[全文掲載]提言論考「新型感染症蔓延期における災害時避難対策と復旧・復興の基本体系」(中林一樹/東京都立大学名誉教授)

新型コロナウイルス感染症の蔓延期において複合的に災害が発生した場合に備え、どのような避難対策を検討するべきか。あるいは、感染症による混乱から復旧・復興を目指すにあたり、どのような価値体系を構想するべきか。

都市防災・災害復興の専門家で、『自治と参加・協働 ローカル・ガバナンスの再構築』(学芸出版社)『災害発生時における自治体組織と人のマネジメント』(第一法規)などの著書がある中林一樹氏(東京都立大学名誉教授)による提言論考です。


新型感染症蔓延期における災害時避難対策と復旧・復興の基本体系

中林 一樹(東京都立大学名誉教授)
2020/5/21公開|6/1最終修正・更新
※PDF版はこちら

目次/Index

1.今や、複合災害の時代になった

2.「事前避難」と「事後避難」における「避難対象人口」の相違

3.「新型感染症蔓延期の災害時避難対策」の戦略目標と基本方針

(1)「新型感染症蔓延期の災害時避難対策」の4つの戦略目標

(2)「新型感染症蔓延期の災害時避難対策」の7つの基本方針

1)基本方針(1)避難行動の多様化を図る
2)基本方針(2)避難所・避難場所を拡充する
3)基本方針(3)全ての避難所の“三密”化を防ぐ
4)基本方針(4)多様な避難生活者を地域で支援する
5)基本方針(5)事前防災で在宅避難の可能性を高める
6)基本方針(6)感染者の収容施設はそのまま「事前避難所」とする
7)基本方針(7) 新型コロナ禍の対応も復旧・復興も地域防災で運営

4.総括〜感染症蔓延期の災害時避難対策の体系的構築〜

5.展望〜ポスト・COVID-19でどんな国土・地域・社会を創るのか〜

(1)2年後をどう迎えるか
(2)ポスト・新型コロナ禍-20年後の新しい国土・大都市・地方の創造

1.今や、複合災害の時代になった

世界は現在、新型コロナCOVID-19の猛威に包まれている。この状況は一年以上継続すると考えられている。北半球の冬季に流行拡散が始まったが、南半球はこれから冬季に向かう。このウィルスは、季節性がなく蔓延し、終息するまでには、収束してもまた蔓延することを忘れてはならない。おそらく数年間は、北半球か南半球のどこかで、気象災害、地震災害、火山災害などの災害が発生すれば、その被災状況は新型コロナ禍との複合災害となる。二つの災害に同時被災し、新型コロナの蔓延が避難所等で拡大して人的犠牲が災害による直接死の何倍にも爆発的に被害が拡大する被害拡大型複合化、一方自治体や病院などでは新型コロナ対応対策と災害対応対策に同時に迫られ人員や物資が決定的に不足してしまう同時対応型複合化である。それぞれの対応は個別対応の場合とは全く異なる事態となる。いまや、地球はまさに「複合災害」の時代に突入した。

2020年の台風1号は5月13日に発生した。観測史上8番目に遅いという。年間発生数に大きな差がないとすれば、2020年は台風が半年間に集中的に発生する可能性が高い。新型コロナと風水害との複合化に対する備えは、待ったなしの状況である。

2.「事前避難」と「事後避難」における「避難対象人口」の相違

日本では「避難」は多義的だが、その多くは災害発生後の「事後避難」の概念である。しかし災害関連科学の進歩が、災害が発生する前に予測され、緊迫する危機からの「事前避難」の取り組みが増えている。

昭和南海地震(1946)をきっかけに制定された災害救助法(1947)が、戦後初めて「避難所の提供」として「避難」を法に基づく救助の一種として規定した。(以下では、救助法に基づき自治体が指定し開設する避難所を「指定避難所」とする。)災害救助法第4条1項に、「避難所および応急仮設住宅の供与」として位置づけ、第9条では都道府県知事は「施設等を収容」でき、第10条では「そのための立ち入り検査」ができるとし、同法施行令第6条では、法第9条の規定により知事が管理できる施設として「旅館」を規定している。まさに新型コロナ対策としてホテルを借り上げて感染者の「受け入れ施設」としている状況を想起していたかのようである。これらの規定は、災害によって被害をこうむり、自力では対応が困難な被災者に対して行う“救助”としての「避難所」であり、災害発生後に運用される「事後避難」である。だが、新型コロナ禍には、災害関連の法制度は適用されていない。

事後避難としての避難の概念は、東日本大震災以降大きく拡大している。当該県や市町村の圏域を越えて遠隔自治体への被災者の移動が顕著であり、また長期化していることから、避難所の次の段階である「多様な応急仮設住宅等における仮住まい生活」は、避難所ではないのに福島の原発事故に関しては「仮住まい」といわずに「長期避難」の概念で説明されることが多い。さらに、被災自治体が近隣自治体区域に建設型応急仮設住宅を建てた事例がある一方、それよりもはるかに多い戸数を遠隔自治体で借上げ型仮設住宅として提供し、多くの被災者が被災地を離れたのであるが、それを、マスコミを中心に「広域避難」との概念で説明してきている。

一方、東海地震の予知を前提として立法された大規模地震災害特別措置法(1978)以降、地震学や気象学の進展に対応して災害が発生する前に避難を開始する「事前避難」の概念が出てきた。同法第21条では、地震防災応急対策として第1項に「地震予知情報の伝達及び避難の勧告又は指示」としている。同法は35年後に予知は不可能として全面改訂され、南海トラフ地震防災対策特別措置法(2013)に引き継がれた。2019年3月には南海トラフ巨大地震発生の可能性が高いと判断し「臨時情報」を出した際の防災対応の指針が公表された。自治体は事前に「避難対象地域」を選定し、臨時情報が出た際は避難勧告などを発令し、1週間の避難を呼びかけるとしている。この対象地域を「事前避難地域」とも称している。

また、風水害や土砂災害など異常な気象現象が引き起こす気象災害について、気象情報(注意報、警報、特別警報など)、河川の氾濫情報などを5段階の警戒レベルとして整理し、自治体は大雨・洪水警報と河川氾濫警戒情報(警戒レベル3)で「避難準備・高齢者等避難開始」情報を、さらに土砂災害警戒情報+河川氾濫危険情報(警戒レベル4)で「避難勧告」情報、そしてさらに事態が進めば「避難指示(緊急)」情報を出すことになっている(1)。警戒レベル5は特別警報に対応し、すでにどこかで災害が発生している状況としている。これらの避難情報は、すべて発災前に出される「事前避難」のための情報で、その避難対象人口は、当該地域の全人口で、事後避難における被害確定後の避難対象人口とは全く異なる。被災で自宅を大きく損壊し避難生活の場としての「避難所」を必要とする事後避難の対象人口ではなく、事前避難の対象人口は、災害発生前に命を守るための緊急避難の対象人口であり、避難情報が発出された時点での避難が必要な地域の全人口となる。したがって、事前避難の対象人口は事後避難よりも大規模になる。そして、この事前避難先の施設は、避難生活をするための「指定避難所」ではなく、同じ施設であっても「指定緊急避難場所」の位置づけとなる(災害他策基準法第49条8)。

(1) この警戒レベル4で自治体が避難勧告と避難指示(緊急)を発出する判断が困難であるとして、政府の「台風19号検証WG」で、3段階の「事前避難情報」のあり方の改善について検討している。

3.「新型感染症蔓延期の災害時避難対策」の戦略目標と基本方針

新型コロナ蔓延期での災害対応は、今まで経験し積み上げてきた災害対策の延長上には存在しない。新たな発想と視点から、対策の創造的展開が不可避となっている。それは、避難所運営の改善という部分的な問題ではなく、事前避難と事後避難を含む災害時避難体系を抜本的に見直しと、自助-共助-公助の役割分担に基づく新たな“地域避難計画”の創設として取り組むというような体系的な問題である。その検討は、現下の新型コロナ蔓延状況における複合災害に対応するための“地域避難計画”として、従来の被災後の避難生活期における個別対応ではなく、新型コロナとの複合災害への対応を検討するものである。したがって、新型コロナを完全にコントロールできる状況に至るまでの間に何度か繰り返すであろう感染症の再蔓延時に備える、有用な地域避難計画である。

このような「新型感染症蔓延期の災害時避難対策の体系」には、4つの目標と、それを構築するための7つの基本方針に基づく戦略的な検討と策定が不可欠である。

(1)「新型感染症蔓延期の災害時避難対策」の4つの戦略目標

新型コロナの蔓延化を防止するとともに、地震災害や風水害に対応した避難生活を運営して関連死を縮減するための「新型感染症蔓延下の災害時避難対策」で目指す戦略目標は4つである。

戦略目標① 避難所に集中させない分散避難の確保

従来の災害時避難対策では、避難生活支援の合理的かつ効率的な供与のために、災害救助法に基づき、公立小中学校の体育館など大空間に避難所を指定・開設し、避難者を一カ所に集めて避難者支援を運用した。内閣府は、その運営をより効果的に実践し、避難生活の質的向上を目指す「避難所生活運営ガイドライン(2016)」を発行した。自治体はそれに即して「避難所運営マニュアル」を作成し、効率的で効果的な運営に取り組んできた。しかし、新型コロナの蔓延し感染のリスクが継続する状況下では、そのような避難所の開設や運営はまったく受け入れられない状況となった。新型コロナ対策の基本は“STAY HOME”対応であり、したがって、自然災害が発生して複合災害化してもそこでの避難の目標は、”STAY HOME”を基本とする「在宅避難」や「縁故避難」「施設避難」で避難生活者が地域内に分散避難してコロナの感染拡大を引き起こさない状況と体制を確立することである。

戦略目標② 病院に行かない事前予防の実践

さらに、災害拠点病院をはじめ主要な病院は、人的にも空間的にも新型コロナ対応で余裕がない状況である。そこに災害によって大量の負傷者が発生しても、その災害医療に対応する余力はないというのが現状である。こうした地域の医療状況は、やがて軽減はするとしても、新型コロナ蔓延とともに数年にわたり継続すると想定して、災害発生時に対応できるような準備しておかなければならない。そのためには、災害医療の負荷を可能な限り低減するために、すぐにできる地震対策として自宅内の家具の配置換えや固定による負傷者の減少化や、水害対策としても上層階の有効活用等による耐水性向上を事前に実践しておき、さらに長期的には自宅の耐震改修も視野に、一人ひとりが自宅での在宅避難が可能となる安全な生活空間を確保するとともに、食料・水その他の家庭内備蓄を充実させて、在宅でも健康に生活を継続できる状況づくりを事前防災として実践していくことが目標となる。

戦略目標③ 避難空間の三密防止

耐震化・耐水化が実践されても、災害時に自宅での在宅避難ができなくなり、親族や友人知人宅への縁故避難もできず、避難所での避難生活を余儀なくされる被災者が皆無にはならないであろう。しかし、その避難所が新型コロナ感染拡大のクラスターになることは、完全に防がなくてはならない。そのためには、避難所の空間利用における密閉・密集・密接の三密防止や避難所での避難生活の運営において新型コロナ感染対策を充実させることも重要な目標である。

戦略目標④ 新型コロナ感染者の災害対策の確保

新型コロナ感染者は、重症中症感染者が医療施設で治療しており、軽症感染者や無症状感染者は行 政が借り上げた受入れホテルあるいは自宅での療養経過観察という対応状況にある。生活空間ゾーンを分離して治療や療養している感染者自身の災害時対応対策も万全を期した取り組みがなされなければならない。災害の発生が新型感染症の蔓延化を加速させたり、再蔓延化させることがないように、感染者のための新たな災害時対応対策を確立することも重要な戦略的目標である。

(2)「新型感染症蔓延期の災害時避難対策」の7つの基本方針

新型感染症蔓延下において、いかなる災害が発生しても人々が安全で安心な避難生活を過ごせる災害時避難を確立するために、次の7つの基本方針に沿った検討によって、新型コロナ蔓延期の避難対策の内容と体制を実体化し、に単に準備するにとどめず直ちに実践していくことが求められる。

1)基本方針(1)避難行動の多様化を図る

災害救助法以降、今日でも「災害時の避難とは避難所に行くこと」という単線的発想になっている。災害救助法で供与される「避難生活への支援も避難所において提供される」という発想が強い。その避難所をより良くするために改善されてきた「避難所運営ガイドライン(2016)」と、それに基づく自治体の「避難所運営マニュアル」もまた“被災者を避難所に誘う”結果となって、被災者が避難所に入りきれないほどの“三密”状況を作り出してきた。大きな余震が続発した新潟県中越地震(2004)や平成28年熊本地震(2016)では、とくに避難所に人々が集まり、避難所に入りきれない多くの被災者が「車中泊」という避難生活を選択していた。そして、この二つの地震では直接死の4.3〜5.5倍の関連死を主に避難生活期に招いている。

「避難生活をする被災者」を「避難者」と定義すると、避難所は最後の砦であるが、しかし避難所に行かないで避難生活を続ける人は少なくない。災害によっては避難所での避難者よりも多い。様々な障害のある家族がいる人、家族と思ってペットと暮らしている人、高齢で避難所での避難生活に耐えられない人、様々な事情で自宅に留まったり、親族や知人友人を頼って避難生活をする人も多い。「避難所避難者」に対して「在宅避難者」、知人友人や仕事場等での「縁故避難者」、福祉施設等での「施設避難」である。

一方、新型コロナの感染防止対策の基本である「STAY HOME(外出自粛)」とは、まさに「在宅避難」の要請である。新型コロナ蔓延による緊急事態宣言下では、実家のある田舎に戻る(疎開)という県外への「縁故避難」も地域間での接触機会の増大につながる「広域避難」として自粛が要請されている。さらに、縁故避難も新型コロナ蔓延期には“家庭内感染”のリスクを高めるとして“断られる”可能性も想定される。ましてや従来の「避難所避難」は、コロナ対策としては“絶対に起こしてはならない三密化を引き起こす避難”なのである。

