白井晟一設計の「顧空庵」「四同舎」が登録有形文化財に 孫で建築家の白井原太さんによるコメント全文

顧空庵 近影(提供:白井晟一建築研究所)

秋田県湯沢市にある木造住宅「顧空庵」と、旧湯沢酒造会館の「四同舎」が、国の登録有形文化財となることが決まりました。

この決定にあたり、両建物を設計した建築家・白井晟一の孫で、この度の申請を推進した白井原太さん(白井晟一建築研究所)がコメントを発表しています。


「試作小住宅(現 顧空庵)」の登録有形文化財指定についてのご報告

建築家・白井晟一(1905-1983)が1953年に東京に設計し、2007年に移築設計を私が行い湯沢で新たに蘇った「試作小住宅(現 顧空庵)」 が国の登録有形文化財に指定される方針が発表されました。

合わせて「四同舎(旧湯沢酒造会館)1959年白井晟一設計」も登録となります。

「試作小住宅(現 顧空庵)」は登録有形文化財に認定された建築物としては、戦後に建築され、その後移築という行為を経て残ったものとして全国で初の登録となります。

この建築の最初の住人であり、移築を実行された渡部三喜氏にとって、当初登録文化財への指定は深い意味をもつものではありませんでした。

しかし昨年の旧雄勝町庁舎(1956年白井晟一設計)の解体や、湯沢が大切にすべき景観・建築がどんどんなくなっていくことを憂い、文化の維持継承に少しでも意識がむけられることになればと申請に踏み切ることになりました。

この登録は一建築の登録ということ以上に、移築というかつて日本ではスタンダードな建築の保存方法でありながらすたれてしまった技術を利用し、世代を超えて物の魂を受け継いでいくという意味、また一建築家が湯沢という地域に暖かく受け入れられ、寡作の建築家でありながら 短期間に多くの建築を残したというという意味が包含されています。

先日湯沢ではファーメンテーターズウィークという湯沢を発酵都市として世界へ発信していこうというイベントが行われました。

酒、醤油、味噌といった発酵食品以外にも、地域が誇る文化や、自然、景観、建築なども、人の手と気持ちが加わり、活かしていくことにより発酵していくものと捉え、それらを結びつけて内外に湯沢の良さを再認識してもらう新たな起点となるイベントになりました。

今回のこのイベントでカンファレンスや晩餐会の会場として使用された旧酒造会館(1959年白井晟一設計)は8年前に酒造会館としての役割 を終え、その後は残念ながら有効的な利用がほとんどなされずにいたが、ひと時の間いきいきと息を吹き返した。

建築は活かし使われていかなければ魂の抜け殻になってしまいます。また単なる保存運動では残る道筋をつくれませんが、このように地域の 良さを結びつける拠点として活きることは、建築単体ではなし得ない、ひとつの重要な維持継承の為の選択肢であり、“発酵”のかたちであると 思っています。

白井晟一建築研究所 白井原太

(注:本人の許可を得て転載)

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