ヘリテージマネジメント


松本茂章 編著 中川幾郎・南博史・高岡伸一・朝倉由希・信藤勇一・高島知佐子・森屋雅幸・西村仁志・石本東生・藤野一夫 著

内容紹介

建築・芸術・歴史から政策・金融・税制まで

地域の文化遺産を保存・継承し、まちづくりに活かすために、文化遺産を「経営」する力が求められている。文系・理系、有形・無形の壁を越え、総合的・現実的に取り組むための視野と知識が欠かせない。本書は、建築・アート・歴史から政策・金融・税制まで、幅広い観点から具体的に解説。日本初、「文化遺産経営」の教科書。

体 裁 A5・240頁・定価 本体2600円+税
ISBN 978-4-7615-2817-1
発行日 2022-05-05
装 丁 テンテツキ・金子英夫


目次著者紹介はじめに関連ニュース関連イベント

はじめに 松本茂章

第1章 ヘリテージマネジメント新時代~「保存・継承」から「経営」へ~ 松本茂章

第2章 地域文化遺産を活かすために

2-1 公共政策としてのヘリテージマネジメント 中川幾郎
2-2 考古学・歴史学の立場からの活かし方 南博史
2-3 リノベーションから考えるヘリテージの設計論 髙岡伸一
2-4 文化遺産活用をめぐる法的整備 朝倉由希・信藤勇一・高島知佐子

第3章 歴史的建造物を地域の課題解決に活かす

3-1 市民主導の運動で洋館を保存・活用―旧小熊邸と東田秀美 信藤勇一
3-2 里山住民による元校舎の活用が健康づくりに―尾県学校と協力会 森屋雅幸
3-3 城郭の復元と観光振興―西尾城の整備をめぐって 松本茂章
[interview]国登録有形文化財全国所有者の会会長 寺西興一「古民家活用はマンションより儲かる」 松本茂章

第4章 「創造人材×古い建物」がまちを変える

4-1 近代遺産がアートセンターに―旧国立神戸移民収容所とCAP HOUSE 松本茂章
4-2 空き家を活用する創造人材たち―大阪市此花区・梅香地区のまちづくり 松本茂章
[interview]公益社団法人日本芸能実演家団体協議会参与 大和滋「実演芸術と廃校活用の可能性」 松本茂章

第5章 企業とヘリテージマネジメント

5-1 文化財の保護・活用をめぐる企業と住民の協働―京都・聴竹居を事例に 松本茂章
5-2 洋館が保存・継承され、まちの文化拠点に―大阪・船場の青山ビル 松本茂章
5-3 ホテル企業が指定管理者として「お城」を運営―掛川城における指定管理料「0円」の試み 松本茂章
[interview]京都信用金庫個人ローン推進部調査役 水谷英一「金融マンはどう動くのか?―融資について」松本茂章

第6章 地域の記憶を未来に伝える

6-1 伝統工芸の技法伝承が伝統芸能の継承につながる―石州和紙と石見神楽 高島知佐子
6-2 伝統的なまちなみを活かした新しい賑わいづくり―「みなみ奈良町」の取組み 松本茂章
6-3 小泉八雲の文学に着目した観光振興―松江市のゴーストツーリズム 松本茂章
[interview]日建設計ヘリテージビジネスラボ アソシエイト 西澤崇雄「新築よりも改修こそが面白い」 松本茂章

第7章 自然遺産を地域に活かす

7-1 博物館と観光振興―福井県立恐竜博物館の取組み 朝倉由希
7-2 世界農業遺産を特産品づくりと観光に活かす―掛川市東山地区の茶草場農法 松本茂章

第8章 海外の取組みから学ぶ

8-1 アメリカ人を一つに結びつける国立公園システム―ヨセミテ国立公園 西村仁志
8-2 ギリシア・クレタ島のアグリツーリズム 石本東生
8-3 英国のヘリテージマネジメント 高島知佐子

第9章 文化遺産活用人材の育成と教育

9-1 英国と日本における大学教育の現状 高島知佐子
9-2 文化遺産経営をめぐる日本国内の生涯教育 松本茂章

第10章 文化遺産活用に広がる大きな可能性 松本茂章

[column]楽器製作者のネットワークに培われたドイツの辺境地方―マルクノイキルヒェンとその周辺 藤野一夫
おわりに 松本茂章
「文化と地域デザイン研究所」と文化遺産経営 松本茂章

