都市経営時代のアーバンデザイン

西村幸夫 編/中島直人・坂本英之 他著

内容紹介

人口減少と社会の成熟が進み、ハードとソフトを併せた都市政策が求められている。デザインの力を信じ共有できる都市生活の実感を梃子に実践を進めているデトロイト、バッファロー、シュトゥットガルト、南相馬市小高区、バルセロナ、ミラノ、柏の葉、横浜、台北、ニューヨーク、マルセイユ、ロンドン、フローニンゲンを紹介

体 裁 B5・224頁・定価 本体3700円+税
ISBN 978-4-7615-3228-4
発行日 2017/02/28
装 丁 上野かおる

紙面見本目次著者紹介はじめにイベント


▲口絵組見本

▲本文組見本

各都市の動向
はじめに

1部 人口減少時代のアーバンデザイン

1章 積極的な非都市化を進める  デトロイト

高梨遼太朗・黒瀬武史
1・1 人口減少と荒廃の先に
1・2 荒廃の経緯と特徴
1・3 草の根活動の広がり
1・4 選択と集中計画の試行錯誤
1・5 戦略的長期計画デトロイト・フューチャー・シティ(DFC)と都市計画の地と図の反転
1・6 DFCの影響と限界
1・7 地区単位の積極的非都市化への到達過程

2章 縮退工業都市の戦略とブラウンフィールド  バッファロー

黒瀬武史
2・1 縮退都市とブラウンフィールド問題
2・2 縮退工業都市の未来を拓く
2・3 ブラウンフィールド再生を地区の再生に繋げる
2・4 工業都市の再生を促す産業と戦略

3章 成長都市から定常化へのパラダイムシフト  シュトゥットガルト

坂本英之
3・1 ドイツ都市のパラダイムシフト
3・2 ドイツ都市計画の特徴
3・3 土地利用の原型をつくったバウシュタッフェルプラン
3・4 シュトゥットガルト市の都市計画の動向
3・5 インテグレートされた都市開発プログラム
3・6 シュトゥットガルト21と州民投票
3・7 丘陵地の整備 ─グリーンUからグリーンリングへ
3・8 生活者の都市シュトゥットガルト

4章 原発被災地域の復興における経営  福島県南相馬市小高区

窪田亜矢
4・1 経営概念と原発被災地域
4・2 福島県南相馬市小高区の事例分析
4・3 原発被災地域の復興における経営

2部 成熟社会を支えるアーバンデザイン

5章 社会的弱者と向き合うポスト都市再生のアーバンデザイン  バルセロナ

阿部大輔
5・1 空間再生のバルセロナ・モデルの系譜
5・2 公共空間主導の地区再生 ─「つくる」からマネジメントへ
5・3 バルセロナ都市再生の光と陰
5・4 社会的包摂を支えるアーバンデザイン

6章 革新的ランドスケープを用いたアーバンデザイン  ミラノと柏の葉

宮脇勝
6・1 ミラノ垂直の森
6・2 柏の葉アーバンデザイン
6・3 ランドスケープを主軸にアーバンデザインを考える意義

7章 文化芸術創造都市からインナーハーバー再生戦略へ  横浜

野原卓・鈴木伸治
7・1 「港町」横浜の誇りと再生 ─海都横浜の誕生と遺伝子
7・2 横浜の都市デザイン ─六大事業から文化芸術創造都市へ
7・3 クリエイティブシティ・ヨコハマによる都心再生戦略
7・4 創造界隈拠点形成によるツボ押し戦略
7・5 インナーハーバー再生戦略
7・6 横浜都市戦略のゆくえ

8章 保全型アーバンデザインから創造都市戦略へ  台北

楊惠亘・柏原沙織・鈴木伸治
8・1 変化するアーバンデザイン像
8・2 台北におけるアーバンデザインの変遷
8・3 歴史地区保全とアーバンデザイン
8・4 URSの仕組みと展開
8・5 産業遺産の保全と活用
8・6 北門における景観保存
8・7 実験を重ねるアーバンデザイン

