気候変動を原因とする疾病による医療コストは米国内で少なくとも年間8200億ドル 公衆衛生の研究者らが調査報告を発表

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公開日:2021/05/24/最終更新日:2021/05/23
  • アメリカの公衆衛生や環境・エネルギーの専門家らにより構成される “Medical Consortium on Climate and Health(気候と健康に関する医療コンソーシアム)” など3組織がこのほど、気候変動によりもたらされる健康コスト(経済的負担)について調査したレポートを共同で発表した。
  • The Costs of Inaction: The Economic Burden of Fossil Fuels and Climate Change on Health in the United States” (不作為のコスト:化石燃料と気候変動がアメリカ合衆国の健康に与える経済的負担)と題されたこのレポートは、過去の気候変動にかかわる公衆衛生上のコストを集計することにより、気候変動によって引き起こされている無数の医療問題が、すでに納税者にとって大きな負担となってのしかかっていることを示したもの。
  • ここで健康コストとして計上されるものには、寿命より早い死亡や、大規模な自然災害の後に心身の健康のために受ける治療、気候にかかわる病気によって失われる賃金、そうした病気のための処方薬の価格などが含まれている。
    • このうちたとえば、全米でライム病※1の新規症例の診断や治療・管理にかかっているコストは、年間8億6千万ドル~16億ドルと見積もられている。
      ライム病は、森林が分断されるなどして、発症原因となる細菌の最初の保有生物になっているシロアシネズミの個体数が増加したことで、人間への感染リスクが高まっていると報告されている疾病の一例である※2。
    • また、蚊が媒介する西ナイルウイルスによる入院や早逝、救急診療、その他の外来診療にかかっている費用は、合計で年間11億ドルに上るとされる。
    • さらに熱波では死亡や入院、救急診療などで年間2億6300万ドル、山火事では呼吸器系の入院や煙への曝露によるPM2.5関連の志望などで年間160億ドルなどと試算されている。
  • 一方でレポートの著者らは、気候変動により引き起こされる特定の病気について、その正確なコストを計算するのは困難だとも述べている。実際、米国環境保護庁のような連邦科学機関により、気候変動が公衆衛生に与える影響の調査は行われているものの、そのコストを追跡したり、病院で特定の病気の原因を気候変動に関連するものとして分類したりといった試みは行われておらず、データは不足している状況にある。
  • なおレポートのまとめでは、健康の向上と健康コスト削減に向けた取り組みも市民や医療者、政策担当者に向け提言。歩行や自転車といったアクティブな移動手段を積極的に取り入れることや、肉食や加工食品を減らすことなど、健康を向上し、環境負荷の低い習慣への転換や、その政策的支援の必要性に言及している。

詳細

Doctors put a price tag on the annual health impacts of climate change. It’s $820 billion.

https://grist.org/article/doctors-put-a-price-tag-on-the-annual-health-impacts-of-climate-change-its-820-billion/

The Costs of Inaction: The Economic Burden of FossilFuels and Climate Change onHealth in the United States

https://www.nrdc.org/sites/default/files/costs-inaction-burden-health-report.pdf

参考

Biodiversity loss and the rise of zoonotic pathogens

https://www.clinicalmicrobiologyandinfection.com/action/showPdf?pii=S1198-743X%2814%2960412-2

※1:野鼠や小鳥などの保菌動物から野生のマダニによって媒介される感染症。1970年代以降、アメリカ北東部を中心に流行が続いている関節炎や髄膜炎といった様々な疾病の一因とされている。(国立感染症研究所|ライム病とは|https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/524-lyme.html)

※2:
(新型コロナウイルス後、自然との関係をどう改善していくか|https://ourworld.unu.edu/jp/how-to-improve-our-relationship-with-nature-after-coronavirus


Cover Photo by Hush Naidoo on Unsplash