【編著者】

松本 茂章

日本アートマネジメント学会会長、日本文化政策学会理事、文化と地域デザイン研究所代表

【著者】

中川 幾郎

帝塚山大学名誉教授

南 博史

京都外国語大学教授

高岡 伸一

近畿大学建築学部准教授

朝倉 由希

公立小松大学国際文化交流学部准教授

信藤 勇一

日建設計CRシニアマネジャー ヘリテージビジネスラボ ダイレクター

高島 知佐子

静岡文化芸術大学教授

森屋 雅幸

江戸川区教育委員会学芸員

西村 仁志

広島修道大学人間環境学部教授

石本 東生

國學院大學観光まちづくり学部教授

藤野 一夫

芸術文化観光専門職大学教授

本書は、日本で初めて「ヘリテージマネジメント」を主題名に掲げた書籍である。日本語に訳せば「文化遺産経営」とされる取り組みについて、豊富な事例を取り上げながら、分かりやすい書籍づくりを目指した。

有形の「ヘリテージ」や「文化遺産」を守り伝える取り組みは、従来、歴史学や建築学の関係者が主導してきたように映る。尊い取り組みではあったが、地域は新たな局面に差し掛かっている。東京一極集中のなか地域はどう生き残るのか?この土地に生まれた誇りをどのように形成するのか?国内外からの観光客をいかに誘うのか?今日的な課題が山積するなか、政策学や経営学からのアプローチが求められているのだ。

さらに文化遺産にはタンジブル(有形)とインタンジブル(無形)があり、文化遺産を継承・活用していくためには、いずれにも目を配り、巧みに双方の魅力を活かしながら、地域の課題解決に向き合う人材の育成が急務である。文化系・理科系、有形・無形を問わず、総合的に物事を見ることのできる有意な人材を育てることが地域活性化に欠かせない。

たとえば歴史的な建築物を活用して飲食店舗や文化芸術の場(ギャラリーなど)を設けたいと願うとき、融資の仕組みや相続の知識を把握したい。文化遺産を取り巻く法律の知識は欠かせない。おいしい飲食物の提供が求められる。芸術家との人脈を築く必要もある。文化政策の現状を知っておきたいし、歴史学・建築学の内容も頭に入れておきたい。改装・修復に関する建築技法の習得も迫られる。このため本書では、有形から無形まで、非営利から営利まで、文化芸術から金融まで、北海道から九州まで、多様な動きを取り上げる。海外事例にも言及する。これほどまでに幅広く盛り込んだ文化遺産関連書籍は、管見の限り、これまでになかった。

筆者は文化政策やアートマネジメントに関心を有する。小学校校舎を改修した京都芸術センターの研究を行い、歴史的建築物をアートに活用する動きを調査してきた。本書ではさらに対象を広げ、文化遺産の活用事例を通じて、観光、まちづくり、教育、福祉、産業等の振興に光を当てる。

学芸出版社から出版した前作『文化で地域をデザインする 社会の課題と文化をつなぐ現場から』(2020)では、日本の将来のために「地域文化デザイン人材」の育成が急務であること、彼ら彼女らの活躍次第で地域振興の成否が決まることを指摘した。本書で提唱する「文化遺産経営人材」もその1 つであると筆者は受け止めており、両書籍の問題意識は通底している。日本の将来を担う人材育成のためには何が必要なのか、何が求められるのかを考え続けたい。

本書では、できる限り登場人物の生の声を紹介することに努め、時代の空気を伝えたいと願った。筆者が言及できない専門分野に関しては研究仲間たちに支援を仰いだ。実に多彩な人物に登場していただいたが、肩書等は聞き取り調査を行った当時のものとした。その後、退職や人事異動などで、当時と現在では肩書等が異なる場合があることを申し添える。

本書の読者には建築関係者、文化芸術関係者、自治体職員、財団職員、まちづくり関係者、院生・学生、歴史的な建物を活用して店舗営業や住まいづくりを希望する市民や事業者……など多彩な層を想定した。盛りだくさんの内容なので、関心のある事例から真っ先に読み進め、あとで他の事例、理論編、インタビューに戻ってもらっても大丈夫である。読み終わったとき、文化遺産経営を巡る物語に心を躍らせ、引き込まれることを期待したい。さあ、魅力的な世界に分け入ってみよう。

編著者 松本茂章

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