①在宅避難者を促進し避難所避難者を縮減する:

現下の新型コロナ蔓延状況では、風水害や地震災害など自然災害の発生は、その瞬間「複合災害」化してしまう。それに対応する基本的対策は、「在宅避難」で耐える、近傍での「縁故避難」で耐える、ことである。どうしても在宅避難や縁故避難ができない被災者だけが、指定避難所で避難生活を送る「避難所避難者」とする。

しかし、風水害時や地震時の停電や断水などライフラインの供給停止は、避難生活を余儀なくする被災者を激増させるが、避難所では人と人の間隔(社会距離:ソーシャル・ディスタンス)を2mに確保すると仮定すれば、間隔が1m程度の場合に比べ避難者人数を約1/4に減らさなければならない。これまでの大災害の被災地では、とくに直後には避難所避難者は三密状態での避難生活を強いられている。それを1/4に縮減するためには、可能な限り「在宅避難者」と「縁故避難者」を増やし、「避難所避難者」を減らすことが新型コロナ蔓延期の避難対策の基本である。その中でも、縁故避難は家庭内感染を高める三密化につながるため回避される可能性も高く、避難所避難者を減すには「在宅避難者の最大化」が最も重要な基本方針となる。それには、すべての人が自宅の耐震性確保に取り組むとともに、洪水ハザードマップで自宅の状況を確認し、可能な耐水対策を実施しておかねばならない。

②障害者・高齢者など在宅避難者への支援を強化する:

過去の災害では、被災地に避難所避難が困難として在宅避難をしていた被災者がどれほどいたのか、統計的に把握された事例はない。しかし、自宅の被災程度によらず障害者など支援が必要な家族のいる世帯が在宅避難をしているケースが多いと想定できる。障害者の被災体験談からも、在宅避難を余儀なくするのは、避難所で障害者が避難生活を送るのには重大な困難があるからと推察できる。「避難所運営ガイダンス(2016)」によると、阪神・淡路大震災の被災地では、被災者の約6割が在宅避難であった・・・・(p.21)」という。

例えば、視覚障害者には、避難所で出くわした隣の避難者がどのような人なのか、言葉でコミュニケーションできてもわからない。避難所に多くの情報が貼り出されても認識できない。そもそも、避難所の空間や配置も、避難所の周囲の街並みも認知できなければ動けない。いつも歩いている道でさえも、被災して状況が変わってしまうと怖くて歩けない、との話も聞いた。

聴覚障害者には、避難してきた人の顔立ちや様子は見えるが手話コミュニケーションができない。避難所の張り紙は読めるが、マスコミも含めて、音声放送や音声でのお知らせは全くわからない。しかも大規模災害後は避難所に被災者が密集している中で、健常者からは聴覚障害と思われずに話しかけられ、ますます混乱してしまう、とも聞いたことがある。

人工肛門の方も避難所のトイレが仮設であれば、衛生上も対応が怖かった、とも聞いた。

クモ膜下出血や事故で脳に障害を受けた高次脳機能障害の方は、外見的には全く健常に見えるが、家族と一緒でないとどんな行動をしてしまうかわからず、避難所なんか行けないんだ、とも聞いた。

重度の身体障害で人工呼吸器ALSを装着されている方は、停電が致命傷になるので、個人で蓄電池だけでなく発電機を用意している人もいる。でも、自分だけでは何もできないんだ、と聞いた。

在宅避難者には、こうした様々な障害のある被災者が多いが、平時に日常生活を支えていた物的人的インフラ(道路や支援者とのつながり)が被災によって破壊されてしまうと、被災後は、自宅にいてもいつもの生活を継続することが困難にある。視覚障害者には、自宅でも家具が転倒し、物が落下して散乱すれば、自宅の中さえも認知できず、その生活は困難を極めるであろう。多様な障害者の日常生活の維持には、障害に応じて多様な人的支援が必要であろうが、その人的支援も、新型コロナ蔓延によって「濃厚接触のリスク」のために困難さを増している。さらに自然災害が発生すると、日常の支援以上に多くの支援が必要になると想定されるのに、社会状況は逆に、支援が希薄化していくのではなかろうか。こうした在宅避難者こそ、自宅の耐震性・耐水性をチェックし、その安全を確認しておくことが不可欠である。その上で、新型コロナ蔓延期にはボランティアの支援は困難であり、在宅の障害者等の避難生活支援は地域ぐるみで取り組んでいく体制づくりが重要になる。

③災害救助法の弾力的運用で在宅避難者を安心させる:

「被災者に対して救助を供与」する災害救助法を弾力的活用し、在宅避難者の安心感を高めて「在宅避難の可能性を高める」ことが在宅避難を増やすことができれば、「避難所避難者を縮減する」とともに、無理な「車中泊」も減らして「災害関連死も軽減する」ことができる。

自宅の耐震改修などにより被害を軽微にし、避難生活が可能な居室等が確保されていることは在宅避難の基本条件となる。地震災害では、地震動による屋根の破損や外壁や屋根裏に亀裂やゆるみが発生する程度の一部損壊であれば、家具等を片付け居室を確保して、在宅避難が可能となる。また、風水害では、風による屋根被害や開口部の破損、床下や1階の床上浸水では2階があれば在宅避難の居室は確保できる。

しかし、屋根のズレなどによる「雨漏り」は、2階の居室を水浸しにしたり、繰り返すと1階の居室も壁の破損やカビの発生などもたらし、在宅避難の居室環境は急激に劣化する。同様に、1階の床上浸水は、木造住宅では断熱材が毛細管現象で水を2階にも吸い上げ、居住環境を劣悪にする。

ⅰ)被災後の「緊急措置」の供与 :

地震や台風の強風による住宅の屋根被害は、被害程度として軽微と認識されるが、在宅機能に与える影響は重大である。被災後の降雨により雨漏りが発生する確率が高く、雨漏りの放置は被害を拡大し、在宅避難生活を断念する事態に拡大する。「緊急措置」は、可能な限り迅速に実施し、被害の拡大を防ぎ在宅避難を維持する救助として災害救助法を拡充すべきである。

とくに、緊急措置は、障害者等が健康に在宅避難を持続できるかどうかの大きなカギを握っており、地震や台風による屋根被害からの「雨漏り対策」と外壁内部からの「断熱材の引き抜き対策」が重要である。「雨漏り対策」は「ブルーシートの供与とシート掛け作業」で、被災後の次の雨天までに実施することが望まれ、「断熱材の抜き取り作業」とともに、作業員の手配を含めて行政プッシュ型で推進する体制を事前に構築しておくべきである。

ⅱ)「応急修理」の弾力運用:

「雨漏りの防止」と「台所・トイレの水回りの修復」は、応急修理としての重要な取り組みである。雨漏りの心配なく、トイレと台所を整え、在宅避難生活を確保することは、新型コロナ蔓延期では極めて重要な取り組みである。災害救助法の「応急修理」を活用して、在宅避難から継続して自宅を“仮住まい住宅”としての最低限の修復をする制度に拡充し、本格的な「雨漏りの防止」と「台所・トイレの機能回復」を支援する。仮設住宅の需要を軽減するとともに、在宅避難の長期化にともなう住宅被害の拡大を防止し、障害者や高齢者に「自宅を取り戻す」支援は、災害救助法の供与として、人手不足で工事が遅れる事態を改善するために、建築事業者の手配を含むプッシュ型支援として取り組み体制を構築する。

ⅲ)「応急修理」と「応急仮設住宅」の択一申請の緩和:

さらに、「応急修理」と「応急仮設住宅」の申請は、いずれかの択一申請とする制限の運用は、廃止すべきである。在宅避難のために応急修理を選択しても大災害時には修理工事が作業員不足で長期化している。そ障害者も高齢者も、工事が終了するまでの間を健康に生活するためには、借上げ型仮設住宅などで被災者が一定期間の仮住まい生活ができるように支援することが必要になっている。災害救助法の「応急修理」と「仮設住宅入居」の択一的選択の制度を撤廃し、応急修理が完了するまでの仮住まいが必要になった場合や、応急修理後の本格修理工事期間に自宅での生活が困難で仮住まい生活が必要になった場合に、借上げ仮設住宅などへの一時入居を可能とする制度緩和を行うべきである。それは、障害者や高齢者などの在宅避難から応急修理を経て自宅の本格修理で“復興に向かう被災者に大きな力を与える”取り組みになろう。

④ 「避難所運営ガイドライン」の“在宅避難者支援”を強化する:

「避難所運営ガイドライン」(内閣  2016、p.21-22)にも、「阪神・淡路大震災の被災地のうち、被害が大きかった地域では、約6割の被災者が在宅避難生活を余儀なくされており、ピーク時(1カ月半後)においては、避難所に暮らす被災者 数の約2倍強の人々が食事を求めて、避難所を訪れています。在宅避難者においても、被災した家屋やライフラインが途絶した中で、不自由な「避難生活」を送っている人がおり、支援の対象であることを忘れてはなりません。 また、寝たきりの家族を抱えている等の理由により、避難所に避難することができず、在宅避難生活を余儀なくされるケースも少なくありません。」と記しているが、在宅避難者を具体的に支援していく記述はほとんどない。こうした在宅避難者等も対象に含めた“避難所の運営が必要”との記述があるにもかかわらず、その実体化は見られない。

2) 基本方針(2) 避難所・避難場所を拡充する

避難生活の場(自住宅、縁故者住宅、そして避難所)の三密化を防ぐには、避難所避難者の縮減とともに、避難所の拡充が不可欠である。避難所の拡充とは、避難所施設数の増加と避難利用床面積の拡大である。

①避難所・避難場所施設数を増加する

避難所とは、屋内の空間を避難生活の場、避難場所とは、危険を避け命を守るために緊急に退避する 場と定義できる。災害対策基本法第49条8には、避難所と避難場所は兼用できる、とも規定している。

市区町村(以下、自治体という)が、地域防災計画において事前に指定している指定避難所には、「避難所」と「福祉避難所」がある。災対法は、災害によって危険な状況が異なるので、地震、津波、風水害、土砂災害など災害毎に避難所・避難場所を指定することが望ましいとしているが、日本では主に地震時を想定して、小・中学校等自治体管理の公共施設を避難所に指定している自治体が多い。

福祉避難所は、高齢者等の社会福祉施設と自治体の協定締結等に基づく場合が多いが、費用負担などをめぐって、多様に連携して取り組まれているが、介護等の支援を必要とする被災者の避難収容の施設であり、受入れ施設の介護体制のキャパシティが課題となる。

それ以外に、大型商業施設など民間事業者と災害時協力等に関する協定を締結して避難所や避難場所の提供を受けている自治体も多い。水害時の避難場所として立体駐車場の使用とか、民間の体育施設を避難所や避難場所としているケースもある。これらを、本文では「協定避難所、協定避難場所」という。

しかし、新型コロナ蔓延期の災害発生を想定すると、地域内の「避難受け入れが可能な施設」に対して協定締結や借上げを進め、更なる避難所・避難場所の拡充促進が望ましい。

ⅰ)民間施設等を「協定避難所」として避難所数を増加:

民間宿泊施設(ホテル・旅館・研修施設等)、民間企業等の施設(体育館、ロビー、ホール、会議室など)や、大学・高校や私立学校など教育施設(体育館、教室、会議室など)の他、神社仏閣、さらに避難所指定していない公共・公益施設、さらには公営住宅や民間賃貸住宅の空室や空き家なども、新型感染症蔓延期には、災害時の避難所・避難場所として使用できる施設である。なお、公営住宅は、公営住宅法の目的外使用であり、迅速な対応が可能である。

各自治体は、区域内の施設をリストアップして、耐震性や浸水区域など災害リスクの状況を確認し、立地や管理運営条件などから判断して、避難所として使用できる施設を把握し、協力を依頼、協議し、避難所としての利活用に関する協定(仮)の締結を進めておく。

協定避難所の確保は、その開設・運営においても行政と地域との連携が重要で、地域コミュニティの意 見を踏まえて進めるとともに、施設の避難利用床面積から三密防止のための避難定員を設定し、自治体は施設管理者および近隣地域住民と、施設運営や定員管理について、事前に協議しておくことが重要である。なお、福祉避難所も協定避難所であるが、その運営は“介護”という専門人材を必要とするために、施設に委託する形式が多い。しかし、過去の災害では、協定の有無にかかわらず、要配慮避難者の受け入れ申出に、入所や一時受け入れなど、柔軟に対応している事例が少なくない。

ⅱ)災害救助法で民間ホテル等を「借上げ避難所」として供与:

災害救助法には、民間宿泊施設の借り上げによって、避難所として供与することができる規定がある。民間宿泊施設等を借り上げが拒否されても、公共の福祉に不可欠であれば、「旅館」の使用が規定されていて、収用できることにもなっている(救助法第9条)。東日本大震災では、緊急避難所として南三陸町では大規模観光ホテルを借上げ避難所として供与されたし、福島県の原発事故避難者には、東京などで避難先としてホテルが供与された。また、災害救助法ではないが、新型コロナ感染者の受け入れ施設としてホテルを借り上げ、活用されている。

現在ではホテルが多く使用されているが、その他の民間施設についても耐震性・耐水性など避難所として必要な条件を備えていれば、避難所として借り上げて供与する準備をしておくべきである。

ⅲ)指定・協定・借上げ避難所の避難区域の設定と地域運営:

避難所の開設数が増えるほど、行政職員を全ての避難所には配置できない。避難所間のネットワークと拠点避難所を決定し、避難所避難とともに在宅避難等を含む、地域全体の避難生活者を公平に支援することが必要になる。そのためには、行政と多様な地域住民組織に施設管理者等を含めた「避難生活地域運営協議会(仮称)」を事前に設立し、(指定、協定、借上げ)避難所の「受入れ定員と避難区域の設定」や、避難所避難者と在宅避難者を含む「地域の避難生活者全員への情報伝達や食事の配布など支援のあり方」を事前に検討し、地域防災計画などにルール化しておくことが望ましい。

