住宅ストックの種類別の考え方|連載「セルフリノベーション・ラボ」vol. 03

この連載について

リノベーションってカッコ良いけど、自分にはできないかも……。でも、リノベーションの多様な入口をちょっと知るだけで、「これならできそう!」という接点が見つかるかもしれません。

本連載では大学研究室のメンバーが、セルフリノベーションの基本的な考え方(理論編)、方法や道具の使い方(実践編)、先達の創意工夫(事例編) という3つの視点から紹介していきます。
日本全国にあるたくさんの空き家を、セルフリノベーションで楽しみながら使う。そんな人が増えたら、まちも、暮らしも、もっと豊かになるのではないでしょうか。

セルフリノベーションを行うにあたって、空き家1をどのような住宅ストックとして捉えるかを整理していきます。
「空き家」を一律に捉えるのではなく、つくられた時代や立地、住宅タイプの違いに目を向けながら、それぞれの住宅がどこまで更新できるのか、セルフリノベーションの可能性を概観します。

1|空き家を住宅ストックとして見る

「住宅ストック」とは、国内に存在する既存住宅の総体を指す言葉です。日本では1960年代以降、住宅総数が世帯数を上回る状態が続いており、その差は拡大してきました(図1)。2

令和5年の総務省の調査3では約6,504万戸で、そのうち空き家数は約900万戸(空き家率13.8%)にのぼり、過去最多となっています(図2)。

住宅はかつての「不足しているもの」から「すでにあるもの」へと変化し、新たにつくり続けて住まいの需要に応える段階から、既存の住宅をどのように引き継ぎ、使い直していくかが問われる段階へ移行していることを意味します。

空き家率を地域別に見ると、その割合は全国で一様ではありません。都道府県ごとに差があり、西日本を中心に割合が高い地域が見られます。4

全国的に見ると、地価は上昇していますが、変動率は地域によって差があります。三大都市圏や地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では地価が上昇していますが、その他の地方圏では、住宅地は17県、商業地は15県、地価が下落している県があります。5

また、空き家率の高い都道府県は、地価変動率がマイナスとなる傾向が見られます。

さらに、空き家の状態の良し悪しの分布をみると、比較的良い状態の空き家が市街地周辺に、悪い状態の空き家が郊外地域に多いとされている6ため、地価の高低との対応、または相乗効果が考えられます。7

これは、空き家が市場や地域条件と無関係に存在しているのではなく、立地や周辺環境といった前提条件のもとに分布していることを示しており、それぞれの空き家の扱われ方や更新の可能性にも影響すると考えられます。

こうした立地条件に加え、つくられた時代や構法などによっても性格が異なるので、空き家が「どこに、どのような状態で存在しているか」を理解することが、セルフリノベーション行う上での出発点となります。

2|住宅ストックの種類を問わず共通して考えること――どこまで手を入れられるか

セルフリノベーションを検討する際に、住宅タイプを問わず共通して意識しておくべき前提として、住宅を「すでに存在する資源」として捉えることが挙げられます。

リノベーションは、必ずしも大規模な改修や用途変更を指すものではなく、既存の構成や条件を前提とした上でどの部分に手を入れ、どの部分を残すかといった判断を重ねながら進められるプロセスです。

また、それぞれの建物には、法令や構造によって「触れられる部分」と「触れられない部分」が存在します。セルフリノベーションにあたっては、こうした法令や工事範囲をきちんと理解しておくことが不可欠です(表1)。


たとえば、内装には火災時の避難を妨げないための制限があり、火気を使用する空間では仕上げ材を選択します。外装にも、防火性能が求められる場合があります。

更に、居室には採光・換気やシックハウス対策の基準があり、増築や形状変更を伴う場合には周辺の日照への配慮も求められます。これらはセルフリノベーションの場合義務化されないこともありますが、知っておいて損はない知識です。一方、電気・ガス・水回りなどは、有資格者による施工が必要な工事があるので、設備の変更は専門業者に相談しましょう。8

