プレイスメイキング

園田聡 著

内容紹介

街にくすぶる不自由な公共空間を、誰もが自由に使いこなせる居場所に変えるプレイスメイキング。活用ニーズの発掘、実効力のあるチームアップ、設計と運営のデザイン、試行の成果を定着させるしくみ等、10フェーズ×10メソッドのプロセスデザインを、公民連携/民間主導/住民自治、中心市街地/郊外と多彩な実践例で解説。

体 裁 四六・272頁・定価 本体2200円+税
ISBN 978-4-7615-2709-9
発行日 2019/06/10
装 丁 水戸部功

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44ページ公開中!(はじめに、1章)

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はじめに――なぜ今、プレイスメイキングなのか

1章 プレイスメイキングとは何か

1 センス・オブ・プレイスの思想
2 プレイスの構成要素
3 都市デザイン手法としての確立
4 日本にも息づく「プレイス」の文脈

2章 プレイスメイキングのレシピ

1 プレイスメイキングの10のフェーズ

Phase 1 「なぜやるか」を共有する
Phase 2 地区の潜在力を発掘する
Phase 3 成功への仮説を立てる
Phase 4 プロジェクト・チームをつくる
Phase 5 段階的に試行する
Phase 6 試行の結果を検証する
Phase 7 空間と運営をデザインする
Phase 8 常態化のためのしくみをつくる
Phase 9 長期的なビジョン・計画に位置づける
Phase 10 取り組みを検証し、改善する

2 プレイスメイキングの10のメソッド

Method 1 チェック・シート
Method 2 ザ・パワー・オブ10
Method 3 ストーリー・シート
Method 4 ステークホルダー・マップ
Method 5 サウンディング
Method 6 簡単に、素早く、安く
Method 7 フィードバック・ミーティング
Method 8 プレイス・サーベイ
Method 9 キャラクター・マップ
Method 10 プレイスメイキング・プラン 3 プレイスメイキングの体系

3章 街を変えるパブリック・プレイス──国内外の先進事例

CASE 1 オポチュニティ・デトロイト(アメリカ・デトロイト市) -財政破綻からのコミュニティ再生
CASE 2 北鴻巣すたいる(埼玉県鴻巣市) -住宅地の価値を高める環境デザイン
CASE 3 左近山みんなのにわ(神奈川県横浜市) -住民の自治による新たな団地再生
CASE 4 北浜テラス(大阪府大阪市) -水辺の価値を民間主導で顕在化する

4章 実践!プレイスメイキング――誰でも街にコミットできる現場

PROJECT 1 あそべるとよたプロジェクト(愛知県豊田市)-「つかう」と「つくる」で駅前を再生する

INTERVIEW 1 栗本光太郎(豊田市役所) ―なぜ、豊田では本質的な公民連携が実現できたのでしょうか?
INTERVIEW 2 神崎勝(ゾープランニング) ―誰もがチャレンジできる街は、どうすればつくれますか?

PROJECT 2 小田原Laboratory.(神奈川県小田原市) ―誰でも始められる空き地の活用

5章 アクティビティ・ファーストの都市デザイン

1 これからの時代の都市デザイン・プロセス
2 エリアマネジメントとプレイスメイキングの違い
3 与えられる都市から、自ら獲得する都市へ おわりに

園田 聡(そのだ・さとし)

有限会社ハートビートプラン。 1984年埼玉県所沢市生まれ。 2009年工学院大学大学院修士課程修了。 商業系企画・デザイン会社勤務を経て、2015年同大学院博士課程修了。博士(工学)。 2014年~小田原Laboratory. 代表、一般社団法人国土政策研究会公共空間の「質」研究部会ディレクター。 2015年~工学院大学客員研究員。 2015~2016年株式会社アーバン・ハウス都市建築研究所研究員。 2016年より現職、特定認定NPO法人日本都市計画家協会理事。 専門は都市デザイン、プレイスメイキング。 現在は、大阪・東京を拠点にプレイスメイキングに関する研究、実践に取り組んでいる。

