厚労省が社会的処方の推進を発表――『社会的処方』著者・西智弘さんが伝えたい6つのこと

Image: NHK NEWS WEB

このほどNHKで、厚生労働省が「社会的処方」の取り組みを推進してゆくことが報道されました。社会保障の柱に“予防”を据えることを目指す政策検討がかねてより与党の有志議員らによって行われており、今回の報道内容もそうした動きを受けてのものと思われます。

2020年2月に発売された書籍『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』によれば、「社会的処方とは、薬を処方することで患者さんの問題を解決するのではなく、『地域とのつながり』を処方することで問題を解決するというもの」(「はじめに」より)。

今後の健康な地域づくりを考えるうえでも影響を与えそうな今回の報道について、同書編著者の西智弘さんによるコメントを掲載します。

社会的処方を、厚労省が推進していくというニュースが出ました。
2018年から、この社会的処方について研究・啓発を続けてきた僕としては、これは単純に嬉しい話です。これによって、社会的処方という概念を多くの方に知ってもらえたらなと思います。

ただ、尺の足りなさのため、この報道では不十分な面が多々あることも事実です(その点はNHK記者さんも認識しているそうです)。

①社会的処方は高齢者だけのものではない

まず、社会的処方の対象となるのは高齢者だけではありません。孤立・孤独はむしろ若い世代こそ問題が深いとされています。ただ、若い世代は医療とつながる接点が少なく、それがこの報道における「かかりつけ医が」という主語との矛盾になります。

②社会的処方の要はリンクワーカー

医師が社会的処方をすることもありますが、実際にはリンクワーカーというソーシャルワークを専門とする職種が、地域資源との橋渡しをする活動が社会的処方のキモ。このリンクワーカーを、各地域では誰が担うのか、というところが今後の議論のポイントになります。

③地域包括支援センターはプレイヤーの一人

②とも関連しますが、地域包括支援センターは社会的処方の仕組みの中ではプレイヤーのひとりに過ぎず、ケアマネや社協も、またそれだけではなく商店街やまちのおじさん・おばさん一人一人もプレイヤーってところが重要です。

④医療費の抑制は副次的効果

社会的処方の目的は、地域資源を利用して社会保障費を節約することではありません。それはあくまで副次的効果であり、本来は孤立を改善し「コミュニティの中で笑顔で暮らせる」ということが目的になります。

⑤社会的処方を各地域で文化にしていく

社会的処方は、ガチガチの制度にしていくより、各地域でどのようにこの考えを文化にしていくかという視点が重要になります。もう既に文化になっている、という地域ではそのまま、そうでない地域は他の取り組みを参考にしながら進めていくことになるのでしょう。

⑥社会的処方は地域への患者丸投げ?

社会的処方は地域に患者を丸投げするイメージを抱くかもしれません。扱いを間違うと本当にそうなるのでここは超重要。医療者が患者にサークル活動を「施す」のではなく、その人にとって何が良い暮らしになるかということを一緒に考えていく、というスタンスです。

【最後にPR】

ぜひ書籍『社会的処方』をご覧ください。

イギリスで何が行われているか、リンクワーカーとは何か、そして日本でも既に社会的処方のタネはあり、医療者がそれとどうつながっていくのか、などをぜひ知ってほしい。
それは一人一人がプレイヤーだからです。

https://pluscare.thebase.in/items/25370188

※西さんによる連続ツイートを本人許諾のうえ転載(一部省略)