連載「欧州ランドスケープ探訪」vol.0|ランドスケープの源流を求める旅へ
この連載は、ヨーロッパの各地を巡る旅の中で出会ったランドスケープデザインの傑作や、ランドスケープの視点から見た都市の歴史、デザインにおける日本との考え方の違いなどについての気付きを綴り、ランドスケープの本質を探ろうとするものである。
筆者/中島悠輔(ランドスケープアーキテクト)
幼少期に触れた自然がきっかけで「ランドスケープアーキテクト」を目指してきた私は現在、ドイツのベルリンに拠点を置くとある設計事務所で、その職に就いている。
ランドスケープアーキテクトの仕事は、主に庭や公園、広場を設計することである。ニューヨークの〈ハイライン〉のような新しい形の公園が注目を集めたり、再開発によってパブリックスペースのデザインが生まれ変わったりする中で、認知される仕事になりつつある。
ところで、そもそもランドスケープとは一体何なのだろうか。
都市の中に空間やライフスタイルを生み出す建築や都市計画といった分野に関係が深いはずだが、なぜランドスケープが必要なのか、ランドスケープの設計思想の在り方、といったことについての議論はそれらに比べて少なく、私自身まだはっきりとした答えを見出せていない。
それならば、ヨーロッパのランドスケープを見ることでランドスケープの本質に繋がる問いへの答えが見えてくるのではないか。
もともと、庭や広場、公園といった空間は、ヨーロッパの長い歴史の中で生まれ、発展してきた。
小さな街の広場が自然発生的に生まれ、貴族の宮殿の中でヴィラ様式やバロック様式等の様々なスタイルの庭が発展し、〈ブローニュの森〉、〈チュイルリー庭園〉のように王家・貴族の土地が市民にオープンスペースとして開放され、公園の原型となっていった。
その後、そうした動きはアメリカへと渡り、市民のために設計される〈セントラルパーク〉等の近代ランドスケープの礎へとつながっていく。
そんなランドスケープの源流を実際に感じたいと思い、ヨーロッパ各都市のランドスケープを巡る旅に出かけることにした。最初の旅は2021年のクリスマスの頃。4日間の電車の旅で、ケルン、バーゼル、チューリッヒの3都市を訪れた。
一口にヨーロッパといっても歴史が大きく異なり、全く違う都市・建築・ランドスケープがあることに気が付いた。例えば〈ケルン大聖堂〉が残るケルンは、カトリックの流れが強く、街中にもゴシックの流れを汲む重厚な装飾が残る。一方でバーゼルはプロテスタントの流れが強いためか〈ヴィトラキャンパス〉等、装飾を削ぎ落とした現代的な建築が多い街だ。ピーター・ズントー等の現代建築の巨匠も生まれている。
その違いは街の広場のデザインにも見ることができた。
この連載「欧州ランドスケープ探訪」は、その後重ねている各地への旅の記録をもとに、全10回程度にわたってお送りする。ヨーロッパの美しい庭・広場・公園や、その背後にあるランドスケープという分野について知り、その設計思想について交わす話のきっかけになればと思う。
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筆者紹介
中島悠輔(なかしま・ゆうすけ)
1991年生まれ、愛知出身。ベルリンのランドスケープ設計事務所Mettler Landschaftsarchitektur勤務。
幼少期にシドニーに住んでいた経験から自然に近い生活空間に興味を持ち始め、東京大学・大学院にて生態学・都市計画学を学びランドスケープという言葉に出会う。大学院卒業後1年間、設計事務所等でインターンをし、留学準備を進め、18年より渡豪し、2020年にオーストラリア メルボルン大学Landscape Architecture修士課程を修了。ヨーロッパ、特にドイツの機能美のデザインを学ぶために、2021年に渡独。2020年より400人が参加する国内外のランドスケープアーキテクチャに関する情報交換のためのFacebookグループ「ランドスケープを学びたい人の井戸端会議」を運営。