【受付終了】[レポート]観光と都市のモビリティそしてアート

※詳細は主催団体等にお問い合わせください。

 

1月11日(土)にロームシアター京都で開催された、「いま」を考えるトークシリーズ Vol.9 /観光と都市のモビリティそしてアート。阿部大輔先生(龍谷大学政策学部教授)と塚原悠也さん(アーティスト、contact Gonzo、KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター) による対談をレポートします。

趣旨

多様な角度から同時代の社会を知り、捉え直すためのトピックを挙げ、それにまつわるゲストを招く連続トークシリーズ<「いま」を考えるトークシリーズ>。今年度よりロームシアター京都の機関誌「ASSEMBLY」と連動した内容で実施し、Vol.9、10では二回にわたって「観光と芸術」について検討を深めます。

Vol.9では、オーバーツーリズムに伴うモビリティや都市の在り方の未来、また人や物質の移動に関するデータマイニングを活用したアートや新たな表現形態の可能性についてディスカッションします。都市計画、ツーリズムやまちづくりに関する専門家の阿部大輔氏と、パフォーマンス集団contact Gonzoとして身体の接触と移動をテーマに作品を発表している塚原悠也氏を迎え、文化的・身体的アプローチから、観光とモビリティをめぐるあらたなアートの輪郭を探ります。

登壇者

阿部大輔(龍谷大学政策学部教授)

1975年ホノルル生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程・博士課程修了。カタルーニャ工科大学バルセロナ建築大学校博士論文提出資格(DEA)取得。博士(工学)。政策研究大学院大学、東京大学都市持続再生研究センターを経て、現在、龍谷大学政策学部教授。著書に『バルセロナ旧市街の再生戦略』(学芸出版社)、共編著に『小さな空間から都市をプランニングする』(同)、『アーバンデザイン講座』(彰国社)などがある。

塚原悠也(アーティスト、contact Gonzo、KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター)

1979年、京都生まれ大阪在住。関西学院大学大学院文学部美学専攻修士課程修了。2006年パフォーマンス集団contact Gonzoの活動を開始。殴り合いのようにも、ある種のダンスのようにも見える、既存の概念を無視したかのような即興的なパフォーマンス作品を多数制作。またその経験をもとに様々な形態のインスタレーション作品や、雑誌の編集発行、ケータリングなどもチームで行う。2011-2017年度、セゾン文化財団のフェロー助成アーティストとして活動。京阪なにわ橋駅併設アートエリアB1共同ディレクター。2020年よりKYOTO EXPERIMENT プログラムディレクター。

イベントHPより

 

都市をどう遊ぶか

生活と観光の両立問題と、移動という行為の価値の再考を、京都から考えるという今回のイベント。まずは都市計画を専門とする研究者である阿部先生から、バルセロナやヴェネツィアなどの世界の都市や京都における観光公害事例を紹介しつつ、地価や土地所有権が不可逆的かつ急速に変容してしまっている、という話題提供です。続いてパフォーマンス集団contact Gonzoの塚原悠也さんからは、過去のパフォーマンスのうち特にモビリティ(移動)をコンセプトにした作品を紹介。災害時の長距離徒歩帰宅を再現した避難訓練パフォーマンス、全住民が原付移動をする離島の原付レースゲーム、御堂筋の電話ボックスに全て登って飛び降りるパフォーマンスなどからは、土地の強固な場所性を再認識したり、見落としていたまちの個性やポテンシャルに気づかされます。もともとスケートボードをやっていたことから、都市をどう遊ぶかや公共空間のジャック、アスファルトのテクスチャなとに興味を持ち出したという塚原さん。ここ数年都市空間が優等生化してしまっている、という阿部先生の問題提起にもシンクロします。

そして後半のディスカッションへ。スケボーをはじめとして、既成概念を逸脱して身体的に遊ぶストリートカルチャーや、メインストリームでなくオルタナティブで生まれるアートや出来事こそ都市の文化をつくるものだと言われます。つまりアート体験とは鑑賞者が感じる”違和感”であり、都市の文化も”オルタナティブ(辺縁)”から醸成されうるもの。しかし残念ながら今の日本の都市は、”違和感”や”オルタナティブ”が行き過ぎて「事件」になることを防ぐために、ありとあらゆる行為を禁止する傾向が、ますます強まりつつあります。がんじがらめに全て禁止にせず、もっと柔軟に都市を使いこなせないのかというという課題は、近年都市計画の分野でも頻繁に議論されており、暫定的な占有を許容することに注目が集まっている(参考:『PUBLIC HACK 私的に自由にまちを使う』 笹尾和宏 著)と阿部先生は話します。

