一瞬のユートピア性
– 真壁智治「臨場」から窺う渋谷問題への気付き(第3回)|連載『「みんなの渋谷問題」会議』
渋谷再開発は百年に一度とされる民間主導の巨大都市開発事業で、今後の都市開発への影響は計り知れない。この巨大開発の問題点を広く議論する場として〈みんなの「渋谷問題」会議〉を設置。コア委員に真壁智治・太田佳代子・北山恒の三名が各様に渋谷問題を議論する為の基調論考を提示する。そこからみんなの「渋谷問題」へ。
真壁智治(まかべ・ともはる)
1943年生れ。プロジェクトプランナー。建築・都市を社会に伝える使命のプロジェクトを展開。主な編著書『建築・都市レビュー叢書』(NTT出版)、『応答漂うモダニズム』(左右社)、『臨場渋谷再開発工事現場』(平凡社)など多数。
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一瞬のユートピア性
解体・破壊と新設・建設の同時並行的な動態が生み出す光景は、ある意味で恍惚的均衡世界ですらあり、こんな体験はめったに出来るものではない。
しかも、今、渋谷再開発工事現場が息遣いを伴って示している均衡的動態は、それと共に生きることを前提するならば、一瞬の建築世界のユートピアとして観相することが出来るのではないだろうか。渋谷再開発工事現場を見続けてゆく上では共に生きて、動いてゆく都市の内の一瞬の「ユートピア」性を感じ取る感受性が必要となります。
二〇二七年の完成を待つのではなく、この途上・途中の工事過程を、当事者意識を持って一瞬一瞬感じ取り生きてゆくことが、建築を、都市を新たな体験として生きることになることを忘れてはならないと思う。
「この光景はもうない。」
都市のユートピア性とはこの様に一瞬にして体現し、一瞬にして消失してしまうものなのである。再開発工事現場にこんな恍惚的様相が潜んでいたとは改めての発見であった。
これも再開発工事が垣間見せた一瞬の開発資質として工事現場に狼煙を立ち昇らせたいと思う。
渋谷再開発工事現場に束の間であれ現れた、誰も想定し得なかった「一瞬のユートピア性」こそが都市の無場所の体現であったことを皆の心に刻む為にも狼煙が必要だった。
再開発工事現場から感受された「一瞬のユートピア性」も又、「渋谷問題」の俎上に載せられ、議論されるべき余地を持つものと言っていいだろう。これも渋谷再開発が稀な劇場型工事の特性を強く持つ故のことに由来する。
(つづく)