【続報】「混雑税導入見送りへ――ニューヨーク州知事が突然の翻意」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

ニューヨーク(NY)の都市圏交通局(The Metropolitan Transportation Authority, MTA)がニューヨーク(NYC)のマンハッタンに6月30日から混雑税を導入することになっていましたが、州知事(Kathy Hochul)が「混雑税の実施を見送る」と宣言しました。突然の、それも唐突な宣言に、関係者の間で困惑が広がっています。

知事は「見送り」の理由を、「NYCの経済はCOVID-19からの回復が遅れている。混雑税は遅れに拍車をかける」と説明しています。
リモートワークと通勤のハイブリッド型の勤務形態が普及し、ミッドタウン、ダウンタウンにあるオフィスの空きフロア率が高止まりしています。混雑税はオフィスへの通勤をさらに遅らせる影響がある、という判断です。

しかし、混雑税の導入に賛成している人々からは、

  1. NYC経済は回復基調にあり、混雑税を導入しても腰折れしない
  2. 混雑税はマンハッタンの交通渋滞を緩和し、税収を地下鉄などの改修投資に振り向ける計画になっている ⇨ 公共交通の強化策は、中長期的にはNYC経済にプラスに働く

――などの批判が上がっています。混雑税を推進する市民団体の間には、「実施を求めて訴訟も辞さない」という声が聞かれます。

NY都市圏郊外に暮らす中間層の間に「混雑税に反対」の声が強い、と伝えられています。そのため知事(民主党)は、「11月の選挙を念頭に、混雑税の実施を見送る挙に出たのではないか」という推測も報道されています。

導入が予定されていた混雑税は、マンハッタンの60丁目から南の街区に入る車に対して15ドルの支払いを求め、それを財源にして地下鉄の車両/駅などの改修、バスの更新などに取り組むことになっていました。
NYCでは、1952年以来、混雑税の導入が繰り返し検討されてきました。今度のNYの「見送り」は、ロサンゼルス、シカゴ、サンフランシスコ、ボストンなど混雑税を検討した経緯のある都市でも、「導入をめぐる議論が後退りする」という見方が出ています。

(つづく)

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