『福祉と住宅をつなぐ―課題先進都市・大牟田市職員の実践』刊行記念 鼎談 vol.4 石井敏×三浦研×山口健太郎×牧嶋誠吾×園田眞理子

公開日:2021/07/13/最終更新日:2022/02/16


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『福祉と住宅をつなぐ―課題先進都市・大牟田市職員の実践』の刊行を記念しまして、推薦のお言葉をいただいた応援団の方との対談を行ないました。
第4回目のお相手は高齢者の福祉建築の現場やまちづくりの現場でご活躍の三浦研先生と、医療・福祉・建築の第一人者で東北工業大学副学長の石井敏先生、大牟田で牧嶋さんと共に活動されている近畿大学建築学部の山口健太郎先生です。対談の様子をぜひご覧ください。
(画は上記から、テキスト(抜粋)は下記をご覧ください。)

◆主なトピック

牧嶋 誠吾

大牟田市居住支援協議会事務局長

園田 眞理子

元明治大学理工学部建築学科教授

石井 敏

東北工業大学建築学部教授

三浦 研

京都大学大学院工学研究科建築学専攻教授

山口 健太郎

近畿大学建築学部教授

要約文責:学芸出版社 前田裕資(2021年6月22日収録)

園田この連続対談では、牧嶋さんが書かれた『福祉と住宅をつなぐ』を知っていただくために、この本の読みどころ、活かし方を色々な方からお話しいただいています。今日は第4回目です。3人の先生に来ていただきました。

お一人目は京都大学大学院で建築を教えておられる三浦研先生です。高齢者の福祉建築の現場やまちづくりの現場でご活躍の建築の先生です。
お二人目は東北から登壇いただきました。東北工業大学副学長の石井敏先生です。先生も医療・福祉の建築の第一人者で、フィンランドや北欧の建築のご事情にも詳しく、また大牟田にも詳しい方です。
三人目の先生は近畿大学建築学部の山口 健太郎先生です。山口先生は大牟田で牧嶋さんとタッグを組んで建築の計画・設計を実践されていると伺っています。
読者の皆さんからみるとオジサンかもしれませんが、私から見るとバリバリの建築3少年です。

今日はこの三人の先生に『福祉と住宅をつなぐ』について、著者の牧嶋さんと、丁々発止、お話しを進めてゆきたいと思います。
まず三先生に、読んでみられて、また牧嶋さんとご一緒にお仕事や研究をされてきたことから、この本の一番の読みどころを上げていただこうと思います。最初に三浦先生からお願いします。

福祉と住宅政策がクロスしていく現場がわかる本

三浦福祉と住宅政策はいまはクロスしているのですが、クロスする前の20年、30年が、現場レベルでどうだったのかが綺麗にわかる、トレースされているところがこの本の一番面白いところだと思います。
施策のバックグラウンドを学ぼうというとき、まずは施策の歴史を年表のようなもので勉強します。それでは実際どうだったかが分からない。でもこの本を読むことで、現場の雰囲気もふくめて、立体的にわかってくる。
これから住宅政策や福祉政策を学ぶ人にとって、そこが一番読み応えがあるところじゃないかと思います。

もう一つ、本の写真に写っている人の表情が凄く良いんです。
建築関係、まちづくりでもそうなのですが、写真の人の表情がニュートラルなものが多いのです。特に建築の本はカッコつけるところがありますから。
だけどこの本は、住民と対話したりワークショップをしたりしているシーンで、派手なシーンではないのですが、その表情がとても良いのです。その表情を見ながら、牧嶋さんが企画したことが、うまく浸透しているな、ということがわかるんです。その奥深さも読み応えがあるところです。

園田載っている写真の人の表情を読めという面白いところをご指摘いただきました。
石井先生はいかがですか?

