連載『月刊日本の団地~時代を映すダンチ12選~』vol.10 公社喜連団地

団地愛好家の有原です。
突然ですが、「ダンチって古い・・」と思っていませんか?
いえいえ、いま団地ではさまざまな新しい取り組みが行われているのです。
団地は建設時の社会の様相を映す鏡であると同時に、現在の取り組みはこれからの都市課題を解決するヒントにもなります。

建設当時の人々が団地に託した夢・・・。いまの団地で団地再生に奮闘する人々・・・。私と一緒に、新しい発見と感動の旅に出ませんか?


古くなった団地の雰囲気を大きく変えるアプローチの一つに、外壁の塗装があります。構造など大掛かりな部分に手を入れることなく、色彩の持つ力で団地のイメージを刷新することが可能です。団地が明るい雰囲気となることで、周辺エリアも華やかな印象となります。
今回は、そんな色彩の持つ力を活用して団地再生に挑んだ『公社喜連(きれ)団地』のほか、外壁塗装によりカラフルに生まれ変わった全国の団地を紹介していきます!

◆イロイロな色で団地のイメージをアップデート!

前回までの当コラムVol.7~Vol.9では、団地再生の先進的な取り組み事例を紹介してきた。これらの団地では耐震工事や外部エレベーター増設といった大掛かりなものから、住戸内リノベーション、間取り変更、住宅以外への用途転用、外部空間のウッドデッキ化、敷地内菜園の設置など、古くなった団地の価値を高める様々な取り組みが行われていた。

だが、こうした取り組みには相応の費用がかかる。財源が確保されている管理団体に可能な団地再生の手法と言えるだろう。一方、比較的安価に団地の雰囲気を変えることができる手法の一つに、住棟外壁の塗り替えがある。どの管理団体も、一定期間ごとに外壁修繕の工事費を見込んでいる(計画修繕)。この時に色の用い方を少し工夫すれば、老朽化した団地に再び生命を吹き込むことも可能なのだ。

今回はその実例として、巧みな色使いで修繕された全国の団地を見ていこう。赤色系や青色系など、基調とする色ごとに紹介していきたい。また、それぞれの団地は外壁の色彩のみならず、ソフト面でも興味深い取り組みを行っている。それらについても概観してみる。

◆(1)赤色系を基調とした外壁の団地

1、『ホシノタニ団地』(神奈川県座間市/小田急不動産)

Vol.8『たまむすびテラス』の回でも紹介した団地。もともとは小田急電鉄職員の社宅だった。外壁は濃い茶色をベースに、住棟ごとに赤色や緑色などを基壇としたバイカラー(二色)で塗り分けられている。写真は赤色を用いた住棟で、最寄り駅からもよく目立つ。〔写真1〕

団地の敷地内には菜園やドッグラン、コインランドリー、築山(つきやま)も新たに設置された。ホシノタニと名付けるネーミングセンスも秀逸。その名のとおり、外壁には星座が描かれている。エントランスも鮮やかに塗り替えられ、明るい雰囲気となった。〔写真2〕

写真1

写真2

2、『取手井野団地』(茨城県取手市/UR都市機構)

写真3

取手市と東京藝術大学がUR都市機構の協力のもと、団地の空き店舗7戸をリノベーション。2007(平成19)年にアーティストや芸大生がシェアする共同アトリエ「井野アーティストヴィレッジ」としてオープンした。〔写真3〕
淡い色調の住棟が均質に立ち並ぶ団地の中において、真っ赤な外壁を持つこの棟は独特の存在感を放つ。団地の中でアート活動にいそしむ若者たちの熱気が伝わってくるようだ。

◆(2)青色系を基調とした外壁の団地

3、『たまむすびテラス』(東京都日野市/UR都市機構)

Vol.8『たまむすびテラス』の回でも述べたが、この団地のリノベーションが完成して披露されたとき、これまでの団地になかった北欧風の真っ青な外壁に驚かされた。〔写真4〕
もともとあった古い住棟群を、公募で選ばれた民間三事業者がリノベーション。(1)シェアハウス、(2)菜園付き共同住宅、(3)生活支援サービス付高齢者向住宅に生まれ変わった。青い住棟は、(2)の「AURA243多摩平の森」である。現地を訪れてみると、青い外壁と樹々の緑とのコントラストが美しく、意外にも周囲の景観に溶けこんでいた。

