連載|図解 本のある小空間|vol.5 汽水空港
根っからの実測好き建築家・政木哲也さんが、日本中の「本のある小空間」の魅力を解き明かすべく、測って・描いて・綴り歩きます。連載の第五回目は鳥取県の中央に位置する東郷湖に面している汽水空港さんです。
湖畔の空港へ
この書店を訪れることを「着陸」と言うらしい。店の前には池と呼ぶにはあまりに大きい東郷池の水面が広がる。たしかにここに立つと、湖面に映る空とつながる感じがする。池の広大さに比べ、建物の佇まいはかわいらしい。軒は低く間口も2間ほどで、お店や住宅というよりガレージや倉庫の方がしっくりくるサイズ感だ。それもそのはず、元々は裏の商店街にあったおもちゃ屋の倉庫だったらしい。
終わらないセルフビルド
店内は奥に細長いうなぎの寝床状で、手前から奥へと3つのエリアに分かれる。
入ってすぐの空間には、思想書から絵本まであらゆる本がぎっしり並ぶ。奥の3段ステップを上ると、店主のモリテツヤさんと話したり、地域の情報に触れたりできるカフェエリアがある。一番奥はパートナーのアキナさんが切り盛りする厨房だ。手前のエリアは既存の小屋組を利用した天井の高い空間だが、その奥は片流れの屋根を新たに架けて増築したエリアだ。そのため天井は奥に行くほど低くなるが、より親密で籠もり感のある空間になっている。施工技術の向上とともに、モリさんは増え続ける本の書架新設や常連客のためのカフェ増設を繰り返す。
そのなかで生まれた名作に、「建築書の小屋型棚」がある。1.8m幅の書架なのだが、なぜか上部に片流れの屋根が架けられており、板が葺かれた上に煙突まで設置されたなんともかわいらしい代物である。
カフェカウンターとレジを兼ねたブースも見事だ。すのこ状の垂れ壁や、座席横の窓から外光が入り、暗くならない工夫がなされている。共通しているのは店舗としての切実な要求を満たしつつもセルフビルドならではの遊びゴコロだ。
地元の学生のために
最寄りのJR山陰本線松崎駅から徒歩5分。鳥取は車社会だけど、地元の学生が電車でアクセスできることにこだわっている、とモリさん。親の車で連れて来てもらうのではなく、自分の意思で来られることが重要なのだそうだ。若者がもっと広い世界と出会うため、汽水空港は今日も開いている。
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