 

公務員はこれだけのことができてしまう、がわかる本

石井僕は牧嶋さんとのお付き合いは小規模多機能(小規模多機能居宅介護)からスタートしました。2007年に日本医療福祉建築協会の調査研究でご一緒して以来です。1年に1回会えるか会えないかぐらいでしたが、そこでずっと感じていた牧嶋さんそのものが出ている本です。
ご自身で、ご自身の言葉で書いておられるので、牧嶋さんがしゃべっているように聞こえてくるのです。それが牧嶋さんらしいなあ、と思います。

それにしても園田先生、よく牧嶋さんに「本を書け」と言われたと思います。
僕らは一緒にいてもそういう発想にならない。よく言われたな、またそれに応えてよく書かれたなと。…読んでいくと、僕が知らない、こんなこともやられていたんだ、ということも見えてきます。

また三浦先生がおっしゃったように掲出の写真やその説明の文章から住民の方や職員の方の熱気が伝わってきます。一人ひとりの思いの積み重ねで物事が動いているのが感じられます。
また、だんだん気持が盛り上がり、熱くなってきて、最後の7章では「言いたいこと言ってやれ」というぐらい気持が爆発しておられるように感じました。
そこに牧嶋さんらしさも感じながら、込めた想いも感じました。

僕の学生のなかにも公務員を目指している人がいたので、1冊渡して読むように言いました。公務員という仕事の魅力がそこには詰まっているし、学生さんが思っている公務員像とはギャップがあるかもしれないけれど、こういうことができるのか、と知ってほしい。
中小規模の都市の公務員は、これだけのことができてしまう。牧嶋さんだからできたということもあるだろうけれど、やろうと思えば何でもできる、ということを見せてくださっているのが良いと思います。
建築を教えるなかで制度の話もしますが、やはり表面的です。制度の裏側で起こっていること、実際の現場がどう制度を使い、どのように動いているのかは、我々ではしゃべれないし、実感としてもわからない。そこが読むだけで伝わってきました。すごく勉強になったし、学生も読めば感じ取れるだろうと感じたところです。

園田私は来年65歳になり高齢者です。このままでは私の高齢期、未来はいったいどうなる?現実を変えてもらわないと困る。その現実をすでに変えた人にいっぱい情報を出してもらいたいとの思いから、牧嶋さんに「本を書いて!!」とお願いしました。
私も大学におりましたが自分でできたことがあまりにも少ない。ここはパワー溢れた牧嶋さんに登場してもらって、私の未来を含めて変えてもらいたい。そんなちょっとやましい思いと、本当の老婆心からです。(笑)
ところで、山口先生、この本の読みどころについて、いかがですか

 

「やろうよ」という勇気をもらえる本

山口この本を読む読者の方が「牧嶋さんはスーパー公務員だから、私にはできないよね」と思うのではなく、比較的身近な人の等身大というか「誰もが牧嶋さんになれる」と思って取り組んでいただきたいと思っています。

この本は、バリアフリーから入って公営住宅に取りかかり、公営住宅をやるなかで高齢者施設のことを考えて、最後は空き家を活用しながら市民を支えていくという流れになっています。
学生を見ていても、福祉というと最初はバリアフリーが思いつくんです。そこをやっていくなかで「公営住宅というものがあるらしいぞ」と知る。ただ公営住宅というところで定型的な住まいが頭に入ってしまって、多くの学生や公務員の方は、「公営住宅があるから、良いじゃないか」で止まってしまう。
牧嶋さんは、その先「公営住宅に福祉施設を入れるにはどうしたら良いんだ」とか、「建て替えるときに福祉施設を誘致するにはどうしたら良いんだ」といったことにチャレンジされています。そこが素晴らしい。

僕は大学院を出て初めて良んで呼んでもらった委員会で牧嶋さんに会いました。2007年です。当時、大牟田市から厚生労働省に出向されていた方から「小規模多機能に詳しいハード分野の人」として紹介されたのです。だから僕は牧嶋さんは小規模多機能に詳しいスペシャリストなんだと思っていましたが、本を読むとその時はまだ数ヶ月しかその部署におられなかった……。
委員会に若い僕も入り、新しことに触れていくなかで、チャレンジさせていただいたのですが、牧嶋さんも同じだったのだと気づきました。

新しいチャレンジをするときに、行政の皆さんは踏み出しにくいところがあるようですが、そうじゃなくてまずはやってみようとこの本を読んで勇気づけられたらと思います。
そういう意味で、この本は全国のすでに公務員になった方にも読んでもらいたい。こういうふうな事例があるんだから「やろうよ」となってもらいたい。

僕は牧嶋さんと最初に出会ったときから、公営住宅に福祉施設が入っているのは普通なんじゃないかと思っていたので、その後、10年間ぐらい仕事で公営住宅に関わるなかで、「福祉施設を併設しませんか」と言っているのですが、なかなか入れられない。
つい最近も「公営住宅の集会所をオープンキッチンにしませんか」という話をしたのですが、「集会室は住民の葬儀の場としても使うので、オープンキッチンにはできない」という話がありました。

