米・フィラデルフィアでベーシックインカムの実証実験スタートへ 子育て中の貧困家庭60人に月500ドルを1年間支給

全米第六の人口が集まる都市・フィラデルフィア市で、早ければ2022年3月から、一定の所得を公的に保証する、いわゆる「ベーシックインカム」の実証実験がスタートする見込みとなった。

計画では、子どもを養育する低所得世帯を対象とする公的扶助制度「TANF(Temporary Assistance for Needy. Families:貧困家族一時扶助)」の受給者から選出された最大60人に、毎月500ドルが少なくとも12カ月間支給される。経費総額は32万2千ドル(約3,720万円)で、TANFの予算が財源となる。

 

支給に際して所得や就労の要件を設けないユニバーサル・ベーシックインカムや類似の所得保障(guaranteed income)制度は近年、アメリカ国内でも試行する地域が増えている。

ウェブメディアNextCityが公開しているデータによれば、例えばロサンゼルス大都市圏(Greater Los Angeles Area)では所得保証にかかわる複数のパイロットプロジェクトが進行中。このうちロサンゼルス市がコーディネートする「BIG:LEAP」は、選抜された3,200人の参加者に1年間毎月1,000ドルを支給するプログラムになっている。

 

こうした試行が広がる背景には、貧困からの脱出を助ける手立てとして、厳格な支給要件や受給方法の制限が課されがちな公的扶助ではなく、直接に現金を投資する策の効果に対する政策的な期待がある。

2019年にフィンランドで実施されたベーシックインカムの実証実験の報告書を分析したレポートによれば、ベーシックインカムの受給者は雇用に有利で、特に就労先の選択にあたって精神的な余裕を生む効果が指摘されている。

フィラデルフィア市の家庭支援・基本的ニーズ担当副事務局長であるニキア・オーウェンス(Nikia Owens)博士も、地元メディアWhyy誌の取材に対し、「このお金のために余計なことをする必要がない」ことを、TANFをはじめとする既存の支援制度と異なる点として挙げている。

例えばTANFでは、世帯所得が一定額未満(3人世帯の場合には月681ドル未満)であることや、流動資産が3,000ドル(約34万6千円)未満であることを申請条件として規定。さらに受給中は、資産が2,000ドル(約23万1千円)未満であることや、世帯主や配偶者は原則として最低30時間、就業につながる活動を行うことなどの要件を課している。

オーウェンス氏は、「試験終了までに何人の人が正規雇用に就き、TANFの利用をやめることができるか。それが成功を測る主な指標の1つになるだろう」と話している。

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