セルフリノベーションをはじめる|連載「セルフリノベーション・ラボ」vol. 02
この連載について
リノベーションってカッコ良いけど、自分にはできないかも……。でも、リノベーションの多様な入口をちょっと知るだけで、「これならできそう!」という接点が見つかるかもしれません。
本連載では大学研究室のメンバーが、セルフリノベーションの基本的な考え方(理論編)、方法や道具の使い方(実践編)、先達の創意工夫(事例編) という3つの視点から紹介していきます。
日本全国にあるたくさんの空き家を、セルフリノベーションで楽しみながら使う。そんな人が増えたら、まちも、暮らしも、もっと豊かになるのではないでしょうか。
1|セルフリノベーションにはこんな工具があると便利
セルフリノベーションは、まず道具を揃えることから始まります。
何をするにも基本の工具

まず必ず手に入れて欲しいのが「丸ノコ」です。これがあれば、カット(切断)の作業が簡単にできるようになります。
おすすめは充電式で、丸ノコ刃の大きさが165mmのもの。大抵の木材を切断することができつつ、小回りも効くサイズです。
ただ、丸ノコは便利な反面、とても危険な工具でもあり、使用に当たっては常に細心の注意を払う必要があります。
特に、キックバックと呼ばれる、丸ノコが木材に挟まったり不意に引っかかったりした際に、丸ノコ本体が作業者に向かって跳ね返ってくる現象が危険です。
取り扱いのための講習も建設や労働に関する各種協会や総合電動工具メーカーが開催していますので、不安な場合は使う前に受講するのがおすすめです。
また、大工も愛用するウェブサイト「ビルディマガジン」では、丸ノコの機種選びのポイントについて、詳しい解説記事が公開されており、参考になります。
電動工具はメーカー選びも迷いどころですが、電動工具はバッテリーの互換性などの理由から、メーカーを揃えた方が利便性は高いです。
本連載技術監修・いとうともひさのおすすめは、工具の充実度から「makita」か「HITACHI」です。
丸ノコを使う際の補助工具として、垂直を把握するための「エルアングル」(大・小)と、水平に切るための「スライド定規」も一緒に買いましょう。これら2つで、丸ノコの活用の幅が一気に広がります。


カットした木材は、「ビス」で留めることになります。ビスを購入する際は、留める板材の厚さに比べて2.5倍程度の長さのものを選択しましょう。ビスを打つ工具の「インパクト」は18Vのものがおすすめです。
ビスにはたくさんの種類があります。筆者のブログにて詳しくご紹介しているので、そちらも参考にしてください。
手工具では、「手鋸」「トンカチ」「ノミ」「カンナ」は必須です。
いずれもホームセンターで購入できるので、重さなどを確認し、使いやすそうなものを店員さんに相談しながら選択しましょう。プロ御用達を謳うホームセンターであれば、店員さんから適切なアドバイスがもらえるでしょう。
ノミ、カンナは替え刃式も便利です。ノミは最低限、10mm以下の細かい作業ができるものと、20mm以上の幅があるものを選びましょう。水準器もあると重宝します。
解体に使う工具は上記に加えて、「バール」「ミニバール」です。また、写真には写っていませんが、「墨つぼ」は建材に線をまっすぐ書くための基本的な道具ですし、これらの道具を入れる「腰袋」も現場の強い味方です。
あると便利な工具類

工事が進むと、いろいろな電動工具が欲しくなっていきます。工程の進捗に合わせて適宜追加していきましょう。
「ネイル」と呼ばれる小さな釘を瞬時に打ってくれるのが「電動ピンタッカ」です。壁や天井などを手早く留めるのにも使え、とても便利です。
金属をカットしたりコンクリートを斫ったりする「ディスクグラインダー」、木材の表面を擦って綺麗にする「サンダー」もよく使います。
また、やや上級者向けですが、引き戸を作ったり溝を彫ったりするときは「トリマー」と「溝切り」を使います。
そして、手元が暗くなりがちな作業を快適に進めるうえでは「ハンドライト」も重宝します。
セルフリノベーションで床を作ったり壁を立てたりする際に心強い味方になるのがレーザー水平器です。水平垂直は施工の基本ですので、ぜひ手に入れてほしいです。
2|解体作業は建設作業の逆再生
セルフリノベーションの多くの現場では、解体作業を伴います。以前の所有者の住まいを、新たな暮らしの場へと転換する、とても重要な工程です。
長年の生活で建物に溜まった埃などの汚れや痕跡を取り除き、老朽化した箇所をリセットする意味でも、部分的な解体から早めに手をつけておきたいところです。
ヘルメット」と「軍手」で安全性を確保し、粉塵対策として、「防塵マスク」「防塵メガネ」も用意しましょう。

解体作業で特に重要なのが、建設作業の逆再生をするイメージを持つことです。
建物は必ず、人の手でつくられています。最初は構造体から組まれ、その後に仕上げへと、順番につくられてきたと考えるのが自然です。
したがって解体は、逆に最後につくられた仕上げから順番に始め、組み立てられた道筋を〈推理〉しながら作業をすれば、スムーズに進められます。
例えば壁を叩いて、どこにビスが留められているのかを音で聞き分け、どの角度から打たれているのかを推測する。下地はどう組まれているのかを想像しながら、丁寧にビスを探す――。なんだか推理みたいですし、建設当時の職人さんと会話してるみたいで楽しいですよね。
最近では、「下地探し」と呼ばれる道具も登場していますので、検索してみてください。