その際、当面は、新型コロナ蔓延期であることを前提として、地震災害や水害、土砂災害など地域のハザードに対応させて、安全性を確認して、避難所と避難想定区域を検討しておく必要がある。地震災害では、全避難所の活用を前提とするが、水害では浸水区域人口に対して浸水区域外の施設を優先するが、不足するために50cm以下の浅い浸水区域内施設を使用する場合には、浸水前に避難完了することを原則とし、浸水後の避難は命にかかわる危険があるため「垂直避難」する等の避難ルールも、地域で検討し、全住民らに周知しておくことが重要である。

②避難所利用床面積を増大する

多くの自治体の地域防災計画では、地震を想定して指定避難所を設定し、その施設を他の災害時に も避難所として利用しているケースが多い。しかし、避難所が浸水区域に立地しているなどして水害時には水没する施設を除くと、避難所数が減少する。相対的に発生頻度が高く、かつ事前に避難情報が発出される水害では、浸水予想地域の全人口を対象とする緊急避難となるが、水害時には地震災害時よりも使用できる避難利用床面積が縮減する可能性が高い。

ⅰ)指定避難所の現状確認:

自治体は、現状の指定避難所・避難場所を洪水ハザードマップ等で確認し、地震時、水害時、土砂災害時のリスク状況を確認して、リスク毎の避難所の最大避難利用床面積を算定しておく。水害時に浸水する施設も、垂直避難で利用できる2階以上の利用床面積を算定する。

ⅱ)協定避難所の現状確認:

協定避難所として使用する可能性のある施設と優先して協議を進める基準は、地域状況によって異なってくるが、立地条件(指定避難所の避難可能床面積が少なく避難所に逼迫する地域)と、施設条件(新型コロナ対策を考慮した避難所運営管理のためには、避難利用床面積が広く、かつ複数の小規模空間に分割して利用できる施設など)から優先順位を設定して取り組むことが望ましい。

浸水区域内でも、垂直避難できる上層階があり、運営しやすい空間配置であり、一定規模以上の避難利用床面積が利用できる施設を優先して協議対象とする。協定できた避難所については、リスク毎の最大避難利用床面積を把握し、受け入れ定員を概算し、行政、住民と施設管理者とで共有しておく。

ⅲ)借上げ避難所の現状確認:

ホテル等の宿泊施設の場合には、客室数(収容定員)が決まっているが、三密対策を考慮しての運用が必要である。なお、新型コロナ感染者の受け入れ施設との違いを十分に理解した、管理運営が考えられるが、感染者受け入れ施設の運営管理が基本モデルとなろう。

ⅳ)(指定・協定・借上げ)避難所の現状と避難想定人口の収容可能性及び運用訓練:

指定避難所、協定避難所、借上げ避難所について、避難利用床面積の現状を確認し、洪水ハザードマップの浸水区域の想定避難人口と照合して、常に避難利用床面積の過不足を確認しておく。不足するときは、地域内の避難所に使用できる施設への更なる協議を進めて、その拡大に努めることが必要である。

(指定・協定・借上げ)避難所の定員管理やその運営の在り方も含め、地域組織、施設管理者、行政による肌理の細かな事前協議と、とくに(協定・借上げ)避難所の立ち上げ訓練の実施が望ましい。

ⅴ)自治体間の連携:

どうしても自治体区域内の(指定・協定・借上げ)避難所だけでは三密を避けられない場合は、更なる在宅避難や縁故避難を要請するとともに、隣接自治体と連携した広域避難も視野に入れて検討しておくことは重要である。受け入れ方、避難の仕方を自治体が共有しておくことは重要で、避難所の立ち上げ、受入れ、管理などの広域避難訓練の実施と継続が望ましい。

③「避難所運営ガイドライン」の避難所拡充対策の実践と実体化

「指定避難所以外の協定や借上げなどの避難所対策の検討」については、「避難所運営ガイドライン」(内閣府2016)のⅠ運営体制の確立(平時)(1)平時から実施すべき業務 2.避難所の指定(p.12-14)に記載されている事項でもある。「避難者数の増加によって、指定されていない建物が避難所になる可能性があると想定しておくことも重要です。災害対応訓練等において、避難所が不足する事態についてシミュレーションを行い、備えておきましょう。(p.12)」として、チェックリスト(p.14)には「避難所活用が見込まれる施設・場所の洗い出し・リスト化」、「指定以外の避難所についての協議を実施」、「避難所として使用する施設の把握と都道府県への報告」が書き込まれている。しかし、これらの記載内容も、自治体の「避難所運営マニュアル」には反映されることはなく、その理念は希薄化し、そのような事前の避難所不足を補う取組みは実体化されていない。

新型コロナ蔓延で、政府のガイドラインの実体化と、自治体のマニュアルの拡充と強化は急務となった。

3) 基本方針(3) 全ての避難所の“三密”化を防ぐ

避難所避難者を縮小したうえで、(指定・協定・借上げ)避難所の新型コロナの感染クラスター化を避けることは、新型コロナ蔓延下における災害時避難対策の最大課題である。そのために、避難所数・避難利用床面積を拡充することと、在宅避難対策を拡充して在宅避難者の増大と、避難所避難者の軽減に努めることとを、避難所利用時の三密(密閉・密集・密接)防止の両輪として、新型感染症蔓延期でも安心・安全な災害時に対応できる避難所の確保を可能にしておく。その取組みをすぐに実行することが、感染症蔓延の収束にも寄与し、災害発生時の関連死の防止にも寄与し、新型感染症の繰り返し流行にも万全に対応できる「新型感染症蔓延期の災害時避難体系」の構築となる。

①避難者の小集団化と密集防止:

通常の指定避難所は、小中学校の体育館の利用が一般的である。大きな体育館では、数百人の大集団が密集することもある。もし無症状感染者が避難していると、そこで新型感染症が拡散蔓延し、巨大なクラスターを発生させることになる。それを防止するために、避難生活空間として、体育館よりも小規模な避難集団に対応する教室(70〜100㎡)の活用が望ましい。感染症蔓延期は2mのソーシャル・ディスタンスを確保すると、1人/4㎡が避難生活密度の基準となるので、机椅子も室内で活用した避難空間の設置も可能であろう。

なお、体育館を巨大な避難空間として使わない場合は、当該指定避難所のみならず地域の在宅避難や縁故避難での地域の全ての避難生活者を含めた避難生活支援本部、『避難生活地域運営センター(仮称)』として活用する。

②避難空間の密閉防止:

避難空間の開放性を高めて外気との換気を計画的に行う。基本的には対置する2面の窓やドア等を開放する。冬季でも30分ごとに数分程度は全開して換気を促す。就寝時間でも、2〜3時間に1回程度の換気が望ましい。各避難空間での密閉防止は、避難所ごとに当番を決めるなど自主的に換気する。

③避難生活における密接防止:

飛沫感染防止のために、基本的に人と人の間隔(ソーシャル・ディスタンス)を2m、マスクの常時着用、対面での着座や食事の回避、トイレ利用などの生活行動も混雑と交差を避けた動線設計など、避難者一人ひとりの「生活行動ルール」づくりとその遵守が求められる。

ソーシャル・ディスタンス2m確保とは、居住面積で1人/4㎡だが、通路や隔離空間等を考慮すると1人/6〜8㎡となる。従来の災害避難所が災害直後に込み合っている状況の1/4以下の低密度が必要で、どの自治体も現状の指定避難所だけでは、避難所利用床面積が大きく不足する事態となる可能性は高い。避難所数の増加と避難補利用床面積の拡大は、喫緊の課題である。

④避難所の三密防止受け入れ「定員管理」の合意:

在宅避難が困難で避難所数と利用面積や少なけれ ば、感染症満員期の避難所は三密化するリスクが高まる。それを防ぐためには、避難所毎に避難所利用空間のレイアウトと受け入れ定員を地域住民が事前に検討し、定員とそれを守るための避難ルールを地区防災計画として定めておくことは、いつ新型コロナの再流行期になるかわからない状況下では、非常に重要であり、有効である。避難所避難者の定員管理は、その他の地域内分散避難(在宅避難、縁故避難、福祉避難、など、地区全体の“総働体制”によって、はじめて可能となろう。

4) 基本方針(4) 多様な避難生活者を地域で支援する

「避難所運営ガイドライン」(内閣府2016、p.21-22)には、「阪神・淡路大震災の被災地のうち、被害が大きかった地域では、約6割の被災者が在宅避難生活を余儀なくされており、・・・(中略)・・・在宅避難者においても、被災した家屋やライフラインが途絶した中で、不自由な「避難生活」を送っている人がおり、支援の対象であることを忘れてはなりません。・・・(中略)・・・避難所は、在宅避難者支援の拠点としての役割も求められます。生活物資・食料支援など、地域との連携も視野に、支援の仕組みを検討しておきましょう。」としている。これを実体化することは、新型コロナ蔓延期の喫緊の課題である。

①「避難所運営」から「地域避難生活運営」へ

新型コロナ蔓延期の災害時避難対策を構築する戦略目標としては、避難所避難者を縮減し、多様な施設を避難所として活用するとともに、避難所以外で地域に分散して避難生活している多くの在宅・縁故避難者に、公平に避難生活支援が供与されることである。しかし現状では、避難所避難者に比べ、在宅避難者、縁故避難者への支援は、公平な運用がなされていない。「避難所運営ガイドライン」と「同マニュアル」も“避難所避難者支援の質的向上”という進化に偏重していることに課題がある。

ⅰ)指定避難所を「避難生活地域運営センター(仮称)」に機能強化:

小中学校を活用する指定避難所は、避難生活期における地域生活圏の拠点施設であり、新型コロナ蔓延状況においては、災害対応で開設する避難所を三密化しないために、教室を中心に避難生活空間を小区画化して運用することが望ましい。その場合、体育館は、避難所の避難生活者に加え、在宅・縁故避難の避難生活者を含む地域にいる全ての避難生活者を対象とする。

それには、指定避難所を、行政と地域住民組織が連携し主体的に活動する“避難生活支援地域拠点”とすることが不可欠で、従来の「避難所」から「避難生活地域運営センター仮称)」に改称し、避難所支援機構に在宅等を含む地域支援機能を加えて、地域の全避難生活者への支援強化を図るべきである。従来からの避難所に避難しない被災者は、多くが高齢者や障害者など要配慮者が多く、しかも、風水害や地震災害が長期の停電や断水などライフラインの損傷をもたらすと、地域のその他の人々も自宅の被災を免れたが避難生活に追い込まれる可能性が高いことを、想定しておかねばならない。

とくに新型コロナ蔓延期では、地域で在宅し、避難所に避難しない多くの避難生活者にも、指定避難所と同等に必要な支援を届けねばならない。多様な避難生活への支援を、災害ボランティアを前提に運営することはできない。むしろ外部からのボランティをお断りして、地域での一人一人の自助と互近助や共助に自治体の公助を連携して、地域主体の運営を基本としなければならない。

ⅱ)「避難所運営ガイドライン」を『地域避難生活運営ガイドライン』への拡充と強化:

指定避難所は、避難所にきた被災者の避難生活の場という避難所機能とともに、それよりも多い多様な地域に分散している避難生活者の避難生活への支援拠点機能を強化・拡充することが極めて重要になる。避難所避難者のためだけの運営拠点からの脱却が求められている。

「避難所運営ガイドライン」(内閣府2016)の目次で「在宅避難者」が出てくるのは、19項目中1項目「帰宅困難者・在宅避難者対策」のみである。しかし、所々に在宅避難者に関する記載が散見されるので、それらの在宅避難者の避難生活支援対策の実体化と強化に取り組む必要がある。例えば、

  • 避難者名簿等の帳簿の事前作成(p.16)に加え、在宅避難者名簿の帳簿の事前準備も必要である。
  • 宅避難者の安否確認方法、対応方針の検討・実践、ニーズ把握、生活支援の実施(p.22)を実践するためには、在宅避難者安否確認時に在宅避難者名簿の作成が実施される必要がある。
  • 避難所の運営サイクルの確立(p.24-26)に引き続き、在宅避難者の支援の運営サイクルの確立が必要である。避難所受付時の避難者名簿の作成(p.26)のみならず、在宅避難者名簿の作成ルールと被災状況やニーズの把握、避難所運営会議の避難生活地域運営会議(仮称)化および在宅避難者支援の実施手順の確立などを進める。
  • 在宅避難者への情報発信の実施(p.29)在宅避難者用物資の配布体制の確保および避難所・在宅避難者別の必要食数の確認と報告(p.31)の強化・実体化とともに、在宅避難者の健康管理への配慮方法も検討する必要がある。とくに食事の配布時の声掛けや観察見立ては、配慮の必要性に気づく重要な取り組みとなろう。
  • 福祉避難所避難者と同時に在宅避難者のボランティアニーズの把握(p.50)も必要で、ボランティアの支援は感染症の蔓延状況によるが、避難生活者への公平な支援には欠かせない取組みである。
ⅲ)自治体の「避難所運営マニュアル」の改称・拡充と地域での避難生活支援強化:

「「避難所運営マニュアル」に関する全国自治体郵送調査報告書」(人と防災未来センター2020)によれば、すでに市町村の約73%が策定済みで、11%が策定中としいて、小規模自治体に未策定が多い傾向にある。策定にあたっては、ほとんどの自治体が避難所運営ガイドラインを参照しており、「在宅避難者の存在」にも気づいてはいるが、具体的に在宅避難者対策を検討し記載したマニュアルはないようである。「被災して避難生活の支援が必要ならば、避難所に身を寄せ、避難所避難者になるしかない」と住民に思い込ませてしまうような避難所運営のとらえ方になっている状況を明らかにしている。

新型コロナ蔓延期を契機に「災害時避難体系」を拡充することを促進し、国のガイドラインの改称、改編を待つことなく、避難対応の現場である自治体は主体的に、「避難所運営マニュアル」を改め、地域の避難所以外で避難生活をしている被災者への支援体制を構築し、指定避難所も「避難所避難生活者」と「地域避難生活者」の双方を対象とする「避難生活地域運営センター(仮称)」に機能拡充し、それに対応して「避難所運営マニュアル」から「避難生活地域運営マニュアル」に拡充する必要は極めて高い。

