タクティカル・アーバニズム


泉山 塁威・田村 康一郎・矢野 拓洋・西田 司・山崎 嵩拓・ソトノバ 編著

マイク ライドン・アンソニー ガルシア・中島 直人・村山 顕人・中島 伸・太田 浩史・鈴木 菜央・岡澤 浩太郎・松井 明洋・安藤 哲也・尾﨑 信・榊原 進・岩本 唯史・池田 豊人・渡邉 浩司・今 佐和子・泉 英明・村上 豪英・忽那 裕樹・笠置 秀紀・宮口 明子・苅谷 智大・西山 芽衣 著

内容紹介

都市をアップデートする「戦術」を実装する

個人が都市を変えるアクションを起こす時、何から始めればよいのか。都市にインパクトを与え変化が定着するには何が必要なのか。本書は、小さなアクションが拡散し、制度を変え、手法として普及し、社会に定着するアプローチを解説。アメリカと日本の都市の現実に介入し、アップデートしてきた「戦術」を解読、実装しよう。

体 裁 A5・256頁・定価 本体2700円+税
ISBN 978-4-7615-2769-3
発行日 2021-06-15
装 丁 加藤賢策(LABOLATORIES)


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はじめに:タクティカル・アーバニズムの日本的意義 |泉山塁威

01 タクティカル・アーバニズムとは
|マイク・ライドン/アンソニー・ガルシア/翻訳・編集:田村康一郎

1-1 タクティカル・アーバニズムとは何か
1-2 タクティカル・アーバニズムの実践
1-3 実践から得た六つの教訓
1-4 日本の都市戦術家へのメッセージ

02  タクティカル・アーバニズムを読み解く視点

2-1 ニューアーバニズムなき日本のタクティカル・アーバニズム |中島直人
2-2 プレイスメイキングの手法としてのタクティカル・アーバニズム |田村康一郎
2-3 都市プランニングの変革とタクティカル・アーバニズム |村山顕人
2-4 政策・計画へつなぐ実験・アクションの戦略 |中島 伸
2-5 建築家が都市にコミットするための実践的アプローチ |西田 司

03 小さなアクションを始める

3-1 小さなアクションの始め方 |山崎嵩拓
3-2 東京ピクニッククラブ(東京):まちに参加する創造力を高める |太田浩史
3-3 アーバンパーマカルチャー(世界各地):消費者を生産者へ変える暮らしのデザイン |鈴木菜央/岡澤浩太郎
3-4 COMMUNE(東京):都市の余白の使い方をアップデートし続ける |松井明洋
3-5 PUBLIC LIFE KASHIWA(柏):仮設の公共空間をまちの居場所にする |安藤哲也
3-6 みんなのひろば(松山):まちに日常の賑わいをもたらす拠点 |尾﨑 信
3-7 定禅寺通(仙台):ストリート活用から都心の回遊性の創出へ |榊原 進
3-8 MIZUBE COMMON(和歌山):水辺の使いこなしからエリアのリノベーションへ |岩本唯史

04 長期的変化をデザインする

4-1 長期的変化をデザインする |泉山塁威
4-2 歩行者中心にシフトし始めた道路政策 |池田豊人
4-3 ストリートデザインガイドラインの舞台裏 |今 佐和子
4-4 人間のためのストリートをつくる制度のデザイン |渡邉浩司
4-5 北浜テラス(大阪):民間主導の水辺のリノベーション |泉 英明
4-6 URBAN PICNIC(神戸):公民連携による戦術的パークマネジメント |村上豪英
4-7 池袋グリーン大通り(東京):社会実験から国家戦略特区へ |泉山塁威
4-8 御堂筋(大阪):トライセクターで都市の風景を変える |忽那裕樹

05 まちのプレイヤーをつくる

5-1 まちのプレイヤーをつくる |矢野拓洋
5-2 URBANING_U(東京):個人ができる小さな都市計画 |笠置秀紀/宮口明子
5-3 橋通りCOMMON(石巻):都市の共有化をローカライズする |苅谷智大
5-4 HELLO GARDEN(千葉):暮らしをアップデートする実験広場 |西山芽衣