写真4

4、『GREEN BASKET』(神奈川県川崎市/個人)

写真5

GREEN BASKET (グリーンバスケット)は1977(昭和52)年建設の団地。リノベーションされた外壁の色は上品な濃紺だ。階段室に塗られた茶色との色の組み合わせが印象的で、どこか日本的な「和」も感じさせる。〔写真5〕
住棟の家主は農業を営む個人の方で、建物の劣化や入居率の低下を機にリノベーションを決意したそうだ。改修にあたり家主・住人・地域住民が交流できる場(キャビン)を増築した。デザインを手がけたのは「ホシノタニ団地」「たまむすびテラス(AURA243多摩平の森、りえんと多摩平)」も手掛けたブルースタジオ。

◆(3)黄色系を基調とした外壁の団地

5、『洋光台団地』(神奈川県横浜市/UR都市機構)

前回のVol.9でも取り上げた洋光台団地は、著名なクリエイティブディレクター・佐藤可士和氏のディレクションによるリノベーションが施された横浜市にあるUR都市機構の団地である。この住棟の階段とバルコニーの手摺は木目調だ。住棟番号も佐藤可士和デザインの洗練されたフォントで一新。明るく清潔感のある団地へと生まれ変わった。〔写真6〕
佐藤氏が団地のリニューアルを手掛けるのはこのプロジェクトが初めてだったそうだが、団地の持つポテンシャルを現代的な感覚でうまく引き出した佐藤氏の手腕は、見事と言うほかない。

写真6

6、『ハラッパ団地・草加』(埼玉県草加市/ハウスコム・アミックス)

写真7

黄色い外壁に度肝を抜かれるが、現地に立つと意外と派手さを感じない。むしろ明るく楽しい気分になる。〔写真7〕
敷地内には畑、ピザ窯、ドッグラン、食堂、保育園も備える。このようなスタイリッシュな色使いと細やかな気遣いは、リノベーションを担当された方が女性だったことが大きいのではと推察する。解体される可能性さえあった古い団地を人気物件に再生した好事例で、今でも10組以上の入居希望者が、空室が出るのを待っているそうだ。

◆(4)白・黒色系を基調とした外壁の団地

7、『公社相武台団地』(神奈川県相模原市/神奈川県住宅供給公社)

1967(昭和42)年に管理開始の神奈川県住宅供給公社の団地。団地の中央にある空き店舗(もとは地元銀行の支店が入っていた)をリノベーションした。2019(令和元)年にオープンしたのが「ユソーレ相武台」だ。〔写真8〕
ミスト岩盤浴のある温浴施設、多世代交流拠点となるカフェスペース、ワークショップスペース、キッズスペース、高齢者向けのデイサービススペースが新たに創出された。「ユソーレ」の名称は、「ユ」がYouと湯、「ソーレ」がイタリア語の太陽と沖縄語のめんそーれ(いらっしゃい)に由来するそうだ。

写真8

8、『公社喜連(きれ)団地』(大阪府大阪市/大阪府住宅供給公社)

1968(昭和43)年に管理開始の大阪府住宅供給公社の団地。2019(令和元)年に外壁塗装が施された。黒く見える外壁は実は濃い茶色だ。この色をベースにビビッドな赤色や黄色が差し色として用いられている。さらに目を引くのが、壁に描かれた巨大な住棟番号だ。大阪の団地らしい派手さだが、若年層の入居促進を狙ったことと、駅前の賑やかな商業エリアに近い立地であることから、このくらいのインパクトが必要だったのだろう。〔写真9〕
外壁修繕にあわせて駐車場周りもリニューアル。廃ガラスや空き瓶などを破砕プラントで砕いて粒状にした「クリスタルストーン・サンド」を歩道舗装の一部に使用しており、環境にも配慮している。〔写真10〕
これらの色彩は、環境色彩デザインの専門家による意見を参考にしながら計画された。