―なぜ今、プレイスメイキングなのか

都市の中で起きる人々の多様な活動は、その都市の生活の豊かさを表す最もわかりやすい指標の一つである。小さな飲食店が軒を連ねる界隈では、大人たちが道端でアフター5の一杯を楽しむ。ストリートミュージシャンが音楽を奏でる街路を、学校帰りの子どもたちが戯れながら通りすぎる。駅前広場のコーヒースタンドでは買物途中の主婦が知人と立ち話に興じている。こんな何気ない日常のシーンが見られる都市では、きっと誰もが幸福度の高い生活を送れるだろう。

現代都市における公共空間研究の第一人者であるヤン・ゲールは著著『建物のあいだのアクティビティ』で「屋外活動の三つの型」を提示している。義務的な意味あいを持つ通勤通学等の「必要活動」のみならず、散歩やレクリエーションといった「任意活動」、挨拶や会話、偶然の出会いといった他者の存在によって初めて成り立つ「社会活動」をいかに促進できるかが、活動の多様性を生みだす一つの基準となる。

プレイスメイキングの世界的な先駆けであるニューヨークのNPO、Project for Public Spacesはその著書『オープンスペースを魅力的にする』の中で、「街やコミュニティに活き活きとした公共的な空間がある場合には居住者は強いコミュニティ意識を持つことになる。また、反対にそういった場がないときには人々はお互いに結びつきが希薄だと感じることになる」と指摘している。

ヤン・ゲールも、「街を動きまわり滞留する人が増えると、一般に街の安全性が高まる。人々が歩きたくなる街は、適度なまとまりのある構造を持っている。つまり、歩行距離が短く、魅力的な公共的空間があり、変化に富んだ都市機能を備えている。これらの要素は、都市空間のアクティビティと安心感を高める。そこでは街路に多くの目が注がれ、まわりの住宅や建物にいる人々が街で起こっている出来事に積極的に参加する」(『人間の街』)と、都市における公共空間の重要性を示唆している。

そして、大阪大学名誉教授の鳴海邦碩は、その著書『都市の自由空間』の中で「『自由空間』は、単に交通のみの場ではなく、そこは自然と出会い、人と出会い、さまざまな仕事や情報と出会う場であり、それが都市らしさを支えている。別の言い方をすれば、『自由空間』こそが、都市の魅力を表現しているのであり、また、都市の魅力を感じることができるのは、『自由空間』を通じてなのである」と述べている。

こうした多様な活動の受け皿となる街なかの公共空間を、本書では「人々の居場所=プレイス」と呼ぶこととする。地域の人々の手によって獲得された「プレイス」は、都市において利用者がその場所の使い方や意味を自由に解釈できる「余白」的な機能を果たし、都市の多様性を受け入れながらも地域の個性を顕在化させる場となる。そのため、都市の規模の大小にかかわらず、単なる空間としての「SPACE/スペース」ではなく、人々の居場所である「PLACE/プレイス」と呼べる場所をいかにつくっていくかが、これからの都市において重要な課題となる。

 

プレイスメイキングの取り組みは、「地域の人々が、地域の資源を用いて、地域のために活動するプロセス・デザイン」であり、「プレイス」を生みだすための協働のプロセスに携わることによって、運営者や利用者となる人々に場所への愛着が芽生え、豊かな公共空間というのは「与えられるもの」ではなく「自ら獲得し育むもの」だという意識の転換が起きる。それは、人口減少や行政の財政悪化といった日本の都市を取り巻く厳しい状況において、地域の社会関係資本を活用し、強化することにもつながる持続可能なアプローチでもある。

たとえば公園や広場、街路といった場所は、最も多様な人や活動が集まる場所であり、こうした場所がきちんと整備され、日常的に利用されていれば、そこは皆に憩いや刺激、出会いを与えてくれるプレイスとなる。それが住宅地にあれば、そこで遊んだ子どもたちの原風景となる。それが商業地にあれば、人々が街に出かけるきっかけとなり、滞在時間が増えることで消費機会を誘発し、経済効果を期待することもできる。

こうした、多様な属性の人々やアクティビティを許容する「プレイス」を生みだし、都市に豊かな暮らしの風景をつくるための方法論がプレイスメイキングである。

近年加速する道路や公園の規制緩和によって、各地で公共空間の活用が活発に行われているが、なかには一時的なイベント利用にとどまっているものも散見される。本書で紹介するプレイスメイキングの方法論が公共空間の整備・活用の一助となり、単なる空間活用のイベントではなく、本質的な都市生活の豊かさの向上につながる取り組みが増えれば幸いである。