解体することが多い仕上げの一つに、天井があります。天井裏には、積もった埃や、時に動物の棲み着いた痕跡が残っている場合があります。これらをリセットすれば、建物の〈影〉の部分がなくなります。
天井を剥がす際は、材と材の隙間からバールを入れます。そのために板や釘を持ち上げるなどの細かい作業はミニバールで行い、力を入れて引き剥がす作業は大きなバールを使います。ミニバールとバールを駆使して、天井板を1枚ずつ剥がしましょう。

次に、壁です。昭和時代に建てられた住宅は個室が多い傾向がありますが、思い切って複数の部屋をつなげたり、廊下をなくしたりすると、一気に開放的な間取りに変わります。
壁の解体は、素材が土壁か否かで対応が変わります。土壁の場合、ハンマーで叩いて剥がしていきます。多くの木造住宅では壁面は石膏ボードや木材、土壁が使われるのですが、木材や石膏ボードでは、バールとミニバール、鋸を使いながら、下地と材料を剥がしていきます。
最後は床です。畳が敷かれている場合は畳を剥がすと床板が出てきます。歪んでいたり、踏んだら「ぷにゅっ」と沈んだりする場所を探しましょう。丸ノコの刃の出を調整し、下地に傷をつけずに線を入れて、1枚ずつうまく剥がしていきましょう。
床下に湿気が溜まっていると、異臭や歪みが出ることもあります。解体後に防水シートを地面に敷いたり、羊毛など調湿性のある断熱材を仕込んだりするのも良いでしょうし、湿気を除去するために土間にするのも有効でしょう。
3|ゴミを減らす解体作業を心がける
丁寧な解体で資源を生み出す
解体作業は、とにかく丁寧に行うことが重要です。木造建築の材料は、仕分けると資源となり、何もしなければゴミになってしまいます。一方、丁寧に解体すれば、解体の際に出た古材を再利用することも可能です。使える材料を見定めましょう。実際、筆者も既存住宅を解体した際に古材を新しい家具等に転換しました。
例えば古い住宅の床間や玄関などには良い材料が使われている傾向にあるので、20mm以上厚手の板材で状態の良いものがあれば、確保しておくことをおすすめします。また、柱などの角材、仕上げの板材も再利用しやすい古材の1つです。
また、土壁の解体は骨が折れる作業ですが、そこで剥がした土は、実は再利用できます。土嚢袋に入れて保管しておくと良いでしょう。

ゴミについても考えよう
資材として再利用できず、どうしても出てしまうゴミの廃棄は難しい問題です。廃棄ルールに則る必要があり、きちんと分離した上で廃棄する必要があります。
産業廃棄物のマニフェストやチェックシートも公開されており、実際には現場ごとの状況に応じて確認が必要ですが、大きく分類すると、木材、金属くず、瓦礫、コンクリートガラ、石膏ボード、プラスチック類、などに適切に分類した上で、専門業者に相談しましょう。
例として、木材で考えてみましょう。木材といっても、実は様々な種類があり、「無垢板」「集成材」「合板」のいずれであるかで、扱い方が変わります。
無垢板は簡単にいうと、生きた木をそのまま乾燥させたものです。自然界から生まれたものだから燃えるゴミにできます。薪ストーブを使われている方であれば、廃棄せずに燃料に転用することもできます。
集成材は、無垢板を接着剤でくっつけたものです。木材断面の木目を見た時に、複数の木材が組み合わされていたら、それは集成材です。強度がある長い板になるので、可能であれば廃棄せずに資材として再利用したい木材の1つです。
一方、合板とは、木材の繊維を組み合わせた材料で、基本的には産業廃棄物になります。ちょっと力を入れた程度で曲がってしまう板は大体合板です。専門業者に処理してもらう必要があるので、分類や実際の廃棄の方法に注意しましょう。
解体ができたら、次はいよいよセルフリノベーションのメインのつくる工程です!
(つづく)
※本連載は、道具や作業工程の安全を保証するものではありません。 実際に作業される際は、ご自身で安全を確認しながら進めていきましょう。
執筆者プロフィール
佐藤布武(さとう・のぶたけ)
名城大学理工学部准教授。一般社団法人生活民芸舎主宰。1987年千葉県生まれ。筑波大学学大学院修了。博士(デザイン学)。学生時代から宮城県石巻市の東日本大震災の復興支援に携わり、漁業の後継者育成や宿泊交流推進事業などに携わる。「もものうらビレッジ」にて東北建築大賞受賞。また、名古屋の大学に勤めながら長野県塩尻市木曽平沢との二拠点生活を行う。ものづくりの作家作品が集うクラフトシェア商店「土ーとおいち」と、ものづくりとシェアベース「タカキヤ(SDreview2025入選)」を経営。他にも日本各地で建築を通した地域活性化に携わる。専門は集落研究。
技術監修
いとうともひさ
株式会社いとうともひさ主宰。1985年大阪府生まれ。神戸芸術工科大学環境デザイン学科卒業。各地を旅してその場にある素材を加工したり空間に転用したり、その場の作り方を試行しながら施工をする大工。
また、地域に関わる人たち(設計・施主・その他プロジェクトメンバーなど)とのコラボレーションを軸にして「つくり方」の企画・指導も行っている。
