都市・地域の持続可能性アセスメント

原科幸彦・小泉秀樹 編著

内容紹介

新国立競技場・巨大防潮堤から身近で小さな開発まで、人々の声を反映させる仕組みが不在のままで良いのか!?

問題の根源は計画プロセスの不透明性
どうすれば良いかが具体的に分かる一冊

環境、経済、社会の三面を総合的に評価する持続可能性アセスメントが生まれた。これは都市や地域の計画策定を持続可能性に配慮しながら合理的かつ民主的に進めるための新しいプランニングシステムである。その考え方と海外の先進事例、日本での萌芽的な実践例を紹介し、レジリエンスと持続可能性を高める計画への展望を示す

体 裁 A5・264頁・定価 本体3200円+税
ISBN 978-4-7615-3218-5
発行日 2015/07/05
装 丁 KOTO DESIGN Inc. 山本剛史


目次著者紹介まえがきイベント

第1部 持続可能な都市・地域の計画とは

第1章 都市・地域の計画と持続可能性

1.1 持続可能性とは
1.2 東日本大震災からの復興に見る課題
1.3 民主主義の再構築と空間戦略 ──小平市の住民投票事例から
1.4 少子高齢化社会における課題
1.5 都市・地域の新しい空間戦略

第2章 持続可能性を評価する

2.1 合理的で公正な判断を ──新国立競技場計画に見る問題点
2.2 環境アセスメント(EIA)と計画
2.3 戦略的環境アセスメント(SEA)
2.4 持続可能性アセスメント(SA)への展開

第2部 欧米の持続可能性アセスメント

第3章 米国における持続可能性アセスメントによる成長管理

3.1 米国の持続可能性アセスメント
3.2 成長管理計画における持続可能性アセスメントの事例
3.3 持続可能性アセスメントを用いたビジョン2040の策定
3.4 計画づくりと持続可能性アセスメントの統合

第4章 ドイツの持続可能性アセスメント ──オッフェンブルク市におけるFプラン策定を事例として

4.1 ドイツにおける持続可能性アセスメント
4.2 オッフェンブルク市におけるFプラン策定事例
4.3 Fプラン策定における持続可能性アセスメント
4.4 Fプラン策定過程における戦略的環境アセスメントと持続可能性アセスメントの特徴

第5章 オランダの戦略的環境アセスメントとその展開

5.1 オランダの空間計画制度と戦略的環境アセスメント
5.2 ヘルダーラント州地域計画への戦略的環境アセスメント
5.3 広域計画への戦略的環境アセスメント適用事例 ──ランドシュタット2040
5.4 オランダの戦略的環境アセスメントとその展開

第6章 英国の都市づくりにおける持続可能性評価

6.1 英国都市計画制度の概要
6.2 持続可能性評価の背景と評価方法
6.3 持続可能性評価の事例 ──ストックポート市の基幹戦略
6.4 日本における持続可能性アセスメント導入に向けて

第3部 都市・地域計画への持続可能性アセスメントの導入に向けて

第7章 日本における持続可能性アセスメントの萌芽

7.1 震災復興における持続可能な地域創造
7.2 地区スケールの持続性評価の枠組 ──日本のCASBEEまちづくりと世界の枠組
7.3 持続可能性指標の開発

第8章 持続可能な都市・地域計画への展望

8.1 欧米の持続可能性アセスメントからの日本への示唆
8.2 アセスメントを計画プロセスの一部に
8.3 計画・政策の合意形成
8.4 透明な意思決定プロセスが未来を拓く

編著者

原科 幸彦(はらしな さちひこ)

