建築・まちづくりのための 空き家大全
内容紹介
問題と対策、活用策のすべてがこの一冊に
問題と対策、活用策のすべてがこの1冊でわかる。空き家が生まれるメカニズム、関わる法律や税制から、行政の空き家対策、空き家を活用するための手法、その仕組みや担い手について、50のキーワードと、50の事例によって、見開きでわかりやすく整理した。行政や事業者はもちろん、空き家に悩む地域の人々のための手引き
はじめに
1部 空き家を知る25のキーワード
1章 空き家とは
01 空き家は何が問題か
02 所有者の責任とリスク
03 統計に見る空き家
04 建築の寿命と空き家
05 世界と日本の空き家
2章 空き家はなぜ生まれるか
06 減っていく世帯
07 人口減少時代のスプロール
08 立地適正化計画の限界
09 過剰供給される新築住宅
10 日本の住宅市場の特殊性
11 取り残される既存住宅の性能
12 市場で評価されない既存住宅
13 解体を阻む除却コスト
14 空き家を残してしまう税制
3章 行政に何ができるか
15 空き家政策の枠組み
16 空家法と「特定空家等」
17 空き家除却をどう促すか
18 自治体による空き家調査
19 空き家バンク
20 空き家のよろず相談窓口
21 移住施策への展開
22 セーフティネットとしての空き家
23 農家住宅等の空き家活用
24 政策に係る財源とマンパワー
25 世界の空き家政策
2部 空き家を活かす25のキーワード
4章 暮らしを広げる
26 リノベーションする
27 空き家に移住する
28 二地域を住みこなす
29 多拠点を使いこなす
30 繋げて使う
31 群で使う
32 共同の住まいにする
33 暮らしとまちを継承する
5章 用途を変える
34 商いの場にする
35 働く場にする
36 地域の場にする
37 文化の場にする
38 福祉の場にする
39 子どもの居場所にする
40 地域を変える核にする
41 アドホックに使う
42 更地に戻す
6章 仕組みと担い手
43 マッチングサービス
44 サブリース
45 住まいの終活
46 DIYリノベーション
47 コミュニティ大工
48 居住支援の受け皿
49 地域コミュニティ
50 地域再生組織
3部 空き家を活かした50の事例
暮らしを広げる
51 リノベーションミュージアム冷泉荘 ── 賃貸住宅をクリエイターの活動拠点に
52 NAWATE PROJECT ── 減築により現れた鳥居と中庭のある複合施設
53 大地の芸術祭空き家プロジェクト ── 空き家を「アート空間」として蘇らせる
54 きら星BASE ── 移住者をパッケージで支援
55 いえかつ糸魚川 ── 移住したい人、移住して商売をやりたい人を応援する
56 NPO法人南房総リパブリック ── 二地域居住を通じて地域の豊かさを未来に残す
57 つるおかランド・バンク ── 空き家・空き地を一体整備して有効活用する
58 ニコイチ ── 団地の2戸1化リノベーション
59 オビハウス ── 向かい合う2棟の部屋をワンセットにして貸す
60 輪島カブーレ ── 地域に点在する複数の空き家を再生してまちづくり
61 NIPPONIA ── 古民家再生によるアルベルゴ・ディフーゾ
62 鞆の浦さくらホーム ── まち全体に点在する事業所で地域共生社会を実現する
63 松原憩いの家 ── 2世帯住宅を活かした子どものための住まい
64 住宅遺産トラスト ── 価値ある住宅と環境を後世に継承する仕組み
65 スミツグハウス西棟・東棟 ── 住み継ぎ、地域を繋げる団らんの宿
用途を変える
66 ジョンソンタウン ── 米軍ハウス地区に個性豊かな店が集まる
67 新大門商店街 ── 個性ある店主による時代と地域を繋ぐ新しい商いの場
68 ゲストハウス架け橋 ── 震災復興をきっかけに始まった展開
69 仏生山まちぐるみ旅館 ── まちを旅館に見立て、資源を繋げる
70 市街化調整区域における空き家活用施策 ── 住民の計画策定で賃貸活用へ
71 茶山ゴコ ── 住宅地の戸建住宅を仕事と暮らしの場に
72 えんがわオフィス ── サテライトオフィスから始まる地方創生
73 JOCA大阪 ── 古い「文化住宅」を地域に開いたオフィスに
74 博労町まちかどサロン ── 空き町家を自治会が改修し多世代の集いの場に
75 星空の小さな図書館 ── 過疎地で小さな文化拠点をつくる
76 おらとこ ── 民家を改修した富山型デイサービスと小規模多機能
77 大曽根住宅 ── 団地の空き住戸と店舗を高齢者住宅+地域拠点に
78 子育てシェアスペースOmusubi ── 地域に暮らす女性のための複合施設
79 陽だまり保育園 ── 築250年の古民家を移築再建して園舎に
80 のあそびLodge ── 駅前の空きホテルを再生した”みんなのタマリバ”…… 184
81 巻組 ── 空き家をクリエイティブな人を繋げる場に
82 ひのさと48 ── 団地の1棟を残し生活利便・コミュニティ施設に
83 カシニワ制度 ── 身近な空き地を「地域の庭」にする
84 みんなのうえん ── やりたいことにチャレンジできる都市農園
85 クロスロード宮町 ── 除却と跡地活用による中心市街地循環再生モデル
仕組みと担い手
86 空き家見学会 ── 人と場の出会いづくり
87 家いちば ── 空き家の買い手を自分で探すための掲示板
