歩行のまち・渋谷
– 真壁智治「臨場」から窺う渋谷問題への気付き(第10回)|連載『「みんなの渋谷問題」会議』

この連載について

渋谷再開発は百年に一度とされる民間主導の巨大都市開発事業で、今後の都市開発への影響は計り知れない。この巨大開発の問題点を広く議論する場として〈みんなの「渋谷問題」会議〉を設置。コア委員に真壁智治・太田佳代子・北山恒の三名が各様に渋谷問題を議論する為の基調論考を提示する。そこからみんなの「渋谷問題」へ。

真壁智治(まかべ・ともはる)

1943年生れ。プロジェクトプランナー。建築・都市を社会に伝える使命のプロジェクトを展開。主な編著書『建築・都市レビュー叢書』(NTT出版)、『応答漂うモダニズム』(左右社)、『臨場渋谷再開発工事現場』(平凡社)など多数。

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歩行のまち・渋谷

 渋谷再開発事業と併走するように、「歩行のまち・渋谷」が謳われ、「歩行者中心の道路空間をめざして」とする社会実験も執り行われだした。これも、渋谷再生のもう一つの重要な主題として、固有な地勢から生まれる歩行のまちを整備してゆこうとする行政の相乗り的意図も感じないわけではない。
 この「歩行のまち・渋谷」には二様の視点が介在するだろう。
 一つは、「歩行者中心のまち・渋谷」への視点。もう一つは「歩行者が楽しいまち・渋谷」への視点。
 前者の視点には、都心部こそ、車中心の構造から歩行者が安全・安心、そして快適に移動出来る道路への変革シフト化が挙げられる。
 後者の視点には、渋谷の固有な地勢を貴重な都市資源として把握し直し、魅力的な歩行体験が果たせるまちとして整備してゆくことが挙げられる。
 ここで一度、渋谷再開発の現況と「歩行のまち・渋谷」の視点を重ね合わせて眺めてみたい。
 当然、渋谷再開発では、一定程度「歩行のまち・渋谷」を公民一体として展開することを織り込んではいただろう。
 渋谷再開発で目玉の一つに「公共貢献」としての「アーバンコア」と「スカイウェイ」とがあるが、どちらも「歩行のまち・渋谷」を印象付け、実体験させるに格好の都市装置となるもので、共に、「快適な移動」と「洗練されたデザイン性」を体現させるものとの触れ込みとなっている。
 「歩行のまち・渋谷」の最初の視点、「歩行者中心のまち・渋谷」と渋谷再開発ではどうであろうか。
 渋谷再開発では、ある意味「アーバンコア」と「スカイウェイ」とに依り徹底して地上性を排除した人びとの移動(歩行)を強制誘導で図っている、と言える。このこと自体は「歩行のまち・渋谷」とは矛盾するものではないが、地上性を一切欠いた歩行の在り方には一長一短もあろう。どうしても渋谷全体からの判断も必要になってくる。つまりは「快適な移動」も立場を替えれば「過剰な移動」に映るのである。次いで「歩行者が楽しいまち・渋谷」からはどうだろう。街を歩行する楽しさは地勢や街並みの魅力と共に在ります。地上性を排除した空中歩廊は地勢や街並みの接触を欠くもので、楽しさよりは「便利な移動」に貢献するものになる。そして、便利な移動の先には、「アメージングな移動」、「エンターテインメントな移動」が構築されようとしている。
 こうした渋谷を巡る直近の動向を見るまでもなく、「これからの渋谷」は「これまでの渋谷」以上に歩行の街としての課題が増大してくることは間違いない。安全な歩行・豊かな歩行・魅力のある歩行が街の生命線になってくるのは必至。
 元々、起伏のある地勢の街であり、それに加え渋谷再開発で多くのオープンスペースが新たに生まれることになる。よって施設の大型化・開発の巨大化は、同時にこうした「歩行空間」を都市デザインとして真にオープンエンド なものにしてゆかなければならない責務があることを改めて指摘しておきたい。
 従って、私たちはこれから「歩行のまち・渋谷」の為にも渋谷再開発が体現して来ている歩行空間の反面教師性を検証してゆくことになる。これも重要な「渋谷問題」として採り上げられるべきテーマとなろう。
 それに向けての気付きとなる狼煙を立ち昇らせねばなるまい。
 この様に「渋谷問題」では歩行という具体性を持つ行為からこそ、その問題点に迫ってゆくことに執着したい。
 つまりは、渋谷問題に向き合い、そこから「歩行」を思索し、その上で「欲望する都市」、「軋む都市」=渋谷の構造を解読することになる。
 「私」から発する小さな視点から巨大な欲望する都市の像に関連することがなによりも臨場の本懐なのである。

(つづく)

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