それが大牟田では小規模多機能にあわせて地域交流施設をつくるときに、「オープンキッチンにしたほうが、そこでいろいろなコミュニティをつくれるんじゃないか」と牧嶋さんが提案され、どんどん普及していった。
すごく簡単に思えることが、世の中、なかなかできない、と痛感するなかで、この本を読んでもらって、「簡単にできるじゃないか」と思ってもらいたい。そういう意味で、勇気をもらえる人がたくさんいればいいなと思っているところです。

 

二つのテーマ「建築の可能性」「小規模多機能の可能性」

園田いまの皆さんのお話しをお聞きして、進行役として私は二つテーマがあるように思いました。
牧嶋さんが建築を学んで、バリアフリーから入って次は公営住宅。そしてどんどん広がっているというお話がありましたが、建築の仕事にはどんな広がりがあるのか、ということが一つです。
それは、いわば牧嶋さんの人生そのものだと思いますが、とくに公務員という立場で何ができるのか、です。

二つ目は、小規模多機能です。小規模多機能と言っても一般の人は「何、それ!?」だと思うんです。
今日は小規模多機能について、それは何なのか、この本から学べるところ、この本をこえて、今後の可能性についてお話しいただきたいと思います。

まず、普段から一緒にいろんなことをしかけている仲間でもあるお三方のこの本の「押し」を聞かれて牧嶋さんはどう思われましたか?

牧嶋ありがたいかぎりです。おっしゃっておられるように、この本の最後のほうでは、行政の人たちにむけたメッセージが、強くなったと思います。
いま、居住支援協議会の伴走支援のためにいろいろな自治体に伺っていますが、多くの自治体職員が自分たちの仕事の領域を区切ってしまって、新しいことにチャレンジしない自治体が多い。住宅セーフティネットは公営住宅だけではなくて、「空き家を使った住宅セーフティネットですよ」と説明するんですが、自治体の人に受け入れてもらえない、響かないということがあります。そこに風穴を開けることができたらと思って、最後のほうは熱量が高くなってしまいました。

井出良三さんも今日メールで「最終章になるにつれ熱くなったね」と書かれていました。そのほか、「牧嶋という人間がわかりました」とか「いろいろ苦労されたんだね」といった応援メッセージをいただきました。
捨て身の環境でしたが、やってよかったなと思います。

園田牧嶋さんはヘンな公務員とか変わった公務員、いろんな壁をぶち破る人、と言われていますが、そもそもは建築を勉強した人です。建築を勉強する面白さは、そこにあるように思いますが、ぶち破っていくコツ、福祉と住宅をつなぐなんてことがどうしたらできるようになるのか、牧嶋さんのお話と重ね合わせて、三浦先生はどうお考えでしょうか。

 

本質を共有しながら仲間をつくる

三浦この本をよくよく深読みをすると、各取り組みの中に考え方やハウツーがしっかり書いてあり、最後に「これからの公務員に必要な力」として「住民と対話するチカラ」「モノゴトの本質を見抜くチカラ」「つなぐチカラ」「改善するチカラ」と整理さています。これからまちづくり,地域づくり,行政に関わる人が身に着けるべき点についてはまさに、そのとおりだと思いました。

僕が牧嶋さんと出会う前の取り組みがまとめられているのが1章、2章なですが、1章のバリアフリー住宅士養成講習会のカリキュラムを読んで、なんて内容が充実しているのか驚きました。今、出してもピカイチじゃないの。というぐらいに、本質を教える講義科目と講師陣が揃っています。都会だからできたと言うわけじゃないんですね。大牟田だからこそできた。
さらにロールプレイでまとめていって、ストリーテーリングのような形で自分たちの学習をまとめている。
だから、本質を共有しながら仲間をつくっていって全員をその気にしていく,という牧嶋イズムがこの1章に出ていて、それがいずれの章の取り組みにも根底に流れている。それが最終章で四つの力というエッセンスにまとめている。
普段接していると牧嶋さんは語り口が柔らかいのですが、ときどき本質をくっと引かれるんですよね。「こうしたら良いじゃないの」とか「こうじゃない」とか。たぶん、そのノリで対話しながら全員引きつけていったのかな、と思います。