また、在来軸組工法の住宅では壁量や壁の配置に関する規定があり、耐震基準(旧耐震・新耐震・2000年基準)についてもセルフリノベーションする際には、対象の建物がいつ建てられ、どの耐震基準に該当するかを確認しておきましょう。

こうした前提を踏まえて、住宅ストックの種類ごとに、その特徴とセルフリノベーションの可能性をみていきます。

3|古民家――経年の価値を活かし、強くする

古民家の明確な定義はありませんが、一般的には、登録有形文化遺産制度に合わせて築50年を経過する木造軸組構法の伝統工法や在来工法の住宅とされる傾向にあります。9
地域の材料や技術を背景として成立してきた住宅の形式で、柱や梁の構成が把握しやすい点が特徴の一つです。

一方で、構造に関わる部分の変更には慎重な判断が必要です。仕上げや設備など、構造に直接関わらない部分と異なり、建物全体の安全性に関わる壁や柱、梁などは、構造的な補強も視野に入れて丁寧に検討しましょう。なお、次回(Vol. 4/2月公開予定)の実践編-2・壁編にて、耐力壁の設置についても解説します。

また、江戸期から戦前にかけて建てられた都市型住宅の町家(町屋)は、通り庭を中心とした奥行きのある空間構成を特徴としています。区画された敷地形状や道路に直結する空間構成から、町並みと一体で成立してきた住宅形式といえます。10

町家(町屋)では、間取り変更など内部の改修は「触れられる部分」が多い一方、建物が密集するエリアでの外観の変更は、建物単体のみならず、町並みや周辺への影響なども理解する必要があります。地域によっては伝統的建造物群保存地区の指定により「触れられない部分」が規定されている場合もあります。

4|昭和住宅――標準的なつくりを把握し、思い切った更新も

昭和期に建てられた住宅は、日本の住宅ストックの中で大きな割合を占めています。個室化が進み、中廊下型や居間中心型の平面構成11が代表例として挙げられます。構造、材料の特徴としては、昭和初期から戦前までは、 鉄筋コンクリート造のものが約1割程度あったとされていますが、9割近くが木造の住宅でした。12

戦後も木造住宅が多いのですが、今の建築基準法のもととなる法律ができ、外壁を防火仕様にするためのモルタル壁が普及しました。1950年代の高度成長期は、住宅が大量に短期間で建てられるようになり、材料は工場加工生産された木材や不燃材を用いたものが多くなっていきます。

また、1980年代にはフローリングを取り入れた洋風の間取りが一般化しました。

構法や材料が比較的標準化されているため、「構造に関わる部分」と「それ以外の部分」の線引きを理解しやすい住宅タイプでもあります。構造に関わる壁や柱、梁などについて慎重な判断が求められる点は、他の住宅タイプと共通していますが、仕上げや設備、間取りの一部については更新の余地ができます。

5|集合住宅――区分を踏まえて、住環境を更新する

集合住宅では、所有か賃貸かによって、検討できるセルフリノベーションが可能な範囲が大きく異なります。所有の場合も、建物は個々の住戸として管理される専有部分と、建物全体で共有・管理される共用部分によって構成されています。

所有の場合、基本的に占有部分の改修は自由にできますが、建物の管理規約で手をいれられる範囲が決まっていることもあるので事前の確認は怠らないようにしましょう。

【図7】マンションの共用部分と専有部分
(茨城大学一ノ瀬研究室 岩間綾 作成)

一方、賃貸の場合には専有部分であっても原状回復が求められることが多く、更新できる内容は限定されます。近年では賃貸物件でもセルフリノベーションが可能な物件も増えてきており、国土交通省は「DIY型賃貸借」の活用を促進しています。賃貸物件の改修アイディアをまとめた以下のようなサイトもありますので、参考にしてみてください。

