想像することの必要性ではないか。

 今回の臨場機会は先の見えない新型コロナウイルスとの長い闘いの端緒に出会ったに過ぎなかったのだが、奇しくも私たちの「渋谷問題」の奥底に、今突き付けられているパンデミックと都市とのクライシスポイントが潜むことを顕在化させたのでもありました。

 詰まるところ私たちの「渋谷問題」は都市とに収斂するが、「パンデミック」は都市あるいは世界と人類と言う恒久的、普遍的なテーマに出会うことになるのです。

 従ってパンデミックは「渋谷問題」に人類からの視点をもつ余地が在ることを教えてくれているのではないか。視えないものからの都市への想像である。

 どうにも手の打ち様の無い都市と世界のクライシスに渋谷再開発工事現場も遭遇した。

 こうしたパンデミックの事態も「渋谷問題」として記憶されるべきだろう。

(つづく)

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