06 タクティカル・アーバニズムのメソッド
|マイク・ライドン/アンソニー・ガルシア/翻訳・編集:矢野拓洋

6-1 プロジェクトの10 ステップ
6-2 五つのスチュワードシップモデル
6-3 プランニングの五つのフェーズ
6-4 住民参加型ワークショップのフレームワーク
6-5 神田でのワークショップの実践

おわりに

【編著者】

泉山 塁威

日本大学理工学部建築学科助教/一般社団法人ソトノバ共同代表理事・編集長/PlacemakingX日本リーダーなど。1984年生まれ。明治大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2020年より現職。著書に『エリアマネジメント・ケースメソッド』(共編著)、『ストリートデザイン・マネジメント』(共著)など。

田村 康一郎

株式会社クオル・チーフディレクター/一般社団法人ソトノバ共同代表理事。1985年生まれ。東京大学工学部卒業。同大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。海外都市・交通計画コンサルタントを経て、プラットインスティテュート都市計画・環境大学院プレイスメイキング専攻修士課程修了。2020年より現職。

矢野 拓洋

東京都立大学大学院都市政策科学域博士後期課程/一般社団法人ソトノバ・パートナー/一般社団法人IFAS共同代表/JAS実行委員会代表/シティラボ東京コミュニケータ。1988年生まれ。バース大学大学院建築・土木工学部建築工学修士課程修了。2017年より現職。専門は参加型まちづくり。

西田 司

株式会社オンデザインパートナーズ代表/東京理科大学准教授/明治大学特別招聘教授/ソトノバ・パートナー。1976年生まれ。横浜国立大学建築学科卒業。2004年オンデザイン設立。2019年より現職。著書に『建築を、ひらく』『PUBLIC PRODUCE』『楽しい公共空間をつくるレシピ』(共著)など。

山崎 嵩拓

神戸芸術工科大学芸術工学部環境デザイン学科助教/一般社団法人ソトノバ・パートナー。1991年生まれ。北海道大学大学院博士課程修了。博士(工学)。トリノ工科大学客員研究員、東京大学特任助教等を経て、2021年より現職。専門は都市ランドスケープ計画論、都市における人と自然の関わりあい。

ソトノバ

屋外パブリックスペースの居場所づくりのコミュニティメディア。2015年立ち上げ後、国内外のトピックを発信、パブリックスペース・ムーブメントを牽引する。一般社団法人ソトノバでは、社会実験、アクティビティ調査、タクティカル・アーバニズム、プレイスメイキング等のプロジェクトを実践している。https://sotonoba.place

【著者】

Mike Lydon(マイク・ライドン)

Street Plans Collaborative共同代表。1981年生まれ。ミシガン大学大学院アーバンプランニング専攻修士課程修了。2006−2009年建築都市設計事務所Duany Plater-Zyberk & CoDesignに勤務。2009年より現職。タクティカル・アーバニズムの提唱者。主な著書に『Tactical Urbanism』(共著)など。

Anthony Garcia(アンソニー・ガルシア)

Street Plans Collaborative共同代表。1980年生まれ。マイアミ大学大学院建築専攻修士課程修了。2004−2009年建築事務所Chael Cooper & Associatesに勤務。2009年より現職。15年にわたって都市計画業務をリードし、Street Plansマイアミ事務所を束ねる。著書に『Tactical Urbanism』(共著)。

中島 直人

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授。1976年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院修士課程修了。博士(工学)。東京大学大学院助教、慶應義塾大学准教授等を経て、2015年より現職。専門は都市計画、都市デザイン。著書に『都市計画の思想と場所』『都市美運動』など。

村山 顕人

東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授。1977年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)。名古屋大学大学院准教授等を経て2014年より現職。専門は都市計画、都市デザイン。名古屋市錦二丁目長者町のまちづくり等にも関わる。