この本を手にとって、公務員になろうとする学生さんは「こういうことができるのが公務員だ」と目標にしてもらいたいし、公務員の方は、「これが原点だったんじゃないの」とか「いや、君たち、ここまでできるんだよ」ということを思い出して、感じて欲しいのです。
交付金を配っているのではなくて、この本を各自治体に、各部署に一冊ずつ配ったほうが良いんじゃないかなあと僕は思っています。

 

仲間の中心にならなくても良い

園田良い提案ですね。この本を読んでから公務員試験を受けてくださいとか。石井先生は、公務員になる学生さんにこの本をお渡しになったそうですが、感想とか聞いておられますか。

石井まだ、感想は聞いていませんが、近いうちに聞いてみます。
東京や仙台といった規模の自治体で、こういうことがどこまでできるのかわからないんですが、東北地方には人口10万人以下の自治体が多くあり、公務員試験を受けてそんな自治体に就職する学生がいます。地方の課題に向き合いたいから地元に戻って公務員になりたいのだと思います。

この本は福祉と建築の話ですが、建築と農業とか、建築からほかの分野につながって地域が抱えている課題に向き合うこともできる。福祉や人口減少はどこも抱えていますが、それ以外にも固有の課題が各自治体にはあります。そこにどう向き合うか、向き合い方がこの本からわかるんじゃないか。
広く取らえると、どんな課題にも対応できるエッセンス、まさに最後の四つの力を持っていればどんなところでどんな仕事でもできる。そういうことを感じ取って欲しいです。
福祉に限らず、公務員になった方が向き合わなければいけない地域で抱えている課題はいろいろある。この本はそうした場面でも応用が利くと思いました。そこが面白く、大事です。

もう一方で、牧嶋さんの人柄、性格と人懐っこさがあって、さまざまなところに入り込んでここまでできていることも、もちろんあると思います。
そういう意味では、みんながみんな同じようにできるかというと、それは難しいだろうなと。同じようにできなくても、同じように向き合うことはできる。そこが大事なところです。それが四つの力です。
誰でも、その人の個性をを生かした、また自分の性格を生かした中での課題への向き合い方があると思います。力の発揮の仕方は、人それぞれ違った形あるんじゃないか。

あとは、一人じゃできない。牧嶋さんも一人でやったとは言っていないですね。いろんな人たちとつながってやっている。
いろんな人たちと一緒にやっていく、自分がその中心でやれる人とやれない人がいるでしょうが、外側からくっついてチームでやっていく、そういう人も大事です。牧嶋さんもそうだけど、牧嶋さんの周りにいた人たちの姿もこの本から垣間見えてくるんです。
一人一人がどのポジションで、どういう役割をもっていくのか、読んでいくと、自分は牧嶋さんにはなれないけれど、こっち側のこういうポジションでできそうだとか、何も言わずに頷いているだけでも実は大事な役割を果たす人がいるかもしれない。そういうところを学生さんが読んで見つけてくれたら良いんじゃないか。

これを読んで牧嶋さんになれと言われたら、「そんなのは無理ですよ」と言われるかもしれないけれど、このなかに登場する人物の誰に自分はなれるかとか、場合によっては住民側の一人として公務員と一緒に物事に立ち向かうことも有りですね。そんなことも学生さんに掴んでもらえたら嬉しいなと思います。

 

牧嶋の原動力は地域に出ること

園田牧嶋さんじゃなくても牧嶋さんのような存在になるには、どこがポイントですか。

牧嶋たぶん、原動力となったのは地域に出ることでした。
障がい者のお宅にいくと子供の将来を考えておられるお母さんとか、高齢者のお宅にいくと介護のことで悩んでおられる介護している家族とか、住民の会合に行くと住民間でトラブルが起きているとか、いろいろなことが見えてくる。そういうときに、「行政の私にできることは何か」ということを考え、私ができる小さいところからチャレンジしていったということです。
昔「風吹けば桶屋が儲かる」という、そんな理論を自分で組み立ててみろと言われたことがあります。社会人になって仮説をたて、それを解決するために、仲間をつくり、考えを共有できる人たちと業種に囚われずにやってきたように思います。
自分たちの仕事を振り返ってみて、一人の公務員として何ができるんだろうということに、問題意識をもちながら、小さなことでも良いからチャレンジしていけたら良いじゃないか、と思います。

 

あくなき改善をしていく素養は建築で培った

園田牧嶋さんそっくりになる必要はまったくないけれど、地域に出るといろんなことが見えてきて、そこをどう問題を発見して仮説をたてて解いていくかだと思います。
山口先生も推薦文で「公務員だからこそできる仕事がある。この本には公務員の魅力や可能性が詰まっている」と書いていただいていますが、いかがですか。