1946年静岡市生まれ。千葉商科大学政策情報学部教授、東京工業大学名誉教授、東京工業大学理工学部建築学科卒業、同・大学院博士課程修了(1975年工学博士)。
東京工業大学助手、環境庁国立公害研究所研究員、同・主任研究員、マサチューセッツ工科大学客員研究員。東京工業大学助教授、教授、2012年、同大を定年退職。以降、現職。国際協力機構異議申立審査役なども兼務。
専門分野は社会学で、環境計画・政策、参加と合意形成の領域。
日本計画行政学会会長、国際影響評価学会(IAIA)会長、環境科学会運営理事、環境アセスメント学会副会長などを経て、現在、日本不動産学会副会長、環境科学会監事、統計研究会理事、IAIA日本支部代表ほか。
主な著書は、『環境計画・政策研究の展開』(編著、岩波書店、2007年)、『市民参加と合意形成』(編著、学芸出版社、2005年)、『環境アセスメントとは何か』(岩波新書、2011年)、『改訂版・環境アセスメント』(放送大学教育振興会、2000年)など。
主な受賞は、文部科学大臣表彰・科学技術賞、国際協力機構・理事長賞などのほか、日本計画行政学会、環境科学会、日本不動産学会ほかから受賞多数。IAIAの最高賞、Rose-Hulman Award をアジアから初めて受賞(2013年)。

小泉 秀樹(こいずみ ひでき)

1964年東京都生まれ。東京大学大学院教授。
東京大学大学院博士課程修了、東京理科大学助手、東京大学講師・准教授を経て、2013年から現職。博士(工学)。
専門はまちづくり、コミュニティ・デザイン。著書に『スマート・グロース』(編著、学芸出版社、2003年)、『成長主義を超えて─大都市はいま』(編著、日本経済評論社、2005年)、『まちづくり百科事典』(編著、丸善、2008年)ほか多数。都市住宅学会論文賞ほか受賞多数。

著者

柴田 裕希(しばた ゆうき)

1983年生まれ。東邦大学理学部専任講師。
東京工業大学大学院博士課程修了、滋賀県立大学環境科学部助教を経て、2013年4月から現職。
専門分野は、環境政策、環境アセスメント、戦略的環境アセスメント。主な著書に『環境アセスメント学の基礎』(共著、恒星社厚閣、2013年)。

姥浦 道生(うばうら みちお)

1973年生まれ。東北大学大学院准教授。
東京大学大学院博士課程満期退学、豊橋技術科学大学COE研究員、大阪市立大学助手等を経て、2008年4月から現職。博士(工学)。
専門分野は都市計画・土地利用計画。主な著書に、『人口減少時代における土地利用計画』(共著、学芸出版社、2010年)、『東日本大震災 復興まちづくりの最前線(東大まちづくり大学院シリーズ)』(共著、学芸出版社、2013年)、『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』(共著、学芸出版社、2014年)。

片山 健介(かたやま けんすけ)

1976年生まれ。長崎大学大学院准教授。
東京大学大学院博士課程修了、東京大学先端科学技術研究センター特任助手、同大学院助手・助教・特任講師を経て、2014年4月から現職。博士(工学)。
専門分野は、国土・地域計画。主な著書に、『広域計画と地域の持続可能性』(共著、学芸出版社、2010年)、『都市計画とまちづくりがわかる本』(共著、彰国社、2011年)、『都市・地域・環境概論』(共著、朝倉書店、2013年)。

松行 美帆子(まつゆき みほこ)

1974年生まれ。横浜国立大学大学院准教授。
東京大学大学院博士課程修了、明星大学特別研究員、東京大学特任助教、特任准教授を経て、2008年10月から現職。
専門分野は都市計画、とくに開発途上国の都市計画。主な著書に『低炭素都市 これからのまちづくり』(共著、学芸出版社、2010年)、『都市計画・まちづくり紛争事例解説』(共著、ぎょうせい、2010年)。

多島 良(たじま りょう)

1984年生まれ。国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センター研究員。
東京工業大学博士課程修了、日本学術振興会特別研究員─PD、リバプール大学客員研究員、国立環境研究所特別研究員を経て、2014年1月より現職。
専門分野は、環境政策・計画。戦略的環境アセスメントの制度研究、平時と緊急時の廃棄物政策・計画研究に従事している。

村山 顕人(むらやま あきと)

1977年生まれ。東京大学大学院准教授。
東京大学大学院博士課程修了、東京大学国際都市再生研究センター特任研究員、名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻助教授・准教授等を経て、2014年4月から現職。
専門分野は、都市計画・まちづくり。主な著書に『都市のデザインマネジメント:アメリカの都市を再編する新しい公共体』(共著、学芸出版社、2002年)。『世界のSSD100:都市持続再生のツボ』(共著、彰国社、2008年)、Living Cities in Japan: Citizens’ Movements, Machizukuri and Local Environment(共著、Routledge、2007年)、Innovations in Collaborative Urban Regeneration(共著、Springer、2009年)など。

