がくげいラボ×Talkin’ About vol.3 山納洋×和田欣也『ビジネスとしての古民家再生』イベントレポート|山納洋×和田欣也


7/29(木)「がくげいラボ×Talkin’ About  vol.3 山納洋×和田欣也 『ビジネスとしての古民家再生』」を開催いたしました。
本イベントでお馴染みの山納洋さんがホストを務め、大阪市城東区蒲生四丁目、通称がもよんで空き家再生を手がけられている和田欣也さんをゲストにお招きしました。

また今回は『描いて場をつくる グラフィック・レコーディング』を上梓された有廣悠乃さんに、トーク内容をグラレコしていただくという弊社初の試みを実施しました。
当日お書きいただいたグラフィックレコーディングを交えながら、当日のレポートをお届けいたします。
(対談抜粋 文責:学芸出版社)

◆主なトピック

●イベント動画をご覧になる方はこちら⇒https://book.gakugei-pub.co.jp/movie/gakugei-lab-talkin-about-vol-3/

グラフィックレコーディング(全体)

●蒲生四丁目での空き家再生の始まり

山納2008年にスタートしたプロジェクトで、最初の店は和田欣也さんが地元の地主さんに相談を受けて始まったんですよね。

和田そうですね。蕎麦屋にして欲しいというリクエストだったから、出店される方の目星はつけていたけど、結局イタリアンに。(笑)

山納イタリアンを契機に次々に古民家を飲食店にされたと。これは全て同じ大家さんが持ち主で、和田さんが古民家再生を行ってきたんですよね。どうしてこの大家さんはこんなに土地を持っておられたのでしょうか。

和田(代々続く家系で)16代目とかなはずです。いわゆる庄屋から始まって、うまいこと土地を残せていったんでしょうね。戦争で焼けなかったていうのも大きいです。たまたま土地を持ってはる人とパートナーを組めたのが良かったです。

山納大家さんが持っていた空き家を1店舗ずつ改修して、新しい動きをつくることによってまちを変えてきたのが和田さんなんですね。

グラフィックレコーディング 1

●蒲生四丁目のまちづくりのルール①「同じ業種の飲食店を入れない」

和田蒲生四丁目のまちづくりを行うにあたって、自分で色々ルールを作っていまして。
まず1つ目が、同じ業種の飲食店を入れないということ。
たとえばラーメン屋さんがあるのに、近くに新しいラーメン屋を入れるっていうのは、元々のラーメン屋さんをいじめることになるからそれだけはやめてほしいと大家さんに言われたんです。そんなこと考えたこともなかったので、大家さんの言葉には衝撃を受けました。
ただ40店舗以上店舗を作った現在はこのルールに苦しんでいます、レパートリーに限界があるので(笑)

●蒲生四丁目のまちづくりのルール②「まちおこし企画には絶対に参加すること」

和田出店する時の条件として、まちおこし企画には絶対に参加してくださいということもお願いしています。
今はコロナの影響でなくなっていますが、週に1度店主を集めてミーティング(がもよんミーティング)を行っているんですね。そこで情報の共有やイベントの打ち合わせをやっているので、それに参加する約束が出来る人に店舗を貸すことにしています。

山納本でも読みましたが、店主ミーティングはすごいですよね。私が普段注視している中崎町では出店者がお互いに話をせずに、ライバル視しているみたいな雰囲気があって。

和田ミーティングのおかげかどうか分かりませんが、店主同士の仲がいいんです。普通同業者ならライバル関係になると思うんですが、1周年とか2周年のタイミングで店主同士が花を贈り合っているいい関係を築いています。

●自分の店のお客さんではなくて「まちのお客さん」

和田店主同士が仲良くなることで、常連のお客さんに各々の店舗を紹介しあうという流れが出来ています。店が50店舗あるので、各店舗常連のお客さんが10名いると仮定すると、毎晩500名が店舗間でシャッフルできるんですよ。その口コミがあったら、食べログやぐるなびは要らないですよね。

山納最初からそういう流れが出来ていたんですか?

