田中智之、観点の根元を語る in 加古川 |レポート

2021年9月13日、加古川のすてきなコワーキングスペースmocco 加古川さんで行われた『超建築パース』出版記念トークのレポートです。

『超建築パース 遠近法を自在に操る26の手描き術』出版記念

田中智之、観点の根元を語る|Public talk Kakogawa

濃紺の線画で建築や空間をいかにわかりやすく伝えるかを長年試行錯誤しておられる田中智之先生。めくるめく華麗なタナパーたちはこれまでも2冊本になっており、当日3冊並んだ濃紺の世界は圧巻。最新刊『超建築パース』では、その【奥義秘伝を大公開】しています。

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(当日販売したタナパー3兄弟本。彰国社さんの2冊と弊社1冊です)

トークでは、タナパーの作者の【観点の根元】をぐいぐい深掘りしていきました。まずはタナパーの定義から。

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そんなこんなで早稲田大学の建築界隈でウワサになっていた「タナパー」。最初に大勢の観客の度肝を抜いたのは、なんといってもやはりこの新宿駅大解剖。

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圧巻です。当時グーグルで構内図を検索すると、本家本元のJR構内図と日夜検索トップを争っていたとか。難解な構内に頭を悩ませる人がいかに沢山いたのか、よくわかったそう。さらに声がかかり、渋谷駅も描くことに。2011年の渋谷駅図解はさらに発展し、過去に遡って1961年当時の駅をまったく同じアングルで絵に起こすというプロジェクトも。今はもう無い空間をいかに立ち上がるか、涙なしには語れません笑、と田中先生。実はこのタナパー、東急不動産ビルSOLASTA前に、常設展示されてます(一連の超大作は彰国社さんの『階段空間の解体新書』に収録されていますので要チェックです!)。

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ちなみに、当日のトークは、リアルタイムでグラフィックレコーディングとして記録されていました。描き手は『描いて場をつくるグラフィックレコーディング』の著者のお一人・石本玲子さん(本記事の最後に完成版一覧しています☟)!

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『描いて場をつくるグラフィック・レコーディング 2人から100人までの対話実践』有廣悠乃 編著

ここからは「観点の根元」という難易度高めのお題を田中先生がとってもわかりやすく解説してくださったトークの要約です。

タナパーのポイント❶遠近法と「多視点」の共存

ダヴィンチとブリューゲルの絵の比較でわかりやすく説明してくださった田中先生。ダヴィンチは遠近法のみで大事なところと大事でないところのメリハリをつける。他方ブリューゲルの「子供の遊戯」は遠近法+多視点で、どこを見ても面白い。いつもブリューゲルのような絵を描きたいと思っているそうです。

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(左はダヴィンチの絵、右はブリューゲルの絵)

また、多視点は経験でもあると言います。
たとえば、段裏が美しい村野藤吾の階段の経験は、一枚の写真ではなかなか臨場感をもって伝わらない。

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(村野階段:左はふつうの写真、右はホックニー的コラージュ写真)

デイヴィッド・ホックニーの『カメラワークス Cameraworks』のように、何枚もの写真の断片を継ぎ合わせることで、その場で体験した見えるままの立体を二次元におさめることを試みます。つまり、このねじ伏せるパースは建築家・村野藤吾の「こだわり(=段裏)」を伝えることが目的なのです。そのために段裏を極端に「肥大化」させたのがこちらの図解。

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そのほかにも、遠近法では生まれない没入感を高めたり、自分がいまそこに居る感じ、を表現したり。「画面の手前にいかに情報を引き出すか」。『超建築パース』第4章にも詳しいヒントが解き明かされてます!