中島 伸

東京都市大学都市生活学部都市生活学科准教授。1980 年生まれ。筑波大学第三学群社会工学類卒業。東京大学工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。博士(工学)。東京大学大学院特別助教等を経て、2020年より現職。専門は都市デザイン、都市計画。東京・神田警察通りのまちづくり等にも関わる。

太田 浩史

建築家/ピクニシャン。1968年生まれ。東京大学大学院建築学専攻修士課程修了。博士(工学)。東京大学助手、特任研究員、講師を経て、2015年より株式会社ヌーブ代表。2002年より伊藤香織と東京ピクニッククラブを共同主宰。作品に「矢吹町第一区自治会館」、共著に『シビックプライド』など。

鈴木 菜央

greenz.jp編集長、NPOグリーンズ代表。1976年生まれ。「月刊ソトコト」の編集を経て、2006年にウェブマガジン「greenz.jp」を創刊。千葉県いすみ市でパーマカルチャーと平和道場、いすみローカル起業プロジェクトなどを立ち上げる。著書に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』など。

岡澤 浩太郎

編集者、八燿堂主宰。1977年生まれ。「スタジオ・ボイス」編集部などを経て2009年よりフリー。2019年東京から長野に移住。ブックレーベル・八燿堂を立ち上げ、少部数・直接取引の形態で、文化的・環境的・地域経済的に持続可能な出版活動を続ける。

松井 明洋

メディアサーフコミュニケーションズ株式会社代表取締役社長。青山学院大学卒業後、メディアサーフコミュニケーションズに参加。「COMMUNE」「K5」「Omnipollos Tokyo」「SR」などに携わる。

安藤 哲也

一般社団法人柏アーバンデザインセンター(UDC2)副センター長。1982年生まれ。明治大学理工学部建築学科卒業。同大学院修了。不動産会社、株式会社首都圏総合計画研究所を経て独立。2015年NPO団体わくラボ設立、同年コミュニティデザインラボmachi-kuを設立し代表を務める。2017年より現職。

尾﨑 信

東京大学大学院新領域創成科学研究科・特任研究員。1978年生まれ。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。博士(工学)。アトリエ七四、東京大学景観研究室助教、松山アーバンデザインセンター・ディレクターを経て、2020年より現職。主なプロジェクトに「移動する建築」(愛媛県松山市)。

榊原 進

特定非営利活動法人都市デザインワークス代表理事/一般社団法人荒井タウンマネジメント理事・事務局長。1974年生まれ。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程前期修了。2002年都市デザインワークス設立。市民主体のまちづくりを支援・実践する。

岩本 唯史

株式会社水辺総研代表取締役/RaasDESIGN代表/ミズベリングプロジェクト・ディレクター/水辺荘共同発起人。1976年生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。同大学院修士課程修了。2015年水辺総研設立。和歌山市、墨田区、港区等で水辺活用のコンサルティングを行う。

池田 豊人

前国土交通省道路局長。1961年生まれ。東京大学工学部卒業。同大学院工学研究科修了。建設省(現国土交通省)入省後、道路局道路交通管理課長、道路局環境安全課長、大臣官房技術審議官、近畿地方整備局長等を経て、2018年より国土交通省道路局長。2020年退官。

渡邉 浩司

国土交通省大臣官房技術審議官(都市局担当)。1962年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。博士(工学)。1985年建設省(現国土交通省)入省。2014−2016年豊島区副区長として南池袋公園整備やグリーン大通り活用に携わる。2020年より現職。ウォーカブルなまちづくりの推進に取り組む。

今 佐和子

国土交通省都市局市街地整備課。1986年生まれ。筑波大学・同大学院にて都市計画を勉強後、IT企業に入社。2013年国土交通省入省。まちづくり推進課や新潟国道事務所、育休等を経て、2018年より約2年街路交通施設課にて街路空間の再構築や利活用に携わる。2021年より現職。