写真9

写真10

※この公社喜連団地の色彩計画に携わったのは、環境色彩デザインの専門家集団クリマ(東京都目⿊区)だ。その代表者が著した『色彩の手帳 建築・都市の色を考える100のヒント』(加藤幸枝著/学芸出版社/2019)は、色彩のプロたちがどのように色を選んでいくかを解き明かした好著。配色がもたらす効果についても解説しているので、景観まちづくりに関わる技術者のみならず一般の方が読んでも、服のコーディネートや部屋の模様替えなどの参考となりそうだ。
『色彩の手帳 建築・都市の色を考える100のヒント』の詳細はこちら→https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761527143/

◆(5)多彩な色をした外壁の団地

9、『鳥飼野々二丁目団地』(大阪府摂津市/UR都市機構)

1979(昭和54)年に建設のUR都市機構の団地。外壁修繕周期にあたる2016(平成28)年に、専門家による色彩・サイン計画によってエリア全体を明るくするという目標が掲げられた。その結果、パステルカラーの組み合わせが採用され、団地内外を爽やかな雰囲気に一変することに成功した。〔写真11〕
団地の壁面にデザインされているのは「鳥」のマークで、地名の「鳥飼」に由来する。外壁の色彩と同じく、軽やかで翔び立つようなイメージだ。

写真11

10、『いろどりの杜(もり)』(東京都足立区/フージャースアセットマネジメント・UR都市機構)

1964(昭和39)年に建設のUR都市機構の団地。建て替えが計画されていたが2棟は建て替えを行わず、民間会社との連携によるストック再生プロジェクトとして活用。DIYやバーベキューも可能な賃貸住宅「いろどりの杜」としてリノベーションされ、2020(令和2)年より新たな住人が入居開始した。
目を引くのは、塗り替えられた階段室やバルコニー間仕切りの鮮やかなカラーリングだ。自分が住む住戸がどの階段列にあるか、一目でわかるように配慮したとのことだが、蛍光イエローや蛍光ピンクといった現代的な色彩の選択は、民間企業による取り組みならではの決断だろう。〔写真12〕〔写真13〕
敷地内には住人達で共有するログハウスがあり、プロの大工も参加するシェア工房となっている。また、駐車場区画の白線は葉っぱのデザインになっていて、遊び心も感じられる。

写真12

写真13

11、『日の里団地』(福岡県宗像市/共同企業体)

日の里団地は、昭和40年代に開発されたUR都市機構の大規模団地だ。そのうち1棟(48号棟)を共同企業体(住友林業・西部ガス・東邦レオなど10社)に譲渡。2021(令和3)年に地域住民のための利便施設「ひのさと48」としてオープンした。虹色に塗装されたカラフルなベランダも話題となった。〔写真14〕
住棟の妻側壁には、中学生のアイデアから生まれたクライミング用のホールドが設置されている。1階にはクラフトビールの醸造所、コミュニティカフェ、DIYスペース、ウクレレ工房のほか、保育園や地域の子供たちの発達支援施設などがあり、賑わいが生まれている。

写真14

◆(6)その他のユニークな外壁の団地

12、『戸頭団地』(茨城県取手市/UR都市機構)

この団地がある取手市には東京藝大キャンパスがある。若手アーティスト支援と市民の芸術との触れ合いを目指し、「取手アートプロジェクト」(TAP)が設立。市内をフィールドに様々な活動を展開してきた。その一環として公募で選ばれたアーティストが3年をかけ、15ほどの壁面アートを手がけた。ところどころ半立体の突起部分があるのもユニークな点だ。〔写真15〕〔写真16〕
このほかにも団地敷地内のあちこちの壁にイラストが描かれており、「あっ!こんなところにも!」と、作品を発見する喜びも体感できる。住棟が多く広大なマンモス団地は全国に数多くあるが、歩き回るのが苦にならず、団地の広さを楽しさに転化したのは、この団地だけだろう。

写真15

写真16

13、『富田団地』(大阪府高槻市/UR都市機構))