タナパーのポイント❷多視点と「没入感」の両立

見る人がまるで絵の中をうろうろしている心地にさせる、見ている人に参加してもらえる絵、というチャレンジも。エッシャーのだまし絵や洛中洛外図のように、一人ひとりに解釈をゆだね、めくるめく鑑賞体験を埋め込んでいくという発想。

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ちなみに一枚目のだまし絵的遊び心が詰まったまちの絵は、園田聡さんの著書『プレイスメイキング』(こちらも弊社刊)の装画なのです…!参加の体験を装丁にも埋め込んだ一冊。ぜひ書店さんで手に取ってみてください👇

『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』 園田 聡 著

タナパーのポイント❸遠近法と「キュビズム」の融合

次は、会場がある加古川のお隣、明石の絵です。明石市立図書館のオープンを記念して描かれたこの絵。最初はよくある鳥瞰写真のように描こうかと思ったそうですが、近代絵画の技法・ピカソに代表されるキュビズム画家たちの表現に倣って、空間の多面的な実態をぎゅっと同居させ、体験を凝縮して仕上げた一枚。超高度なワザではあるものの、水平線をしっかりおさえればいい感じにまとまりが出るのだそう。

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生きた画を追求しつづける。今まで見たことのなかった画を描きたい、まだだれもやったことのない技法で描きたい。そんな思いが大きな原動力になっていると田中先生は話し手くださいました。ということで、「タナパーの観点の根元」をまとめると、この3つになりました!

❶遠近法と「多視点」の共存

❷多視点と「没入感」の両立

❸遠近法と「キュビズム」の融合

・・・言葉にすると難解ですが、絵を見たり解説を聞きながらだとすんなり理解できるのが不思議。これもまたパースの力ですね。

タナパーQ&A

会場からの質問もどんどん出てきて盛り上がりました。

Q.「なんで青のスケスケ線画になったんですか?」

A. 黒インクより見る側に参加をゆるす、青焼き図面の自由さ・柔軟さを出すため…というのは真っ当な理由で、実は高校の時、隣の席の帰国子女の子が青いボールペンでさらさら書くノートがかっこよかったから笑

Q. パースを描くことは設計やデザイン行為にどんな作用・意味をもつか?

A. 頭の中は結構いい加減。手を動かして描いてみる、外部化することで、空間設計の思わぬ出会いがある。もうひとつはまちづくりなどコミュニケーション。議論をとにかくパースで仲介。それいいね、とどんどん意見が出てくる。パースを描くということは、自分自身とのコミュニケーションでもあり、他者とのコミュニケーションでもある。描く経験を積むほど、どんどんデザインもうまくなっていくのでは、と田中先生。プロジェクトベースで考えても、パースがあれば設計者も市民も、さまざまなプロセスで参加のきっかけになるそう。

Q.  愛用の道具は?

A.  ふつうのコピー用紙と、どこにでも売っているパイロットのHITEC-Cだそう。あと修正液も「バリバリ使う笑」そうですが、唯一初めてノー修正液を完遂したのは、明石のパースだとか。理由は「初めから原画納品が決まっていたから」。すごいプレッシャーだったようです・・・

Q.  タナパーのちょっと湾曲した線は、なんでそこそこ直線に見えるのか?

A.  目は球体で人の見る直線は曲がっている。湾曲させるとその線に関心が向きすぎるためあくまで視線の誘導程度にとどめている。直線として見えるギリギリを狙って、常に最小限のゆがみを意識しているそう。

Q. 無駄な線を描かないためには?

A.  最初は無駄な線を書いてしまって当たり前。人に見てもらって客観的な評価を元に、「このぐらい少なくてもいけるんだ」という経験値を積むことが大事、とのこと。

などなど、予定時間を大幅にオーバーして盛り上がったイベントでした。

グラフィックレコーディング大公開!!

石本玲子さん作・当日のグラレコも大公開いたします。いろんな図法の応用術もイラストスッキリまとめてくださり、盛り上がった質疑までびっしり。トークの臨場感が少しでも伝われば幸いです。

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以上、イベントレポートでした。山ほど持っていった本、トークの面白さを裏付けるようにするするあっという間に見事完売いたしました!さらに『超建築パース』はお隣のまち、明石市立図書館さんの特設ブックトラックでも盛り上がっております!

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昨日のイベントには明石高専の学生さんも大勢参加くださってました。播磨地域で同時多発的にタナパー熱が盛り上がって嬉しい限り。

当日お越しいただいた皆さん、ありがとうございました!ということで、書籍をまだ手に取っていない方は、書店さんでぜひ、ページをめくってみてください!

『超建築パース 遠近法を自在に操る26の手描き術』田中智之 著