公と民の協奏
– 真壁智治「臨場」から窺う渋谷問題への気付き(第7回)|連載『「みんなの渋谷問題」会議』

この連載について

渋谷再開発は百年に一度とされる民間主導の巨大都市開発事業で、今後の都市開発への影響は計り知れない。この巨大開発の問題点を広く議論する場として〈みんなの「渋谷問題」会議〉を設置。コア委員に真壁智治・太田佳代子・北山恒の三名が各様に渋谷問題を議論する為の基調論考を提示する。そこからみんなの「渋谷問題」へ。

真壁智治(まかべ・ともはる)

1943年生れ。プロジェクトプランナー。建築・都市を社会に伝える使命のプロジェクトを展開。主な編著書『建築・都市レビュー叢書』(NTT出版)、『応答漂うモダニズム』(左右社)、『臨場渋谷再開発工事現場』(平凡社)など多数。

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公と民の協奏

 渋谷再開発には多くの事業者の利権が介在する。東急電鉄・JR東日本・東京メトロ・東急不動産・国交省・国道事務所・東京都・渋谷区がそれで、それぞれの思惑と動き方が違う、とのこと。
 二〇一七年一一月、全くの偶然であろうか。「渋谷スクランブルスクエア」東棟の建物外装の「表情」がイメージ出来るようになるや、この事態と軌を一にして「ヒカリエ」に向うブリッジ手前の仮設通路壁面に示されてきた計画建築概要とパースなどが撤去され、代わりにここの再開発の当該区である「渋谷区」からの、当再開発計画へのメッセージ(応援歌)とも受け取れるものがグラフィカルなポスターとして張り出された。

 「YOU MAKE SHIBUYA」
 それは、すべてのあなたに向けた
 渋谷区からのラブコール。
 「ちがいをちからに変える街」だから。
 あなたの知識も、経験も、好みも、悩みも。
 あなたと誰かの「ちがい」はすべて、
 この街のちからになっていきます。
 YOU MAKE SHIBUYA
 渋谷区に住む人も、そうでない人も。
 あなたが存在しなければ、
 つくれない未来がある。
 そのことを、渋谷区は
 なにより愛しく思うのです。

 このメッセージは渋谷区がこれからの姿へのヴィジョンを表明するものとなっていて、「あなた」の存在と「未来」と、そして「渋谷区」、この三つのリンケージを強く暗示している。
 「ヒカリエ」が建ち、「ヒカリエブリッジ」が開通し、新たな公共空間を体現し始め、「渋谷スクランブルスクエア」東棟の肢体が組み上がり、外装のガラスが装着され始めた正に、渋谷再開発に対してワクワクする期待感が高まり易い工事様態のタイミングで、先のメッセージが発せられたのだ。
 「あなた」と「未来」と「渋谷」が目の前の光景から新しく歩み始めます。この光景の主役は「あなた」です。「YOU MAKE SHIBUYA」このメッセージ意図は目の前の光景を渋谷区は当該行政区として関与・支持しているものです、渋谷を「あなた」と一緒につくりましょう。
 再開発工事中での絶妙な渋谷区からのメッセージは工事中を舞台とする劇場型の情報発信そのもので、再生開発特区だからこその公と民の協奏が可能になったものであった。
 再開発主体の一翼を担う民間ディベロッパーの野心と公の思惑とが工事現場の光景を媒介にして野合する事態を生んでいたのである。こうした公と民の協奏に依る大合唱も工事現場の臨場から忘れがたい渋谷問題としての問題点として指摘されるべきものであろう。

(つづく)

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