泉 英明

有限会社ハートビートプラン代表取締役。1971年生まれ。大阪大学工学部環境工学科卒業。2004年ハートビートプラン設立。都市プランナーとして、北浜テラス、水都大阪、長門湯本温泉街の再生、大東市北条プロジェクト等の公民連携プロジェクトに関わる。著書に『都市を変える水辺アクション』(共著)など。

村上 豪英

株式会社村上工務店代表取締役社長/一般社団法人リバブルシティイニシアティブ代表理事。1972年生まれ。京都大学大学院理学研究科生態学研究センター修了。シンクタンクに勤務後、阪神・淡路大震災をきっかけに神戸と建設業への関心が高まり、1999年村上工務店に入社、2012年より現職。

忽那 裕樹

株式会社E-DESIGN代表取締役/ミズベリング・プロジェクト諮問委員/大阪府立江之子島文化芸術創造センター・プロデューサー/一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟副会長。1966年生まれ。大阪府立大学緑地計画工学講座卒業。2000年E-DESIGN設立。近作に草津川跡地公園など。

笠置 秀紀

宮口 明子

mi-ri meter(ミリメーター)共同主宰。ともに日本大学芸術学部美術学科住空間デザインコース修了。2000年mi-ri meterの活動を開始。2014年株式会社小さな都市計画を設立。ミクロな視点と横断的な戦術で都市空間のプロジェクトに取り組む。主な活動に「URBANING_U」「清澄白河現在資料館」など。

苅谷 智大

株式会社街づくりまんぼう まちづくり事業部課長。1985年生まれ。東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻博士課程修了。博士(工学)。2015年街づくりまんぼう入社。石巻の中心市街地活性化・復興まちづくりを担い、2015−2020年「橋通りCOMMON」「COMMON-SHIP橋通り」の事務局を務める。

西山 芽衣

株式会社マイキー。1989年生まれ。千葉大学建築学科卒業。株式会社北山創造研究所に入社。西千葉で空き地を活用した実験スペース「HELLO GARDEN」、ものづくりスペース「西千葉工作室」を立ち上げる。2014年株式会社マイキー入社。「HELLO GARDEN」「西千葉工作室」の運営を行う。

タクティカル・アーバニズムの日本的意義 |泉山塁威

タクティカル・アーバニズムとの出会い

2015年、アメリカでマイク・ライドンとアンソニー・ガルシアの著書「Tactical Urbanism: Short-term Action for Long-term Change」が出版された。当時、私は池袋駅東口グリーン大通りオープンカフェ社会実験に関わっていた。行政は通常、パブリックスペースで事業を実施する際には、商店街や町内会、地権者に参加を促し、会議で議論をする。一方で、この時の社会実験を担うプレイヤーはカフェやコンビニなどのテナントであり、これまでの都市計画や公共事業と、パブリックスペース活用のアクションは主体と進め方に違いがあるのではと、モヤモヤと考えていたタイミングであった。

私はすぐにこの本や無料で公開されている「タクティカル・アーバニズムガイドvol.1-5」を翻訳する仲間を募り、勉強会を始めた。知れば知るほど、このタクティカル・アーバニズムにハマってしまい、2017年には、著者のマイクに会いにアメリカ・ブルックリンを訪れた。

2018年には、オーストラリアとニュージーランドの実践をまとめた「タクティカル・アーバニズムガイドvol.4」を発行するメルボルンの事務所CoDeisgn Studioを訪れ、当時代表だったルシンダ・ハートリーらにオーストラリアの状況を聞いた。そこで、アメリカ発祥のタクティカル・アーバニズムは、世界中のトレンドであることもわかった。

帰国してすぐ日本の実践をまとめた「タクティカル・アーバニズムガイドvol.6」を制作することにした。そして2019年12月にはマイク・ライドンとアンソニー・ガルシアを日本に招き、国際シンポジウム「Tactical Urbanism Japan 2019」を開催した。

本書は、その国際シンポジウムに登壇いただいた方々を中心に寄稿いただき、日本のタクティカル・アーバニズムの実践を体系的にまとめ、その課題と可能性を提示することを目的に編集している。

