第34回「カリフォルニアは米国の人口動態の先駆け(上)―― ラティーノが多数派に躍り出てホワイトは少数派に」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

特報
この連載について

アメリカで展開されている都市政策の最新事情から注目の事例をひもときつつ、変容するこれからの都市のありよう=かたちをさぐります。

筆者

矢作 弘(やはぎ・ひろし)

龍谷大学フェロー

前回の記事

米国人の9人に1人がカリフォルニアに暮らす

カリフォルニアの人口動態が注目されています(2025年の州人口:3953万人)。暦年で2年連続して増加しました(California’s population increases ―― again, May, 1, 2025)。合法移民が増え、社会増、同時に出生もアップし、自然増も記録しました。

COVID-19の影響(出生>死亡)と海外からの移民が止まって州人口は、2022年にマイナスに転落し、ビッグニュースになりました。カリフォルニアの174年の歴史で初めての出来事でした。

しかし、2023年7月-2024年7月にはプラス(州財務局調べ:49,000人増=前年同期比0.13%増、連邦センサス:23万人増)に転じました(California’s population is finally increasing -thanks to this demographic, San Francisco Chronicle, Dec. 21, 2024、One in eight US residents live in California, Public Policy Institute of California, January 2025)。

国内移住者(他州からの流入人口 - 他州への流出人口)は、依然、マイナスが続いていますが、海外移民が大きく増加したおかげで人口動態全体は増加を記録しました。2024年には65万人の移民(合法)増でした。

アメリカ全体の人口の11.5%(2024年)、9人に1人がカリフォルニアに暮らしています。この大きな規模の人口が経済的、政治的、また文化的にアメリカ全体の動向に多大な影響を及ぼしています。

しばしばカリフォルニア発のファッションやライフスタイルがアメリカ全土を凌駕し、時代のトレンドになります(その影響力は〈California Effects〉と呼ばれる)。また、カリフォルニアが反動的なトランプ旋風に対峙し、ブルー州(民主党系州)を取りまとめて反トランプキャンペーンを先導していますが、その人口規模、そこから派生する経済力が縦横に駆動しているためです。

したがってカリフォルニアの人口が今後、中長期的に順調に増加し続けるのか、停滞するのか、あるいはマイナスに転落するのか――その動向がアメリカ全体の行方に大きく影響することになります。州財務局は、2030年の州人口を3,970万人、2040年を4,090万人と推定しています。

マイノリティの人口はやがてホワイトを抜く

アメリカの人口動態は、WSP(ホワイト、アングルサクソン & プロテスタント)を中心にホワイトの人口が伸び悩みます。一方でマイノリティ(ネイティブアメリカン、黒人、ラティーノ、アジア・太平洋系など)が人口を増やします。近い将来、ホワイトとマイノリティの人口比が逆転し、ホワイトが少数派になります。

この人口動態のおかげでホワイトがアメリカの将来に危機感を懐き、トランプ大統領はそこにつけ込み反移民キャンペーンを打ち出し、選挙で勝利しました。

カリフォリニアは、このマイノリティをめぐる人口動態でも他州に先行しています。人口構成は、ラティーノ41%、ホワイト34%、アジア・太平洋17%、黒人5%です。今のところ過半を超える人種はいないのですが、1)出生率はラティーノ、アジア・太平洋系が高く、ホワイトは低い、2)若年層(24歳以下)の51.5%はラティーノ、3)高齢層(65歳以上)の53%はホワイトです。したがってごく近い将来に、ラティーノが人口構成で過半を超え、多数派に躍り出ます。

加えて27%の州民が海外生まれです(アメリカ全体では12%、American Community Survey 2023)。
ホワイトがマイノリティになる日の人口動態、あるいは社会状況――その縮図をカリフォルニアで観察することになります。

カリフォリニアの人口は、20世紀を通じて高い伸びを記録し続けました。1900年の200万人が1950年に1000万人を超えた後、2000年までの後半世紀に人口を3倍以上増やしました。2000-2010年も2桁台の人口増加でした。

ところが2010-2020年には、増加率が5.8%に止まりました。アメリカ全体の増加率(6.8%)を下回りました。

カリフォルニアの人口動態を左右した事情

人口動態に影響を及ぼした2010年以降の、カリフォルニアの事情は以下の通りです。

この10年は、サンフランシスコとロサンゼルスがスーパースター都市(ニューヨーク、ボストン、ワシントン、シアトルと並び)として飛躍しました。サンフランシスコ湾岸にIT系産業の、ロサンゼルス都市圏では映像/情報産業の――高度集積が起きました。カリフォルニアの人口増加率の鈍化は、この時期と重なっています。経済活動の成功が人口動態には負担になった、という皮肉な話です。

