2021年度グッドデザイン賞受賞記念連載(2)
そもそも「がもよん」ってどこ? 何が起こっている?

2021年度グッドデザイン賞ベスト100に選ばれた、大阪市城東区蒲生四丁目界隈を舞台とする地域づくりの取り組み「がもよんモデル」。

この連載では、“そもそもがもよんって何?”というおはなしから、きっと訪れてみたくなるリアルタイムの街の動きまで、住まいと街の解説者・中川寛子さん(東京情報堂代表、『空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる 「がもよんモデル」の秘密』著者)にレポートいただきます。


第2回の主な内容
  • 「蒲生四丁目」というまち
  • きっかけとなった米蔵改装レストラン
  • “うまくいかずに撤退”の店舗がゼロの秘訣
  • 飲食以外に広がるプロジェクト

大阪市城東区蒲生四丁目、通称がもよんは大阪城の東側にある城東区のほぼ中央に位置するまち。地下では大阪メトロ今里筋線、同鶴見緑地線、地上では今里筋、鶴見通が交差する人通りの多いまちで、大阪、いや、日本でも有数の人口密度を誇ってもいる。城東区の行政施設が集まっている場所でもあり、最近はマンションも増加している。

その一方で戦災を免れたため、築100年以上という木造家屋、長屋、路地が残されており、長らくそれらは空き家になったまま、放置されていた。東京の下町、いわゆる木密地域と言われるエリアに似た感じといえば分かりやすいだろうか。

それが変わり始めたのは2008年。駅から歩いて数分という、あまり便利とは言えない場所に築120年余という米蔵を改装したイタリアレストランが開業したのがきっかけである。

米蔵を改装したイタリアンレストラン「イル・コンティヌオ」(2021年度グッドデザイン賞公式YouTubeチャンネルの紹介動画より。CC-BY-ND=著作権利者:(C)JDP/サイト名:GOOD DESIGN AWARD)

古民家カフェが珍しくなくなった今なら、ああ、またかと言われるかもしれないが、大阪の下町、しかも空き家の多い一画に突如誕生した、これまでないスタイリッシュなレストランは話題を呼んだ。地域の人たちには予約が必要なレストランに戸惑いもあったようだが、それがきっかけとなってがもよんの空き家は次々に飲食店等に生まれ変わり始める。

関西のテレビを始めとしたメディアにも頻出の街になっていくのだが、それを主導したのが一般社団法人がもよんにぎわいプロジェクト代表理事で、アールプレイ株式会社の和田欣也氏である。

和田欣也さん

それからの10年余でがもよんの30軒以上の空き家が店舗に変わる。注目すべきはそのうちに経済的な理由、つまり、店がうまくいかなかったために撤退した店舗がないこと。
飲食店経営は3年以内の廃業率が70%を超えると言われるほど難易度が高いとされるが、がもよんで出店した店はいずれも盛業。その理由は週に一度店主同士が顔を会わせる機会があり、年に何度かは一緒にイベントを開くなど、まちにある店舗が一体となって互いを支え合う経営にある。

また、古い長屋の利活用では耐震補強は常に問題になるが、和田氏の阪神・淡路大震災の経験から、がもよんで必須。まず耐震補強ありきで活用が始まる。そして、そこで得た信頼が建物の維持管理に繋がっている。
こうした数々のがもよんならではの仕組みによってがもよんは飲食店が店を出したい街になり、地元の人たちが誇りに思う街へと変化してきた。街づくりがきちんと収益を上げている、社会的にみても珍しい場所でもある。

「がもよん」に立地する飲食店(CC-BY-ND=著作権利者:(C)JDP/サイト名:GOOD DESIGN AWARD)

飲食店からスタートし、現在も飲食店が柱ではあるものの、少しずつ異なる要素も入ってきつつある。
たとえば台風で被害を受けた民家を解体、できた更地を利用した農園である。都心近くには少ないこともあって、スタート時から人気を集め、「もっと利用料金を高くすればよかったかな」と和田氏が笑うほど。
現在もクラフトビールの工場が建設中で、がもよんの楽しさはさらに深化する。

今回、グッドデザイン・ベスト100に選出された「がもよんモデル」を紹介した『がもよんモデルの秘密』はこうした和田氏の長年に渡る積み重ねを余さず紹介、これからの空き家利活用の促進を願ったもの。自分のまちを、空き家をなんとかしたい人にはお勧めしたい1冊である。

(<a href=”https://book.gakugei-pub.co.jp/series-article-gamoyon-good-design-vol3/”>続く</a>)

『空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる 「がもよんモデル」の秘密』和田欣也・中川寛子 著


連載バックナンバー

2021年度グッドデザイン賞受賞記念連載(1)速報!「がもよんモデル」が「グッドデザイン・ベスト100」に!

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公開日:2021/10/28/最終更新日:2021/11/09
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