12月下旬 出版決定・予約受付中『社会主義都市ニューヨークの誕生』――2025年11月4日、34歳の若き政治家、ゾーラン・マムダニ氏がニューヨーク市長に当選
2025年11月4日、ニューヨーク市(NYC)の市長選で、34歳の若き民主社会主義者、ゾーラン・マムダニ氏が当選しました。
当初は無名候補ながら、民主党予備選では前州知事として圧倒的な知名度・資金力を持つA・クオモ氏を打ち破り、党の公認候補に。本選でも激戦の末に勝利。生活に苦しむZ世代・ミレニアル世代の支持を主な基盤に、バーニー・サンダース上院議員らの全面支援も受け、共和党・トランプ陣営とも対決の構えを見せています。
若い世代を中心に支持を集める理由は、家賃の凍結(据え置き)、公共バスや子供保育の無料化、市所有スーパーマーケットの展開、富裕層・大企業増税など、行き過ぎた資本主義・新自由主義への矛盾を感じる層に刺さる政策です。
一方、ウォール街や不動産業界は氏の政策に危機感を募らせ、トランプ政権とは全面対立の可能性があります。
グローバル資本主義の首都であるNYCで、社会主義を掲げる市長が誕生するのは、歴史的な政治的事件です。
本書ではこの背景と、イスラム教徒の移民の子という米国社会のマイノリティからNYC市長になり得た氏の人物像、リベラルでポピュリズム色の濃い政策の具体的な内容、想定されるエスタブリッシュメント(既得権益層)との対決の図式、そして米国内の過去の社会主義都市の歴史などに触れながら、現代都市における社会主義的政策の実現可能性を展望します。
12月下旬の出版に向け、鋭意制作中です。ご期待ください。
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著者
矢作弘(やはぎ・ひろし)
龍谷大学名誉教授。博士(社会環境科学)。著書に『15分都市の実践 世界に学ぶ地球規模の課題解決』(共訳、学芸出版社、2025年)、『コロナで都市は変わるか』(単著、学芸出版社、2020年)、『都市危機のアメリカ』(単著、岩波書店、2020年)、『トリノの奇跡』(共編著、藤原書店、2017年)『中心市街地活性化三法改正とまちづくり』(共編著、学芸出版社、2006年)、『大型店とまちづくり』(単著、岩波書店、2005年)、『ロサンゼルス』(単著、中央公論新社、1995年)。翻訳書に、ニューヨークタイムズ編『ダウンサイジング オブ アメリカ』(単訳、日本経済新聞社、1996年)。
書誌情報
予価:本体2200円+税
体裁:四六判・192ページ
ISBN:978-4-7615-2957-4
出版予定:12月下旬
全国の大型書店・ネット書店で発売予定
目次
※目次はすべて未定稿です。出版までに変更の可能性があります。
序 なぜ今、社会主義市長がニューヨークに?
●社会主義者、イスラム教徒、若者――異例づくしのNY市長
●既得権益に抗う生粋のヒューマニスト
●ニューヨークをアフォーダブルに――労働者・若者の心を掴んだ公約
●“マムダニ現象”が予感させる進歩主義の到来
●5万人の若者ボランティアと戦い抜いた選挙戦
●「何かを起こすこと」に参加したい新世代たち
1章 社会主義への土壌――過剰な「場所の商品化」に苦しむ労働者と若者
●「スーパー」の域に達したジェントリフィケーション
●喧伝された“街区の格上げ”と闘争の始まり
・「ディストピアのニューヨーク」と〈I ♡ NY !〉運動
・市政と不動産業者の結託
・激変したブルックリン
・ビッグテックの台頭で決定的に追い込まれた労働者家庭
●整った舞台で飛躍するアメリカ民主社会主義者(DSA)
・マムダニブームが起きる確かな前兆
・「ジェントリフィケーションへの闘志」を自認するDSAの州議会議員たち
・パワーエリートによる「クールな消費文化」の裏側で
・象徴的な事件となったAmazon撃退運動
・「場所の商品化」を急かすジェントリフィケーションの本性
・官製ジェントリフィケーションと「大きな政府」
・大きな政府⇨小さな政府⇨大きな政府
●半世紀に6代の市長が残した「遺産」と「宿題」
・ディビッド・ディンキンズ――扱い損ねた騒動が現在の「政治資産」に
・エドワード・コッチ――民間依存の都市再生への傾倒
・ルドルフ・ジュリアーニ――警察力による「安全になったニューヨーク」の演出
・マイケル・ブルームバーグ――規制緩和と大規模都市開発で目指した「贅沢都市」
・ビル・デブラシオ――リベラル派の期待を背負いつつも苦戦
・エリック・アダムス――醜態続きの反面教師
●そして〈聞く耳〉を持つ人としてのマムダニへ
2章 なぜ社会主義者になったのか?――ヒューマニズムの洗礼を受けたエリートセレブ
●エリート社会主義者を育てた家庭環境
・「ウルトラセレブ」でヒューマニストの両親
・母は著名な映像作家
・父はコロンビア大学教授――植民地主義批判で名声
・崖の上に暮らし、崖の下との格差を知った少年時代
・「特権階級に属している」という皮膚感覚
・アフリカからマンハッタンへ――政治に目覚めた高校・大学生活
・今に至る「宿題」を得た住宅コンサルタント時代
・ラップダンサーとしての顔
●アメリカ人になる――社会主義政治家への道
・市民権を取得しアメリカ民主社会主義者(DSA)に参加
・ニューヨーク州議会下院議員選への立候補
・衣装から読み解く政治スタイル
・妻は売れっ子のアニメ作家――パレスチナに寄り添う
3章 アフォーダブルなニューヨークを取り戻す――ミレニアム/Z世代、労働者家族から熱烈に支持される政策メニュー
●アフォーダブルな都市とは
・ニューヨークの暮らしは高すぎる!