ⅳ)指定避難所の機能拡充と運営体制 :

教室を利用する場合は、指定避難所の体育館を、地域の避難所・在宅・縁故避難など全ての避難生活者に対する支援活動拠点とするため、『避難生活地域運営センター(仮称) 』と改称し、行政と地域住民組織らによる「避難生活地域運営会議(仮称)」による地域運営体制の確立が重要である。

ⅴ)その他の避難所の機能と運営体制:

なお、指定避難所以外の協定・借上げ避難所などでも、避難空間が大規模の場合は、小集団対応に分節区画化を図る。1人/4㎡の避難利用床面積の確保と定員確保に努めるとともに、各避難区域の拠点として「避難生活地区運営拠点」として「避難生活地区運営会議」で管理運営をしていくことが望ましい。

②災害救助法の新たな運用で地域の避難生活支援の公平な運営

指定避難所だけでは不足する災害事態など、必要に応じて協定避難所を使用するときや、隣接自治体への広域避難を必要とする場合には、災害救助法に基づく避難所としての運用を行い、施設提供者や受け入れ自治体に適切な負担免除を措置するとともに、在宅避難者・縁故避難者を含む地域の全ての避難者に公平な避難生活支援が供与されねばならない。

政府としても、在宅避難者が「取り残され感」を持つことなく復旧復興に向かうためにも、災害救助法を避難所のみならず地域の全ての避難生活者に対して公平に運用することを、改めて公表し、広く周知するとともに、大いなる誤解の元となっている「避難所運営ガイドライン」(内閣府2016)を「避難生活地域運営ガイドライン(仮称)」に改称・改編し、避難所以外への避難生活支援を実施する仕組みを講じ、実体化することを急がねばならない。

5) 基本方針(5) 事前防災で在宅避難の可能性を高める

風水害時の避難は、事前に気象情報(注意報、警報、特別警報など)、河川の氾濫情報や土砂災害警戒情報が出され、それに連動して自治体から避難情報(避難準備・高齢者等避難開始、避難勧告、避難指示(緊急))が発出され、それに基づく「事前避難」となる。一方、地震災害時の避難とは、地震とともに被害が発生し、その後に生じる生活困難や危険からの「事後避難」となる。それらの避難は、いずれも事前防災対策として脆弱性・被害の軽減措置を実践して自宅の被害やリスクを軽減し、事後の避難生活の困難を軽微にできれば、結果として、避難所避難者の縮減と、病院での治療を要する人的損傷の縮減を実体化させ、災害時の避難を容易にし、かつ安全で安心できる避難生活とするであろう。つまり、災害の事前防災の取組みとは、新型感染症コロナウィルス蔓延期の災害時避難対策を構築する上でも、戦略的基盤である。

①家具固定等による室内空間の確保と怪我の回避:

地震災害時の負傷者の発生原因は、家具や器具の転倒・落下、自宅等建物の破損部材の落下・散乱である。また、被災後の対応行動による負傷の原因も同様である。新型コロナ蔓延期には、地域の主な病院は新型コロナ療養等に尽力していて、災害医療の現場も本来の医療行為に専念する余裕が全くない状況にあると考えておく必要がある。

従って、現状のような新型コロナ蔓延期には、一人ひとりが日常的にも災害時にも負傷することがないように取り組みを強化しなければならない。すぐできる地震対策としては、家具の配置を見直し、安全な場所に移動して家具を固定、とくに寝室・台所・食堂・トイレの安全確保を優先して我が家の防災空間化を進める。それが、在宅避難の拠点空間の確保である。ほとんどの高齢者は毎日服飲する薬があるだろうが、防災空間に他の備蓄品とともに確保しておく。

住み慣れた自宅でいつもの健康維持と規則正しい生活を継続できれば、病気を防ぎ、医療需要も高めない。このように在宅避難が可能となる心身の鍛錬と健康状態の確保は、新型感染症蔓延期を生き延びるためにも最大の事前防災でもある。

②自宅の「2000年基準耐震化」による在宅空間の確保:

自宅の耐震診断を行い、耐震性の補強が必要な場合には、躊躇なく自宅の耐震改修に取り組むことが、地震対策として自分と家族の命を守る基本対策である。さらに、木造住宅に対しては、従来は1981年6月以前(旧耐震基準)に築造された建物と対象に、住宅の耐震化を進めてきた。一方、今使われている木造住宅はこの旧耐震基準での建物よりも、1980年代、90年代に建てられた住宅のほうが多い。そして最近の地震被害は、これらの築20年〜30年の木造住宅の被害が多い。その背景に、2000年問題といわれる問題がある。国は2000年に木造住宅の耐震工法の仕様(「2000年基準」ともいわれる)を出して、更なる耐震性能の向上を図った。今や、2000年基準以前の木造住宅の耐震診断と必要な改修に、経済支援する自治体が増えてきている。

1981年耐震化も、2000年耐震化もいずれも、経費もかかり、すぐできる短期的な取組みではないが、「在宅避難できる居室を確保する」ことは在宅避難に不可欠な取り組みである。様々な自宅での準備や備えも、自宅が大破してしまうと、必要な時に使えないということになる。

③在宅避難を支える家庭内備蓄と自動車の防災拠点化 :

家庭内備蓄は、地震時も風水害時も基本的には違いはない。しかし、新型感染症蔓延期には、物流も自粛されているので、家庭内備蓄の重要性は高くなっている。マスクさえ1カ月でも届かないのだから、避難所避難よりも、しっかり準備をして在宅避難生活をする方が避難生活は格段に困らないと考えられよう。それは、自宅の耐震化・耐水化を実践して大きく被災しなくて在宅避難生活ができるのであれば、物資の持ち出し運搬することなく、我家のほとんどの食料も生活用品も使用可能となるということだからである。しかし、自宅が被災して在宅避難が不可能になり、避難所避難となった場合は、せっかくの備蓄も被災し、持ち出し量は限定され、支援物資は待てど暮らせど搬送されてこない、そんな事態も想像してしまう。

ⅰ)新型感染症対策としての備蓄:

新型感染症への備えとは、自己の感染防止と自己防衛である。店舗の営業自粛の影響で不便をかこっているが、生活物資等に困窮はしていない。新型コロナ蔓延期の避難生活の必需品は、在宅避難でも必需であるが避難時も想定して、持ち出し袋に準備しておく。もし、避難所等に避難したときは、必ず着用して感染防止と自己防衛に取り組まねばならない。

「感染症防止のためのマスク」、「消毒(液)スプレー・除菌シート」、「体温計」、「ビニール・ゴム手袋」、 「キッチンペーパー(拭き取り布用)」、「トイレットペーパー・ティッシュペーパー」、「ビニール小袋・中袋・大袋(ゴミ入れ等)」、「タオル・手拭・ハンカチ」、「石鹸」、「ゴーグル(フェイスガード)」、その他身の回りで不可欠なもの。日頃から余分に買っておくことが大切である。在宅でも感染防止を心掛け、これらを常にどこでも活用し、一人一人が感染防止と自己防衛に努める。

ⅱ)災害時に非常持ち出しする備蓄:

最も緊急で命に関わるものは、感染症対策以外に、「食料・飲料水(通常2食分程度)」、「持病薬」、「携帯トイレ」である。

その他、命には直ぐにかかわらないが、もし避難所に行くとしたら「食料・水(2日分程度)」、「照明具」、「時計」、「スマホ・充電器」、「現金」、「保険証・免許証・クレジットカード・通帳等の貴重品」、「軍手」、「常備薬・救急セット」、「お薬手帳」、「眼鏡・コンタクト・目薬」、「入れ歯・ケース・洗浄液」、「生理用品」、「下着(複数分)」、「タオル・手拭い」、その他自分に生活に必要なものも持参したい。

さらに命にもかかわる重要なものが「(内履用)スニーカー」です。災害時の荒れた室内で何時でも対応行動がとれ、そのままでも屋外に避難できるのが「スニーカー」です。水害時も、水深が20cm以下と浅くても泥水で水底が見えない冠水道路を歩くには、スニーカーの着用が極めて効果的です。

ⅲ)自然災害に備える家庭内備蓄:

在宅で避難生活を継続する上で必要なものは、とりあえず1週間の生活維持を想定しておく。「食料(調理不要3日分)・食材(4日分以上)」、「水(飲料水(7日分×3ℓ/人)・生活用水)」、「卓上 コンロ(予備ボンベ)」、「鍋・釜・食器」、「常備薬(持病薬)」、「携帯トイレ・ティッシュ」、「着替え・タオル・手拭い」、「照明器具(ヘッドランプ)」、「簡易トイレ」、「軍手・ゴム手袋」、その他「状況に合わせて必要な物品:ペット用品、介護福祉用品、洗剤、・・・」などを、水害や地震で失わないように整理・保管する。

なお、行動が制約されるうえに感染防止と自己防衛のために出歩くことなどしなくなる中で、健康状態を維持し体力を増強するために、エコノミークラス症候群(不活発性血栓症候)対策として、避難所でも在宅でも、三密に注意しながら体操などの軽い運動を心掛ける。

ⅳ)水害にも備える家財・貴重品と健康:

地球温暖化の影響もあり発生頻度が高い風水害への備えは、地震対策以上に進めておく必要は高い。風水害では、風による屋根被害や開口部の破損、床下や1階の床上浸水では2階があれば在宅避難の居室は確保できる。洪水ハザードマップで自宅周辺が浸水深50㎝未満であっても浸水区域やその近傍であれば、普段の生活に必要な衣類や物品、備蓄品、貴重品等は2階に置いておく。

しかし、1階の床上浸水も、マンションの1階での居住や平屋住宅では、自己住宅内での垂直避難 はできないために、浸水区域内では水害時の在宅避難は不可能なので、早めの避難ができるように、非常持ち出しも準備し、遅くとも道路が冠水する前に、望ましくは強い雨が降り出す前に、安全な避難所・避難場所への移動避難(水平避難)をしておくことが重要になる。その時は、地震対策も含め、避難所に避難せざるを得なくなった時のために、1階にも準備しておく非常持ち出し袋を、大きなビニール袋に入れてテープやジッパーで防水しておき、移動避難時には持ち出す準備をしておく。

高齢者等は、新型コロナ蔓延期でも、避難準備情報で避難開始が原則である。しかし、天気予報で長期的な気象状況をよく理解して、在宅避難ができる場合も、2階に上がる垂直避難が前提ですから、毎日2階に自分で歩いて上がることを習慣づけ、脚力を維持するとともに健康増進を図る。

ⅴ)自動車の事前避難時活用と避難ルール化:

大量の人が一斉に避難行動をとる可能性が高い大都市部では、事前避難でも事後避難でも、避難の交通手段としての自動車の使用は抑制されている。しかし、気象情報から発出される「避難準備・高齢者等避難開始」、「避難勧告」、「避難指示(緊急)」情報に基づく事前避難は、大規模な人口の避難であり、公共交通機関が利用できなければ不可能である。ところが、新型感染症蔓延状況下では、公共交通機関の定員運行ですら三密状態である。従って、平時でも特に高齢者や障害者を広域避難させる必要がある場合には、事前にかつ早めの避難を自動車で実施することも想定できる。とくに新型感染症蔓延期には、そうした避難行動要支援者の避難を早期に実施する手段として「自動車による広域避難」を許可するなどの「避難行動ルール」を事前に検討し、策定しておくことは必要である。いわゆる「タイムライン避難計画」であるが、広域移動を伴うケースでは、早めの避難開始を前提とする「タイムライン」の設定が重要である。

なお、地震時の事前避難は、大火災発生時に区部に231カ所指定している「広域避難場所」へ避難するのは火災の前の事前避難であるが、揺れによる建物倒壊や液状化などの被害発生後で、救助や消火活動と人々の避難行動が重複することも想定すると、自動車の走行は禁止している。

ⅵ)自動車を「我が家の防災拠点」に :

大都市では、自動車は災害時には乗り物として使うんではなく、災害時には、在宅避難生活における「我が家の防災拠点」としての利活用は極めて有用である。

ハイブリッド車は、充電のみの電気自動車(EV)とは異なり、停電時に必要な電気をガソリンで発電する“マイ電源車”であり、防災機能も備えている。それは、発電機付き電源車で、直流交流交換機付きには100V1500Wのコンセントが付いている電源車である。さらにカーナビやラジオは被災して自宅で視聴できないテレビ、ラジオ放送を見ることも、スマホやパソコンの充電も可能である。

さらに、暖冷房付きで、プライバシーも確保でき、災害時の“もう一つの居間”となる。加えて、トランクなどに防災用品(キャンプ用品)や食料や水などの備蓄品を積んでおく。お薬手帳のコピーもアタッシュボードに入れておく。その他さまざまに工夫して、自家用車を「我家の防災拠点」化しておくことは、在宅での避難生活を支える。非常時に備え、常にガソリン満タンを心掛けておく。

しかも、新型感染症蔓延期には、感染防止も含めて、在宅避難時でも補助的な「車中泊」の活用は意義があるが、エコノミークラス症候群(不活発性血栓症候)の発生には十分な注意が必要である。

⑥新型コロナで“外出自粛”の時は「我が家の防災点検」タイム:

新型コロナ蔓延期の今こそ、我家の防災点検と備えの充実を目指す好機である。例えば、表1は、我家の防災力の点検チェックリストで、気が付いた課題を書き込んで整理し、準備していく。急いでではなく、また買い占めでもなく、必要な物品を徐々に購入し、いつ起きるかわからない災害に備えておくためのチェックリストでもある。コロナでも買い占め騒ぎが報道されると、思い出す話がある。「遊牧民は、農民と違って土地を所有して独り占めはしない。必要なものは、みんなが必要なので、独り占めしない。それは牧草だ。家畜が牧草を食べ尽くす前に、移動すると、しばらくして草が生えそろったときに、次の遊牧者が来るんだ。遊牧者は孤独だけども、心は繋がっているんだよ。みんなで、備えあっているんだ」と。トルクメニスタンから遊牧してきた人たちが建国したトルコで聞いた話です。自分だけでなく、みんなで備えることの大事さに、心を打たれた。群れていなくても、共助はできるのだと思う。そのための自助なのです。