Tactical Urbanism Japan 2019に登壇するマイク・ライドン(左)とアンソニー・ガルシア(右)(photo Takahisa Yamashita)

アメリカ発のタクティカル・アーバニズム

タクティカル・アーバニズムは、アメリカの若手都市計画家のマイク・ライドンが2010年に名づけた概念である。1980年代後半から1990年代にアメリカで起こった「ニューアーバニズム」と対比して使われる。

当時のアメリカでは、2001年の同時多発テロ、2008年のリーマンショックと、2000年代にソーシャル・インパクトが立て続けに起こった。併せて、インターネットやソーシャルメディアの普及によって、市民がアイデアを気軽にアウトプットし、友人やフォロワーにシェアする環境が生まれた。

マイクは、2010年前後のニューヨークのタイムズスクエアやブルックリンのパールストリートプラザなどの車道の広場化(Plaza Program)や、サンフランシスコのパーキングデイ(Park(ing)Day)、パークレット(Pavement to Parks、現在はGroundplayに統合)などの長期的な変化を意図した、短期的かつ低コストのアクションが、利用者・市民主体で同時多発的に起こっている状況を見出し、タクティカル・アーバニズムと名づけた。マイクとトニーの事務所ストリート・プランズ(Street Plans Collaborative、2009年設立)では、短期的アクションをゲリラや単発では終わらせないためのナレッジやツールを開発、コンサルティングをしている。

機能しなくなってきた都市再生手法

近年、日本でもパブリックスペースの活用が注目を集めている。国や行政の規制緩和もあって、公開空地や道路、公園、河川の活用は促進されている。再開発や空間整備といった従来の都市再生の手法だけでなく、ローコストで迅速に都市改善をする手法が全国的に試行されている。

人口減少時代に突入し、リーマンショックや東日本大震災、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)等を経験したことで、日本社会全体が再開発などの大きな投資に対して不安を覚え、慎重になっている。しかし、戦後の経済成長期につくられた都市インフラや公共施設、建築は更新の時期を迎え、新たな都市空間に再編していく時期を迎えている。こうした状況において、いかに空間を場に変え(スペースからプレイスへ)、都市の価値をいかに高めていけるか、そのアプローチが変わってきていると言える。

・不確実性の増加
近年、二つの不確実性が増している。一つはグローバル化に伴い、海外都市の影響を受けやすくなったことである。リーマンショックや新型コロナウイルス感染症はまさにその典型である。もう一つは災害である。災害大国といわれる日本は、地震や津波のほか、近年では気候変動によるゲリラ豪雨や大型台風も多発している。

このように、突如現れる社会的衝撃(ソーシャル・インパクト)は、都市計画にも大きな影響を与え、予定していたスケジュールや予算の変更を余儀なくされる。しかし、これまでの都市再生手法は戦略的思考が強く、決めたスケジュールや予算で目標達成を求められる。

・都市ビジョンとマネジメントの不連続さ
不確実性の増加に伴い、都市ビジョンのあり方も怪しくなっている。たとえば、都市計画マスタープランは、自治体が策定する都市計画の基本的な方針であるが、10年、20年後の将来の都市像を描いている。しかし、きめ細やかな住民合意の難しさや私権の強い日本では、マスタープランは抽象的かつ曖昧な文言・内容になることが多い。各種都市計画や再開発などの事業では、この抽象的・曖昧な都市計画マスタープランとの整合性を確認しながら、具体のことは各種事業で調整しているのが現状である。そのような状況下において、事業を成功させることが優先され、近年の都市再生事業では民間主導のマネジメントが顕著である。

また、近年は、エリアマネジメントやパブリックスペースマネジメントの動きも活発化している。道路占用許可を受けた組織がオープンカフェやマルシェを開催するなど、市民や民間プレイヤーの存在は欠かせないものになっている。