路地に迷えないテンプレ都市

コマーシャルな観光ガイドブックによってツーリストは目的地を選んでると見せかけて選ばされているのではないか、という阿部先生からの問題提起とともに、話題はオーバーツーリズムへ。情報が手軽になり、食べログやガイドブックの見るべき・食べるべきの教科書化によって現在日本中の観光地が陥っているのが、観光スポットの一極集中という症状です。局地的で一過性の観光超過にともなうジェントリフィケージョン(家賃上昇による地元住民や地域店舗の追い出し現象)は、冒頭で阿部先生が述べたように地価や土地所有権の不可逆的かつ急速な変容を引き起こします。一時的なインバウンドを目的とした開発は、未来永劫まちの文化を消失させることにほかなりません。また、ジェントリフィケーションの最大の問題に、沿道入居者の業態が画一化してしまうことがあると阿部先生は続けます。家賃のグラデーションがなくなったとたん、もともとその地に居た住民、和菓子屋や独立系の本屋のような固有で零細な業態が一斉に追い出され、ドラッグストアやチェーンの飲食店、マンションといった収益の最大化を達成しうる業種と居住形態にまちが淘汰されてしまいます。都市観光はここで自己矛盾に陥ってしまいます。観光の楽しみは、まちを散策し、知らないもの予期せぬ場所、これまで体験したことのない文化に出会い、路地に迷い込むことであったはずなのに、ドラッグストアやマンションだらけの道になってしまっては路地に迷い込めません。

都市観光とはそもそも何か?

かと言ってこれを解決するため、観光を分散化させられるよう情報でコントロールすればいいという単純な話ではないと阿部先生は言います。何時にどこに行くかは観光者が決められるのが本来の観光です。その余地を必要とせず、機械的にコントロールすうるのは旅の醍醐味ともいえる身体性と逆行しているという点で矛盾しています。人間の欲求を満たす体験とは言えません。
ここで阿部先生は、観光・移動という身体性の再発見、予定調和でない都市の日常風景の魅力を気付かせてくれるのが、アーティストの提示する違和感なのではないか、と投げかけます。塚原さんは、都市観光にもある種のオルタナティブな空気感が少しでも生まれるよう、クラックをいれられるのがアーティストだと述べます。またこうした問題意識をもつと観光のテンプレ化を引き起こしているとテクノロジーを否定しがちですが、一方でグーグルマップのような不特定多数のプラットフォームは、逆に分散化に向けたツールだと思うと塚原さん。ランキングや他者の評価を必要以上に注視しなくていいプラットフォームは、旅の幅を広げてくれるという点でいつも旅で役立っていると言います。

それでリピーターは増えるのか

一方、阿部先生は「旅先ではグーグルマップは一切使わないで現地の看板地図しか見ません。迷うことに価値があると思うから」と話します。「最近減り続けている街の本屋になぜ価値があるかというと、探していた本の隣に並ぶ本との偶然の出会いがあるから。本屋で買う本に迷うことも、旅先で目的地までに迷うことも、それぞれに見出す価値は結局同じで、予定調和なインターネットの世界では起こりえない、予期せぬ出会いがあるから」だそう。「これからはあえて迷うことをもっと楽しめないか。観光客が無茶苦茶迷えるアプリをつくっては」と塚原さんのアイデアも飛び出します。

LCCの台頭など、格安で誰でも旅行を楽しめるようになった近年。局所的な混雑が地元の日常を侵食し、京都をはじめ海外諸都市でも住民と観光客の軋轢が次々に生まれています。「朝の通勤時間、三脚を立てて橋の真ん中で比叡山を撮影している外国人の若者がいて。彼に露骨に体当たりして暴言を吐く日本人のサラリーマンを見たときに、なんとも言えない気持ちになった」という塚原さん。異なる他者への歓迎や出会いへの期待なしに嫌悪感が先行し、他者への許容度が一層低くなっている時代において、観光公害は排外的な感情まで助長してしまう。もはや観光という一側面だけでは捉えられない問題になりつつあるようです。そしてこのように都市が息苦しくなっているということは、観光客もそれを感じているということ。そんな状態ではリピーターは増えないのではないかと阿部先生は疑問を投げかけます。

観光を一方的な行為にしない

最後に塚原さんが「最近、観光客に積極的に話しかけるようにしているのを思い出した」と切り出します。新大阪を抜け出せないと困っているインド人のおじいちゃんグループに交通ルートを教えてあげたり、ラグビー観戦に来て、自国が負けたことに打ちひしがれているアイルランド人の若者たちに近くの美味しい店薦めて元気づけてあげるなど、自分に話しかけるルールを課しているのだとか。困っている観光客に話しかけて知り合いになり、地元情報を教えてあげると、それが他者にとっての旅の嬉しいハプニングになるといいます。

