建築家の役割
– 真壁智治「臨場」から窺う渋谷問題への気付き(第13回)|連載『「みんなの渋谷問題」会議』

この連載について

渋谷再開発は百年に一度とされる民間主導の巨大都市開発事業で、今後の都市開発への影響は計り知れない。この巨大開発の問題点を広く議論する場として〈みんなの「渋谷問題」会議〉を設置。コア委員に真壁智治・太田佳代子・北山恒の三名が各様に渋谷問題を議論する為の基調論考を提示する。そこからみんなの「渋谷問題」へ。

真壁智治(まかべ・ともはる)

1943年生れ。プロジェクトプランナー。建築・都市を社会に伝える使命のプロジェクトを展開。主な編著書『建築・都市レビュー叢書』(NTT出版)、『応答漂うモダニズム』(左右社)、『臨場渋谷再開発工事現場』(平凡社)など多数。

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建築家の役割

 これまでの大型建築工事中の臨場から、デザインアーキテクトたちの渋谷に懸ける試みや役割を探ろうとしてきた。それは飽くまでも、事前に計画を知った上での臨場ではなく、工事現場そのものが語り出すものを受け止め、それを検証しつづける所から読み取ろうとする態度となるものだった。
 都市にコミットしてゆく建築家の、限定的ではあれデザイン・トライアルの行方が渋谷再開発工事現場から鮮明に察知されたように思います。それは工事現場だからこそ赤裸々に察知しえたものでもあったのです。
 総じて、巨大なものへの警戒からか建築の媒介性に主題を置く心理的な効用・効果への試みや、膨大な均一・画一性の出現に揺さぶりをかける破調の投与、メガスケールに対するヒューマンスケールの死守、場所の接地性の記憶化などへの挑みが一様にデザインアーキテクトたちに概観された。そうしたものへの丁寧な検証作業が、これからのデザインアーキテクト制度を考える上での重大な課題となってくるのです。
 これらのことを念頭に入れると、「渋谷問題」とはまさに建築家の役割論にも波及することが必至なのがよく分かるはずでしょう。
 同時にそこから今後の大規模開発に於ける建築家の役割にも影響が及ぶことも一方で懸念しなければならないのです。
 長期にわたる渋谷再開発工事も既に後半戦に突入。
 これからの私の最大の臨場関心事は、全体のヴォリュームが少し遠望出来るまでに至ってきた桜丘口地区施設群(デザインアーキテクト古谷誠章)と、二〇二七年までに及ぶであろう渋谷駅更新工事やハチ公広場の拡張工事に続く、工事の最後になるだろう「渋谷スクランブルスクエア」中央棟・西棟(デザインアーキテクトSANAA妹島和世・西澤立衛)の
様態・様相に向うことである。
 そこに多くの「渋谷問題」に出会える期待がこもるからだ。
 とりわけ、SANAAが担当し、デザイン展開する渋谷駅空中広場やハチ公広場及び「渋谷スクランブルスクエア」中央棟・西棟の接地階でのそれぞれの公共性について検証することです。
 この部分の臨場では嘗ての「新宿駅西口広場」(坂倉準三、一九六六年)の問題提起以上の話題性と邂逅することになろう。
 そこにこそ、渋谷再開発に関わった建築家の役割を再認識することになる。

 その為にも渋谷再開発工事現場の臨場からデザインアーキテクトたちの限定された裡での建築家としての自覚と問題意識の一端を嗅ぎ取って狼煙を上げてゆくことをしなければなるまい。建築家の役割を「渋谷問題」として俎上に載せるためのものだ。

(つづく)

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