集合住宅の場合、玄関ドア、バルコニー、柱や梁などは共用部分に含まれるため、個人の判断で手を入れることはできません。一方で、内装仕上げや設備など、専有部分に該当する範囲については、一定の条件のもとで更新の検討が可能です。

セルフリノベーションを検討する際には、このような建物による改修の条件の違いを捉える必要があります。1で示したように、同じ住宅タイプであっても立地や地価、周辺の条件によって、できることは変わってきます。住宅の種類による違いに、場所や条件を合わせた検討を行い、セルフリノベーションの方向性を決定していきましょう。

(つづく)


注・参考文献
  1. 本記事で用いる「空き家」は、2015年施行の空家等対策の推進に関する特別措置法に基づき、おおむね1年以上使用されていない住宅等を指す。倉庫・物置等の附属建築物を含む。長屋・アパート・マンションは、1室以上使用されていれば対象外(田村誠邦、加藤悠介ら:建築・まちづくりのための空き家大全、学芸出版社、2024) ↩︎
  2. 内閣府:令和6年度 年次経済財政報告書(経済財政対策担当大臣報告)-熱量あふれる新たな経済ステージへ- 第2節、2024
    https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je24/pdf/p030002.pdf ↩︎
  3. 総務省統計局:令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集 計(確報集計)結果、2024.09.25
    https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/kihon_gaiyou.pdf ↩︎
  4. 総務省統計局:令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果、2024.04.30
    https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/g_kekka.pdf ↩︎
  5. 国土交通省 土地政策審議官:令和6年地価公示の概要、2024.03
    https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001738839.pdf ↩︎
  6. 髙橋紘輝、氏原岳人、樋口輝久:空き家の状態と都市構造との関連分析-岡山県岡山市を対象に-、交易社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集 Vol.60、p.1620-1626、2025 ↩︎
  7. 粟津貴史:管理不全空き家等の外部効果及び対策効果に関する研究、都市住宅学2014巻87号、p.209-217、2014 ↩︎
  8. 主婦の友社,「図解版 リノベとリフォームの、何ができない何ができるのすべてがわかる本」2021.3.31 ↩︎
  9. 文化庁:登録有形文化財建造物パンフレット
    https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/shuppanbutsu/bunkazai_pamphlet/pdf/pamphlet_ja_06_ver02.pdf ↩︎
  10. 松井薫:京都の町家に学ぶ たしかな暮らし、2023 ↩︎
  11. 山下和正:近代日本の都市型住宅の変遷 明治から現在まで、36の住宅に見る都市一戸建住宅の歴史、1984 ↩︎
  12. 藤田 香織、宮谷 慶一、松村 秀一、熊谷 亮平、権藤 智之、今田 多映:昭和戦前期の建築構法・生産の変遷に関する産業史的研究―清水組工事竣功 報告書を対象として―、住総研研究論文集・実践研究報告集 47巻、p143-154、2021 ↩︎

執筆者プロフィール

一ノ瀬 彩(いちのせ・あや)

茨城大学大学院理工学研究科助教。1977年静岡県生まれ。筑波大学大学院修了、博士(デザイン学)。学生時代から教育施設の学生参加型改修の実践研究に携わり、「筑波大学体芸リニューアルプロジェクト」でJCDデザイン新人賞受賞。人と場の関係を育むデザインを軸に、湧水と工芸による都市デザインプロジェクト「みずみずしい日常」(松本市景観賞最優秀賞・2019)、病院空間改修「日立総合病院なごみの広場+サイン計画」(いばらきデザインセレクション選定・2023/2025)、国際展「アートセンターをひらく 2023-地域をあそぶ」(水戸芸術館現代美術センター)に招待作家として『続・水戸空間診断 re-weave』を展示するなど、地域資源を活用した都市空間の魅力づくりや市民協働の空間再生に取り組む。共編著書に『まち建築 まちを生かす36のモノづくりコトづくり』(彰国社・日本建築学会)ほか。

連載一覧

検索

まち座のコンテンツを検索

検索対象を指定

学芸出版社の書籍を検索