園田 聡

「はじめに」で触れたような「豊かな暮らしのシーン」は、元来日本の都市空間の至る所で営まれてきた。それは1章でも解説したが、日本の伝統的な建築と都市の構成が「余白」と言えるようなセミ・パブリック、セミ・プライベートな空間を内包するものであり、その「余白」が多様なパブリック・ライフの受け皿となっていたからである。人口が減少に転じモノも空間も余剰になるこれからの日本の都市では、物理的な「余白」が大量に生まれる。空き家や空き地はもとより、利用されなくなった公園や交通量の減った道路、シャッターを降ろしたままの店舗等、所有・管理形態がさまざまな空間である。そうした空間の中から真に潜在力を持つものを発掘し、「アクティビティ・ファースト」の考え方で身の丈に合った改変・活用をしていくことが、これからの都市デザインの一つの使命ではないだろうか。

プレイスメイキングはそうした都市デザインの一つの選択肢として大いに有効な手段である。本書は、プレイスメイキングの本質を正しく理解し、一過性のムーブメントではなく、地に足のついた手法として実践の現場で役立ててもらいたいという願いを込めて執筆した。

今後生まれてくる膨大な都市の「余白」を目の当たりにして、真に価値のある取り組みをしていくためには、「どうやってやるか」の前に「なぜやるか」をすべての人が共有することが非常に重要である。各種の規制緩和制度や補助金を活用すること自体が目的化してしまっては、都市の本質的な豊かさの向上にはつながらず、無駄な時間と金を浪費するだけである。そうならないためには、改めて地域と向きあい、本当の意味での「選択と集中」に取り組む必要がある。本書で「プレイス」の概念から解説したのも、地域で大切にすべきことがそのまま空間に表出するような豊かな都市をもう一度取り戻したいという思いからである。これからの日本の都市を支えていく皆さんにとって、本書が日本の都市の豊かさとは何かを見つめ直すきっかけになれば幸いである。

最後に、本書の出版にあたりご協力いただいた皆様に改めてお礼をお伝えしたいと思います。私にプレイスメイキングの概念を教えてくださったのは、大学に入った18歳の頃から都市デザインのいろはを教わっている工学院大学名誉教授の倉田直道先生でした。そして、博士論文としてまとめる際に多大なるご支援をいただいた工学院大学の野澤康先生、遠藤新先生、星卓志先生をはじめとした都市計画分野の先生方や、日本におけるプレイスメイキング研究の第一人者である筑波大学の渡和由先生と日本大学の三友奈々先生には、日本の学術界におけるプレイスメイキング研究の意義と可能性を教わりました。

また、株式会社都市環境研究所の土橋悟さんと高野哲矢さん(当時)、まちなか広場研究所の山下裕子さんと有限会社ハートビートプランの泉英明さんには、学術研究の成果が実際に日本の都市デザインの現場で活かせるものであることを証明する機会をつくっていただきました。本書の多くの部分が実務の現場での実践に基づく理論と手法として構成できているのは、この方々とのご縁があったからこそです。

さらに、本書の中で紹介させていただいた各地の現場で活動されている皆様にも心よりお礼を申し上げます。繰り返しになりますが、プレイスメイキングとは海外から輸入した画期的な概念ではなく、これまで日本でも広く取り組まれてきた優れたプロセス・デザインを再定義するものです。ですので、私自身も今回紹介させていただいた各地の現場の皆様に多くを学びましたし、本書の執筆はその取り組みがどのように都市に価値を生みだしたのかを改めて言語化する作業であったとも言えます。

そして、最後になりましたが、本書の企画をご提案いただき、私の筆が進まない時も粘り強く伴走してくださった学芸出版社編集者の宮本裕美さん、表紙のデザインを手掛けていただいた装幀家の水戸部功さん、表紙の挿絵を描いていただいた「世界のタナパー」こと熊本大学の田中智之先生にも厚くお礼申し上げます。プレイスメイキングという概念を、文章やビジュアルを通じて読者の方との共通言語にしていくというプロセスを、このような素晴らしいチームでチャレンジできたことは、私自身にとって生涯の宝物になりました。  多くの方に支えられて形になった本書が、皆様のパブリック・ライフをより豊かなものにする一助となることを願っています。

園田 聡

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