表1 すぐできる我が家の防災力-チェック&アップ

我が家の防災力の確認チェック課題解決メモ
①洪水ハザードマップで自宅周りの浸水状況OK  NO
②洪水ハザードマップで避難所・避難ルートの浸水状況OK  NO
③我が家の垂直避難の可能性OK  NO
④我が家の耐震性の確保(耐震診断状況)OK  NO
⑤災害用備蓄品や貴重品の保管場所の安全性OK  NO
⑥飲料水の備蓄状況(3ℓ/人で、3日以上)OK  NO
⑦食料・お薬の備蓄状況(調理不要か簡便、3日以上)OK  NO
⑧卓上コンロと予備ボンベ・鍋の備蓄状況(3日以上)OK  NO
⑨携帯・簡易トイレ・Tペーパーの備蓄状況(3日以上)OK  NO
⑩家具の配置・固定の実施状況(通路・台所・寝室)OK  NO
⑪自動車は我が家の防災拠点(電源・情報・コンセント)OK  NO
⑪我が家の耐震性の確保(耐震診断状況)OK  NO
⑫地震保険(水害特約)の加入OK  NO

6) 基本方針(6) 感染者の治療・収容施設は「事前避難所」化する

新型コロナ蔓延下に自然災害が発生した時、最大の避難対策課題は、新型コロナの感染が確認された人たち(以下、感染者。療養経過観察中の無症状感染者を含むが、検査で確認されていない「無確認感染者」は含まない)の災害時避難の問題である。つまり、人々を新型コロナの感染とのかかわりで分類すれば、4区分になる。「感染者」、「無確認感染者」、「既感染者(抗体あり)」、「非感染者(抗体なし)」で、基本方針(6)は、そのうち医療施設や受入れ施設に隔離されて治療・療養中の「感染者」の災害時避難の対応方針である。

日本では、現在、ECMOやICUなど強度な治療が必要な「重症感染者」は病院に収容治療中であり退避も不可能である。病棟での治療を受けている中症感染者は、治療ゾーン内の退避行動はとれる可能性があるとしても、治療ゾーンからの退出する避難対応は不可である。

同様に、軽症感染者等(無症状の感染者を含む)は借上げホテルの受入れ施設(2)、あるいは自宅で療養経過観察中にある。また、社会福祉施設にて療養経過観察中の方もいる(表2)。


表2 新型コロナCOVID-19感染者の所在状況

医療施設自宅受入れ施設(2)社会福祉施設不明(調査中)合 計
5,558人1,984人862人147人160人8,711人

(出典:朝日新聞夕刊 2020年5月6日 (原資料:厚労省))

(2) 東京都が受入れ施設を提供する軽症支援者等とは、「PCR検査で陽性が確認された感染者のうち、直近の24時間以内に37・5度以上の発  熱がない感染者」で、移送や食事、滞在などの費用は公費で賄う。ホテルには都の職員や看護師が交代で常駐し、日中は医師も待機している。  治療薬がなく、軽症感染者等は、受入れ施設あるいは自宅か社会福祉施設で居住継続しながら療養経過観察し、PCR検査で陰性が確認された時から24時間以降の再検査でも陰性が確認された場合に、感染治癒となる。しかし、治癒後に再度、陽性となる事例も報告されている。

これらの感染者の治療中に災害が発生時の災害対策は、十分に考慮しておかねばならない最重要課題であるが、従来の防災対策では想定されていなかった。その基本方針としては、「感染者の災害時避難は行うべきではなくまた極めて困難である。そのため、療養中の自宅、受入れ施設や社会福祉施設、治療中の病院等の医療施設は、建物や配管設備の耐震性・耐水性は確保されていて、被災する可能性は極めて低く、災害時避難を不要とする態勢が確保されていること」を追確認することである。

受入れ施設の借り上げや、治療病院・医療施設の設定にあたっては、耐震性も耐水性の確認し、加えて治療等行為に不可欠な非常電源機能も確認しておくこと必要で、それを基礎的条件にしなければならない。社会福祉施設でも、災害時の福祉避難所として協定締結や指定する場合に、耐震性・耐水性及び非常電源機能の確保を確認しておくべきである。感染症流行期でなくとも、「重篤患者らの避難」という事態は、引き起こしてはならない。本来すべての医療・福祉施設は、災害時にも避難不要の条件を満たすべきである。

それは、東日本大震災における福島県双葉地域からの原子力発電事故にともなう放射能汚染からの避難で体験したことで、全体では直接死18,513人に対し関連死3,739人、福島県では直接死1,806人に対し関連死が2,236人に達したことが、示している。入院患者も高齢者施設等の入所者も全員が広域避難を繰り返す中で犠牲になった。その90%が66歳以上の高齢者である。しかも、避難中や避難先での感染拡大を防ぐことを考えると、人手も装備も決定的に不足し、感染の回流行の引き金となるであろう。

このことを前提に、感染者の自然災害対応の避難問題は、次の4点に整理できる。

①新型コロナ「治療施設」の耐震性・耐水性の確認と災害時対応方針の検討:

重症感染者及び中症感染者の治療施設は、その耐震性と耐水性を確認する。病院としての建物の耐震性を満たし、洪水ハザードマップで浸水区域外にある医療施設は、災害発生後も治療を継続し、治療ゾーン内から外部への避難は行わないこと(STAY HOSPITAL)を、原則とする。

  • 「治療病院」の耐震性及び洪水ハザードマップや土砂災害警戒マップ等で耐水性を確認する。
  • 耐震性・耐水性が確保されている医療施設では、災害時も避難・退避しないことを関係者で共有しておく。
  • 耐震性の不足や床上浸水・土砂災害など施設の医療機能に影響が想定される場合は、対応方針と措置行動を行政と医療側で早急に対応方針・対処措置を決定し、関係者全員が共有しておく。
  • 浸水深が浅くても浸水区域内・土砂災害警戒区域内やそれらの近傍に立地している場合は、非常電源を確保するための洪水・土砂対策を検討し、実施しておく。また電力会社と予備回路の増設等による電源確保の可能性を協議し、実行する。
  • 病院機能が維持できることが確認できた場合は、避難・退避はせず、治療を継続する。
  • 非常電源確保が困難な場合は、被災前に必要な非常電源車両の優先配備を要請し、必要な医療機能を継続する。
  • 耐震性不足や床上浸水・土砂災害などの他、沿岸地域で津波など最悪事態を想定し、医療継続が困難になることが想定される場合には、行政と医療側とで災害時対処方針と対処措置を早期に検討し、行政と医療側スタッフ全員が共有しておく。
②感染者が療養する「受入れ施設」の耐震性・耐水性の確認と災害対応方針の検討 :

医療施設ではないが、感染者を受け入れている施設であり、全館を隔離して管理しているので、いかなる自然災害事態でも、受入れ施設からの避難・退避を行わないこと(STAY HOTEL)が、原則である。

  • 受入れ施設とする「ホテル」等の耐震性、および洪水ハザードマップや土砂災害警戒マップ等で耐水性を確認する。
  • 受入れ施設の耐震性・耐水性が確保されている場合は、館外への避難・退避を行わないことを関係者で共有しておく。
  • 耐震性の不足や床上浸水などホテルの居住機能に影響が想定される場合は、対応方針と対処措置を行政とホテル側で決定し、関係者全員が共有しておく。
  • 浸水深が浅くても浸水区域・土砂災害警戒区域内やその近傍に立地している場合は、非常電源を確保するための洪水・土砂対策を検討し、実施を急ぐ。
  • 非常電源確保が困難な場合は、被災前に非常電源車の優先配備を要請し、感染者の生活維持に必要な居住機能を継続する。
  • 浸水区域や警戒区域外だが沿岸地域など、その他の最悪事態を想定し、その事態への対処方針を行政と施設管理者及び医療側も参加して検討し、共有する。
③感染者が療養する「自宅」の耐震性・耐水性と災害対処方針の検討:

自宅で療養経過観察中の感染者も、在宅避難(STAY HOME)の継続を基本とし、避難所への避難は行わないことを方針とする。自宅から勝手に避難することは、地域に感染症の拡大を引き起こすことになり、絶対に防止しなければならない。

  • 自宅の耐震性・耐水性(洪水や土砂災害からの安全性)を行政が確認し、確保されている場合は、自宅での療養継続を認める。
  • 自宅の耐震性に課題がある場合は、行政は、本人と家族側に受入れ施設への入所を要請する。
  • 自宅が浸水区域内や土砂災害警戒区域内にある場合、あるいは区域外でもその近傍で床上浸水や土砂災害に巻き込まれる恐れがないことが確認できない場合は、本人と家族側に受入れ施設への入居を要請する。
  • とくに、平屋やマンション等の1階では洪水や土砂災害時に、自室内では2階への垂直避難ができないことを説明し、自宅療養ではなく受入れ施設等への入居を要請する。
  • 事前に受入れ施設に入居しないまま、災害が切迫したり災害が発生して自宅外に避難を行う必要が生じたときは、遅滞なく早めにその旨を行政(保健所または市役所等)に連絡し、指示を受ける。(行政は、自宅療養にあたって、感染者側とこのことを確約して、連絡先等を明示しておく。)
  • 都合により、一時的に転居する際でも、必ず、行政の連絡先に連絡し、移転先等必要な情報の提供をうける。一時転居が、受入れ施設でも可能な場合は、受入れ施設への転居を要請する。
  • 浸水区域や警戒区域外だが沿岸地域など、その他の最悪事態が想定される場合は、その事態への対応方針を、行政と感染者家族側及び医療関係者も参加して検討し、共有する。
④感染者が入居する「社会福祉施設」の耐震性・耐水性の確認と災害時対応方針の検討:

医療施設ではないが社会福祉設では、他の入所者と感染者居住ゾーンとが隔離されているので、いかなる自然災害事態でも、その感染者居住ゾーンからの避難・退避は行わないこと(STAY HOUSE)を、原則とする。

  • 「社会福祉施設」の耐震性、および洪水ハザードマップ等で耐水性を確認する。
  • 耐震性・耐水性が確保されている社会福祉施設では、感染者居住ゾーン及び館外への避難を行わないことを、関係者で共有しておく。
  • 耐震性の不足や床上浸水・土砂災害などで、社会福祉施設の介護機能・居住機能に影響が想定される場合は、行政と福祉施設側で、対応方針と対処措置を検討し、(行政・施設・入居者)関係者全員が共有しておく。
  • 浸水深が浅くても浸水区域・土砂災害警戒区域内やその近傍に立地している場合は、非常電源を確保するための洪水・土砂対策の可能性を検討し、その止水対策等の実施を急ぐ。
  • 非常電源の確保が困難な場合は、被災前に非常電源車の優先配備を要請し、入所者の介護生活の維持に必要な施設の機能を継続する。
  • その他の最悪事態を想定し、とくに平屋の施設では水害時の垂直避難はできないことをから、他の関連施設や医療施設等への一次入所・入院を要請するなどの最悪事態への対処方針を、行政と施設側及び入所者家族等で検討し、共有する。

7) 基本方針(7) 新型コロナ禍の対応も復旧・復興も地域防災で運営する:

我々が対峙している新型コロナ禍は、2020年5月に首都圏で3回の緊急地震速報が発出され、台風1号が接近するなど、新型感染症蔓延期に自然災害が発生し、複合災害化するという未体験の事態が“対岸の出来事”ではないことを自覚させた。その複合災害時の様相を“想像”し、コロナ対策を破綻させることのない「災害時避難対策のあり方」を考え、単に「避難所の三密防止」ではなく「地域における避難対策を体系的に“創造”していく」ことが必然であるとの認識に至った。その枠組みを「新型感染症蔓延期における災害時避難対策の体系」として創造するための6つの基本方針(1)〜(6)を整理し、その意義と考え方と検討方針について、論考した。しかし、その地域における「新しい生活様式」に対応した「新しい災害時避難の体系」を展開し、全ての地域の避難生活を公平平等に支援していくにあたって、その最大の課題は「地域における避難生活支援の運営体制の構築」である。

一方、我が国は“災害大国”であるが、同時に災害対策を工夫し、幾度も巨大災害を乗り越えてきた防災の知恵と技術とそれらを活かしてきた社会基盤を備えてきた“防災大国”でもある。我が国の世界に誇る「防災文化・防災社会」を活かす上でも、新型コロナ禍が「災害」と定義されれば、我が国の災害関連法制度を活用し、その救助も、対応も、さらにこれからの復旧・復興の取り組みも、迅速かつ効果的に展開できる、と考えられる。その観点から、基本方針(7)として、我が国の防災文化と意識・経験を基盤として、新型コロナ蔓延期の災害時避難を、安全安心に展開し、復旧復興につないでいく方向を行っておく。

①新型コロナ禍に災害対応で対応する:

新型コロナ禍とは、物的には何も破壊しないが、目には見えないウィルスは多くの人の命を奪い、社会システムを止め、社会秩序を破壊し、人々の心を荒廃させる“災害”である。ウィルスが人の命を奪う事象は“自然災害”であり、人が繋がる社会とその社会秩序を破壊し、社会のシステムを止め、人々の心を荒廃させる事象は“社会災害”である。

人名を守るためにウィルス感染を防止し、感染拡大を防ぎ、感染者を治療する取り組みは、自然災害の予防対策、対応対策、そして復旧・復興対策に重ねて概念化できる。「三密防止」と「外出自粛」という物理空間的な“災害予防”対策は、一人ひとりの「感染防止」と「自己防衛」という自助的“災害対応“を促し、その結果、感染者数が減少するとともに、”災害対応“としての治療行為によって感染治癒者数が感染発症者発生数を上回り、犠牲者は増えているが、新型コロナ禍という社会の病理的状況は改善されようとしていて、4月7日に7都道府県に、4月16日に全都道府県に緊急事態宣言を発出し、5月7日に継続を決めたが、5月15日には8都道府県以外の宣言を解除した。取りあえず第1波のパンデミックが収束傾向に入って”災害復旧“の段階を迎えることになって、自粛規制を緩和しつつ社会回復に向かっていくところまで来たといえる。