3部 都市生活のデザインへ向かう「合意形成とリーダーシップ」

9章 企業経営者ブルームバーグ市長のもとでの都市空間再編  ニューヨーク

中島直人
9・1 再び、アーバンデザインの先進地へ
9・2 都市空間を再編する長期ビジョンとリゾーニング
9・3 都市のイメージを刷新する新たな公共空間の創出
9・4 ブルームバーグ以後のニューヨーク

10章 斜陽都市を欧州文化首都に押し上げる大統領と市長の牽引力  マルセイユ

鳥海基樹
10・1 地方分権性善説を疑う
10・2 文化政策を梃子とした都市再生
10・3 アーバンデザイン・ニュー・ディール
10・4 凋落都市から欧州文化首都へ

11章 広域自治体大ロンドン庁による歴史的都市景観の形成戦略  ロンドン

岡村祐
11・1 計画主導によるスカイラインの形成
11・2 広域的眺望景観の保全 ─ランドマークへの眺めの保全から多様なスカイラインの形成へ
11・3 世界遺産の周辺環境の保全 ─バッファゾーンによらない世界遺産周辺エリアの保護手法の開発
11・4 「新たな」歴史的都市景観の探求

12章 自転車都市にみる都市再生と合意形成  フローニンゲン

坪原紳二
12・1 オランダを代表する自転車都市
12・2 都心に出会い機能を再生する
12・3 住宅地の史跡公園を再生する
12・4 都心の歩行空間を再生する
12・5 自転車都市のブランド化

索引

著者紹介(掲載順)

編者

西村幸夫(にしむら・ゆきお) はじめに

1952 年福岡県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修了。明治大学助手、東京大学助教授を経て、現在東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授。著書に『都市保全計画』(東京大学出版会)、『環境保全と景観創造』『西村幸夫風景論ノート』『西村幸夫都市論ノート』(以上、鹿島出版会)、『町並みまちづくり物語』(古今書院)など。編著に『都市の風景計画』『日本の風景計画』『都市美』『路地からのまちづくり』『証言・まちづくり』『証言・町並み保存』『風景の思想』『都市空間の構想力』(以上、学芸出版社)、『まちづくりを学ぶ』(有斐閣)、『まちの見方・調べ方』『まちづくり学』(以上、朝倉書店)など。

著者

高梨遼太朗(たかなし・りょうたろう) 1章

1989年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同工学系研究科都市工学専攻修士課程修了。現在、総合商社に勤務。

黒瀬武史(くろせ・たけふみ) 1章、2章

1981年福岡県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同工学系研究科都市工学専攻修士課程修了。株式会社日建設計 都市デザイン室、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教を経て、現在、九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門准教授。共著に『アーバンデザインセンター ─開かれたまちづくりの場』(理工図書)、『世界のSSD100 ─都市持続再生のツボ』(彰国社)など。

坂本英之(さかもと・ひでゆき) 3章

1954年石川県生まれ。明治大学建築学科卒業、同工学系研究科建築学専攻修士課程修了。渡独、シュトゥットガルト大学大学院博士課程修了、シュタットバウ・アトリエを経て、現在、金沢美術工芸大学デザイン科環境デザイン専攻教授。共著に『NPO教書』(風土社)、『日本の風景計画』(学芸出版社)、『都市の風景計画』(学芸出版社)、『金沢のまちと環境デザイン』(能登印刷株式会社)、『つなぐ 環境デザインがわかる』(朝倉出版)など。

窪田亜矢(くぼた・あや) 4章

1968 年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同修士・博士課程修了、コロンビア大学大学院修士課程修了。博士(工学)・一級建築士。㈱アルテップ、工学院大学などを経て、現在、東京大学大学院工学系研究科特任教授。2014年より復興デザイン研究体としても活動。単著に『界隈が活きるニューヨークのまちづくり』(学芸出版社)。

