連載「ギリシャのポスト・オーバーツーリズム」vol.1|
ごった返すアテネ空港

新型コロナウイルス感染症の収束は未だに見通せないなか、世界の観光地の中には、国外からの観光客を積極的に受け入れているところも多くなってきました。
特にヨーロッパ随一の観光立国であるギリシャは、早くからインバウンド観光の受け入れを再開しており、すでにコロナ禍以前の活況をみせているとも言われます。

この連載は、国際観光政策が専門の石本東生さん(國學院大學教授/『ポスト・オーバーツーリズム』共著者)が2022年8月下旬に実施するギリシャでの現地調査のもようを、(なるべく)リアルタイムにお届けします。

8月18日

今日は8月18日。ギリシャ・アテネ空港に着いたのは、約2か月ぶりである。

新型コロナの世界的流行により、2019年10月以降、2年8か月もの間、研究フィールドのギリシャを訪れることはなかったが、今年6月中旬に来希したところであった。それに引き続き、今回の夏期調査は、これまで着手できなかった課題が山積していることもあり、例年より長く22日間の滞在となる。

このギリシャ便りは、実に筆者が備忘録的に記すもので、欧州でも屈指の観光国ギリシャが、現在どのような国際観光客の受け入れを行い、また近年どのような観光地づくりを推進してきたのかなど、簡単に述べていきたく思っている。

旅行客でごった返すアテネ空港のターミナル

日本国内でも6月より外国人観光客の入国条件が緩和されたが、ギリシャでは既に5月1日より、ギリシャ人および外国人ともに、ギリシャ入国時に求められていた、新型コロナワクチン関連の証明書(ワクチン接種証明書、治癒証明書及び陰性結果証明書)の提示義務も不要となっている。

そのためか、今年の観光シーズンは、過去最高の外国人観光客入込数を記録した2019年(約3千2百万人)を凌ぐ勢いでギリシャ本土、エーゲ海、イオニア海のデスティネーションに殺到していることを、連日のように各メディアが取り上げている。また、経済効果も2019年を上回るのは間違いないと見込まれている。

本日、お昼過ぎにドーハ経由でアテネ空港に降り立ち、その足で夕方のロードス行きのフライトを待つため、空港ターミナルの外に出ることはなかったが、写真の通り、ターミナル内は旅行客でごった返していた。空港内は「マスク着用が推奨」されているものの、マスク着用者は見るところ1割にも満たない様子である。

アテネ空港 国際線出発口付近の店舗

一方、昨晩発った東京・成田空港(第2ターミナル)では、6月に続き今回も実に閑散としていた。あるラウンジのスタッフに聞いてみると、出国管理ゲート(パスポートコントロール)手前のレストラン街やショッピングエリアも、また同ゲートの先の免税店等も、その多くがいまだに営業しておらず、寂しい限りだ、と語っていたのは、印象的であった。

アテネ空港内は、いたって元気。今晩訪れる南エーゲ海屈指の観光地「ロードス島」の様子も楽しみである。

(次回に続く)

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筆者紹介

石本東生(イシモト・トウセイ)

國學院大學観光まちづくり学部教授。博士(Doctor of Philosophy)。1961年長崎県生まれ。ギリシャ国立アテネ大学大学院歴史考古学研究科博士後期課程修了。ギリシャ観光省ギリシャ政府観光局日本・韓国支局、奈良県立大学地域創造学部、追手門学院大学地域創造学部、静岡文化芸術大学文化・芸術研究センター教授を経て、現職。専門分野は国際観光政策、EUの観光政策、初期ビザンティン史。著書(監修)に『すべてがわかる世界遺産大事典(下)』(2020年、世界遺産アカデミー/世界遺産検定事務局刊)、『ポスト・オーバーツーリズム 界隈を再生する観光戦略』(2020、学芸出版社)、『ヘリテージマネジメント 地域を変える文化遺産の活かし方』(2022、学芸出版社)など。

関連書籍

ポスト・オーバーツーリズム 界隈を再生する観光戦略

阿部大輔 編著/石本東生ほか 著

市民生活と訪問客の体験の質に負の影響を及ぼす過度な観光地化=オーバーツーリズム。不満や分断を招く“場所の消費”ではなく、地域社会の居住環境改善につながる持続的なツーリズムを導く方策について、欧州・国内計8都市の状況と住民の動き、政策的対応をルポ的に紹介し、アフターコロナにおける観光政策の可能性を示す

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