ⅰ)新型コロナ禍がもたらしたものは「災害」である:

この間の感染症拡大の“予防”と“対応”は医療分野での取り組みで、しかしその結果は、社会システムを休止に追い込み、物的な“直接被害”である人的被害が社会に多様な“間接被害”をもたらた。経済成長の減退、営業利益の低下、企業の倒産、多くの人が雇用の喪失、社会格差の顕在化、人間 のこころの崩壊、人のつながりの崩壊、医療・看護などコロナ対応従事者に対する蔑視、感染者やその家族に対する蔑視、不便な生活、教育機会の喪失、新型コロナ以外の医療圧迫、など、枚挙にいとまがない。国際的にも国家間の対立、経済活動の不活性化、貧困の拡大など、身の回りから世界までこれまで秩序を大きく破壊し、変貌させる事態を引き起こしている。

ⅱ)新型コロナ禍も弱者に大きな損失をもたらす:

こうした事態に対して、国内では、一人一人の生活に直結し、目に見える間接被害である「経済損失」を防ぎ「復旧」に向けての公助として、事業者への支援策が展開されている。しかし、自然災害における経験知によると、「災害は、最も支援を必要とする人々に打撃を加え、さらに事態を加速させるが、国の制度の多くは、そうした弱者のきめ細かな状況には迅速に寄り添うことが難しく、地方公共団体の復興基金による迅速できめ細かな復旧支援が有効であった」のである。新型コロナ禍でも、物理的な社会的距離(ソーシャルディスタンス)の最大化という感染予防対策は、「社会的に弱い基盤の上で生きる人々、活動する組織に、より強く影響を及ぼし、孤独化させ、人々の心と社会の支え合いの荒廃化を加速させている」ように見える。新型コロナ禍を「災害」に認定し、復興基金をはじめ災害復興の枠組みを強化・拡充し、活用することで、地方公共団体が、地域特性を反映した多様で肌理の細かい復旧支援を展開できるのではないか、と考えている。

ⅲ)新型コロナ禍をバネ―反発力―に復旧する:

阪神・淡路大震災で、壊滅的に被災した市街地が、むしろ大胆の発想と思い切った決断で、平時では絶対にできない復興を実現させた。そのパワーこそ、「こんな災害に負けてたまるか」と反発力であるとして、「震災のバネ」といわれた。そうした展開を、この新型コロナ禍がもたらした負の影響を「バネ」として反転させ、これからの「新しい21世紀社会」と「新しい基盤の上に新しい国土の形成」、「新しい都市づくり・地域づくり」に向けて、大きく変革させる兆しとして見せているのではないか。

ソーシャル・ディスタンスの反動は、今まで以上に、地域・社会の構成単位である家族の絆(パワー)をアップさせていないか。社会に求められた「三密防止」だが、反発的に家族には「三密促進」になっているのではないか。こうした個人と家族のパワーアップが、自粛の緩和に正しく対応することによって、分断されていた地域社会だが、居住地域には人気が戻り、新しい地域の姿の可能性も見せている。これまで以上に地域がパワーアップする可能性を見逃してはいけない。また、テレワークの加速的展開は、人々の居住地の自由な選択と仕事場としての企業の自由な立地を可能とし、国土構造も大都市構造も大きく変革するだろう。

とくに新しい地域社会の創出に、我が国の防災文化を結合することによって、数年は継続するであろう新型コロナとの共存の下にある超高齢社会でも、災害にも、新型感染症にも負けない、地域社会を形成できるのではないか。コロナの脅威が、むしろ人々の分断を遺棄させ、地域の全ての主役の“総働”による、新しい強靱なコミュニティを育てていくバネのなるのではないか。無為に新型コロナ禍を過ごすのではなく、その「禍を転じて福となす」との発想で、「禍も三年」(時がたてば、禍の幸の種)にするのである。

ⅳ)新型コロナ禍の復旧を将来への「事前復興」に:

災害復興論である「事前復興」とは、「災害が地域や国家のトレンドを加速させるのであれば、事前に加速させたいトレンドを地域や国家に実装しておくことが重要である。事前にそのようなまちづくりができれば、次の災害とその復興が、そのトレンドを加速し、社会も、地域や都市も、国土も、大きく創造的復興を果たすことができる」、と要約できる。それは、新型コロナからの復旧が、将来の社会、地域、国土づくりを規定するのではないか、ということでもある。

「新型コロナ禍を災害と認定する」ことによって、コロナ対応の進め方も、自然災害発生による複合災害化への対応とその実体化も、さらに、コロナからの復旧・復興の展開にも、これまでの防災の経験知を活用し、効果的に取り組むことが可能になる、と考える。

②新型コロナ禍に「災害対策基本法」の適用を:

糸魚川大火(2017)は失火による火災であったが、自然現象であるフェーン現象の激烈な強風が被害拡大の原因と見なして、「自然災害」と認定し、災害復興として様々な支援が展開された。「新型コロナ禍」も、建物の焼失などの物的被害をもたらしてはいないが、なすすべなく多くの人命を奪って「自然災害」である、と認定することで、コロナ対応対策への支援とともに、とくに復旧・復興に向けて多くの支援や助成が展開できる。したがって、新型コロナ禍も「災害」と認定することで多様な復旧復興に向けた支援が可能として取り組むべきである。

災害対策基本法第2条1項は、災害とは「暴風、・・・・地滑りその他の異常な自然現象又は・・・・その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する政令で定める原因(放射性物質の大量の放出、多数の者の遭難を伴う船舶の沈没その他の大規模な事故)により生ずる被害をいう。」としている。新型コロナウィルスの蔓延化は「異常な自然現象により生ずる被害」とも解釈できるであろうし、見えない恐怖という意味では「放射性物質の大量の放出」に匹敵する事態ともとらえうる。

「新型コロナ禍」を災害と認識すると、同法第105条第1項で、「非常災害が発生し、かつ、当該災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進し、国の経済の秩序を維持し、その他当該災害に係る重要な課題に対応するため特別の必要があると認めるときは、内閣総理大臣は、閣議にかけて、関係地域の全部又は一部について災害緊急事態の布告を発することができる」としている。

その布告の効果は、①対処基本方針の制定義務(第108条)、②当該災害に関する情報の公表義務(第108条の2)、③重要物資をみだりに購入しないことなどを国民に対して求める権限及びこれに対する国民の努力義務(第108条の3)、④避難所等に関する特例(第86条の2)、⑤臨時の医療施設に関する特例(第86条の3)、⑥埋葬及び火葬の特例(第86条の4)および⑦廃棄物処理の特例(第86条の5)の適用(第108条の4)のほか、⑧行政上の権利利益に係る満了日の延長措置(特定非常災害において被災者の権利を保護する特措法第3条)、⑨行政・刑事上の義務の履行期限の延期措置(同特措法第4条)、⑩債務超過を理由とする法人の破産手続開始の決定の延期措置(同特措法第5条)および⑪相続承認・放棄の期限の延期措置(同特措法6条)の適用などの他、法109条(緊急措置)では、「災害緊急事態に際し国の経済の秩序を維持し、及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、・・・・中略・・・・、内閣は、次の各号に掲げる事項について必要な措置をとるため、政令を制定することができる。1.その供給が特に不足している生活必需物資の配給又は譲渡若しくは引渡しの制限若しくは禁止、2.災害応急対策若しくは災害復旧又は国民生活の安定のため必要な物の価格又は役務その他の給付の対価の最高額の決定、3.金銭債務の支払(賃金、災害補償の給付金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及び・・・金融機関の預金等の支払を除く)の延期及び権利の保存期間の延長」を措置のために政令を制定できる」としている。

また、基本法第60条(市町村長の避難の指示等)では、「災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、人の生命又は身体を災害から保護し、その他災害の拡大を防止するため特に必要があると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立退きを勧告し、及び急を要すると認めるときは、これらの者に対し、避難のための立退きを指示することができる。」また「3 災害が発生し、又はまさに発生しようとしている場合において、避難のための立退きを行うことによりかえつて人の生命又は身体に危険が及ぶおそれがあると認めるときは、市町村長は、必要と認める地域の居住者等に対し、屋内での待避その他の屋内における避難のための安全確保に関する措置(以下「屋内での待避等の安全確保措置」という。)を指示することができる」としている。さらに第61条(警察官等の避難の指示)では、「・・・・、又は市町村長から要求があつたときは、警察官又は海上保安官は、必要と認める地域の居住者等に対し、避難のための立退き又は屋内での待避等の安全確保措置を指示すること ができる」としている。

このように、「新型コロナ禍を災害と認定する」ことによって、区域を設定しての「災害緊急事態の布告」もでき、それに応じて、アメリカ合衆国では不払いストライキが起きているという「家賃支払い(金銭債務)の支払い延期と権利の保存期間の延期」も対応できるのではないか。さらに外出自粛により「屋内(自宅)避難」も、“必要と認める地域”として繁華街等の区域を指定して避難を指示すると、その結果として実質的な「立ち入り制限(ロックアウト)」もできるのではないか。その他、トイレットペーパーやマスクなど「生活必需品の価格暴騰への対処や流通確保」の措置も可能となる。さらに、「災害」と認定することによって、災害救助法によって旅館(ホテル)を借上げて「受け入れ施設」として確保し、様々な「救助の供与」、さらにそれらに従事したり協力した「従事者等の感染に対する扶助金の支給」もできるのである。

③エッセンシャルワーカーの犠牲者に「災害救助法」を:

エッセンシャルワーカーとは「社会の存続に絶対必要な業務の従事者」である。災害救助法施行令で規定する従事者(法第7条)は「医療従事者等(医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産婦、看護師、准看護師、診療放射線技師、臨床検査師、臨床工学技士、救急救命士、歯科衛生士)」や「公共交通(鉄道・軌道・自動車運送・船舶運送・港湾運送等)従事者」、「土木、建関係築従事者」である。さらに、救助を要する者とその近隣の者(法第8条)の業務の規定はないが、社会福祉施設での「介護事業者」、さらに地域の避難生活者に救助を供与するための「避難生活運営員(仮称:地域避難生活運営センターの運営スタッフ)」など、新型感染症蔓延地域でエッセンシャルな業務の職種を認定して認定することが可能である。その業務の協力にともない発生した感染等の罹病に対しても、後述する「扶助金」を支払うことができる。

災害救助法第1条(目的)は、「この法律は、災害に際し、・・・・その他の団体及び国民の協力の下に、 応急的に、必要な救助を行い、被災者の保護と社会の秩序の保全をはかることを目的とする。」とし、第4条(救助の種類等)では、供与できる救助として①避難所および応急仮設住宅②炊き出しその他による食品及び飲料水③被服、寝具その他生活必需品④医療及び助産⑤被災者の救出⑥被災した住宅の応急修理⑦生業に必要な資金、器具または資料⑧学用品⑨埋葬、などとしている。

また、第7条(従事命令)では「・・・前略・・・必要があると認めるときは、医療・・・・関係者を、救助に関 する業務に従事させることができる」とし、さらに第8条(協力命令)では「救助を要する者及びその近隣の者を救助に関する業務に協力させることができる」としている。そして、第12条(扶助金の支給)は、「第7条又は第8条の規定により、救助に関する業務に従事し、又は協力する者が、そのために負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合においては、・・・・・扶助金を支給する」として、同施行令で、療養扶助金(第9条)休業扶助金(第10条)障害扶助金(第11条)遺族扶助金(第12条)葬祭扶助金(第14条)(療養扶助に関する)打ち切り扶助金(第15条)の6種類を規定している。

このように新型コロナ禍を災害と認定すれば、新型コロナ蔓延期において、感染者を偏見の対象にするのではなく、地域ぐるみで「在宅で療養経過観察中の感染者に対する支援」を行うことも可能であろう。しかも、何よりも「特定給付金」が国民の手元に届くまでの間、就寝の場に困っている人に「避難所」を開設し、必要な人に「食事や炊き出し」を供与することで地域の飲食業関係者への事業支援に繋げることも可能である。しかもそれは、そのまま突発災害が発生しても、継続的に支援するとともに、災害よって新たに発生した被災者の地域での避難生活を支援する「地域運営」の事前準備であって、地域における地域住民の主体的参加に基づく互近助や相互に支え合う共助を迅速かつ力強く推進することにつながる。

④全ての新型コロナ犠牲者の遺族に「災害弔慰金」を:

災害弔慰金法では、第1条(趣旨)に、災害により死亡した者の遺族に支給する「災害弔慰金」、災害により精神又は身体に著しい障害を受けた者に「災害障害見舞金」、及び災害により被害を受けた世帯主に貸し付ける「災害援護資金」を、規定している。第2条(定義)では、「災害」とは、暴風、・・・・津波その他異常な自然現象により被害が出ること」と災害対策基本法と同義である。従って、新型コロナ禍を災害認定することによって、すべての新型コロナの犠牲者の遺族への弔意や障害を発症した人に対する支援が可能となる。偏見の対象とされることもある感染者の遺族にとって、国からの弔意は、ポスト・コロナの復興に向かう大きな力となるであろう。

⑤地域力(互近助・共助)が地域運営を可能にする:

地域に分散する避難生活者に公平・平等に必要な支援を届けるには、地域の共助と互近助の地域力しかなしえない。その地域力の源は、一人一人の自助の取り組みである。感染症に対する感染防止と自己防衛の実施とともに、災害に対する被害軽減の取り組み(自宅の耐震化、耐水化と家具固定など)の実践、この二つの「自助」の実施である。自助によって、被害を免れた人や、被害軽減した人が、地域の互近助や共助のマンパワーである。