和田最初はそうじゃなかったんです。やっぱりライバル視している店舗もありましたが、まちおこしのイベントをしたことで、自分だけのお客さんではなくてまちのお客さんという意識が生まれ始めました。

山納各々の店舗を紹介したり、新しい○○というお店が出来るんだよとお客さんに紹介しあう関係性はいいですよね。

和田この関係性の構築には、「同じ業種の飲食店を入れない」というルールが効いているなと思います。やっぱり同業種だと、どうしてもライバル視してしまうじゃないですか。それがないのはいいかなと。

●今までやってきたまちおこしイベント

山納今までイベントをいろいろやってきたということですが、どんなイベントを開催されましたか。

和田一番大きいのはがもよんバルですね。飲み歩きのイベントです。これも僕がやろうと言ったのではなくて、店主ミーティングで決まりました。
がもよんに出店していた「ボストン」というハンバーグ屋さんが違う場所でバルイベントをやっていたので、マニュアルをもらったり、アドバイスをもらって、手探りでバルイベントを開催しました。そうしたらお客さんだけでなくて、各店の店主がめちゃくちゃ楽しんでたんです。
バルイベントを6.7回開催して、そこから派生して肉祭りやカレー祭りをやりました。
カレー祭りは盛り上がりましたね。各店が普段出していないカレーメニューを作って、1週間で4000食ぐらい出ましたね。
スタンプラリーもやったんですけど、それが好評でリピーターのお客さんが来てくれました。

グラフィックレコーディング 2

●店舗を誘致する方法

山納色々なイベントをやったおかげで、各店に仲間意識が出てきたんですね。そもそも和田さんはどうやって各店の店主さんをがもよんに呼んで来たんですか?

和田まず近所の人に聞くんです。「ここになにをつくってほしい?」という感じで。それで、出てきた意見を参考にして、ここに洋食店をつくろうって決めたら、あとは美味しいと評判のお店をネットで調べて、目処がついたら一度食べに行きます。そこでこのお店がもよんに欲しいと思ったら、店主の方にがもよんに店をだしませんかと直接アタックして、実際に来てもらって判断してもらいます。
あとはそれの繰り返しと、紹介してもらうっていうのがメインの方法ですかね。

山納お店を呼んでくるのって、初出店の方に対してはお店が続くかどうかを判断する必要があるのと、2店舗・3店舗目を出店しようと目論んでいる方にはタイミングを見計らって声を掛ける必要がありますよね。なかなか大変だと思うんですけど、そこはどうですか?

和田お店を出したい人は常にアンテナを張っていると思うんですよ。あと本当に出店したいと思っている人は、目星をつけたエリアに絶対に1度は足を運ぶと思います。
がもよんの場合だと、そこで実際に出店している店に入って、店員さんに「がもよんってどんな感じですか?」ってちょっとリサーチするんですね。店主と僕はミーティングで密に連携を取っているので、そのあと店主から「がもよんに店を出したい人が来たよ」という報告があるんです。情報が自分のところに入ってくる仕組みが出来上がっているんです(笑)

●経済的な理由で撤退した店舗はゼロ

山納人口が多いのも蒲生四丁目の特徴ですよね。

和田西日本で人口密度1位で、全国で見ても5位ぐらいです。蒲生四丁目の駅前、半径2キロ以内に7万人が住んでいます。この範囲で7万人住んでいるところは、なかなかないですよね。
こういう立地だけじゃなくて、店主ミーティングや常連のお客さんをシャッフルするといったこともあって、3年もせずに潰れることが多い飲食業界ですが、がもよんでは経済的理由で撤退した店舗が一つもないんですね。
最近は潰れるかもしれないと不安に思ったら、まず店舗を貸さないってこともあります。

山納ちなみに最初から蒲生四丁目で古民家再生したらうまくいくぞと思って仕掛けたんですか?

和田いや最初は思っていませんでした。蒲生四丁目は警察署や区役所が集まってる地域なんですね。僕も城東区に住んでいたので、手続きのときとかはよく蒲生四丁目に来ていたんです。ただその時は何にもない街だったので、自分が行きたくなるような店舗を2.3店作ったのが、きっかけですね。

グラフィックレコーディング 3

●古民家の耐震について

山納マニアックなところをお聞かせしてほしいんですが、和田さんの専門が耐震ということで、施工やデザインからでなく耐震から古民家再生に入っていったというのが興味深いと思っています。使える古民家があっても、震度7の自身に耐えられるのかなと不安な方に対して、安心を与えられるのは和田さんの強みと思いますが、耐震についてはどうお考えですか?