阿部大輔(あべ・だいすけ) 5章

1975年米国ハワイ州ホノルル生まれ。早稲田大学土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程・博士課程修了。政策研究大学院大学、東京大学大学院建築学専攻特任助教を経て、現在、龍谷大学政策学部准教授。著書に『バルセロナ旧市街の再生戦略』(学芸出版社)、共編著に『地域空間の包容力と社会的持続性』(日本経済評論社)、『持続可能な都市再生のかたち』(日本評論社)、共著に『都市空間の構想力』(学芸出版社)など。

宮脇勝(みやわき・まさる) 6章

1966 年北海道生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士、博士課程修了。博士(工学)。北海道大学大学院助手、千葉大学大学院准教授を経て、現在、名古屋大学大学院環境学研究科准教授。単著に『ランドスケープと都市デザイン ─風景計画のこれから』(朝倉書店)、『欧州のランドスケープ・プランニングとプロジェクト』(マルモ出版)、共著に『都市の風景計画』『日本の風景計画』『都市美』(以上、学芸出版社)など。

野原卓(のはら・たく) 7章

1975年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院工学系研究科都市工学専攻修了。株式会社久米設計、東京大学大学院助手及び特任助手、同先端科学技術研究センター助教を経て、現在、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授。岩手県洋野町、福島県喜多方市、神奈川県横浜市、東京都大田区等にて都市デザイン実践活動に関わる。共著に『都市空間の構想力』(学芸出版社)、『世界のSSD100 ─都市持続再生のツボ』(彰国社)など。

鈴木伸治(すずき・のぶはる) 7章、8章

1968年大阪府生まれ。京都大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程修了。同専攻助手、関東学院大学工学部土木工学科専任講師・助教授を経て、現在、横浜市立大学国際総合科学部教授。編著に『創造性が都市を変える』(学芸出版社)、『今、田村明を読む ─田村明著作選集』(春風社)、共著に『はじめて学ぶ都市計画』(市ヶ谷出版)、『明日の都市づくり』(慶応大学出版会)など。

楊惠亘(よう・けいせん) 8章

1981 年台湾台北市生まれ。台湾大学農学部園芸学科卒業後来日。東京大学工学系研究科都市工学専攻修士及び博士課程修了。横浜市立大学グローバル都市協力研究センター特任助教を経て、現在、同都市社会文化研究科客員研究員。共著に『創造性が都市を変える』(学芸出版社)、『アーバンデザインセンター ─開かれたまちづくりの場』(理工図書出版)など。

柏原沙織(かしはら・さおり) 8章

1983年京都府生まれ。同志社大学文学部文化学科心理学専攻卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻修士課程修了。株式会社富士通総研、横浜市立大学グローバル都市協力研究センター特任助教を経て、同都市社会文化研究科・客員研究員。現在、東京大学工学系研究科都市工学専攻博士課程に在籍中。

中島直人(なかじま・なおと) 9章

1976 年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同工学系研究科都市工学専攻修士課程修了。同専攻助手・助教、慶應義塾大学環境情報学部専任講師・准教授を経て、現在、東京大学大学院工学系研究科准教授。著書に『都市美運動』(東京大学出版会)、『都市計画家石川栄耀 ─都市探求の軌跡』(共著、鹿島出版会)、『白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか』(共著、学芸出版社)、『パブリックライフ学入門』(共訳、鹿島出版会)など。

鳥海基樹(とりうみ・もとき) 10章

1969 年埼玉県生まれ。フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)博士課程修了。東京都立大学専任講師を経て、現在、首都大学東京准教授。共著に『フランスの開発型都市デザイン ─地方がしかけるグラン・プロジェ』(彰国社)、『スカイスクレイパーズ ─世界の高層建築の挑戦』(鹿島出版会)、『都市空間のガバナンスと法』(信山社)など。

岡村祐(おかむら・ゆう) 11章

1978年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修士課程修了。2008年同大学院博士課程修了。首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域特任助教・助教を経て、2016年4月より同准教授。この間、2013年にウェストミンスター大学(英国ロンドン)に客員研究員として在籍。共著に『景観法を活かす』『観光まちづくり』(以上、学芸出版社)、『文化ツーリズム学』(朝倉書店)など。