88 さかさま不動産 ── 借りたい人のやりたい想いを貸したい人に繋ぐ
89 空き家・空き地地域利用バンク ── 行政による所有者と地域活動の担い手の橋渡し
90 住民自治協議会による空き家バンク ── 住民による丁寧なサポート
91 賃料一括前払いのサブリース ── 大阪府不動産コンサルティング協会を中心とした取組み
92 梼原町移住定住促進住宅 ── 自治体による空き家の移住者向けサブリース
93 早期決断シート ── 所有者の意思決定を促す仕組み
94 九州DIYリノベWEEK ── 広がるまちづくりの広域ネットワーク
95 加藤潤さんと頴娃おこそ会 ── 空き家再生に伴走する新たな職能
96 大牟田市ライフサポートセンター ── 空き家と福祉を繋げ、循環させる居住支援
97 ニシイケバレイ ── コミュニティを繋ぎ地域価値を高めるオーナー
98 いずみサロンとタウンサポート鎌倉今泉台 ── 住民のNPOが運営する地域活動拠点
99 尾道空き家再生プロジェクト ── ボトムアップ的まちづくりの参照源
100 泉北ほっとけないネットワーク ── 高齢化したニュータウンを住み継ぐ
出典リスト
より深く学ぶための参考文献
事例マップ
キーワードと事例マトリックス
はじめに
空き家は、今日では、その所有者が独力で解決すべき問題という枠組みを超えた社会課題として認識されている。これは、空き家が放置されると、建物の倒壊、建材の飛散・崩落、樹木・雑草の繁茂、公衆衛生・治安・地域イメージの低下等の問題を引き起こす恐れがあり、地域社会に対して多大な悪影響を及ぼしかねないからである。2023年住宅・土地統計調査によれば、2023年10月1日現在における全国の空き家数は900万戸、空き家率は13.8%となっているが、2043年には、空き家数は1861万戸、 空き家率は 25.3%に達するという予測もある(野村総合研究所2024年6月)。このように、空き家問題への対応は、人口減少が加速する今後のわが国において、避けて通れない極めて重要な課題である。
空き家問題については、国をはじめとして、公民問わず多種多様な主体により対応策が検討、実践されている。空き家問題に関する研究も、建築や都市の専門家のみならず広く社会科学分野の専門家らによって、さまざまな視点から取組まれている。また、空き家問題の前線に立つ地方自治体が地域の具体的課題から発想した独自の空き家対策を実施する例や、空き家活用の豊かなアイディアを持つ民間事業者が空き家を地域のポテンシャルに転換する例などが、全国各地で報告されている。すでにそうした取組みが一定の成果をあげ、空き家問題の解決の糸口となる知見として蓄積されつつある。
一方、空き家問題やその対応策が多岐にわたり、それらが社会環境の変容や時間の経過とともに変化し、複雑化・複合化していくことで、今日ではその全体像が把握しづらくなっている。また専門家や地方自治体、民間事業者などの取組みの成果はかならずしも体系化されておらず、個別の成果に留まっている。そのため、空き家問題に取組む際に、断片的な知識のまま問題に対峙せざるを得ず、情報過多により適切な先行事例にもたどり着けない状況が生まれている。
本書は、こうした空き家問題とその対策について、最新動向から過去の経緯までを幅広い視点で網羅的に解説したものである。すなわち、空き家に係る法律問題から、空き家が生まれるメカニズム、行政における空き家対応策、空き家を活用するための手法等について、見開き2ページでわかりやすく整理している。
本書を読むだけで、空き家問題とその対策についての全貌がわかり、すぐに実務に役立つことを企図した。
本書は、空き家問題の背景と実態、空き家を利用したこれからの暮らし・地域づくりの可能性について、 建築計画、都市計画、建築社会システムの研究者注らが解説するものである。
本書の構成は大別すると「1部 空き家を知る25のキーワード」「2部空き家を活かす25のキーワード」と「3部 空き家を活かした50の事例」からなる。巻末には、出典リストと、より深く学ぶための参考文献のほか、事例マップ、2部のキーワードと3部の事例の相関関係を示すマトリックスを掲載した。
このように本書は、空き家について相互にリンクするキーワードと事例より、空き家問題の背景と実態、空き家を利用したこれからの暮らし・地域づくりの可能性を、本書1冊で総合的に学べる点に特色がある。また本書の読者としては、①建築・まちづくり関係者・学生、②自治体職員・議員の方々、③自治会のリーダーの方々を主に想定している。空き家問題に取組むうえで欠かせない知識を幅広い視点から網羅することで、読者の立場に応じて、フォーカスできるポイントがそれぞれある点も本書の特徴である。
本書が、各地域での空き家問題の解決、空き家の活用等に取組む方々に少しでも役に立つことを祈念したい。
2024年9月
編集執筆者代表 田村 誠邦
注
本書の執筆者は、日本建築学会特別研究委員会 「縮小社会における都市・建築の在り方検討特別研究委員会」(2018年度)、科学研究費補助金基盤研究🄑 「縮小社会における総合的・中長期的な空き家対策に向けた実証的研究」(2019〜2022年度)で共同研究を進めてきたメンバーである。一連の活動により生まれた問題意識が本書を出版する動機となった。
開催が決まり次第、お知らせします。