和田耐震って結構お金がかかるイメージだと思うんですが、そういうわけではないんですよ。何件も関わっているとノウハウがわかってきます。例えば出隅(建物の角)を強くすれば全体的に揺れに強くなるとか、開口部(窓や入口)が均等にあれば力が偏らないので、耐震に強いとか。
でもやっぱり屋根と基礎が大事ですね。重い瓦から軽い瓦に変えるとか、基礎をしっかりするとか。全体のバランスをとれば耐震性はクリアできます。
あと、震度7の地震で倒壊しないことは証明書を提出していますが、あくまでも倒壊しないのが前提なので、震度7の地震で傾いてそのあと住み続けられるということについては、僕は保証していません。
阪神淡路大震災のときに、倒壊する住居に巻き込まれて亡くなられた方が多いので、多少お金がかかっても耐震工事はやるべきだと思います。

山納店舗は住居と違って、開口部を広げるとか外から見えるように作るので、どうしても耐震性は弱いとなると思うんですけど、そこを内部の見えないところで補強しているということですよね?

和田そうですね。耐震工事をしてから、内装工事を行うので制約が多いということにはなります。ここに壁がなかったら、座席数増やせるのにという店舗もちらほらありますが、そのおかげで現行の耐震基準をクリアすることができていますね。

●古民家再生には投資が必要=利益率が高い飲食店に

山納最初大家さんが投資をするので(耐震工事が必要なので)、投資分を回収するビジネスにしないといけないんですよね。カフェは断っているということに本を読んで一番衝撃を受けたんですが、カフェや雑貨店は断わっているという事情についてお聞かせください。

和田カフェって儲からないんですよね。がもよんでカフェをやりたいっていう声はよく聞きますが、飲食店と比べて収益性が低いので基本的には断っています。と言いながら今年に入って2件カフェをつくりましたが。(笑)
ただその2件もコンパクトな造りにして、収益性が高い仕組みにしています。

山納自分もカフェ開業セミナーで喋ることが多いですが、本当にやるの?儲からないよ。ということは強調します。勢いでやって失敗するのが可哀想なので。

和田若い人を支援するという意味では、チャレンジショップをやりたいんですよね。1週間限定で場所を貸して、本当にやっていけるのかを見極めてもらって。勢いだけでやってつまずく若い人をあまり見たくないんですよね。

山納飲食店経営の踏み台として良いですね。がもよんでチャレンジショップをやる予定ですか?

和田やりたいですね。実際集会所のキッチンはレンタルを行っているんですよ。あまり知られてなくて、問合せはありませんが。(笑)

グラフィックレコーディング 4

●敷金・礼金なしでテナント募集の張り紙はしない

山納従来の不動産業と違ったことを和田さんはやられていますよね。敷金・礼金がないことにも驚きですし、テナント募集の張り紙をせずに、出店してほしいと直接店主に交渉するのも、あまり聞かないやり方と思いますが、そのあたりの和田さんの考えを聞いてみたいなと思います。

和田元々不動産についてあんまり詳しく知らないんですよね。仕事で必要なので不動産業の資格はとりましたが。不動産の常識ってツッコミどころが多くないですか?

山納たとえばどんなところですか?

和田まず礼金についてですね。借りる側がお礼として支払うのが、腑に落ちなくて。敷金は分かるんですが、半年分は多すぎるから3か月ぐらいでいいじゃないかと。
がもよんでは、自分が借りる立場で納得できないことは全部やめたんです。(礼金はなし、保証金3か月分は期間が過ぎれば全額返還。)
あとテナント募集の張り紙についても、昔は会社の電話番号を載せたチラシを張っていたこともありますが、電話対応のストレスや労力のことを考えてやめました。
冒頭にも述べたように、出店したい人がいたら情報が入ってくる仕組みが成り立っているので。問題はないですね。

山納:和田さんがやっていることで、従来の不動産業と違うと理由が、テナントの面倒を見るのが凄いなと思いますが、そこはいかがでしょう?

和田まず他の不動産業の方は契約=ゴールなんです。僕がやっているのは10年契約なんで、契約=スタートっていう考えですね。10年間付き合う必要があるので、まず10年間付き合えるのかっていうこととお店を潰さないかっていう熱意を持っている方を優先します。

山納店主ミーティングがあるので、和田さんだけがアドバイザーではない状況も良いですよね。

和田そうですね。飲食業をやっているうえで出てくる些細な悩みも共有できるのと、料理や食器についてアドバイスが出てくるので、全体のレベルアップにつながるのもいいですね。

山納がもよんの話を聞いてから、コモンカフェでも店主ミーティングをやることにしました。(笑)

グラフィックレコーディング 5

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