支援型住宅の提供がホームレスの再犯を防ぐ ソーシャル・インパクト・ボンドを導入した米・デンバーでの5年間の実験結果が公開

アメリカ・コロラド州のデンバー市・郡が2016年からスタートした、ホームレス状態にある人々への支援型住宅の提供事業について、5年間の調査結果がこのほど発表された。

この事業は、「デンバー支援住宅ソーシャル・インパクト・ボンド・イニシアチブ(デンバーSIB)」と呼ばれるもの。
慢性的なホームレス状態にあり、警察や救急医療と頻繁にかかわりを持つ人々に対し、住まいの安定性を高めることにより、刑務所に収容され滞在する機会を減らすことを目的として、2016年に開始された。

一般にホームレス状態にある人々は、徘徊や不法侵入、路上での寝泊まりや薬物使用といった犯罪性を帯びた行為に及ぶことが多く、刑務所に収容される機会は多いとされる。
この取り組みは、対象者として満たすべき条件を設けず、ホームレス状態から住宅へと速やかに移行させることを目指す“ハウジング・ファースト”といわれる支援アプローチに基づくものとして実施された。

具体的には、デンバーでホームレス状態にある人724人が参加者として無作為に抽出され、「治療グループ」(363人)と「対照グループ」(361人)の2つのグループに分類。前者に対してはサポート付きの住宅(への継続的な補助金)が提供され、後者に対しては地域コミュニティにおける通常のケアサービスが行われた。

結果として、「治療グループ」で支援型住宅に収容された参加者(最終的には285人)の86%が1年間安定的に居住を続け、2年目でも81%、3年目では77%が住宅を維持。ホームレスのためのシェルター(緊急滞在施設)の利用回数は対象グループに比べて127回少なくなった(40%の減少に相当)。

また支援型住宅を得た参加者は、通常の参加者よりも、警察との接触が8回、逮捕が4回少なくなり、刑務所滞在回数が約2回、刑務所での滞在日数が平均で38日減少した。

さらに、市が資金を提供する(薬物の)解毒サービスを利用する頻度も減少し、施設への訪問回数は対照グループに比べて4回少ない結果に。これはサービスの65%の削減に相当するという。

なお、今回の事業の仕組みとしては、成果連動型の官民連携事業モデル「ソーシャル・インパクト・ボンド」(SIB)が用いられている。社会的インパクト評価に基づいて、民間資金を活用しながら社会課題の解決を図る仕組みであり、資金提供者に対する報酬の支払いが、事業の成果に応じて変動する。事業が成功した場合、それによって抑えられる行政コストなどを考慮してインセンティブが上乗せされる点に特徴がある※。

今回デンバーは事業の資金として、メディケイドや住宅支援プログラムによる公的資金を活用したほか、個人投資家からの出資も受けている。
今回の成果を受け、デンバーは投資家に対して、初期投資額に100万ドルを上乗せする形で計960万ドル(住居安定化に対し450万ドル、刑務所滞在日数の成果に対し510万ドル)を支払ったという。

事業の実施に尽力したコロラド州ホームレス連合(Colorado Coalition for the Homeless)のキャリー・クレイグ氏は今回の実験結果を踏まえ、「刑務所からの再犯を減らすためには、人々に住居を提供することが重要」とNEXT CITY誌への取材に対してコメント。
支援組織らは、支援型住宅の提供が慢性的なホームレス増加への解決策になるとして継続的な投資を求めており、市当局も今回のプラグラムを今後も継続すべく、連邦政府に資金を申請しているという。

※参考:江口晋太朗「社会的インパクトを重視した事業評価の拡大」『実践から学ぶ地方創生と地域金融』pp.159-162

詳細

Denver Supportive Housing Social Impact Bond Initiative

https://www.urban.org/policy-centers/metropolitan-housing-and-communities-policy-center/projects/denver-supportive-housing-social-impact-bond-initiative

Breaking the Homelessness-Jail Cycle with Housing First: Results from the Denver Supportive Housing Social Impact Bond Initiative

https://www.urban.org/research/publication/breaking-homelessness-jail-cycle-housing-first-results-denver-supportive-housing-social-impact-bond-initiative

Research Shows ‘Housing First’ in Denver Works

https://nextcity.org/daily/entry/research-shows-housing-first-in-denver-works


Cover Photo by Jon Tyson on Unsplash

記事をシェアする

タグ:
公開日:2021/08/18
学芸出版社では正社員を募集しています
学芸出版社 正社員募集のお知らせ