アクセシビリティ(accessibilty)を問う
– 真壁智治「臨場」から窺う渋谷問題への気付き(第2回)|連載『「みんなの渋谷問題」会議』

この連載について

渋谷再開発は百年に一度とされる民間主導の巨大都市開発事業で、今後の都市開発への影響は計り知れない。この巨大開発の問題点を広く議論する場として〈みんなの「渋谷問題」会議〉を設置。コア委員に真壁智治・太田佳代子・北山恒の三名が各様に渋谷問題を議論する為の基調論考を提示する。そこからみんなの「渋谷問題」へ。

真壁智治(まかべ・ともはる)

1943年生れ。プロジェクトプランナー。建築・都市を社会に伝える使命のプロジェクトを展開。主な編著書『建築・都市レビュー叢書』(NTT出版)、『応答漂うモダニズム』(左右社)、『臨場渋谷再開発工事現場』(平凡社)など多数。

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アクセシビリティ(accessibilty)を問う

 渋谷再開発計画の重要な解決命題として、基盤インフラ整備について挙げられていたのが、鉄道線路や高速道路や百貨店施設などが谷底地勢に集中し街を東西南北に分断して来た渋谷の在り様を開き、繋ぎ、ターミナルとしての乗り換えのアクセス性や駅とまちとのアクセス性を、そしてまち相互へのアクセス性を改善させることであった。
 そこで、臨場に依る狼煙の第一弾として「アーバンコア」と「スカイウェイ」と言う都市装置を駆使した渋谷駅中心地区の「アクセシビリティ」に注目してみる。
 渋谷の再生を図る上からも重要な都市装置となるもので、「快適な移動」と「洗練されたデザイン」が計画実施に当って標榜され、渋谷再開発の目に見える重要な目玉の開発資質となっているものである。
「快適な移動」を具体的な手段として担う「スカイウェイ」はブリッジやデッキから成る。
 「快適な移動」の計画の内に地上性への関心の希薄さを強く感じざるをえないのです。
 「スカイウェイ」に依る「快適な移動」は地上離れを促進し、更には街並みの体験を疎くさせかねない。
 渋谷再開発ではこの「快適な移動」が無原則に拡大解釈され、大義として多用され過ぎてはいないか。
 「快適な移動」は飽くまでも街へのアクセシビリティを高める公共性の強いオープンスペースでの行使が原則であり、本来的には円滑な移動がその主旨となろう。公共空間で円滑な移動を促進させるから「スカイウェイ」は意味と評価を持つものなのです。
 それが渋谷再開発では「快適な移動」の大義が拡大解釈され、観光化・エンターテインメント化に及ぶ一方で、開発施設間をデッキやブリッジで繋ぐ「便利な移動」や「抜け駆け移動」は目に余るものがある。
 それらは開発主体側からすれば「公共貢献」として成されているものだ、との言い分であろう。
 問題は、その「スカイウェイ」がどこまで「公共貢献」として皆に共通利益をもたらすものとして認知・了解されるか、である。
 しかし、渋谷全体から眺めると、一極集中型移動密度を加速化させる移動の寡占化の事態としてしか映らず、そこに不平等感・不公平感が拭えない。特に渋谷を支えている多くの地元密着の事業者にとってはその感は強いものが在るだろう。

 再開発事業者間の内での好都合な「快適な移動」が罷り通っているとすれば、「スカイウェイ」を全て点検することが「渋谷問題」を切り開く手掛りになるかもしれない。これらのことは計画を理解しても容易には気付かぬことでもある。
 そうした狙いをこめて、「アクセシビリティ」に狼煙を立ち昇らせるのです。
 「アーバンコア」も危うさを持つ。東急東横線渋谷駅の地下化に依る事態のいまだの混乱を上下動線の装置化での「快適な移動」を図り、全体としての混乱を不問にしてしまっているからだ。なによりも地下から「アーバンコア」に辿り着くまでが混乱を誘っているのだ。

(つづく)

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