第19回「高速道路は時代遅れになる⁈(1)――解体、拡張/延伸計画の中止急増」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

潮目を変えたのはリベラルな危機意識と公正さへの批判

I-710の拡張/延伸計画をめぐる反対運動は、長い、苦難の戦いでした。それがようやく勝利に漕ぎ着けたのは、時代が変化したおかげです。高速道路に対する州民、そして政府の考え方が大きく変わりました。
気候変動危機が果敢に喧伝される時代になりました。カリフォルニアでは、毎年、洪水、旱魃による山火事、高潮などの大規模自然災害が多発し、州民の間に早急な対応を求める声が広がっています。

G.ニューサム知事は進歩主義のリベラル派です。州議会も環境派の民主党が支配しています。そのため州政府は「ガソリン車の、新車販売を2035年に禁止する」宣言を発し、ディーゼルトラックについても「港湾地区では、2035年までにゼロエミッションを達成する(走れなくなる)。また、2036年以降、新車のディーゼルトラックの販売禁止」方針を示しました。

また、高架の高速道路がマイノリティの暮らす住区を貫通し、コミュニティを分断し、壊廃して人権侵害を起こしていることに対する批判が噴出するようになりました。
高速道路がまき散らす社会的、経済的不利益――その配分(負担)をめぐる不平等(格差)が注目され、高速道路解体の要求につながりました。
そうした要求の背景には、都市部でマイノリティが多数派になりつつある、という人口動態上の現実があります。

また、ミレニアムなど若年層のリベラル派が、差別的な都市/交通計画を批判する風潮が広がっています。州政府も対応を急ぐようになりました(Groundbreaking Effort Reconnects Communities Divided by Freeways, Office of Governor of California, March 12, 2024)。

カリフォリニアは前任のJ.ブラウン知事時代以来、他州に先駆けてリベラルな政策を連発し、しばしば「連邦政府に対しロール・モデルを演じている」と言われています。
実際のところバイデン大統領は、政権の発足直後から高速道路が引き起こす弊害(環境破壊、人権侵害)に強い関心を示しています(Highways have sliced through city after city. Can the U.S. undo the damage?, New York Times, May 25, 2023)。

そして高速道路の拡張/延伸に反対する各地の市民運動にエールを送っています(Biden has a plan to remove some freeways. Will it make cities more healthy?, Los Angeles Times, July 12, 20218)。

交通渋滞の緩和や都市景観の向上を求める要求を包摂しながら、しかし、それに止まらず、もっと大きな枠組みで高速道路を批判し、高速道路の撤去を求める時代になったのです。

以下のように換言することができます。

「アメリカ都市は気候変動危機の日常化、及び人口動態の変容(マイノリティがマジョリティになる、社会的格差と差別を批判するミレニアム/Z世代が多数派になる)に直面し、いよいよ車社会の弊害を象徴して体現する高速道路を真摯に糾弾し、解体を迫るようになっている」

アメリカ各地で――デトロイト(I-375)、デンバー(I-70)、そして環境/人権意識の薄い共和党支配の南部州の都市ヒューストン(I-45)、ニューオーリンズ(クライバーン・エクスプレス)等々でも、高度道路の拡張/延伸に反対する運動が勢いを得ています。市民が州政府の道路担当部局にデモ行進を仕掛け、計画の撤回、あるいは変更を迫っています。そして実際に成果を挙げています。

都市社会では、高速道路の建設、拡張、延伸が「善」ではなくなったのです。持続可能なコミュニティ運動を提唱しているニューアーバニズム運動(Congress for the New Urbanism)がキャンペーン「高速道路には明日はない(Freeways without Futures)」を展開しています(Freeways without Futures, CNU)。

(つづく)

連載記事一覧