第26回「サンベルトのブーミングシティ オースチンの異変(2)―― QOLの劣化とハイテク企業流出の兆し」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』
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「テキサスのビジネス環境はカリフォルニアに比べて恵まれている」と喧伝され、2021年には大小63社がカリフォルニアからテキサスに本社を移転しました。移転先としてはオースチンが州内2位でした。ところが2023年には、本社を移転した企業が1/10の6社に激減しました。
QOLの急速な悪化に加え、「実際に移転してみたらテキサスのビジネスエコシステムは、カリフォルニアに比べて喧伝されているほど恵まれてはいなかった」と移転を悔やむ企業があります。この禍根の話は、次回(3)にさらに詳しく説明します。
「オースチンのハイテクハブが揺らぐ!」の話題は、Big Tech以外に広がっています。ヒューストンで起業し、オースチンで成長したベンチャー企業が、ヒューストンに帰ることを決めたニュースや、オースチン発のスタートアップが他州に転出するという話題が増えています。
起業も減っています。ベンチャーキャピタルが2021年、オースチンで67.5億ドルの投資をしましたが、2023年は38億ドルに落ち込みました。
確かにBig Techが後退するニュースを、前向きに受け止めようとするが発言もあります。Big Techがダウタウンのタワービルを圧倒的に占拠し、IT系モノカルチャーの企業城下町になってその動向次第で都市経済が右往左往させられるようになるよりは、「Big Techが抜けるスペースにスタートアップのスモールビジネスが集積すれば、経済の多様性が育まれ、変動に対する対応力が増強される」と説き、Big Techの縮退をむしろ歓迎する議論です。
しかし、オースチンの「ハイテクビジネスの揺らぎ」は、いろいろなところに影響が出ています。ダウンタウンのオフィスビルで空きフロアが埋まらない、という状況が続いています(Austin office vacancy rate at an all-time high, among highest in the country, yahoo finance, Nov.27, 2024)。空きフロア率が16.8%でこれまでにない高率です。国内4位の高さです。テキサスの他の都市も苦戦しています(空きフロア率1位サンフランシスコ、2位ヒュースト、3位ダラス)。
2021-2022年ごろのオースチンは、ブーミングシティを手放しで喝采し、それ行けドンドンと摩天楼の建設計画がもてはらされていましたが、状況が一変しました。ダウンタウンでは、幾棟もタワーオフィスビルの建設が進行していますから、オフィスマーケットは、当面、改善の目処が立たないのです。
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