山口公務員にしかできない仕事はたくさんあると思います。ただ公務員にどうやってなるかというプロセスも大事です。僕は牧嶋さんが牧嶋さんになる根幹のところに、最初、設計事務所で働かれていたことが大きいんじゃないかと思っています。
この本の最初にも書かれていますが、設計事務所では理不尽にも、模型をバーンと潰されたり、何回もやり直せと言われるなかで、答えがないものに何回もチャレンジしていきます。より良いモノを目指していくという姿勢が設計者の大きな素養だと思うんです。
そういうことがあるからこそ、理不尽な制度だとか、いろんな問題に直面したときに、少しでも前に前に動かしていこうということができたんじゃないかと思います。

もう一つ、心に刺さったこととして段差をつくってしまった設計のお話しがあったのですが、ハードは一度つくってしまったら簡単には壊せない。すごく当たり前のことですが、結構みんな妥協して、「これで良いよね」という形でつくっちゃうんじゃないかなと。とくに公務員で施策としてつくっていると、つくっている建物と、施策としてつくっているということに距離があります。そのため「この程度で良いよね」とどんどん妥協してしまいます。その結果、標準化されたものになってしまう。
そういう意味で、設計演習をやるように、あくなき改善をしていくということと、つくったものに責任を持つということを、クライアントと直に関わるなかで大切にされてきたのだと思います。
それを公務員としても維持していくかが課題と思いますが、牧嶋さんは現場の人々とつながる中で、その思いを継続されたのではないかと思います。

たとえば僕は公営住宅の研究で住民参加のイベントに月1回、行っていたのですが、ほぼ日曜日なのに牧嶋さんも来られていた。一緒に素麺を食べたり、餅つきをされていました。部下の方もいらっしゃるので、任せしても良いのでしょうが、現場でいろいろとお話をしたり、様子を見たり、そこで雰囲気を感じて、できたものが大事だとか、どんな生活をつくっていくのかを肌感覚で吸収されていたんです。
そういう形で現場に足を運んでいくことが、良いものをつくるということにつながっている、と思います。
公務員でしかできない仕事は多くあるのですが、最初の志をキープするためには、現場が大事じゃないでしょうか。

園田建築から公務員を目指す人だけじゃなくて、設計事務所に行く人もこの本からいろいろな可能性を学べるということ。そして石井先生のお話でいえば、建築と福祉、住宅と福祉じゃなくて、建築と農業、漁業、ひょっとしたらエネルギーとか環境問題とか、いろんな違うものを重ね合わせていく、その実践の仕方、仕事のやり方の教科書になるようなところもある本だとご指摘いただきました。
また三浦先生が言われた歴史の理解も、生半可な字面ではなくて、血と汗と涙の歩みを知ることができるという点で、この本をお役立ていただければと思います。

園田続いて、二つ目のテーマについてお話ししていただきたいと思います。小規模多機能と既に皆さんが何度も言われていますが、知らない人が多いと思います。
牧嶋さん、牧嶋流で説明すると小規模多機能って何でしょうか?

牧嶋私は最初、福祉サービスをする拠点と捉えていたのですが、地域のいろんな人たちが交じ合える、地域を支えるサービス拠点だと思います。福祉に特化しなくて良いんじゃないか、と感じています。
大きく言うと地域の拠点ができた、これは地域交流施設を併設したことで、そういう見方になったんじゃないか、と思います。正確なところは先生方からご紹介ください。

 

喩えればコンビニ

園田三者三様、どのように説明されるか、私もお聞きしたいので、山口先生からお願いします。
小規模多機能とは何か、あるいは大牟田は他と違うところがあるのか、お聞かせください。

山口小規模多機能は喩えればコンビニのようなものと私は考えています。大きなスーパーやショッピングモールが特養などの大規模施設だとしたら、小規模だけど便利なものがいっぱい詰まっているのが小規模多機能です。コンビニがあれば生活ができるように小規模多機能というサービスがあれば在宅で生活することができます。
小規模多機能には通いサービス、泊まりサービス、訪問サービスというサービスがあり、これらのサービスを使いながら主に徒歩圏内の高齢者に介護サービスを届けていきます。

