「共通言語」としてのSDGs ――『SDGs×公民連携』著者・高木超さんインタビュー
まちなかの広告やテレビ番組でも目にすることが増えた、「SDGs」という言葉。
特に地域の自治体が取り組むイベントやプロジェクトでは、チラシやウェブサイトに、関係するSDGsのゴールを表したカラフルなロゴが添えられていることが少なくありません。
しかし、自治体でのSDGsの活用を推進する高木超さん(慶應義塾大学大学院特任助教)は、そうした“ただの紐付けだけで満足していてはいけない”と話します。
今回は、2022年3月に発売される新刊『SDGs×公民連携 先進地域に学ぶ課題解決のデザイン』の執筆経緯やおススメポイントなどにも触れながら、その真意を伺いました。
[聞き手:松本優真(学芸出版社企画編集部)]
―「SDGs」という言葉、テレビ番組やまちなかの広告でも見聞きする機会がずいぶんと増えました。あらためて、SDGsとはいったいどういうもので、どうして注目されているのか、高木さんなりのお考えを簡単に教えてください。
「持続可能な開発目標(SDGs)」とは、2030年を達成期限とする世界共通の目標です。
SDGsでは「貧困をなくそう(ゴール1)」や「気候変動に具体的な対策を(ゴール13)」といった17のゴールが設定されていますが、裏を返せば、世界の課題が集約されているとも言えます。
そのため、政府だけでなく、企業や自治体といった多様な主体が、それぞれ「自分たちに関係のあること」と捉えることができる点は注目されている理由のひとつだと感じています。
―高木さんはSDGsを自治体で活用するためのアドバイザーとして各地で活動されていますが、具体的に現場ではどのようなお仕事をされているのでしょう?
それぞれの自治体で、職員の皆さんと一緒にSDGsを推進する方策を検討したり、自治体の皆さまが悩んでいるポイントの解決策を一緒に考えたりすることが主な役割ですが、時には職員研修で講師役を務めることもあります。
いずれにせよ、私自身が自治体職員として働いていた経験も活かしつつ、それぞれの地域の文脈を理解しながら、持続可能なまちづくりの実現に向けた伴走者になることを心がけています。
― SDGsの活用に悩む自治体に共通してみられがちな課題としては、どういうものがあるのでしょうか?
例えば、「各種計画にSDGsのカラフルなアイコンを紐付けて表示しているので、既に十分活用している」という声を聞くことがあります。しかし、その方法で地域に何か変化は起きるでしょうか。
確かに、各種計画で既存の施策や事務事業をSDGsの観点から整理することは、活用に向けた重要な一歩です。しかし、それで満足してしまっては、せっかく時間を費やしたのに効果のない「無駄な仕事」になってしまいます。
そこで、こうした課題を解決するヒントを提供したいという思いから、これまで書籍を出版してきました。
―2年前に出版された『SDGs×自治体 実践ガイドブック』は、各地の自治体担当者の方に広く手にとっていただいているようです。具体的な反響で印象に残っているものがあれば教えてください。
とても嬉しいことに、「実践ガイドブックをバイブルに、何度も見返しながら自分たちの地域の取り組みを考えている」という言葉を寄せていただくことがあります。
ほかにも、付箋がびっしりと貼られて、何度も読み込まれたことが分かる書籍を持参いただくこともあります。書籍を出版して良かったと思える瞬間です。
―SDGsをテーマに掲げた書籍はたくさん刊行されています。その中で今回の新著『SDGs×公民連携』はどのような特長がありますか?
本書は、自治体だけでは解決することが困難な地域課題を「公民連携」という切り口から考えていくための書籍です。全国で取り組まれている実践事例を多数紹介していることや、自治体が今後向き合うことになると思われる課題を、具体的なキーワードで解説していることは本書の強みだと思います。
また、SDGsと身近な暮らしの接点をみつけるためのカードツール「MIJI-SUS(みぢさす)」をノベルティとしてご用意しています。
これは、誰もが一度は目にしたことがあるような風景が切り取られた写真(表面)と、SDGsの関係についての解説(裏面)から成るカードを用いて、日常生活に存在しているけれども、なかなか意識しない「サステナビリティの種(SDGsの要素)」をみつけていただくためのツールです。ぜひ友人や家族、同僚と一緒にカードを囲み、日常生活とSDGsのつながりについて話し合っていただければ嬉しく思います。
―執筆にあたっては、総勢50名以上の方々にインタビューやヒアリングを敢行されました。どの地域の事例も先進的ですが、特に印象に残っている取材先でのエピソードがあれば教えてください。
どの地域も印象的ですが、徳島県上勝町が公民連携で設置・運営している「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」では、併設されているHOTEL WHYに宿泊し、町民の皆さんが行っている45分別を体験することができます。
これまで自分が「ごみ」として捉えているものが「資源」であると実際に体感できたことは、強いインパクトがありました。
―最後に、読者の方に向けたメッセージをお願いします。
SDGsが企業や住民に広がるにつれて、「共通言語」として公民連携を加速させる媒体としてのSDGsの価値も高まっていると感じています。
地域課題を行政が「独り占め」するのではなく、行政の外に「ひらく」ことで、多様な主体とともに課題を分析し、互いの強みを出し合って解決していく。その過程で、本書が多くの皆さまのお役に立てることを願っています。
(インタビューおわり)
編集担当者より
“取り組みとゴールの紐付けだけで満足してはいけない”という高木さんのメッセージは、もちろん民間企業や市民活動にも当てはまるものです。
今回の新刊『SDGs×公民連携』の製作にあたっては、カバーや帯、表紙、本文のすべての用紙に環境対応紙や再生紙を使用しました。また書籍本文はすべてユニバーサルデザインフォントを使用しています。
こうした、書籍の仕様としての最低限の価値を実現するだけでも、コストや印刷効率、デザイン性など、ほかに達成すべき価値との「トレードオフ」に悩むことになりました。
まさにこのトレードオフの実感こそ、単なる紐付けを超えてSDGsを活用していくための端緒となるものだと感じています。
書籍について
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