第26回「サンベルトのブーミングシティ オースチンの異変(2)―― QOLの劣化とハイテク企業流出の兆し」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』
アメリカで展開されている都市政策の最新事情から注目の事例をひもときつつ、変容するこれからの都市のありよう=かたちをさぐります。
筆者
矢作 弘(やはぎ・ひろし)
龍谷大学フェロー
前回の記事
過去5年間にもっとも変化した都市
JETRO (日本貿易振興会)が「オースチン報告」を出しています(「オースティン」2022年4月)。副題は「芸術、音楽、革新、そして豊富な自然に包まれるオースティン」です。報告書全体が「オースチン賛歌」で埋め尽くされていました。
報告書は、冒頭にオースチンが各種のアメリカ都市ランキング調査でトップにランクされている事例を列挙していました。「オースチンがビジネスに、あるいは暮らしの場面で如何に秀でているかを示す証拠です」という論旨でした。
- 2019年 雇用環境の良い都市(Wallstreet Journal, FE. 2022)
- 2019年 ビジネス環境の良い都市(May 2019, WalletHub)
- 2020年 最も暮らしやすい都市(Feb, 2020, WalletHub)
- 2020年 トップテクノロジー都市(Nov. 2020, LompTIA)
- 2010-2019年 都市圏人口の増加率(2019. USセンサス)
そのオースチンで異変が起きています。
ある調査が「過去5年間にもっとも激しく変化(人口、所得水準、雇用、住宅価格)したアメリカ都市ランキング」を発表し、オースチンは、4位にランクされました(The five most-changed American cities, GoodMigrations, April 23, 2025)。
陰りを見せる都市圏の人口増
オースチンのあるトラヴィス郡の人口が、20年ぶりにマイナスになりました(Austin ranks 5th among US. Cites people are leaving, reports POBS survey, May 30, 2024)。
2023年6月の社会的人口動態が前年同月比2500人の減少でした。郡人口の75%がオースチンの市人口です。したがって郡人口のマイナスは、大方、オースチン市内で起きていた、と推定することができます。
既にポストパンデミックの時期に入っています。同じ時期にトラヴィス郡外縁のウイリアムソン/ヘイズ両郡の人口も、伸び悩みを記録していました。
したがってオースチン、及びトラヴィス郡の人口減少を、コロナ禍の後遺症(リモートワークの普及で起きた郊外化)として説明することには無理がありました。オースチン都市圏全体で人口動態に異変がはじまっていたのです。
オースチン都市圏の2024年の人口は227万人でした。
人口の増加率は、1980年以前は年率3%台でした。それが1981-2018年には、毎年4%台に跳ね上がりました(1983、1984、1987年は3%台)。5%に近い、極めて高い増加率を記録した年もありました。
増加率が4%台を記録していた40年間弱は、オースチンがハイテクのブーミングシティを目指して栄光の道を駆け上がり、飛躍した時期と重なっていました。
ところが2019年に都市圏の人口の増加率が4%を切り、3.66%にダウンしました。それ以降、増加率は、毎年、前年実績を割る傾向が継続しています。2023-2024年の増加率は2.06%に止まりました。いよいよ都市圏レベルの増加率が、1%台に落ち込みそうな気配です。
母数が大きくなれば増加率が低下することがあります。しかし、上記の変化は、趨勢的な、中長期の人口データです。この増加率の低下傾向には、母数の増大以外の要因が影響しています。
オースチンの、社会的人口の増加は、カリフォルニアやニューヨークのスーパースター都市からの流入者のおかげでした。スーパースター都市では、コロナ禍以前から住宅費が高騰しました。おかげで人々はスーパースター都市を逃げ出し、オースチンなどのブーミング都市に向かいました。半世紀の間に、オースチンの人口はおよそ4倍になりました。
ところがオースチン都市圏の人口は、同じ時期にその2倍の、およそ8倍に増えました。その理由は:
- 他州からの流入者が、その多くはオースチンをパスして都市圏郊外に定住した。
- 同時にオースチンから郊外都市へ人口流出が起きていた。
ためでした。
オースチンの2024年の社会的人口増は14000人に止まりました(2023年は22000人増)。
この人口動態の変化は、オースチンの暮らしが、かなり以前から既にアフォーダブルではなくなっていたことを示唆しています(Significantly fewer people moved to Austin in 2024, study says, Austin Cultural Map, April 21, 2025)。住宅費の高騰、さらには自然災害が頻発するため住宅の保険料が高額になっていることなどが嫌われています。
特にコロナ禍下では、リモートワークの普及を背景に、オースチンから郊外都市に引っ越しする人が増えました。実際のところオースチンからの人口流出は、郊外都市に止まらず、ヒューストンやサンアントニオ、さらには州を越えてデンバーやナッシュビル、ノースカロライナのゴールデントライアングルなどのブーミングシティに広がりました。
(次のページに続く)