大牟田はそのなかでも地域に多面的に小規模多機能をつくったのが特徴です。
町のなかに小規模多機能が数か所しかない自治体では、利用者も地域のケアマネジャーも「小規模多機能って何?」って感じになり、利用が進まず、使えないサービスのように思われてしまっています。
それを大牟田は一気に多面的に提供した。だから市民や事業者の方々の小規模多機能への理解が深まって、「あんなに便利が良いものだったらどんどん使おうよ」とか、事業者の方も「手を上げたいよね」という形で一気に広がったと思います。

聞いてみますと、経営的にはトントンか、少し利益がでるかというぐらいの難しいところであるのですが、大牟田で小規模多機能の事業をされている方が事業を止めたいという話は聞いたことがありません。むしろ小規模多機能の利点を強く感じておられて、小さなエリアを支えていくことを大事にされている。
最初に牧嶋さんに入っていただいて委員会でつくった冊子には、小規模多機能サービス拠点と、「拠点」を付けていました。それは小さな地域の拠点になって欲しいという思いでした。

 

まちづくりの拠点にもなりうると教えられた

園田石井先生はいかがですか。

石井2006年に厚生労働省の制度で設けられたサービスです。私たちは2006年に「小規模多機能サービス拠点の計画」という調査研究をしました。1年目にはまだ牧嶋さんは入っておられなかったんです。在宅で暮らしている方を支えるサービス拠点だと、いままでのデイサービスや訪問介護やショートスティの機能を併せ持った、なんか面白そうなものができたねというので、我々も手探りで、どうあれば良いかを模索していました。
2年目に、こんな面白い人がいるよ、大牟田でガンガンやっている人がいるよというので牧嶋さんに入っていただきました。2007年のことです。

メンバーはこぶし園の小山剛さん、アザレアンの宮島渡さんや井上由起子先生など、なかなか刺激的な方々でやっていたのです。そんな中で、大牟田がどんどん先に行ってしまうんです。
このときは制度ができたばかりなので、誰もよくわからないんです。どうあったらいいかの答えもない。狭く考えればこれは福祉サービスなので、在宅の高齢者を支える「福祉サービス」の拠点としてつくっていくのが普通の考え方なんでしょう。

しかし、建築の目をもっている牧嶋さんが、まちづくりの拠点にしてしまったのです。そこに地域交流スペースをつけて、福祉だけじゃなくて、山口先生の言うとおり「まちのコンビニ的な拠点」になっていくということを、パッと思いついて、実行してしまった。
国は日常生活圏域は中学校区と想定していたのに、大牟田は小学校区単位でどんどん設置しちゃった。あ~、制度って使いようなんだな…と思いました。最低の基準さえ守っていれば何でもできるということを、大牟田市や牧嶋さんの取り組みから教えてもらいました。制度を使いこなすということですね。
「こんなこと、できちゃうんだ」ということです。ほんとにあっという間にです。

小規模多機能を福祉を超えたものとして捉えることは、福祉の側にいる人だけではできなかった。そこは建築の人間が福祉に入り込むことの醍醐味、またそれを受け入れた福祉側が大牟田にはあって、一緒になって出来あがっていったものだと思います。
あれから15年ぐらい経っていますが、いま地域にどう根付いて、地域でどんな存在になっているのかを、後でお聞かせください。

 

小規模多機能は宅老所

園田その点は是非牧嶋さんにお答えいただきたいと思います。
その前にちょっと確認なのですが、小規模多機能が生まれて直後の2007年は、牧嶋さんは福祉部局だったのですか?

牧嶋福祉部局です。

園田そうですよね。というあたりも絡んでいるようですが、三浦先生、小規模多機能についてどうでしょうか。

三浦改めていうと、これは宅老所なんです。
宅老所というのは1980年代後半から、いわゆる大規模施設の画一的な介護に飽き足らない人たちが、制度に頼らずに民家を活用して、初めは昼間通ってこられるお年寄りを支え、そのお年寄りがだんだん家に帰れなくなったら、じゃあ泊まれるようにしようかとなり、在宅で通ってこられない方は家まで支えに行くというように、状況に応じて変化、発展していったものなのです。
2006年、北欧も制度にしていない日本オリジナルの宅老所を厚生省が英断で仕組みにしたのが小規模多機能です。ではどういう箱が小規模多機能を制度化する際に相応しいのかを、さきほど話が出たように日本医療福祉建築協会で検討しました。しかし全国には民家を改修した宅老所はありましたが、まだ新しく建てる際の決定的モデルがなかったので、福祉の人たちだけでも形は決められない、建築の人の知識だけでも不足するので、実態を踏まえて仕組みをつくっていかなくてはいけない。しかも制度は1回つくったら硬直化してしまって新しい活動の芽を摘んでしまう。
そこで日本医療福祉建築協会の小規模多機能の委員会には牧嶋さんなど、全国で先駆的に活動されていた方々に入っていただき闊達な議論ができました。だから当時取り組んだ報告書は、こういう形が良いんだと示すのではなくて、押さえてもらわないといけない本質はなんなのかを示すものとしました。

