みんなの「渋谷問題」への視点 – 真壁智治「臨場」から窺う渋谷問題への気付き(第36回)|連載『「みんなの渋谷問題」会議』

この連載について

渋谷再開発は百年に一度とされる民間主導の巨大都市開発事業で、今後の都市開発への影響は計り知れない。この巨大開発の問題点を広く議論する場として〈みんなの「渋谷問題」会議〉を設置。コア委員に真壁智治・太田佳代子・北山恒の三名が各様に渋谷問題を議論する為の基調論考を提示する。そこからみんなの「渋谷問題」へ。

真壁智治(まかべ・ともはる)

1943年生れ。プロジェクトプランナー。建築・都市を社会に伝える使命のプロジェクトを展開。主な編著書『建築・都市レビュー叢書』(NTT出版)、『応答漂うモダニズム』(左右社)、『臨場渋谷再開発工事現場』(平凡社)など多数。

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みんなの「渋谷問題」への視点

 やはり、「渋谷問題」の中核は、渋谷再開発が他に与える影響を精査し、推量することであるべきだろう。

 こうした再開発のやり方・進め方を俎上に載せることは、他への影響も含め「渋谷問題」の必至の吟味とならなければならないのです。

 以前から私は「渋谷問題」のアウトラインを、渋谷再開発の計画理念と事業そのもののしくみを精査すること、次いで再開発から派生する新たな事態を検討すること、そしてこの再開発が日本の社会や都市、更には建築や建築家などに及ぼす局面を洞察し、広く議論をする問題領域の総称としてきた。

 再開発工事現場の臨場から窺えるものはそれらの極(ごく)一部分でしかないものの、渋谷再開発が与えかねない影響をこの段階でも読み取ることが出来るかもしれない、と言うことだった。

 「渋谷問題」は、都市政策・都市計画・都市経済学・都市社会学、建築家そして開発事業に関わる行政関係者、ディベロッパー、建築・建設関係者、JR・メトロ、国交省だけの議論に留めてはならないのです。

 飽くまでもそれはみんなの「渋谷問題」として、私たちの日常生活批判としての「渋谷問題」でなくてはならないと考えます。

 「みんな」とは、より多くの都市生活者及び事業者、都市・建築との隣接領域や異分野の研究者・専門家などを指します。

 みんなの「渋谷問題」とする為には、みんなが渋谷再開発の及ぼす影響について考える素地や参照すべき材料が必要になろう。

 再開発が完了し、稼働し始めてから、みんなの「渋谷問題」へ向うのも有りだが、一五年以上にわたる工事期間の末の渋谷再開発である。

 現在の工事現場から渋谷再開発の影響について考察し得るものは、この臨場を通して披瀝しておいた方が良い、と考えた。

 なによりもこの長き工事期間中に開発主体側からはろくな広報もアナウンスも無く、ネット上での概要説明の更新も余り無いからです。有ったのは予想完成パースとその概要のみで、その計画意図やデザインの解説は一切無い。渋谷再開発計画の全体像やオンデマンドな工事進行についての説明や工事そのものの概要を示す情報が、みんなにもたらされていない。

 私たちと再開発工事との一体感がないのだから、私たちが工事に対して当事者意識を持つまでには到底至っていない(この私たち不在なプロジェクト推進体験はあの「新国立競技場」や「MIYASHITA PARK」などの顛末の折に味わったものだった)。

 つまりは、私たちと渋谷再開発工事とは全く並走感が無い、と言うことなのです。

 そこに並走感が無いから、工事中に派生する再開発の影響について類推することなど出来ようも無いのです。
 「渋谷問題」とは、日々私たちが渋谷(都市)を生きるところから思考し、感覚することを前提とした日常生活批判となるべきものなのではないか。

(おわり)

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