しかし、そうした現場をマネジメントする民間のプレイヤーは自分たちのまちのビジョンづくりに関わることはほとんどない。

日本におけるタクティカル・アーバニズムの意義

こうした都市の状況を踏まえて、日本におけるタクティカル・アーバニズムの意義について考えたい。

・不確実性に対応したアーバニズム
不確実性が増す社会において、どのように実効力のある都市のビジョンや戦略をたてるのか。デザイン思考などのように、実験や試作(プロトタイピング)をして、仮説が合っているのか、違うのかを検証しながら、ビジョンや戦略を詰めていくことが、不確実性に対応したアーバニズムとして必須になってくるだろう。

・ビジョンとマネジメントの不連続への対応
ビジョンとマネジメントの不連続な状況にどう対応していくのか。一度決めたビジョンを10年、20年と変えずにマネジメントができるのか、5年ごとに柔軟に更新していくべきなのかが問われている。ニューヨークやオーストラリアの自治体では市長の任期4年ごとに計画が定められたりする。

・主体的な市民のアクションやニーズを受け止める行政の役割
主体的な市民のアクションやニーズは、プロジェクト化していくと、大きなパワーとなる。しかし、長続きするには、行政の支えも重要だ。そうしたボトムアップの動きを行政の政策としてどう位置づけるのか、行政の役割も問われている。

・社会実験などの短期的アクションを長期的変化につなげる
社会実験などの短期的アクションは、多くの場合、長くは続かない。イベント化した社会実験ではなく、本来の社会実験とは、狙いや仮説があり、検証項目も明確だ。社会実験をやりっぱなしにせずに、その後の政策や空間整備などの長期的変化にどうつなげていくのか。

タクティカル・アーバニズムの方法論は、以上のような日本の都市の現実に対して有効なのではないか、それを本書では考察していく。

日米のタクティカル・アーバニズムの架け橋となる本

本書で特筆すべきは、国内初のタクティカル・アーバニズムの本であり、「Tactical Urbanism」の著者、マイク・ライドン、アンソニー・ガルシアも共に執筆した日米のタクティカル・アーバニズムの架け橋となる書籍であるということである。

1章では、マイクとトニーの日本での講演内容(Tactical Urbanism Japan 2019)を中心に、タクティカル・アーバニズムの定義や考え方、アメリカの実践事例を紹介する。

2章では、日本でのタクティカル・アーバニズムを読み解く視点を、都市・建築の専門家が論じる。

3章では、タクティカル・アーバニズムの真髄とも呼べる、小さなアクションの事例を、①ゲリラ的アクション(3-2~3-4)と②公民連携プロジェクト(3-5~3-8)から紹介する。

4章では、小さなアクションだけで終わらせない、政策化、空間整備、ムーブメントなどへの道筋を考える。国の政策づくりの背景をキーパーソンへのインタビューで明らかにし、先駆的事例の実践者により長期的変化をデザインするためのポイントを解説する。

5章は、タクティカル・アーバニズムには欠かせない人材育成に迫る。1人1人の都市のリテラシーの高め方から、人々を巻き込み大きなムーブメントへと人の輪を広げていく仕掛けまで、実践者がそのプロセスを紹介する。

6章では、マイクとトニーの2人から授かった、タクティカル・アーバニズムのメソッドを紹介する。また、東京・神田エリアで実践したワークショップの経験から、そのメソッドの試行とポイントを解説する。

マイクやトニーは本書の中で最新のナレッジや日本の実践者に向けたメッセージを披露してくれている。それは彼らからのギフトである。また、日本の先駆者たちの実践や方法論は読者の皆さんに大いに役立ててもらえるはずである。本書はリソースの関係で日本語のみではあるが、こうした日本の活動を世界へ伝えることにも取り組んでいきたい。

タクティカル・アーバニズムへの旅

2015年、「池袋駅東口グリーン大通りオープンカフェ社会実験」の実践を終えた後に、さまざまな場面で社会実験やパブリックスペース活用について議論をした。そこから、屋外パブリックスペースの居場所づくりのメディア「ソトノバ」(https://sotonoba.place)が誕生した。同じくして出会ったのが、「Tactical Urbanism: Short-term Action for Long-term Change」(マイク・ライドン、アンソニー・ガルシア著)の本である。この本に出会った時から、我々のタクティカル・アーバニズムへの旅は始まっていた。