風見 正三(かざみ しょうぞう)

1960年生まれ。宮城大学事業構想学部副学部長・教授。
東京工業大学大学院博士後期課程修了、英国ロンドン大学政治経済大学院修了、大成建設株式会社等を経て、2008年から宮城大学教授に就任。2012年4月から現職。博士(工学)。経営学修士。技術士(都市及び地方計画)。
専門分野は、都市計画・地域計画・コミュニティビジネス。主な著書に、『コミュニティビジネス入門』(編著、学芸出版社、2009年)、『「明日の田園都市」への誘い』(共著、彰国社、2001年)、『東日本大震災復興への提言』(共著、東大出版会、2011年)。

村山 武彦(むらやま たけひこ)

1960年生まれ。東京工業大学大学院教授。
東京工業大学大学院博士課程修了、東京工業大学工学部助手、福島大学行政社会学部助教授、早稲田大学理工学部助教授、教授を経て、2012年4月から現職。工学博士。
専門分野は、環境政策・計画。主な著書に、『市民参加と合意形成』(分担、学芸出版社、2005年)、『環境計画・政策研究の展開』(分担、岩波書店、2007年)、『アスベスト禍はなぜ広がったのか』(分担、日本評論社、2009年)、『環境アセスメント学の基礎』(分担、恒星社厚生閣、2013年)。

日本の都市・地域の計画制度では、参加の仕組みが次第に整備されてきたものの、合理的で公正な計画づくりがされているとは言い難い。それは計画づくりの科学性と、人々の声を計画に反映する民主的な仕組が、まだ不十分だからである。

2011年の東日本大震災を契機に、日本の情報公開と参加の遅れが改めて浮き彫りになった。原発事故直後、放射性物質の飛散を予測するシステム、スピーディの結果が公表されなかったのは、なぜか。多くの地域で、人々の反対にもかかわらず巨大な防潮堤計画が一気に作られてしまったのは、なぜか。一方で、津波被災地の各地で高台移転計画の合意はなかなか得られない。これらは、いずれも情報公開と参加の問題が根底にある。

何らかの計画を実行すれば、それによる便益とともに、コストが生じる。このコストは、直接的な経費だけではない。多様なインパクト、すなわち、影響が生じうる。特に人々が懸念する事項(public concerns)に対しては、それらを予め予測、評価し、対策を講じなければならない。民主主義社会では公衆の意向への配慮が求められ、そのための手段が、インパクト・アセスメント(IA)である。十分な情報公開と参加により、人々の懸念事項に対し、正面から答える「意味ある応答」が求められる。これによって、計画の意思決定の透明性を確保しうる。

本書は、計画の透明性をいかに確保して、持続可能な都市や地域をつくるかを主題としており、計画作成のための重要な支援手段であるインパクト・アセスメントについて解説し、なかでも最新の手段である持続可能性アセスメントに焦点を絞る。副題に、プランニングシステムとしてあることに、違和感を持つ方がおられるかもしれないが、その違和感こそが日本の計画制度の問題を示している。アセスメントはプランニングプロセスと統合させて、一体化したシステムとして考えなければならない。

まえがきを書いている2015年5月、本書第2章で取り上げた、2020年東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場計画の問題が改めて注目されている。アセスメントとは切り離されて、先に計画が決められたが、1700億円ほどとされる費用のうち、500億円の負担を求められた東京都の舛添要一知事は難色を示した。説明が不十分だからである。環境、社会、経済3面での持続可能性の検討がなされないまま、1964年東京五輪のレガシーである旧国立競技場の解体工事が行われ、巨大競技場の建設に取り掛かろうとしている。これは、持続可能性アセスメントの必要性を示す、具体例である。

人口の縮小と高齢化の進行する今日、日本社会の持続可能性をどう確保するかが問われている。東日本大震災は我々にこの問題を改めて突き付け、自然の猛威を改めて認識させ、人間は自然とどう折り合ってゆくべきかを考えさせられた。そして、福島第一原子力発電所の事故は、科学技術のあり方についても考えさせられた。それらは、社会経済のあり方はどうあるべきかを問うことになる。それはまた、その基盤となる都市や地域のあり方、その政策や計画への問いでもある。