坪原紳二(つぼはら・しんじ) 12章

1965 年東京都生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業。同工学系研究科都市工学専攻修士課程修了。神戸大学自然科学研究科環境科学専攻博士課程修了。国立フローニンゲン大学空間科学部博士課程修了。熊本県立大学助教授を経て、現在、跡見学園女子大学准教授。共著に『New Principles in Planning Evaluation』(Ashgate)、単著論文に「オランダ・フローニンゲンの交通循環計画の導入プロセスにおけるリベラル・デモクラシー」(都市計画学会一般研究論文)など。

西村幸夫

日本のアーバンデザインのこれからを考えるために

本書でいう「都市経営時代」とは、ハードとソフトを合わせて統合的に都市をマネジメントすることに責任を持たねばならない時代に私たちはいるということを表わしている。アーバンデザインのあり方もこうした時代の潮流と無縁ではない。

日本のアーバンデザインは丹下健三らによる東京計画1960に代表されるような1960年代の都市拡大期の建築群計画といった「図」を描き出すプロジェクトから始まり、都市の再開発や郊外の大規模ニュータウンのデザインを経て、1980年代の都市安定期にさしかかるに従って次第に広場や街路、水辺などの都市空間の高質化へ向かっていった。さらには景観法(2004年)の制定に至る世論の高まりをもとに、自ら手を下すデザインプロジェクトから他者のプロジェクトをコントロールする景観規制といった「地」の整備への傾斜を経て、都市停滞期に入ってからはもっぱら合意形成プロセスのデザインといったソフトな都市経営戦略へと時代背景と共にデザインの対象を変化させつつ今日に至っている。

コンパクトシティや持続可能性が叫ばれ、空き地や空き家問題が緊急の課題として立ち上がってきている昨今、アーバンデザインは今後どのような方向を目指していけばいいのだろうか。そもそもアーバンデザインにどのような未来があるのだろうか。

同様の岐路に立たされている国内外の先進的な試みを行っている諸都市のアーバンデザインの試みの中に、目指すべき新しい方向性を共有できる視点を見出すことができるのではないかと考え、関心を同じくする若き仲間とともに本書を編むこととした。

扱ったのは、デトロイト、バッファロー、シュトゥットガルト、バルセロナ、ミラノ、ニューヨーク、マルセイユ、ロンドン、フローニンゲン(オランダ)の、大きな社会変化に直面する8つの欧米の都市と、南相馬、柏の葉、横浜、台北の4つのアジアの都市・地域である。詳細は各章に任せるとして、導入としてここでは諸都市を俯瞰して見えてくるいくつか共通した関心について指摘しておきたい。

人口減少時代における共有できる都市像を目指すアーバンデザイン(1部)

都市の縮退の問題は、現在日本においてもっとも緊急を要する都市問題である。空き家や空き地が増えていく中で、アーバンデザインはどのような役割を果たすことができるのか──この問いに直面して、苦闘する都市の姿を、産業衰退が激しいデトロイト、大規模なブラウンフィールドをかかえるバッファロー、都市規模の現状維持を選択したシュトゥットガルト、ようやく避難指示が解除された南相馬市小高区という4つの事例から考えようとしているのが1部である。

これらの都市では、当然のことながら、これまで深化してきたアーバンデザインの方法論では対応することができない。合意形成をしかけるにも、元気の出る将来の都市像がなかなか描けないからである。その時、アーバンデザインはまったく無力なのか。

しばしば縮退都市の典型と見なされるデトロイトにおいては、いわゆる選択と集中施策の失敗を乗り越えて、選ばれなかった「地」の部分に光をあてて、その地域の将来像を描き出すことから都市全体の再生へと向かう道筋が見えてきつつある。選択と集中の政策では、選択されなかった地域の反対が強く、全体の施策そのものが立ち行かなくなってしまうのである。したがって、「地」の可能性をひらき、そこに将来を見出すことから、これを「図」に反転するようなアーバンデザインの方策が有効となる。