そもそも観光政策の議論で欠けているのは、ホストは誰なのかという点ではないかと阿部先生も話します。心理的な嫌悪感を抱いてしまうのは地域の人たちが自分たちにとってのメリットがあると感じられないから、観光が一方的な行為にならず、市民がホストになりたいと思えるWIN-WINの政策が求められている、と言います。目指すべきは観光客が来てくれるから住民の暮らしが良くなったという到達点。足りないから工夫したり、ハックしたりするのは、観光客じゃなく住民。ストリートでダンスやスケボーをするのはもちろん、人がいるから錦市場に行かない、ではなく、錦市場をハックしてやる(怒られそうだが)くらいのしぶとさ、諦めの悪さをもちつづけたい、とポジティブに締めくくってくれました。


以上、こちらでは書ききれない興味深いところをも多く、とても濃密な2時間半の議論でした。

ちなみに来週1.19も、五十嵐太郎さんと高山明さんのVol.10:観光と定住のあいだ―誰のための“都市デザイン”? へバトンは続くとのこと。14:00から、パークプラザ3階共通ロビーにて開催予定です。

詳細はこちら→

今後も引き続いて京都はじめ各地で議論されるテーマだと思います。ちなみに今回と次回の議論は、ロームシアター京都の機関誌『ASSEMBLY(アセンブリー)』の次号特集「観光と芸術」に収録されるそう。こちらもお楽しみに。

さらに今春弊社からは、登壇者・阿部大輔さん編著で、各国の観光公害の症例と対策をまとめた本を刊行予定です。

近刊『ポスト・オーバーツーリズム 界隈を再生する観光戦略』

現在鋭意制作中です。お楽しみに。以下、今回の登壇者・阿部大輔さんと次回の登壇者・五十嵐太郎さんの弊社既刊書もぜひチェックください。

●阿部大輔さん
(編著)

『小さな空間から都市をプランニングする』 武田重昭・佐久間康富・阿部大輔・杉崎和久 編著

(共著)

『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』馬場正尊ほか 編著

『都市経営時代のアーバンデザイン』西村幸夫 編

五十嵐太郎さん
(編著)

『3.11以後の建築 社会と建築家の新しい関係』五十嵐太郎・山崎亮 編著

 

 

 

 

 

イベント概要

 

 

多様な角度から同時代の社会を知り、捉え直すためのトピックを挙げ、それにまつわるゲストを招く連続トークシリーズ<「いま」を考えるトークシリーズ>。今年度よりロームシアター京都の機関誌「ASSEMBLY」と連動した内容で実施し、Vol.9、10では二回にわたって「観光と芸術」について検討を深めます。

Vol.9では、オーバーツーリズムに伴うモビリティや都市の在り方の未来、また人や物質の移動に関するデータマイニングを活用したアートや新たな表現形態の可能性についてディスカッションします。都市計画、ツーリズムやまちづくりに関する専門家の阿部大輔氏と、パフォーマンス集団contact Gonzoとして身体の接触と移動をテーマに作品を発表している塚原悠也氏を迎え、文化的・身体的アプローチから、観光とモビリティをめぐるあらたなアートの輪郭を探ります。

  • 日時:2020年1月11日(土) 14:00開始(13:30開場)
  • 会場:パークプラザ3階共通ロビー
  • 参加費:無料
  • 定員:80名

ゲスト

阿部大輔(龍谷大学政策学部教授)

1975年ホノルル生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程・博士課程修了。カタルーニャ工科大学バルセロナ建築大学校博士論文提出資格(DEA)取得。博士(工学)。政策研究大学院大学、東京大学都市持続再生研究センターを経て、現在、龍谷大学政策学部教授。著書に『バルセロナ旧市街の再生戦略』(学芸出版社)、共編著に『小さな空間から都市をプランニングする』(同)、『アーバンデザイン講座』(彰国社)などがある。

塚原悠也(アーティスト、contact Gonzo、KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター)

1979年、京都生まれ大阪在住。関西学院大学大学院文学部美学専攻修士課程修了。2006年パフォーマンス集団contact Gonzoの活動を開始。殴り合いのようにも、ある種のダンスのようにも見える、既存の概念を無視したかのような即興的なパフォーマンス作品を多数制作。またその経験をもとに様々な形態のインスタレーション作品や、雑誌の編集発行、ケータリングなどもチームで行う。2011-2017年度、セゾン文化財団のフェロー助成アーティストとして活動。京阪なにわ橋駅併設アートエリアB1共同ディレクター。2020年よりKYOTO EXPERIMENT プログラムディレクター。

詳細・申込み

https://rohmtheatrekyoto.jp/join/57198/

期限:2020年1月10日(金)23時59分

近刊情報

登壇者・阿部大輔さんの編著書が、2020年春に刊行予定です。

近刊『ポスト・オーバーツーリズム 界隈を再生する観光戦略』