僕自身の答えとしては小規模多機能は、施設ではなく、住宅にかぎりなく近づいた、また民家を活用しながら在宅に近いケアを提供しようというものです。
本当は家で介護したいんだけど、家でできない時にどういうふうに家庭に近い環境でその人らしい暮らしを追究するのか、施設じゃない形をもう一度定義して、施設的に制度化したものだと言えるんです。ちょっと矛盾した言い方になりますが…。
だから、小規模多機能居宅介護施設という名称を、僕らは施設と呼びたくなかったので小規模多機能サービス拠点と言ったのです。
当時、僕らは、新しい箱をつくっていく責任とやりがいに燃えて喧々囂々、議論したのです。いま、全国的にみたら、当時僕らが思いを寄せていた小規模多機能が、そこまではうまく伸びなかった。それには、介護の担い手が減っているとか、報酬が抑制されてしまうなど、制度を使ううえでも難しい状況が背景にあると思います。

それにくわえてもう一つ、牧嶋さんがこの本のなかに書いている、職員さんたちの事業所を超えたネットワークが地域にないというのが大きい。
小さな事業者さんは仲間がつくれないからバーンアウトしてしまう。悩みも相談できないし、支え合えない、知識も共有できない。そうした課題に対して、それまでの仲間づくり、この本に書いてある「一人じゃ力を発揮できない」という経験からか、介護施設の垣根をとって学び合えるという仕組みを合わせてつくられています。
そこが画期的です。ほんとうは小規模多機能の制度の仕組みのなかに落とし込めたらよかったのかもしれません。
交流拠点をつくったり、小学校区にひとつというのは、そこまでできたら理想だけれど、それではハードルが高すぎるだろうと国も踏み込めなかったところを、大牟田では牧嶋さんがうまく議論をリードして作り上げた仕組みだと思います。

牧嶋さんからご覧になって、小規模多機能がどうなのか、大牟田で当初狙っていたことがどうなったのかを伺って見たいと思います。

 

大牟田市の小規模多機能の現在

園田牧嶋さん、リクエストがいっぱいです。小規模多機能の現在の立ち位置とこれからを語ってください。

牧嶋すべての小規模多機能と直接関わりがあるわけではありませんが、いくつかの小規模多機能の管理者の方のお話をします。
最近、聞くのは介護職員が来てくれない、誰か介護職の人いませんかとかいった話ばかりです。人材が不足し職員の質が落ちてきたなという印象がぬぐいきれません。これからどうなるか、という不安なところはあります。

昔は小規模多機能で従事をしながら地域交流施設に職員が関わり、そして、地域コミュニティにかかわっていく、というができていたように思いますが、最近は職員に余裕がなくて、地域まで目が行き届かないのかなと感じています。
大牟田で小規模多機能がいま20カ所ちかくありますが、一件だけ止められました。けれど大牟田の地でしっかり地域に根づいていると思います。いまも小規模多機能連絡会だったり、年末の忘年会などで、職員さん同士がコミュニケーションを取りながらやられている。小規模多機能がお互いに切磋琢磨する環境は残っており、伸びしろはまだまだあると思っています。

園田小規模多機能という大きな可能性を持っているものについて、牧嶋さんの実践と、その立ち位置、それから三浦先生から今後の課題のご指摘もあったので、読者の皆さんもその辺を読み込んでいただけたらと思います。
最後に一言ずつ、読者へのメッセージをお願いします。山口先生いかがでしょうか。

 

空き家をつかって地域を支える

山口いま、牧嶋さんも含めて、ここにいるメンバーで、奄美大島で過疎化が進んだ村の特養を解体して、民家を活用して小規模多機能や小さな高齢者住宅をつくろうとしています。
なぜ、民家を使って福祉施設をつくれば過疎化の村を支えられるのか、ということも、この本を読むとお分かりいただけるんじゃないか。