バッファローでは、各ブラウンフィールドの再生可能性を冷静に検討して、環境政策と都市政策をリンクさせて、地区再生の優先順位と行政の関与の度合いを戦略的に組み合わせる多様な選択肢と意思決定のデザインに、アーバンデザインのこれからの可能性を見ることができる。

南相馬市小高区では、復興の内実だけでなく、プロセスそのものをもデザインし、マネジメントすることを目指して復興デザインセンターが動き出しつつある。

都市像そのものが生まれ、共有されていく過程を全体として構想し、地域住民との合意をダイナミックに仕掛け、関与していくアーバンデザインの姿が、こうした人口減少都市の経営施策として共通しているといえる。

多様性や持続可能性への解を模索するアーバンデザイン(2部)

他方、ハードな空間改善を軸とはするものの、それだけに専心していいのか、という今日的な問いかけが都市計画全般に対して行われているのも、現代のアーバンデザインに共通した傾向である。

たとえば都市そのものの持続可能性や文化的経済的な多様性を保持した地域社会のあり方、アートとの協働など、都市を巡るおおきな課題の中でアーバンデザインにどのような貢献ができるのか、ということが問われている。これは、都市のプランニングという全体の枠組みの中でデザインはどのような貢献ができるかという問いかけだと翻訳することもできる。

この点に関して先進諸都市の施策を見ると、創造都市を目指す横浜や台北の動きに代表されるように、文化政策としての魅力ある都市づくりの推進や、路上のアクティビティの復活などのアーバンデザインのボキャブラリィの実現によって側面的に都市の多様性や持続可能性への貢献を模索しているようだ。

このことは都市をプランナーの目あるいは為政者の目で見渡すのではなく、ユーザーの視点あるいは都市生活者の視点から見ているということと軌を一にしている。

「図」づくりに力を入れてきたバロック的なアーバンデザインではなく、安定した「地」を都市に根付かせていくようなアーバンデザインが主力となっている。それが地区をマネジメントすることによって社会的弱者と向き合おうとしているバルセロナのアーバンデザイン戦略につながっている。

しかしながら、このことは「図」が不要だということを意味しているわけではない。都市に生活するにあたって不可欠な「図」としてのシンボルが必要だということはユーザー側からも言われている。台北の事例はそのことを如実に示している。

ただし、その場合の「図」はヒューマンスケールと何らかのつながりを持っている必要がある。そうでなければ、「図」は権力の装置と見なされてしまい、市民はよそよそしさしか感じなくなるからである。ミラノと柏の葉の事例は、緑が「図」であると同時に「地」ともなりえるという計画のあり方を物語っている。

都市生活のデザイン戦略の合意へと向かうアーバンデザイン(3部)

多くの都市に共通した傾向として、比較的小規模な公共空間へ介入することに対する高い関心をあげることができる。バルセロナやニューヨークはそのフロントランナーである。

都市にとって戦略的に重要な立地の小規模公共空間の創出や改善──具体的には広場や街角のコーナーのリ・デザインや新規創出である。大きな構想よりも小さな実践を尊重し、都市生活の具体的な改善の姿をプロジェクトを通して見せることに力点が置かれている。

こうしたアーバンデザインの小プロジェクトの大半は都心か都心近接地であるので、都心再生の一環を担った施策の一部であると言えるが、大きな構想を表に出すよりも地に足がついた地道で具体的な改善策を少しずつでも着実に実現していくとに力点が置かれている。

そこで目指されているのは、都市生活を豊かにしていくイメージリーダーとしてのプロジェクトである。もちろんその背景に地方政府に十分な資金的余裕がないためにかつてのような大規模公共事業を行えないということもなくはないが、それ以上にアーバンデザインの効果的なつぼをねらってプロジェクトを仕掛けるという戦略的な企図に力点が置かれていると言うことがある。

