第26回「サンベルトのブーミングシティ オースチンの異変(2)―― QOLの劣化とハイテク企業流出の兆し」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』
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ところが8年後には、話が真逆になりました。New York Timesが「オースチンは2021年末までに、カリフォルニアの都市(サンフランシスコやロサンゼルスなど)を除き、暮らしやすさをめぐってアメリカで最もアフォーダブルではない都市に転落する(不動産調査のZillow調べ)」という悲観説を書いていました(Nov.27, 2021)。スーパースタート都市のニューヨークやボストンよりも暮らし難くなる、という予測でした。オースチンのアーバンアフォーダビリティは、2010年代に間違いなく様変わりし始めていました。
オースチンでは、2021年10月の住宅販売価格の中間値は536000ドルでした。2011年に比べて2倍も値上がりしていました。
オースチンで居心地の良い暮らし(comfortable life)をするのにどのくらいの年収が必要かを調べたデータがあります(How much money Austinites need to make to live comfortably in 2025, Austin Cultural Map, March 5, 2025)。
それによると一人暮らしの場合、101,587ドル(前年比1,830ドル増加)、夫婦と子供2人では233,376ドルの稼ぎが必要です。アメリカ100都市圏の暮らしやすさランキングで51位でした。オースチン市民の中間所得は74,474ドル(2023年)です。それと比べるとオースチンで居心地の良い暮らしするのはかなり難しい、ということになります。
ところが昨今のオースチンでは、今度は住宅市場が大きく揺らぎ、家賃/住宅価格が崩れています。住宅価格が高騰し過ぎ、需要側がその上昇に追いつけず、いよいよ買い手のつかない在庫が急増しているのです(Austin’ Ground Zero’ as Texas housing market downturn, Newsweek, Nov. 5, 2024)。

交通環境の悪化も深刻に
QOLの悪化は、交通でも深刻です(Where Austin’s awful traffic landed on list of country’s 25 worst, CultureMap Austin, August 21, 2024、本連載=「高速道路は時代遅れになる?!(3)―― 道路を拡張/延伸すると交通渋滞はさらに悪化する?!」参照)。
人口が急増したオースチンでは、交通渋滞が深刻になりました。オースチンのドライバーは、2023年、通勤時の渋滞で平均38時間のロスをしていました。交通渋滞が深刻なアメリカ25都市のうち、悪い順に21位でした。
交通渋滞の緩和を口実にして州交通局が市内を走る州際高速道路(I-35)の拡張を強行しようとしています(I-35 expansion sparks civil rights complain and another lawsuit, kut News, January 29, 2024)。
しかし、草の根の市民団体(Rethink 35)などが「拡張は根本的な渋滞対策にならない。さらなる排ガスの増加につながる。コミュニティを分断し、破壊する」と反対運動を繰り広げています。
こうした市民運動グループは、ニューアーバニズム運動などの影響を受け、都市の成長管理政策に関心を示しています。「No more, rapid growth!」です。
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