2017年、この本の著者、マイク・ライドンに会いに行った。ニューヨーク・ブルックリンのシェアオフィス「ダンボ・ロフト」である。現地では当時ソトノバのメンバーであった原万琳さんに通訳をお願いし、マイクと会話をした。1時間程度の短い時間だったが丁寧にタクティカル・アーバニズムの疑問に答えてくれた。また、ソトノバでラボを立ち上げ、メンバーの荒井詩穂那さんとタクティカル・アーバニズムについて研究も始めた。

2019年、大林財団の国際会議助成に採択され、「Tactical Urbanism Japan 2019」を東京で開催した。マイク・ライドン、アンソニー・ガルシアをアメリカから招き、4日間の国際シンポジウム、アカデミックサロン、ペチャクチャナイト、官民連携サロン(非公開)、タクティカル・アーバニズムマスタークラス(神田サロン)を実施した。すべて異なる趣旨とターゲットで臨んだイベントにおいて、マイク、トニーの尽力もあって、本書の編著者である5名(泉山塁威、田村康一郎、矢野拓洋、西田司、山崎嵩拓)は、思考のアップデートが凄まじかったのを覚えている。「Tactical Urbanism Japan 2019」の開催にあたっては、三井不動産、三菱地所、安田不動産、小田急電鉄、日建設計、東急、森ビル、東急不動産、大和リース、Peatix、ニチエス、花咲爺さんズ各社にご協力いただき、国土交通省にもご後援いただいた。関係者の皆様には深く感謝申し上げる。

2021年、「Tactical Urbanism Japan 2019」の登壇者を中心に各地の実践や理論をまとめた本書を出版することができた。本書の出版にあたっては、貴重な実践や論考を執筆いただいた著者の皆さん、出版を提案いただき、筆が進まない著者への叱咤激励等サポートいただいた学芸出版社の宮本裕美さん、素晴らしいデザインを手掛けていただいたLABORATORIESの加藤賢策さんをはじめ、多くの関係者の皆さんに厚く御礼を申し上げる。

単発化/イベント化した社会実験の次

「Tactical Urbanism Japan 2019」を開催するにあたって、マイクらから何を学び、何を日本に伝えようかと考えた。そして、「単発化/イベント化した社会実験をどう次につなげるか」を議論することにした。このあたりは4章でも触れているが、「まずやってみる」前に、「ビジョンを考える」ことが日本ではあまり議論されない。タクティカル・アーバニズムによって起きた都市の変化は、一見ゲリラ的アクションの印象が強いからかもしれない。ビジョンというと自分では描けない壮大なものに思えるかもしれないが、タクティカル・アーバニズムの実践者(タクティシャン)は単にアクションをしているわけではなく、長期的変化を意図したアクションをしている。この点を、我々はもっと理解し、伝えていかなければならない。

コロナ禍のタクティカル・アーバニズム

そして、今はまさにコロナ禍。パブリックスペース活用の社会実験の多くは中止や延期が余儀なくされ、そもそもパブリックスペースに割ける予算がない地域もあるかもしれない。ただ、コロナが終息したアフターコロナの社会をどうつくっていくかは、我々が今考えるべき長期的変化である。コロナ禍において、タクティカル・アーバニズム的取り組みが世界同時多発的に起こっている。特にアメリカでは、道路をレストランの屋外席にする「ストリータリー(Streetery)」と呼ばれる路上レストランが展開され、ニューヨークでは1万件以上が運営されている。サンフランシスコではパークレットがShared Space Programとして2000基が展開されている。日本でも、タクティカル・アーバニズムに取り組む仲間がもっと増えてほしい。本書がその一助になればと願っている。

2021年4月
編著者および著者を代表して 泉山塁威

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