小規模多機能と居住支援協議会を組み合わせると、団地の空き家を使って高齢者とか、地域を支えることもできる。これから都市部の近郊でどんどん出てくるオールドタウンも、どういうふうに解決していけばいいのか、その解決方法のきっかけも牧嶋さんの本のなかから見つかるのではないかと思います。
なんでも解決できるというとヘンなのですが、これから都市部においても地方においても空き家を使ってどのように介護を支えていくのか、まちづくりをしていくのかがキーワードになる。

ただ建築側から空き家だけ見て、リノベーションっていうか、カッコ良い空き家だけ見ていても、人々を支えるところにつながりきれないところがあります。実は福祉といういう視点から空き家を見ていくことで、これから地域をつくるきっかけになるんじゃないか。
そういう意味で、この本は福祉と住宅に興味がある方にも読んでいただきたいし、空き家を使ってこれから何かをしたいと思っている学生さんや設計の方にも読んでいただきたい。
最後に、公務員の方に是非読んでいただいて、諦めるのではなくて前に進めていただければと思います。

 

気軽に読めるけど深い

石井この本は誰が読んでもすんなり読めるんです。難しい話はありません。小規模多機能とか知らない言葉が出てきても、本のなかで理解できます。本当に気軽に読める内容だけど、そこで語られていることが結構深いので、それをどう捉えるかは、いろんな立場の人で変わってくると思います。
建築の人はもちろん、行政の方にも読んでいただきたいですね。あとは福祉に関わる人にも読んでいただいて、福祉側から建築への興味、「福祉と建築ってこんなつながりがあるんだ」ということを知っていただくためにも良い内容です。あと、まちづくりの方にもぜひ読んでいただきたい。

建築を学んでいる学生は、大学で建築のことは詳しくなるのですが、その先、もうひとつステップアップするには、それ以外の世界とつながることが大事だと思います。仕事をするようになったときにも、それがあるがないかが、その人がどんな分野で活躍できるか、どんな力を発揮できるかに関わってくる。
だから建築以外の分野に興味をもっていくことが大切ですが、そのとっかかりとして「福祉」はとてもいい。

牧嶋さんは、最後は熱く公務員像を語りますが、「はじめに」でさらっと「福祉=暮らしと住まい」と言ってスタートしています。これもいいですね。福祉は、住まいと住宅に行きつく。建築を勉強している人は、これからの時代、福祉というキーワードから建築を見直さないと、建築を学んでいることの意味とか、建築の本質が分からないと思います。

最近は、福祉や高齢者の施設に興味がある学生が少なくなっているように見えます。しかし建築と福祉は近いところにあるし、そこから学べることはほんとうに多い。まずこの本を読んでいただいて、興味を掘り下げてもらえたら嬉しいです。住宅から入るもよし、施設から入るもよし、福祉から入るもよし、すべて話しはつながります。必ず、興味が見つかる一冊だと思います。

 

自治体は次の牧嶋さんを育成して欲しい

三浦福祉や医療、防災は誰もが関心を持っておられるテーマだと思います。
『福祉と住宅をつなぐ』は住宅の視点から福祉を立体的に見ていますが、逆に、福祉や医療の専門とする方からも読みごたえのある本です。
くわえて、この本で書かれている「四つの力」。とくに「仲間をつくって組織を変えていく」などのエッセンスは、行政の外から行政にアプローチしようとする人、また行政のなかにいてその垣根の取り払い方に悩んでいる人、両方に役に立つ本です。

私も推薦文で「各自治体は次の牧嶋さんを育成して欲しい」と書きました。一人が、これだけのきっかけづくりや、地域を動かせるのですから、自治体はぼやぼやしないで、次の牧嶋さんをそれぞれの地域で発掘して、大切に育てて伸ばしていくことが大事です。市民の方にはそういう行政を応援していく前向きの気持が重要だと思います。
読んでいただいたら、いろいろな切り口から「そうだな」と思えるところがあると思いますので、参考にしていただければと思います。

園田ありがとうございました。
『福祉と住宅をつなぐ』について今日も熱くゲストの三先生、著者の牧嶋さんに語っていただきました。
今日の座談会はほんのサワリのところだけですので、皆さん、百聞は一見にしかず、是非この本を手にとって真髄を味わっていただきたいと思います。

『福祉と住宅をつなぐ 課題先進都市・大牟田市職員の実践』牧嶋 誠吾 著

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