・州下院議員時代の都市政策経験
・5万人以上のボランティアと挑んだ選挙戦
●ばら撒きではない「大きな政府」が課題を解決する
・丁寧な説明を尽くす政策プラットフォーム
・市場が置き去りにしてきた施策を拾い上げる
●マムダニが提案する優先政策課題一覧
・賃貸住宅の家賃管理/凍結
・フリーバスの迅速な運行
・コミュニティ安全局の設置
・子供保育の無償化
・市所有のグローサリーストアを展開
・ニューヨークの、ニューヨークのための住宅政策
・悪徳不動産業者と戦う
・大企業と最富裕層に対する課税強化
・乳幼児のためにベビーバスケット制度
・小中高学校の環境の整備/グリーン学校
・LGBTQIA+人々の聖域都市
・健康・医療サービスを強化
・最低賃金を時給30ドルに引き上げる
・デリバリー労働者の権利を守る
・スモールビジネスの支援
・図書館を充実する
4章 政策への批判と擁護――保守派とリベラル派の熾烈な論争
●家賃管理/凍結は市場を混乱させるのか
・「市場を撹乱する」という批判
・そもそも家賃管理とは何か――家賃安定化住宅と家賃統制住宅
・中間所得階層でも入居が難しい「affordable住宅」
・マムダニの住宅政策は2本足打法
・住宅危機下、家賃管理は全土に急拡大
・家賃管理擁護論――理論と現実は乖離
・住宅行動主義(Housing Activism)が爆発した100年前と酷似
●フリーバス――実現の関門となる州政府との綱引き
・貧困層の負担になる交通費
・推進論者が指摘する副次効果
・「財政負担が嵩む」という批判
・公共交通は「公共財」
・移動への権利
・フリーバスに取り組む都市たち
・アルバカーキ(ニューメキシコ州)――社会実験で乗車率が向上
・モンゴメリー郡(メリーランド州)――交通渋滞の緩和を目指す
・ボストン(マサチューセッツ州)・シアトル(ワシントン州)――スーパースター都市でも確かな実績
・チャタヌーガ(テネシー州)――環境都市宣言のモデル都市
・クロヴィス(カリフォルニア州)――ピックアップ・サービスの運行も
・グリーンズボロー、ローリー、ウインストン・セーラム(ノースカロライナ州)――定額乗り放題スキームの採用
・ツーソン(アリゾナ州)――財政の逼迫による苦戦事例
・州政府を説得できるかが実現の関門
●子供保育の無償化――パイロットプロジェクトで先陣を切る
・驚愕するほど高い保育料
・民主党も保育料負担の軽減へ
・small beginningで突破を図る
・保育料の無償化は国内のトレンド
●市所有グローサリーストアの展開――〈食料砂漠〉を救う方策
・まだ不透明な経営形態
・社会主義のイデオロギー批判は的外れ
・保守派からの批判――前提によって変わる議論
・市民は支持政党によらず6割前後が支持――反対はわずか22%
・賛成派の経済学者からのアドバイス――パイロットプロジェクトで進めよ
・賛成派の小売専門家からのアドバイス――マーケティングの視点から
・各地の都市政府による挑戦と失敗
・成功へのカギは科学的経営と官僚主義の排除
●富裕層・大企業増税で目指す財源確保――市場主義派から冷評、リベラル左派から称賛
・ショックを受けた民主党主流派によるレッテル貼り
・マムダニ市政は民主党復活の試金石?
