【受付終了】[レポート]小さな対話から都市をプランニングする@大和郡山(2019/09/28|奈良)

※詳細は主催団体等にお問い合わせください。

イベントレポート

連続リレートークの奈良回、小さな空間から都市をプランニングする @大和郡山 が先週末9月28日に行われました。今回の”小さな空間”となる会場は、NPO法人くらす*さんの拠点となっている、元履物屋・ふくせさんです。

巨大な木造三階建てから始まった空き家掃除活動

本書著者陣、生駒市役所職員の南 愛さん、そして法政大学の杉崎和久先生からの書籍の事例や論旨を紹介するプレゼンのあと(目次などの詳細はこちらのページから御覧いただけます)、NPO法人くらす*の伊藤哲史さんから、大和郡山についてのお話。くらす*がNPO活動を始めたきっかけは、巨大な木造三階建の空き家活用。まずは掃除をして建物を蘇らせ、そこでイベントをしてみて、まちの面白さに気づいたのだそう。
この住宅は、伊藤さんたちの活動をきっかけにいまは一般公開されています。

それからもガソリンスタンド跡にコーヒー屋ができたり、古い美容室を掃除して日替わり店長のBARを開催したり。そして出会ったのが今日の会場、元履物屋のふくせでした。それからもだれに頼まれるわけでもなく、自分たちが面白いと思った場所を「掃除」しまくってきたという伊藤さんたち。マーケットを開いたりイベントをいくつか仕掛けるなかで、次第にまちの人たちからも理解してもらえるようになっていったといいます。

下町風情が残る尼崎・杭瀬のまちづくり

続いて尼崎市役所の小濱賢二郎さんの活動紹介です。
普段は建築行政にかかわりつつ「リノベーション」に興味があるという小濱さん。最近は住みやすい街大賞を受賞するほど、住みやすさがアップしている尼崎の杭瀬エリアで活動中。交通アクセスもよく、昔ながらの商店街が元気で下町風情も残るいいまちなんだとか。

この商店街動画がとてもかっこよかったです

とはいえ例に漏れず商店街は厳しい現状に直面しはじめ、生まれたのが杭瀬アクションクラブ。
隣り合うライバル商店街も結託し、小学校コーディネーターやソーシャルワーカー、尼崎市の職員さんと多彩なメンバーで有り余る空き家活用、地域再生に知恵を絞っているそう。アクションクラブの皆さんがまず取り組んだのが「杭瀬つまみ食いツアー」。ハードを動かさずに賑わいをつくるアクション。果物屋、お茶屋、喫茶店…食べるといいつつ店主が得意なヨガ体験も盛り込んだり、人に出会うきっかけに。

3年間は賑わいづくりを徹底したという小濱さん。食堂や寺子屋など、商店街に行ったことのない地域の子どもたちがも巻き込んだり、20店舗ワンコインつまみ食いラリーは200限定のチケットが一瞬で売り切れたりと、商店街は徐々に賑わいを取り戻していきます。そんな下地をつくっておいて、満を持して開催したのが、新規事業者向けのお宝物件ツアー。この空き家ツアーがきっかけで、とある若者2人組が空き家のリノベーションを開始します。するとそれに触発されるように、尼崎南部再生研究室(あまけん)若狭健作さんも台湾スイーツのお店を準備しはじめているよう。と思いきや、リノベ好きの小濱さんも感化され、一家で商店街に移住を決意。移住の決め手は「いつも気さくに声をかけてくれる地域の人のおかげで、地元じゃないのに地元感が出てきた」からだとか。これから杭瀬がアツイそうです。

偶然を待ち続ける忍耐力

続いて後半のディスカッションへ。「それぞれなぜ物件を面白く動かせているのか」という杉崎先生の問いが口火となりました。

小濱さんは「もっと簡単に動かせると思っていた」。気づいたら3年もかかっていたというのが素直なところだそうで、いまや移住するまでになった小濱さんですが、地域に入った当初はまだ閑散としていた商店街の様子になかなかのショックを受けたそうで、まさか自分が移住することになるとは思ってもいなかったともいいます。

伊藤さんからは地域の入り方について。「まずは手を動かし汗をかく」ことを大切にしているといいます。伊藤さんたちの活動の大半は「空き家の掃除」。大和郡山でたくさんの活動が連鎖してきたものの、残念ながら壊されてしまう空き家がたくさんあるのだそうで、それを食い止めるため、きれいに掃除をしてまず変えたいのは所有者さんの意識。掃除をしながら話すこともひとつのチャンスだそうで、それとなく持ち主が気づいていなかった建物の価値を伝えることができる好機だといいます。ただ、アプローチを間違えるとボタンを掛け違えてしまうこともあるようで、時間をかけて丁寧に関係を築くことが大切なようです。

小さな空間でなにかをおこすうえで地域の足並みを揃えるのも難しい点の一つ。面で地域の魅力が顕在化するのは時間がかかり、必ずしも活動に肯定的でない人もいます。地道にイベントを仕掛け、賑わいやまちの価値を見える化することでじわじわと理解を得るしかありません。空き家を活用する場合も、自分が狙った空き家を自由に活用できる機会などなかなかなく、偶然を待つしかない部分も大きいよう。それでも若い新規事業者が活動を始めたり、つまみ食いラリーなどで商店街に外から人が来て賑わいがうまれると、通りがかった地域の人が、見過ごしていた地域に関心をもちはじめます。この賑わいの逆輸入が、そもそも狙いのひとつでもあるのです。

地域活動をしながら公務員で居続けるモチベーションって?

