[ブックレビュー]芸術と技術を融合するディテールに宿る情熱|関本竜太


アールトの建築はディテールである。逆に言えば、ディテールにこそアールト建築の本質は宿っているといえる。

アールトの建築の魅力は、作品集などからはけっして推し量ることはできない。アールトの建築に触れてみたいと、私がはじめてヘルシンキを訪れたのは1999年のことだ。その時はフィンランディアホールをはじめ、アールト自邸、アールトスタジオなど、ヘルシンキ周辺のアールトの建築を見て回ったが、残念ながらその時はアールトの建築について半分も理解できなかった。まるで難解な抽象絵画を見ているようだった。

しかしその後フィンランドに建築留学をし、地方に建つパイミオサナトリウムやマイレア邸といったアールト若かりし頃の作品群に出会ったことで、その印象は大きく変わることになる。なんというか、ディテールが立っているのだ。抽象に至る前の、生のアールトの息づかいのようなものがそこにはあった。

例えば北欧近代建築の金字塔といわれるパイミオサナトリウムは、アールト30代の仕事だ。まだ十分な経験を持たず、また当時の技術では何をするにも現実の壁が大きく立ちふさがったに違いない。しかしアールトはこの建築のために、家具やドアノブ、照明器具、衛生陶器に至るまでをデザインし、構造を含め圧巻の力業でこれを納めている。とにかく、執念ともいうべき情熱が随所に感じられるのだ。

不可能を可能にするプロセスには、建築ではエンジニアリングや技術の問題は避けて通れない。問題を解決する「芸術」と「技術」との交点に存在するもの、それこそがディテールである。アールトの名を歴史に刻んだものは、こうした芸術と技術を融合させたそのビジョンにあったに違いない。アールトがアイノらと設立した家具会社ARTEKの名が示す「芸術(Art)と技術(Technology)の融合」は、そのままアールトの建築そのものを表現しているともいえる。

本書にはあらたに起こされた図版と共に、そんなアールトの建築エレメントとそのディテールが余すところなく紹介されている。小泉隆氏によるディテールへのまなざしとその的を得た解説は、アールトの建築を理解するための、まさに“ドアハンドル”のような役割を果たすに違いない。

[評:関本竜太(建築家/リオタデザイン主宰)]


アルヴァ・アールトの建築 エレメント&ディテール

アルヴァ・アールトの建築
エレメント&ディテール

小泉隆 著

北欧を代表する建築家アルヴァ・アールトが追求した美しく機能的なディテールを集めた作品集。住宅や公共建築、商業施設、家具や照明器具にいたるまで、構造や技術を反映した合理的なデザイン、素材や形へのこだわり、使いやすさが発揮された170のディテールを多数のカラー写真と図面で紹介。所在地リスト、書籍案内も充実。