第18回「大統領選を左右するラストベルトの近況(3)――ハイテククラスターの形成に伴走して街が活性化する」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』
ラストベルトを再定義せよ
連載の(2)、(3)では、ラストベルトの「光」があたる都市、そうした都市のダウンタウンで進展する「街の改善」に注目し、その様子を活写しました。
「ラストベルトはダメ。終わっている」という固定観念を払拭するのに幾分か役に立つ記事になったと思います。いよいよ「ラストベルトを再定義する必要がある」と指摘する記事もあります(Re-defining Rust Belt, nashuproar.com |November 10, 2021)。
It has long been time for the region to properly redefine this oppressive image, but today’s Rust Belt is neither stuck in the past nor enraptured with tomorrow — rather, it combines the strengths of yesterday with trust in the future.
Redefining the Rust Belt
しかし、(1)で言及したようにラストベルトの実態は様々です。「光」と「影」の斑模様です。
クリーブランド、オハイオの製鉄の町だったトレド(26万人)、ウイスコンシンのビール醸造の町ミルウオーキー(55万人)などは、再生の足取りが遅い。
小規模都市も状況は様々です(The overlooked cities of the Rust Belt, Bloomberg, Sept.15, 2017)。
オハイオの製鉄の町だったヤングスタン(6万人)は、高炉の火が消えて久しい。再生の取り組みが繰り返されていますが、現在も人口減少が止まらない。昼間のダウンタウンに人影が少ない。カンデン(7万人)はニュージャージーの州都です。
それでも求職している様子もない男たちが、昼間、ダウンタウンの広場に屯しています。常々、「最も危ない州都ランキング」で最上位にランクされています。デラウエア川を挟み、100万人都市のフィラデルフィアに近接し、地の利に恵まれています。しかし、それを都市再生に活かせていないのです。
マサチューセッツのローウエル(11万人)は、ボストン都市圏の北外縁にあります。カンデンとは逆に地の利を生かし、ボストンの通勤通学圏として1990-2000年に継続して人口を増やしました(2000年以降は微減。COVID-19から回復が遅れていることに加え、住宅費の高騰が影響している)。赤煉瓦造りの紡績工場跡/女性工員の宿舎跡が市内に残っています。それを果敢に住宅棟に転換し、ボストンからの転入を誘いました。
ただし、ボストンにぶら下がるだけの、トリクルダウン期待の従属的な郊外都市に終わってはいない。ローウエルの繊維産業は、アメリカの産業革命を牽引しました。
その遺産――インナーシティにあった紡績工場跡を改装してスタジオ兼住宅の「芸術村」(Western Avenue Studios)を創設しました。アメリカ各地、それにカナダからアーティストが移住し(350人以上)、アーティスト・イン・レジデンスが始まりました。そのおかげでアーティストが集い語らうカフェが、ダウンタウンに集積して開業しました。画廊ができました。ダウンタウンにスタジオを構えるアーティストが出てきました。
ラストベルトは、再生と衰退のはざまで様々な姿を見せています。その多様性ゆえに、選挙ではSwing Statesになっています。大統領選挙では、どの都市の、どの階層の人々にアピールして戦うかが問われます。しかし、その判断が難しい。
(つづく)