行政は新型コロナ対応に人員を取られていて地域に分散している避難生活者への支援には全く人手が足らないし、ボランティア支援も感染症蔓延期では期待できない。地域の中で動きがとれる居住者たちが対応するしかない。それが、自助で被害を軽微にし、怪我もしなかった人たちである。自助で生まれた余力が互近助を可能とし、ご近所が繋がって地域の共助が可能になる。その自助・互近助・共助が、職員の不足で動きの鈍い公助を有効にする。同時に公助が福祉分野と防災分野を繋ぐ。そのような連鎖が、新型コロナ禍で生まれる予感がする。それが「自助が互近助と共助を可能とし、自助と互近助・共助が公助を有効にし、自助・互近助・共助・公助が連携して地域運営が可能となる」のである。

⑥地域における避難生活の支援には「地域運営」が不可欠:

「人間」という“人と人の間”を広げて“体の分散”化を要請した結果が、“心と心の密着”さを失わせているのである。「三密防止」というコロナ対策の基本方針と、家庭や地域での「支え合い」という災害対策の基本方針との相反する対策の運用が大きな課題となっている。それは、個人としての感染防止と自己防御という「自助」、家族や地域としての信頼に基づく互近助という「共助」との衝突(コンフリクト)を顕在化させている。そのような社会の鬱的状況下において、体系的に整理してきた基本方針(1)〜(6)の災害時避難対策を、これまでの地域の防災の枠組みを基礎に、応用してみることから取り組み糸口を見出すことができるのではないか。地域社会に現状での災害発生が危機的状況にあることの周知と、「家族を助けるのは家族の繋がり、地域の繋がり」であることをコロナ対策としても応用して行く。体は離れても心は密に、その思いが共有できれば、避難生活者が地域に分散する状況に対して地域住民が地域住民を支援し合う意味が地域で共有され、新たな「避難生活運営体制の構築」を地域の一人一人が理解し、そして実践に向かうことも可能である。新型コロナ禍がもたらした状況の反発力を見逃すことなく社会の転換の好機としていくことができる。

⑦多様な避難生活の支援を地域の「福祉と防災の連携」で:

新型コロナにかかわらず、超高齢社会で  は地域に分散的に高齢者そして障害者が居住している。災害発生時にも、避難所避難ができずに在宅避難や縁故避難、福祉施設等の施設避難で地域に分散的にとどまる人が増えていくだろう。同時に、それは地域包括ケアによって補足されている福祉ケアの分布と重なる。その地域状況を新型コロナが襲い、さらに災害が襲ってくると、避難所よりも多い地域に分散する在宅避難者等への支援は、地域福祉との連携なくしては運営できない。

行政において、平時には福祉分野と防災分野の連携はほとんどない。とくに、災害時要配慮者リスト、さらに避難行動要支援者リストの作成において、個人情報の利活用をめぐる業務連携以上の取り組みは、非常にまれでしかないと推察できる。

しかし、その行政における連携なくしては、被災後に在宅避難者調査を実施し、在宅避難者名簿の作成、その上で在宅避難者の被災程度、住家の緊急措置や応急修理の状況、生活救助ニーズ、健康状態などの把握はできない。その上で、従来の指定避難所を○○地域の「地域避難生活運営センター」として、避難所避難者と同等に在宅避難者等にも支援していく『地域運営』が、不可避である。このような避難生活への支援が地域運営でなされなくては、災害救助法が適用されても在宅等の避難生活者は、地域に分散孤立するのみである。

4.総括〜「新型感染症蔓延期の災害時避難対策」の体系的構築〜

新型コロナ禍は、まだ治療が確立してなく先行きの見えない、我々には未曾有の事態となっている。数年にわたるとも予想されている新型コロナ蔓延期に他の自然災害が発生すると、それもまた、未体験の複合災害対応が求められる。その対応は、既存の災害対応対策を修正すれば回答が出るようなものではない。新型コロナ自体が未知のウィルスであって、その状況が把握できない中で、人々が集結して共助や互助の取り組みで対応する従来の枠組みを回避しながら、心を集結しまなざしを重ねて取り組む手探りの対応となろう。

従来の災害時避難対策は、災害のたびにマスコミは避難所の“避難生活の悲惨さ”を批判的に報道することを繰り返し、それを聞き取った政治家の声も強い追い風となって、災害で住む場を失ってしまった被災者は全てが避難生活をする場として「避難所」にいると誤認されたまま、「避難」対策を「避難所」対策に矮小化させてしまった。その結果、「避難所運営ガイドライン」も大いなる誤解の下に、自治体も支援が必要な避難生活者は避難所にしかいないという「避難所運営マニュアル」を策定し、それが自治体の災害時避難対策となっている。そこには、大きな落とし穴があることに、新型コロナ禍が気付かせた。「行こうにも避難所に行けない避難生活者は、避難所にいる避難生活者よりも多い」という被災地の実態を、隠蔽してきてしまった。そもそも、新型感染症蔓延期の災害時避難と従来の災害時避難との相違とで何が異なるのか。従来の災害時避難問題の前提条件と、新型コロナ蔓延期の避難問題の前提条件をしたのが表3である。その避難対策の課題が看過できない状況にあることを明らかにした。


表3 新型感染症蔓延期と従来の「災害時避難を考える前提状況」の比較

前提である「新型感染症蔓延期」従来の前提
事前避難の動機付け●在宅避難の要請・推進○避難所避難の要請・誘導
事後避難の動機付け●在宅避難の要請・推進○避難所避難の要請・誘導
避難パターン●在宅避難による地域分散型避難○避難所集約による拠点化
共助支援●濃厚接触の忌避○自発的共助体制
ボランティア支援●現地支援の忌避・ボランティアお断り○プッシュ型現地支援
災害医療●病院のコロナ対応で災害医療不能○トリアージで災害医療の展開
避難所の環境課題●三密(密閉・密集・密接)防止○居住環境改善とバリアフリー
避難対策の発想●地域分散・個別支援型○避難所集中・集団支援型
避難所の拠点性●地域避難生活運営センター(仮)○避難所運営本部
避難の運営体制●避難生活支援地域運営会議(仮)○避難所運営会議
避難対象人口●健常者・要配慮者+「感染者」の避難○健常者と要配慮者

表4 新型感染症蔓延期における災害時避難対策の実施主体と主要な対策

6つの基本方針自助(個人)共助(地域)公助(行政)
(1)避難行動の多様化
~在宅・縁故・避難所~
  • 在宅避難の備え
  • 自宅の耐震化・耐水化
  • 生活備蓄(1週間分)
  • 感染症対策の備蓄
  • 縁故避難の対応
  • マンションの垂直避難
  • 多様な地域避難生活の相互扶助
  • 在宅避難・縁故避難者への災害救助法による救助・支援の供与
  • 生活・情報・医療・相談
(2)指定避難所の拡充
  • 指定避難所の確認
  • 避難所持出袋の確認
  • 避難所・避難区域確認
  • 地域運営体制の検討
  • 避難所使用施設把握
  • 施設と協議・協定締結
(3)避難所の“三密”防止
  • 在宅・縁故避難の確保
  • マスク・消毒液・石鹸
  • 体は分散&心は密着
  • 避難所のゴミ管理清掃
  • 避難所レイアウト確認
  • 定員管理の検討
(4)避難生活の地域運営
  • 在宅避難生活で自立
  • 近隣の被災者にも目配りと声掛け支援を
  • 避難所+在宅・縁故・福祉施設での避難生活を地域運営で支援
  • 「避難所」を「地域避難生活運営センター」に
  • 全ての避難者支援を
(5)災害予防で

避難所避難者の軽減

  • 在宅できる自宅づくり
  • 居室・台所の家具固定
  • 自動車の防災拠点化
  • 災害予防の地域支援
  • 避難行動要支援者の支援体制の構築
  • 木造住宅の耐災支援
  • 2000年耐震化の促進
  • 福祉施設の耐災支援
(6)感染者の事前避難化
  • 自宅の耐震・耐水化で事前に「避難所」化を
  • 在宅避難の感染者の「見守り支援」の充実
  • 住宅・施設の事前改修補助で避難所化
(7)地域運営体制と態度
  • 自助を実践する市民
  • 地域に目を向ける態度
  • 防災と福祉を繋ぐ地域
  • 「自治防災会」に改名
  • 福祉と防災を繋ぐ行政
  • 地域と育っていく態度

そして、新型感染症蔓延期に発生した災害の様相を想像し、どう対応すべきかを検討して、新たな避難対策を創造するための基本方針を整理してみた。整理にあたって、災害発生直後の対応初動期―避難生活期―に焦点を当てて事態を想像し、避難対策を創造した。2章と3章の論考をそれぞれの主要な対策課題を実施する主体に着目して、整理してみたのが表4である。これは、これからの時代の避難対策にも通用する「新型感染症蔓延期の災害時避難対策の体系」を創造するための7つの基本方針ごとに、対策を実践する主たる主体に着目し、「自助」「共助」「公助」として取り組む重要対策課題を整理したものである。

この表4は、筆者が考えてきた「新型感染症蔓延期の災害時避難対策の基本体系」を構成する具体的な検討課題を整理した総括ともいうことができる。その枠組みと構成は、新型コロナ対策のワクチンが開発され、その感染を完全にコントロール下に置いた状況でも、災害時に避難所避難が困難で在宅避難を余儀なくされる被災者が増えていく時代に、関連死ゼロを目指す避難対策づくりに共通するものである。

なお、大都市では、避難初動期には、時間帯によっては、帰宅困難者の発生が想定されます。帰宅困難者の一時滞在もまた、新型コロナ禍には「三密防止」が不可避である。帰宅困難者の大部分を占める就業者や通学者は。それぞれの仕事場や学校での「縁故滞在(避難)」を基本方針として、三密防止の滞在(STAY OFFICE)の取り組みを検討し、準備しておくべきである。都心など外出先に“寄る辺(縁故)”がない外出者に対しては、行政による滞在施設の増加に努めるとともに、協定等施設には、感染症流行期の滞在計画を、行政支援で作成しておくべきであろう。

5.展望〜ポスト・COVID-19にどんな国土・地域・社会を迎えるか〜

(1)2年後をどう迎えるか

新型コロナ感染は、百年前に3年間にわたって世界を覆ったスペイン風邪のように、科学が進歩した今日でも、一時的に収束しても終息するまでには、3年余りの時間を要すると想定しておく必要がある。3年余りの流行期は、長いようで、短い。が、短いようで長い時間である。しかし、それは、収束はするが、終息は果てしなく遠い。人間以外の宿主の存在は、撲滅はできないということで、今後とも共存していかねばならない覚悟も必要である。

収束に向かう2020年から2022年の間に、いかなる災害が日本を襲うのかは誰にも分らない。しかし我々一人ひとりは、「見逃しは感染と死を招くが、空振りは感染と死を逃れる」と肝に銘じ、行政や施設は「見逃しは許されないが、空振りは許される」と思い定め、今を、新型感染症が猛威を振るっていても高齢者も障害者もみんなが生き延びて未来を手にするための実践の時、にしなければならない。

見逃し とは、状況を読めず、無為に時を過ごして、事態を招いてしまうこと。

空振り とは、状況を読み、準備し備えたのに、事態には至らず平時に戻ること。

2020年5月29日午後5時現在、米ジョンズ・ホプキンス大の集計(3)では、世界で感染者581万6706人、死者36万0437人に達している。感染者が1日当たり11万7000人弱(18日:8万1千人)、死者も4,700人弱(18日:3,400人)と加速度的に増加している。この新型コロナ禍に、侮ることなく怯むことなく、世界の総力を結集して「新型コロナ対応ワクチン」が開発され、一人ひとりも、自治体も、国家も、世界も、自らを振りかえり、備えと取組を実行し、第2波、第3波には、“ああ空振りだったなぁ・・・”と、終息を迎えることを目指さねばならない。

(3)2020年5月29日午後5時現在の米ジョンズ・ホプキンス大の集計から(出典:朝日新聞、2020年5月30日朝刊、18日は同19日朝刊)

1)新型コロナ禍による人・社会・経済の被害とその復興

その時に向けて、日本は、首都圏は、地方圏は、どのようにコロナからの復興を進めるべきであろうか。

新型コロナ禍による最大の被害とは、人的被害である。2020年5月19日17:00までに世界で約472万人が感染し、32万人弱が死亡した。その死者数は、インド洋スマトラ沖地震津波の犠牲者を超えている。そして日本では、同18日午後9時までに1万6305人の感染が確定し、うち749人が死亡し、1万2217人が感染症を治癒して退院し、治療中の感染者は4088人となっている。

ⅰ)人―仕事・暮らし・生活―の復興へ :

まだ感染者も多く、犠牲者も増え続けているが、感染者および既感染者の家族を含めると世界ではおよそ1600万〜2000万人が、日本でもおよそ3万3000〜3万7000人が、家族を失い、仕事を失い、収入を失い、家庭が崩壊し、近隣から拒絶されて居場所を失い、地域での生活を失い、直接的にも間接的にも災難を被っている可能性がある。この最大の被害である「人的損失」からの復興は、残された遺族の生活と暮らしの復興である。残念ながら、犠牲者を蘇らせることはできない。さらに、感染はしなくても仕事を失った人々は、感染者の何倍もいて、日々の生活や暮らしに困窮している。これらの方の復興もむくめ、新型コロナ禍からの復興は、自然災害と違って公共事業による“被災地復興”はなく、被災者の仕事と日常生活を取り戻す“被災者復興”のみである。

もし新型コロナ禍が「災害」と認定されれば、犠牲者の遺族には弔慰金等が給付・貸与され、その仕事が医療従事者などエッセンシャルワーカーであれば、弔慰金に加え災害救助法の扶助金の供与が、家族の復興支援とすることが可能であろう。さらに、感染して休業に追い込まれたり、治療が長期化した場合にも、扶助金の給付がなされる。

