格差がもたらす交通費負担の不均衡 シカゴ当局が是正に向けた調査・提言レポートを公開

  • シカゴ市計画局(Chicago Metropolitan Agency for Planning:CMAP)はこのほど、公共交通の利用料が低所得の住民生活にどのような影響を与えているかについて、初めて包括的に実施した調査結果を基にまとめたレポートを公表(概要版完全版)した。
  • この調査は、CMAPが2050年に向けて策定している計画 “ON TO 2050” の実行に向けて行われたもの。ON TO 2050では、シカゴを中心とする都市圏の交通システムの改革への投資や、そうした取り組みを通した社会包摂的な成長の推進を謳っている。調査の目的として、①交通に要する費用が低所得住民にもたらす影響を評価すること、②不均衡の是正に向けた政策的な変革を提言すること、の2点を挙げている。
  • 調査結果は、主に以下のような内容がまとめられている(抜粋・抄訳)。
社会背景
    • 低所得者の収入に占める交通への支出は16%を占めている。これに対し、高所得者の収入に占める交通への支出は6%。
    • シカゴ都市圏に暮らす住民の12%が連邦貧困水準を下回る生活を送っており、その割合は、黒人系(アフリカ系)アメリカ人(24.4%)、障がい者(19.0%)、ヒスパニック系もしくはラテン系(15.7%)の順で高い。
    • 交通手段のうち、自家用車は購入や修理に多額の費用が掛かるため最もコストが高いが、他の交通手段がなく、自家用車の利用を選ばざるを得ない低所得の住民も多い。
    • 交通費を含め、イリノイ州の税制は逆進性の傾向があり、所得が最も少ない20%の層は収入の14%を税金が占めるのに対し、所得が最も多い5%の層では収入の10%に満たない。
取り組むべき課題
    • 年間収入が3万ドル(約327万円)未満の家庭の41%が、銀行口座を利用できないか、クレジットカードを所有できていない。
      特に銀行口座を所有していない低所得の住民は、”I-PASS” (イリノイ州の道路局が運営する電子料金収受システム)のアカウントを開設したり、Ventra Card(シカゴ交通局の電車やバスで利用できるキャッシュカード)を所有したりできないため、運賃割引を受けることもできていない。
    • こうした構造的な人種差別は交通上の安全や取締りにおける不均衡にもつながっている。違反検問や裁判所への召喚命令を受ける人の割合が白人以外(の低所得者)に偏っていたり、歩行者や自転車を巻き込んだ事故の発生率は、低所得者や白人以外の居住地域で高くなったりしている。
    • 交通違反による罰金は、低所得の住民の生活に与える影響は大きく、破産や財産の差し押さえ、自家用車の没収、就業の制約、信用の毀損などにつながることがある。また罰金の支払いのために労働時間が延びがちになっている。
解決に向けた端緒
    • 選びうる交通手段の選択肢が適度にあるのは、シカゴ都市域に暮らす住民の55%程度。低所得の住民ほど通勤時間が長くなる傾向にあり、生産性やQOLの低下につながっているとみられる。また障がいを持っている住民の多くは、通勤や日常生活を送るための交通の選択肢に乏しい状況にある。
    • 低所得の住民が交通機関で移動する距離は、それ以外の住民と比べて20%ほど長い傾向にあり、支出に対して運賃の占める割合が相対的に高くなっている。
より公正なシステムに向けた提言
    • 所得税の拡大など「累進的な課税戦略の導入すること」
    • 低所得住民に対して運賃負担や自動車登録費用の軽減を拡大するなど「交通関連の費用をより手ごろにすること」
    • I-PASSに代わる低所得住民向けのサービスの開発など「割引手段への利用機会を拡大すること」
    • 所得に応じた罰金額の適用や就業制限の撤廃など「罰則規定の改革を実施すること」

詳細

A transportation system that works for everyone Improving equity in fees, fines, and fares

https://www.cmap.illinois.gov/documents/10180/1307930/FY21-0025_Fees_Fines_Fares_Brochure.pdf/e6b35e9d-a4d2-5759-8bd2-3bb7938e89cd?t=1617742542355

Improving equity in transportation fees, fines, and fares

https://www.cmap.illinois.gov/mobility/strategic-investment/transportation-fees-fines-and-fares

記事をシェアする

タグ: /
公開日:2021/04/19/最終更新日:2021/04/15
学芸出版社では正社員を募集しています
学芸出版社 正社員募集のお知らせ