1971(昭和46)年に入居開始のUR都市機構の団地。2019(令和元)年、この団地の敷地内に「並木のみち」と名付けられたウォーキングコースが誕生した。「うぐいす通り」「めじろ通り」「つぐみ通り」の3コースがあり、どれも30分程度で歩くことができる。ウォーキングルートとなる地面には黄色い線が描かれており、迷うことはない。〔写真17〕
ルート沿いにある倉庫等の壁には、様々な動物のシルエットが実寸大で描かれている。子供からお年寄りまで、楽しみながら散歩ができるユニークな工夫だ。〔写真18〕
周辺地域に住む人々も、団地の中へと足を運ぶようになったのではと思う。

写真17

写真18

色とりどりの団地を紹介したが、いかがだっただろうか。外壁塗装という手法だけでも、色彩計画の工夫により団地に新鮮な印象を与え、楽しく個性ある空間に一転できることをご理解いただけただろうか。
古い団地を取り壊すのではなく、外壁塗装により生まれ変わらせて大事に使用する。“古いのに新しい”という不思議な懐かしさも感じていただけたのではないだろうか。
団地の魅力が向上すれば、閑散としていた団地の中へ人の流れを生み出すことにも繋がる。色彩の持つ力によって、老朽化した団地に新たな生命を吹き込むことが可能なのだ。

また、それぞれの団地に用いられた色に着目すると、その色を選んだ管理者がどのような団地の暮らしを望んだかも想像することができる。巧みな色使いは、周辺の雰囲気まで明るくするのみならず、住人達の心にも彩(いろど)りを与えたことだろう。自分達が暮らす団地への愛着も増したに違いない。団地に施された塗装が年月を経ていつか薄らいだとしても、色彩が住人達の心に芽生えさせたこれら十人十色の感情は色褪せることはないだろう。


団地を単なる「古い集合住宅の集まった場所」ではなく、「豊かなオープンスペースが残る地域の資産」として価値を再定義することは、これからの団地とまちづくりを考えていく上で重要な視点です。次回は、使われなくなった団地の屋外プールを住民達が協力し、みんなが集える公園へと再生した事例、『左近山団地』を紹介します。

〈vol.11へつづく〉

【参考文献】
・『団地に住もう!』(東京R不動産/日経BP社/2012年)
・『新建築2011年8月号』(新建築社/2011年)
・『新建築2015年8月号』(新建築社/2015年)
・『新建築2021年2月号』(新建築社/2021年)
・『アイデア2019年4月号』(誠文堂新光社/2019年)
・季刊『UR PRESS Vol.47』(独立行政法人都市再生機構発行/2016年)
・季刊『UR PRESS Vol.63』(独立行政法人都市再生機構発行/2020年)
・季刊『UR PRESS Vol.66』(独立行政法人都市再生機構発行/2021年)
・UR都市機構・公式サイト
https://www.ur-net.go.jp/news/0514_nishinihon_tonda.html
・グッドデザイン賞・公式サイト
https://www.g-mark.org/award/describe/49392
・ハラッパ団地・公式サイト
https://harappadanchi.jp/
・神奈川県住宅供給公社・プレスリリース
https://www.zenjyuren.or.jp/data_files/view/1758/mode:inline
・大阪府住宅供給公社・プレスリリース
https://www.osaka-kousha.or.jp/x-whatsnew/pdf/PressRelease_2019-06-05.pdf

 

※団地を訪問する場合は、居住されている方々の迷惑にならないよう十分注意しましょう。


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著者プロフィール

有原 啓登

(ありはら ひろと)
団地愛好家。1973年神奈川県横浜市の左近山団地出身。大阪府立北野高等学校、近畿大学理工学部建築学科卒業。関西のゼネコン勤務を経て現在は地方住宅供給公社に勤務。公営住宅の指定管理者応募、 公社団地の団地再生等に携わる。個人の趣味でSNSに『週刊日本の団地』『都市計画・街づくりブックレビュー』を投稿したところ評判を呼び、大学や企業から講演の依頼が来るまでに。趣味は団地訪問と団地の本収集。