さて、今回の登壇者の皆さんは、3名とも行政職員であり市民側でのフィールドを持っているという共通点がポイントでした。本書著者で生駒市職員の南さんいわく、ここ数年で副業をしている・あるいはしようとしている行政職員は徐々に増えてきたそうですが、一過性のイベントのあとにどう自治体としてビジョンに活かしていけるかは、全国の行政のこれからの課題だとか。

さらに杉崎先生から、「行政職員という立場で粘り強くへこたれず活動してるのは計画的思考があるからでしょうか?」という投げかけ。小さな空間の取り組みをどう大きな都市につなげるかというのは本書の大きなテーマでもあります。

小濱さん、伊藤さん、南さん

小濱さんは「行政職員で居ることはメリットばかりではなく、民間でできることも多い。でもそうした”民間に近い感覚”をもつ公務員もいたほうがいいだろうな、と思うときがある。それが公務員で居続けるモチベーション」だと答えてくれました。自発的な活動に行政職員としてかかわることはなくても、一住民のつもりでも行政職員として陳情や意見をもらうことも多いそうで、そうした「何か問題が起こりそう」なときには先回りして、予防線は張れるのもメリットのひとつだといいます。

伊藤さんと南さんは「自分の住むまちがどんどん衰退していく様を見てきた。それをなんとかしたい、住み続けるためになにができるか考えて今の立場にいる、というのが動機」だといいます。まずは一人でも多くの地域の人に、いいまちを体験してもらうことが大事だと言います。南さんはこんな見立ても。

「アラサー世代の私たち登壇者は、もともと結構な絶望感をもって社会に出た世代。生まれてからまちが衰退していく姿しか見てこれてないからこそ、なんとかするしかない、どうせやるなら楽しくという意識が共通しているのではないかなと思います」。都市計画を学んでいた学生時代、寂れてどうしようもないと思っていた地元奈良の商店街が、帰ってみると知らない間に元気に蘇っていたことに驚き、研究をはじめたという南さん。調べれば調べるほど何か大きな力で蘇ったわけではなく、偶然も含めて小さな動きが積み重なったことがわかった、のだとか(詳しくは本書事例ならまちをご一読ください)。

杉崎先生と小濱さん

頼まれてもいないのに空き家を掃除したり、人のいない商店街に賑わいを生み出したり、それぞれ難しく面倒な現実に行政職員としてではなく一市民として向き合う理由は「どうせやるなら楽しく」ありたいから。小さな実践は、これからやってくる深刻な長期課題と向き合うモチベーションを醸成、あるいは小さい希望を発見するために必要なアプローチだと考えられます。

活動で得たことが日々の行政業務に直接反映されるわけではない。皆さん口をそろえておっしゃっていたことです。小さな点を打つことが大きなアクションにつながることもありますが、逆もしかり。一部の人だけが楽しんでいても一向に広がりません。その点では「半分行政」という客観的な視点でまちに関わらざるをえない、公務員ならではの距離感というのも、地域活動をうまく波及させる秘訣かもしれません。

2時間たっぷり議論したアラサー行政職員トーク。行政職員も自分ごととしてまちを見ている一市民である、という“当たり前”の信頼が結局は人を動かす、という”当たり前”のことが見えたのも、今回の対話のひとつの成果かなと思います。ご登壇いただいた伊藤さん、小濱さん、南さん、ファシリテーターの杉崎先生、ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

 

趣旨

「小さな空間から都市をプランニングする」出版記念トークイベントの一環として行います。本の中で紹介されている事例とゲストが実践されている事例を紹介し、まちに少しずつ変化させていく小さな空間からはじまる活動の様相や期待されることなどについて対話していきたいと思います。
ゲストは、城下町である大和郡山において、空き家を活かして多様な活動を生み出す活動をしており、また今回の会場である「ふくせ」の運営も関わる伊藤さん。そして、尼崎の杭瀬で、商店主だけでなく、さまざまな人たちととともに商店街を盛り上げる活動を展開している小濱さんのお二人です。

ゲスト

伊藤哲史さん(NPO法人くらす*)
小濱賢二郎さん(尼崎市役所、杭瀬アクションクラブ)
南 愛(生駒市役所、著者のひとり)
杉崎和久(法政大学法学部教授、著者のひとり)

参考サイト

・くらす* https://kurasuto.jp/
・杭瀬アクションクラブ http://bit.ly/2YrdVX3

場所

ふくせ(大和郡山市柳4丁目16)
近鉄郡山駅から徒歩7分、JR郡山駅から徒歩15分

参加費

1000円
*当日会場では、「小さな空間から都市をプランニングする(定価2400円)」を「特別価格」で販売いたします。

申込み

下記、申込ページに必要な事項を入力してください。
https://forms.gle/oy4sbhTLNP1k9BfJ6

定員

15人程度(先着順)

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