持続可能性(sustainability) という概念は、もともと、environmental sustainabilityとして、人間活動の基盤をなす環境の持続可能性を指していた。1969年に成立したアメリカの国家環境政策法(NEPA)の目的にその概念が示されているが、人間活動を自然と調和させると明記されており、表現は違うが、持続可能性の考え方が示されている。

一方、日本は古来、自然との調和を求めてきたことは我々が等しく知るところである。しかし、英語でsustainabilityという概念が世界に広まった。これは、英語という世界語だからという点がまずあるが、20世紀後半以降の急速な科学技術の発展の結果、各地で環境破壊をもたらしたことが根底にある。持続可能性の概念自体は、日本はじめアジア諸国では昔から当然のことと受け止められ、ことさら、sustainabilityという表現を使わなかっただけである。今はそれを現代的な文脈の中で再認識し、積極的な行動につなげようとしている。この概念は、環境の持続可能性だけではなく、社会、経済も含めた総合的なものとして認識されている。
世界で最も早く少子高齢化が進行している我が国において、持続可能性の問題は深刻である。コミュニティの崩壊が言われたのは久しいが、成長一辺倒の経済政策は果たして持続可能なのか、資源・エネルギー、環境の有限性を考えると疑問を抱かざるをえない。そして、高齢社会では経済的基盤の問題が特に大きい。年金のあり方が問われ、介護のための社会経済的条件、地域空間のあり方など、多くの問題がある。

これらはいずれも政策の問題であり、計画をどう作るかの問題である。政策・計画の判断には国民が関与しなければならないが、そのためには、多様な分野における情報公開が必要条件である。

都市・地域の将来のあり方を考えるには、土地利用のあり方を根底から問い直すことが本質である。例えば、一気に巨大防潮堤計画が立てられてしまったが、ハード対策としての防潮堤の建設は最小限にし、危険地域は緩衝地帯として居住を規制する対策こそ必要である。人口減少社会は土地利用の余裕をもたらすから、将来の日本を考えれば、これは十分、合理性のあることである。

そのうえで、より重要なのは、迅速な避難方法の探索などによるソフトな対応である。原発事故もこの教訓を与えている。安全神話のもと、事故は起こらないと想定し、事故時の避難計画を全く持たなかったのは致命的な失敗である。原発再稼働の検討に当たり、実効性のある避難計画の樹立をと各地域で求められているが、これは当然のことである。放射能汚染の影響は直接の環境汚染だけでなく経済的な影響も大きく、避難生活によるコミュニティ崩壊という社会的影響も極めて深刻である。

自然災害の危険な地域は科学技術だけに頼るのではなく、想定外の事態にも耐えるよう土地の使い方に余裕を持たせなければならない。土地利用計画の骨格となる「空間戦略」が重要な鍵を握る。そのための合意形成に、インパクト・アセスメントは欠かせない。持続可能性アセスメントは、その重要な手段である。

日本は先進国の中で、インパクト・アセスメントが大きく遅れているが、この分野の基幹学会、国際影響評価学会(IAIA)の世界大会、IAIA16が、2016年5月、初めて日本で開催されることになった。名古屋で、「レジリエンスと持続可能性」をテーマに、持続可能な社会に向けて世界に情報発信する。大震災後の日本の対応に世界が注目している。
IAIAは1980年にアメリカで設立され、120ヶ国からの会員が集まる、国連も認定する権威ある国際組織である。各国の政府機関とともに世界銀行、アジア開発銀行、国際協力機構(JICA)などの国際協力機関、産業界では金融、エネルギー産業、国際的なメーカー、コンサルタント企業などが活動を支援している。

この国際学会においても、持続可能性アセスメントは新しい話題であり、レジリエンスと持続可能性を推進するプランニングシステムとして大きな期待が持たれている。

読者には、我々の将来を切り開く重要な手段として、持続可能性アセスメントは何か、その理解を深め、それぞれの地域で持続可能な都市・地域づくりの実践をして頂きたい。

(未定稿)

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