・「市場の論理から外れている」――新自由主義経済学者が寄せる典型的な批判
・中間所得層への減税を主張する増税批判派
・NYは富裕層の居住者を増やせ!――減税による誘致を訴える主張
・実は左派以外の歴代市長も主張していた金持ち増税
・富裕層は「安い税金」には引っかからない
・富裕税を理由に金持ちが逃げ出すことはない
・Tax-flightが限定的であることを示す研究
・ニューヨーク州の富裕層の動向――やはりTax-flightは起きない
・〈増税すると金持ちが逃げ出す説〉にとっての不都合な真実
・中間所得階層以下を引き止める――ニューヨークこそ最もCoolな都市
・たとえ逃げてもその地とて安住ではない
・知事、州議会の動向が富裕層/大企業課税の成否を握る
・企業も増税では動かない
●最低賃金引き上げ――「雇用にダメージがある」は本当か
・最低賃金引き上げは雇用を縮小する?
・雇用にダメージはないことを示す有力な研究
・最低賃金では満足に暮らせない
・都市政府に最低賃金を決める権限を!
5章 マムダニ現象への共鳴と同調――進歩主義都市が連携する時代へ
●時代の変化を象徴する「トレンド」へ
・進歩主義の若き市長が続々と誕生
・見下していた政治家たちの鼻を明かした選挙戦
●ミネアポリス――左派イスラムの若年市長誕生へ
・マムダニと重なる出自
・リベラル施策の実現に向けた奮闘
・社会主義に縁深い歴史を持つ都市
●シアトル――リベラル左派の若き女性運動家が当選
・スーパースター都市の裏側にある格差と不平等を訴える
・15年余りの市民活動で残してきた実績
・反トランプが追い風に
●スーパースター都市の政治革新
●ボストン――マムダニが目指す都市モデルの先行例
・初めて尽くしの若き市長
・守旧派議員を説得する「プラグマティックな進歩主義者」
●シカゴ――市議会との折り合いが悪く道半ば
●進歩主義・リベラル左派を標榜する政策の共通点
・マムダニが掲げる政策の先行例
・政府の〈かたち〉の変革を求める大きな声へ
●ミルウォーキーの「下水道社会主義」――市民の福祉、教育、住宅、衛生のための行政投資
・アメリカ社会主義党が支持を広げた都市
・3人の社会主義市長の横顔
・学ぶべき真摯な柔軟性
・下水道社会主義とは
・下水道社会主義の歩み
●歴史は韻を踏む――かつての社会主義市長たちとの相似
・100年前のニューヨーク州に誕生した小さな社会主義都市
・ブリッジポート――縮退都市で掲げられた社会主義の旗
・「新鮮で爽やかなカリスマ性のある社会主義者」を待望する時代
●豊かな社会主義政党史
・20世紀初頭に急成長したアメリカ社会主義党
・アメリカ各地の都市政治に及ぼした影響
・働く家族党――草の根発の民主主義に徹し、社会正義のために戦う
6章 ワシントン政治を変えるか?――正義のある社会主義が求める世代交代
●マムダニ現象に驚愕する民主党――若者が左派ポピュリズムに路線変更を迫る
・「目を覚ませ、民主党!」
・動揺する民主党主流派
●「正義のある社会主義」に好感を抱く若者たち
・しぼむ「アメリカの夢」
・政治に関心がないのではなく、現状に失望している
・バイデン政権でも活躍した左派ミレニアム世代
●〈民主党―ユダヤ〉関係にも変化の兆し
・イスラム教徒マムダニを誹謗するユダヤ・コミュニティ
・同じく暮らしの危機に直面するユダヤ人に寄り添う
●マムダニを歓迎する若手のビジネスエリートたち
・新自由主義論者からの批判に欠ける説得力
・不動産ディベロッパーの反マムダニキャンペーン
・ミレニアム/Z世代のエリートが求める世代交代
●トランプ政権との対決――「奪い取られる」側に寄り添って戦う
・恫喝するトランプ
・生粋のニューヨークっ子、トランプの怒り
・「共産主義者だ!」のレッテル貼り
・トランプに同調するウォール街出身の富豪財務長官
・「トランプこそ、右翼社会主義!」
・中間選挙を控えるトランプに募る心配の種
・若者の間で失墜しつつあるトランプ支持
・似て非なるポピュリズムで重なる両者
・「市民権を剥奪せよ!」に透ける屈辱感と恐怖心