それ以外の多くの間接被災者には、何よりも「経済活動」が迅速にかつ不可逆的に再生・復旧し、全ての人に仕事が回復されることが最も重要である。それには、「緊急事態の解除」を重要な返還点として、人々の感染症に対する細心の感染防止と自己防御は確実に継続しつつ、経済活動の回復と新たな経済活動の創造を推進することが急がれる。それを、ウィルスと共存する“新しい生活様式”と“新しい労働様式”に基づく“新しい経済様式”として、創造していかねばならない。

ⅱ)社会―人の繋がり・家族・コミュニティ―の復興へ:

同時に、人のつながりという社会の回復も重要である。とくに高齢社会を生き抜くには“人のつながり”は不可欠である。しかし、最も基本的な新型コロナ対策が求める“ソーシャル・ディスタンス”は、人と人のコミュニケーションもコンタクトも制限し、障害者や高齢者に不可欠の“人のつながり”の自粛となった。日本では実施されなかったが“都市のロックダウン”がもたらすような“人のソーシャル・ディスタンス:対人隔離”は、身体にとどまらず“心の孤立と破壊”を創出してしまう可能性があり、それを放置することが、弱者への偏見と社会の分断を助長して、人々が触れ合い支え合う“地域コミュニティの分断・破壊”にも広がっていく可能性がある。

しかし、逆にソーシャル・ディスタンスがもたらした外出自粛は、最も小さな社会である“家族の心の繋がり”の大切さを実感させ、部屋に籠ることなく家族が集まり、さらに歩いて行ける地域に密着した買い物や散歩など、行きかう人も多くなった街での新たな生活が“地域と繋がる”ことの楽しさの気付きになっている可能性もある。新型コロナウィルスの撲滅は難しく、コロナと共存する“新しい生活様式”は、こうした新たな家族感、居場所としての新たな地域感を醸成し、“新しい地域社会の姿”―コミュニティ・まちづくり―を促進させる可能性がある、と考えている。

ⅲ)経済―事業所・雇用・仕事―の復興へ:

新型コロナ禍は産業施設などの物的被害をもたらすものではないが、感染防止の基本としての“外出自粛と濃厚接触の回避”は、通勤を伴わない「テレワーク」という“新しい働き方(労働様式)”を推し進めた。同時に、都心地域などの消費の冷え込みを加速し、経済活動の縮小をもたらし、雇止めに代表されるような末端の現場仕事の喪失が進み、弱者の困窮を増大させて、社会の格差を拡大させている。新型コロナ禍は誰にも感染するが、その影響は誰にも等しく及んでいるわけではない。

日本型雇用の特質であった終身雇用と年功序列型給与体系は平成とともに大きく変質し、労働市場の自由化が拡大し、今や正規雇用と多様な非正規雇用の格差構造社会に変換していった。企業の経済活動の調整弁として非正規雇用が多用されてきたといわれているが、ひとたび災害など異変が発生すると、最も影響を受けるのが、非正規雇用に代表される現場雇用者である。彼らには、テレワークはない。新型コロナ禍も例外ではない。その経済活動と社会が受けた影響からどのように復興していくのか。ネットカフェ生活者など日雇い雇用で自立している日本型ホームレス層もまた、新型コロナの影響を受け、住民登録した住所を持たなければ「特定定額給付金」の供与も受けられない。経済が受けた被害は厳しく、その回復の長期化は、こうした格差社会の底辺に暗い影を落としている。

しかし、その一方で、新型コロナ禍は、新しい経済へのまなざしを見せている可能性がある。新型コロナ流行の初期にデマ情報による買い占め騒ぎなどが発生した背景には、日本が得意としてきた「ものづくり産業」の現場が海外に移転し、国内における「ものづくり機能の空洞化」がある。新型コロナの感染拡大が最も早かった“中国からの物流が危うい”というウワサが誤解を生み、日本人が最大の消費者であった“マスク”も、“消毒スプレー・シート”も、“体温計”も、その生産の大部分が中国をはじめとするアジアであり、また新型コロナ禍が世界に特に先進諸国に蔓延し始めたことから、世界での買い付けが激増して、末端での買い占め以上に物流が停滞しはじめ、急速に店頭から姿を消していった。

その経験は、初めて人々に我々の生命や生活の基盤となる必需品の“自給率の低下”という危機を感じさせているのではないか、と思う。それは、地域・社会・国家をささえる“基盤経済”とは何か、どのようにそれを確保しなければならないのか、という課題でもある。物流による品物の“貿易経済”ではなく、自国での「ものづくり経済」の確立、それを支える「ものづくり産業」の国内回帰の重要性ではなかろうか。地価の高い首都圏や大都市圏ではなく、地方圏への「ものづくり産業」の回帰立地への関心が高まっている可能性がある、と思う。それは、安いことよりも安定した供給が確保されている、という”新しい社会様式“の形成につながる可能性がある。

しかし、新型コロナ禍が“見える化”した新しい姿の最大は、“テレワーク化”した業態である。業務業態によってその程度は様々であるが、大都市都心のオフィス市場に変化をもたらすほどにもなったようである。これまで知識による理解レベルであったものが、テレワークによる会議を経験することによって、その可能性を実感した。業務形態のテレワーク化が時間の有効利用を促し、隔日での出勤など出社勤務のローテーション化による出勤者数の減少も実体化して見えたことが、家賃の高い都心のオフィス床面積の縮小が可能であることを示し、都心でのオフィス拡大計画の取りやめや、郊外の核都市など従業者の居住地近傍にオフィスを転出させるなどの動きが活発化していくであろう。

それは、東京一極集中問題の解消も、外発的ではなく、内発的に推進させる可能性を示している。テレワーク化と基盤経済の国内立地化は、産業立地と居住地選択の自由化(Zone-free化)が内発的に高まる可能性を示している。

2)新しい住まいづくり・まちづくり・都市づくりへの兆し

産業革命期に、工業都市の過密化がもたらした居住環境の悪化、ペストやコレラ、結核などの感染症拡大という都市環境の不衛生化は、上流階層のための感染防止と自己防衛が、都市構造を規定していった。上流階層の居住地を偏西風の風上である西郊の高台に配置し、風下の水路沿いや低地に工場を立地させ、その周辺に工場労働者の過密な居住地区が形成され、商業地(ダウンタウン)もまたその接点になる地域に形成されていったのである。さらにイギリスを中心に、人間と、人間を取り巻いて影響を及ぼし合う外界との相互作用を考究する「環境論」の展開は、自然の中での居住を目指す「田園都市論」を生み出していった。現代の新型コロナ禍もまた、現代都市の都市構造やその居住環境、住まいのあり方を大きく変える転換点となる可能性がある、と考えている。

大都市圏を中心に蔓延化した新型コロナ禍から生み出されてきた “新しい生活様式”、“新しい社会様式”、“新しい労働様式”は、豊かな自然環境に溶け込んだ居住地での新しい住まい方と新しい働き方を享受し、それにふさわしいまちづくりを促進する一方で、ゆとりと安全安心を確保した“新しい都市づくり”、“新しい国土づくり”に向けて内発的に加速させる可能性を高めている。週の半分以上を田園で暮らしたり、逆に大都市から地方都市圏へ週勤する国土づくり、そんな兆しを想起させる。

(2)ポスト・新型コロナ禍の20年後をどう迎えるか

災害がなくても、コロナ蔓延の収束とともに取り組まなくてはならない人・社会・経済の復興は、20年後(2040年)に向けて、首都圏など大都市圏の構造変化とともに、大都市圏―田園地域が共存し、「自立と交流によって活力ある成熟地域」として連携し、共に自立していく。そんな新しい国土形成を内発的に実現するスパイラルに向かうのではないか、と考えたい。それは、これまで何度も挫折してきた「東京一極集中を規制し、地方都市の発展を誘導する“外圧的な取り組み”」ではなく、「東京一極集中の生活を一人一人の居住者が見詰め、見直し、新しい自己実現と生活の場を見つけ、行動していく“内発的な取り組み”」が生まれてくる。同時に、産業の業務形態とその立地についても、「東京一極集中の業務形態を企業がそれぞれ見詰めなおし、新しい事業業務の展開をそれぞれに最もふさわしい“居場所”を見つけ、実現していく“内発的な企業行動”」が生まれてくる。その両者の相互作用によって、新しい居場所となる地域、新しい大都市圏が選択され、新しい国土形成を実現していく、と考えている。

その大きなきっかけは、テレワーク化による“新しい働き方”の変化である。日勤から週勤(週2〜3日)への転換をテレワークで進めることで、第1段階には、都心のオフィスの規模を縮小したり、また都心から撤去して、就業者の居住地域の近傍へオフィスを移転するという“業務の離心化”を推し進められる。さらに第2段階(5年後以降)では、従業者の居住地選択行動に変化をもたらし、日勤では居住不可能な大都市圏の周辺遠隔地域や地方都市へ居住地を移転し、週勤(1泊2日)とテレワークで仕事も生活も可能となる。やがて第3段階(15年以降)には、地方都市などでの就労人口の定住化が進み、そこに新しい「ものづくり産業」の立地が進み、居住人口と産業機能の地方分散・全国展開が、内発的に実現されている、のである。

それを支えるには、テレワークの進展が必要で、ますます情報インフラの重要性を高め、5G時代も越えた情報インフラの整備を急ぐ必要がある。また、物流・人流インフラとして、高速道路も自動運転車両ガイド型にIT化するとともに、通行料無料化を実現したフリーウェイへ化によって物流人流の活発化を図る。人口減少を上回る交流人口の増大を図ることが不可欠である。さらに鉄道網の都市間ネットワークを在来型の新幹線鉄道として整備するとともに、低価格運賃での都市間移動を実現する。新しい設備投資よりも運行支援を援助して利用者の移動負担を軽減化することが、これからの社会の活性化には重要である。それは、高齢者や障害者の移動と交流のバリアフリー化とともに、大都市圏への低廉な週勤の足を確保することによって、通勤圏に縛られていた大都市居住者の潜在的な田園居住とのマルチハビテーション意欲を顕在化させ、親の近くで大都市の便益も享受できる。国土交通インフラのIT化とフリー化による“新しい行動様式は、新しい国土形成を加速するバネになるであろう。週勤で拠点とする大都市圏に到達するには移動時間よりも費用負担の安価化がより重要である。大都市圏で現状における「通勤手当相当」で、いつでも必要な時に大都市に移動できる行くことができる交通インフラの実現である。高速道路は無料化して“フリーウェイ”とし、自動運転車両で、テレワークしながら本社に出かけられる。もっと急ぐならば、鉄道での出社を“勤務回数券”で、大都市圏居住圏での通勤料金+α程度で出勤できる。大都市の魅力と地方での田園生活の享受を、トレードオフではなく両立させる情報インフラと交通インフラの整備が、新しい国土の基盤となる。それはまた、新しい産業立地の可能性を高める。

人口は低減し高齢化が進むにしても国土全体に居住人口の分布が分散化し、大都市以外での産業立地も、大都市から必要な人材を呼び寄せ、安い地価での産業立地が可能であり、外国人も世界に誇る日本の田園風景の中でのゆとりある田舎暮らしの享受が可能となっていく。その新しい産業立地は、日本の基盤経済であるはずの、国民が必要とする「ものづくり機能の空洞化」を回復させ、第一次産業も第二次産業も国民の生活に不可欠な国家の基盤経済として、食糧と生活必需品の自給率を高める。

それはまた、次の新型感染症竜王期には、大都市における感染拡大を軽減し、防ぐことができる、レジリエントな分散型国土の形成を実現する。さらにその地方都市圏は、自立と交流で高い質の文化を楽しみ、高度な医療も保証され、福祉環境も整った、活力ある地方都市圏として成熟していくだろう。

首都圏をはじめとする大都市圏では、大都市地域における機能立地の適正化を、都心一極集中の是正として実現していく。都心の過密化を軽減し、大都市圏内の業務核のネットワーク形成による分散化が実体化し、そのネットワークは地方都市圏とも連結されて、どこにいても中枢から孤立することなく、仕事をしていける。大都市の業務機能の多核分散化は、企業BCPの実効性を高め、帰宅困難者問題も軽減し、災害時の脆弱性を低減させる。20年後には、より安全な地域への大都市圏からの機能再配置が進み、大都市に危惧されている脆弱性は飛躍的に低減できる。それに合わせて、木造住宅密集市街地も改善され、住宅の耐震性・耐水性が確保されて、もはや災害時には「在宅避難」が基本で、「避難所避難は、20年前の昔話さ、・・・」と、そんな都市づくり、国土づくりに向かって、大きく舵を切る契機を、新型コロナ禍は、我々に突き付けているのである。

そうした国土づくりは、すべての人の幸福度が高まる経済循環と機会創出の実現でもあろう。

文献

  • 井戸田秀樹(2020)「コロナ禍に思う住宅耐震化の大切さ」 PDF
  • 災害情報学会(2020)「避難に関する提言 ― 新型コロナウィルス感染リスクのある今、あらためて災害時の『避難』を考えましょう」 PDF
  • 内閣府(2016)「避難所運営ガイドライン」
  • 認定NPO法人全国災害ボランティア支援団体ネットワークJVOAD避難生活改善に関する専門委員会(2020)「新型コロナウィルス 避難生活お役立ちサポートブック」34頁
  • 人と防災未来センター(2020)「「避難所運営マニュアル」に関する全国自治体郵送調査報告書」DRI調査研究レポート2019-3、Vol.44
  • 避難所・避難生活学会(2020)「COVID-19禍での水害時避難所設置について―自治体災害対応担当者各位へのお願い―」 PDF
  • 人と防災未来センター(2020)「避難所開設での感染を防ぐための事前準備チェックリスト Ver.2 ―手引き版―」DR臨時レポートNo.1 2020、22頁

筆者

中林一樹(なかばやし いつき)

東京都立大学・首都大学東京 名誉教授
明治大学 研究・知財戦略機構 研究推進員
工学博士

E-mail; nakaba47★meiji.ac.jp(★を@に)


ご案内

学芸出版社編集部が運営するウェブマガジン「まち座」では、新型コロナウイルスと建築・都市・まちづくりに関するニュースを連日紹介しています。

詳しくはこちら

トップページ