第26回「サンベルトのブーミングシティ オースチンの異変(2)―― QOLの劣化とハイテク企業流出の兆し」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

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住宅費高騰はハイテク層にも影響

オースチンを逃げ出す理由は、オースチンの〈Quality of Life = QOL、生活の質〉の劣化にあります。端的には住宅費の高騰です。人口の増加が急激で土地が不足し、住宅開発が追いつかないのです。

  1. 中間所得階層:通勤通学に便利なところに住宅を購入したり賃貸したりするのが難しくなっています。持続可能な、あるいはアフォーダブルな都市開発の危機です。
  2. 低中所得階層/マイノリティ:オースチンには、音楽、食事、そして工芸などをめぐってアフリカ系黒人の豊かなカルチャーとそのコマーシャル地区がありました。ところが黒人/ラテン系の街区で都市再開発が進行し、住宅費や店賃が跳ね上がっています。そこで暮らす低中所得階層、あるいはスモールビジネスは、郊外か、どこか他のところに追い出されています。黒人の人口が減っています(A possible solution to Austin’s declining black population, Kxan, Oct. 17, 2023)。ホームレスが増えています。
  3. ハイテク・パワー・エリート:追い出されている人々は、マイノリティ以外にも広がっています。カリフォリニア、特にサンフランシスコ湾岸からハイテク企業とハイテクプロフェショナルが転入し、オースチンにシリコンヒルズを形成しました。

ところがそこで働くハイテクプロフェッショナルも、オースチンの郊外か、他州のブーミング都市に逃げ出しています。彼等がシリコンバレーに見切りをつけ、サンフランシスコ湾岸を脱出した理由は「住宅費の高騰」でしたが、まったく同じ理由でオースチンから逃げ出しています。

オースチンで「住宅危機」が叫ばれるようになったのは、少し前からのことです。家賃が高騰し、黒人などのマイノリティに続き、看護師や学校の先生などの中間所得階層のエッセンシャルワーカーがオースチンから追い出されている、というニュースが既に2019年に流れていました(Feb. 6, 2019, kvue.com)。

当時、ワンルーム・アパートの平均の月額家賃が既に1200ドル以上、ダウンタウンのアパートになるとワンルームで2000ドルを超えていました。そうして今度は、追い出す側にいたハイテクプロフェッショナルが追い出される、という事態になっているのです。因果応報の自業自得というのか、皮肉な話です。

居心地の良い暮らしにはいくら必要?

当時、市内の35住区でジェントリフィケーションが進行し、23住区でその発生が心配されていました(How Austin became one of the least affordable cities in America, New York Times, Nov. 27, 2021)。

記事によるとジェントリフィケーションが特に激しいのは、ダウンタウンから南東に位置する黒人/ラテン系住区(East Austin)です。教会が潰され、モービルハウスの駐車場が撤去され、そこに奇抜なカフェやヨガスタジオ、高級アパートが建てられました。建設用のクレーンが林立しました。安い賃貸アパート住まいの住民は、いつ立ち退きを迫られるか、戦々恐々としていました。

オースチンは、経済誌Forbsの調べでは、2013年版の「最もアフォーダブルな暮らしができる都市」ランキングで上位10位にランクされていました(Jun 19, 2013)。当時のオースチンは、「暮らしやすさ」を自慢していました。

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