同様の意識は公共交通機関や自転車への思い入れという点にも見て取ることができる。

魅力的な路面電車のデザインやスムーズな乗り換え空間の実現、自転車が走る風景へのこだわりなど、コンパクトな都市という命題を大風呂敷のマスタープランとしてではなく、都市における生活スタイルの提案としてデザインしていく、というスタンスが各都市にほぼ共通している。
都市内のモニュメントや都市そのもののスカイラインをなんとか保持していこうというロンドンのアーバンデザインも、トップダウンで託宣が下されて規制されるのではなく、都市のユーザーたちの願いが世論となってプランナーを後押しする時、おおきな力となる。

一方で、行政トップのリーダーシップが新しい空間を生み出し、それが地域の将来像に対する具体的なイメージを与えてくれることによって、合意形成が促進されるという側面もある。ニューヨークのブルームバーグ前市長の戦略やマルセイユの欧州文化首都の諸プロジェクトがその可能性を示してくれる。

都市空間をデザインするというよりも都市生活をデザインすることから戦略的な合意形成を目指すといったほうが、これらの都市のアプローチをより正確に表現することになるようだ。そこには共有できる都市生活の実感を梃子にアーバンデザインの実践を進めていこうという都市戦略がある。これらを通して、新しい時代の都市経営のあり方が透けて見えてくる。

本書の3部ではこうしたアプローチを同じくする都市の施策を紹介している。

文化の力

このように欧米、そして一部のアジア都市のアーバンデザインの現在を見てくると、21世紀の都心を牽引していくのはまぎれもなく文化の力であるということに対する確固たる信念があるように見える。

もちろんここでいう文化にはハイカルチャーだけでなく、生活文化や人間関係が生み出す交流の文化も含まれる。いやむしろ、こうした生活者の文化の力を信頼し、都市のあり方そのものを見直すこと、言い換えると、都市生活そのものを文化の文脈で見直すという都市の文化政策の一翼を担うものとしてアーバンデザインが位置づけられることになる。
現場におけるデザインの力を前向きに信じることから次の時代の都市像が共有され、都市の再生が果たされていくことが雄弁に語られている。アーバンデザインの試みは一つの有力な都市文化政策であるということをこれらの都市の試みは実感させてくれる。

これは広い意味での都市経営戦略というべきものである。ここから「都市経営時代のアーバンデザイン」というものを探っていきたいと思う。

* * *

なお、本書は筆者が代表をつとめてきた文部科学省科学研究費基盤研究費(A)(平成24~27年度)の研究成果のうち、各国のアーバンデザインの動向部分を取りまとめたものである。出版にあたっては、平成28年度の同科学研究費の研究成果公開促進費(学術図書)の出版助成を得ることができた(課題番号16HP5253)。記して謝したい。

これまで筆者らのグループは、継続して海外の都市計画やアーバンデザインを比較研究の意味で取り上げ、研究成果を『都市の風景計画 ─欧米の景観コントロール 手法と実際』(2000年)、『都市美 ─都市景観施策の源流とその展開』(2005年)として、いずれも学芸出版社から刊行してきた。これらは日本の都市のあり方を相対化するための私たちなりの努力であったが、今回はこれを一段推し進めて、各都市の個性に合わせて多様な展開を遂げつつある現時点でのアーバンデザインに焦点を当てた。

その成果は、中間報告として『季刊まちづくり』第41号(2014年1月)に特集「欧米の最新都市デザイン」として発表している。同誌の編集責任者である八甫谷邦明氏には大変お世話になった。今回の最終報告においては、『季刊まちづくり』の原稿に大改訂をほどこし、さらにアジア都市(台北と横浜)を加えることによって新たな視座を加えることができたと考える。本書がこれからの難しい時代におけるアーバンデザインの可能性を考える一助となることを執筆者一同、祈念している。

最後に、学芸出版社の前田裕資社長には編集者として最初から最後まで面倒を見ていただいた。お礼を申し上げたい。

※終了しました

アーバンデザイン・都市計画の役割を世界と関西から問い直す

2017.5.29(月)18:30~ @学芸出版社
中島直人、阿部大輔、武田重昭、佐久間康富、杉崎和久、松本邦彦

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