上記の先端ビジネスで働く高学歴層は、高給を稼ぐパワーエリートです。彼等は高額家賃の高級アパートや贅沢なコンドミニアムでの暮らしを需要しました。そのため界隈の住宅費が高騰しました。飲食でもカネ払いがよく、スーパースター都市のダウンタウンには高級カフェやレストイランが立ち並ぶようになりました。

そのためパワーエリートが流入し、暮らすようになった地区や、彼等の消費活動の現場では、激しいジェントリフィケーションが起きました。アフォーダブルな住宅が不足しました。暮らし全体のアフォーダビリティも失われました。

それまで界隈に暮らしていた中間階層、あるいはそれ以下の階層の人々は、家賃の高騰と生活費の上昇に耐えきれず、市外に、さらには州外に逃げ出すようになりました。学校の先生や消防士、看護師などエッセンシャルワーカーが暮らせない街に零落しました。

そしてやがてジェントリフィケーションを引き起こしたパワーエリート自身(ジェントリファイヤー)が高騰する生活費に嫌気を差し、いよいよカリフォルニアから脱出するようになりました。向かった先は、テキサスやアリゾナなどのサンベルト都市、そしてナッシュビルやデンバーなどのブームング都市でした。

もっともカリフォリニアは、2024年に他州に197000人を奪われましたが、2021年の343000人に比べてかなり善戦しました。今後の中長期の人口動態も、社会的増減(州間移動、海外からの移民)で決定されることになります。

人口回復の足かせとなる住宅費の高騰

こうした経済社会状況を踏まえ、保守派の論客J.コトキンは、カリフォルニアの人口動態について〈暗い見通し〉を示しています(California’s population bump won’t make up for its long term slide, Los Angeles Times, April 1, 2025)。コトキンは、常々、進歩主義のカリフォルニアの将来に対して悲観論を展開しています。その人口動態論はカリフォルニア悲観主義に伴走し、「サンベルト(テキサス、フロリダ、アリゾナなど)との間で繰り広げる人口争奪戦でカリフォリニアは敗北する」という評価をしています。

実際のところ2024年にカリフォリニアは、対テキサスで39,000人、対フロリダで10,000人のそれぞれ純流出でした(Where Californians going when they leave the Golden State, Public Policy Institute for California, March 2025)。

カリフォリニアの人口の増加率がアメリカ全体の増加率を下回ると、カリフォルニアに割り当てられている連邦下院の議席、及び大統領を選ぶ選挙人を減らすことになります。それが2030年には、マイナス4(現在52)になる、という推測があります。政治的影響力の劣化です。

カリフォルニアの2024年の人口動態はプラスになりましたが、しかし、州内でもエリアによって明暗がはっきり出ました。中央部内陸のセントラル・バレー(サクラメント、フレズノ、ベーカーズフィールドなど)、ロサンゼルスの東側内陸のインランド・エンパイア(サンバーナーディーノ、リバーサイド)では、流入移住者が多く、しっかり人口を伸ばしました。住宅費が相対的に安いことが幸いしています。また、COVID-19を経験し、遠隔地勤務が普及したことも、内陸にある都市の人口がプラスになるのに追い風になりました。

しかし、同じ南カリフォルニアでも、ロサンゼルスからオレンジ郡、サンディエゴの海沿いエリアでは、人口動態は停滞気味(低い増加率)でした。さらにシリコンバレーのあるサンフランシスコ湾岸では、2024年の人口動態はマイナスでした。

Lake Forest, CA, USA

特にサンフランシスコの市人口は、前年比0.13%の減少でした。2018年にも人口を減らしましたから、再度の苦渋になりました(SF’s population drops once again in an ominous sign for city’s recovery, San Francisco Chronicle, Dec.28, 2024)。

サンフランシスコでは、IT系ビジネスでレイオフが続きました。オフィスの空き率が30%台に高止まりしています。ダウンタウンでは、大型店が相次いで閉店しています。したがって雇用の回復が遅れています。サンフランシスコ市当局は、空きオフィスビルをアフォーダブル住宅に転換利用するプロジェクトを推進しています。

それでもなお、住宅の家賃はCOVID-19以前の高い水準に張り付いています。すなわち、COVID-19以前、そしてCOVID-19時の構造な矛盾をめぐって調整が遅れ、アフォーダブル住宅の不足など諸般の課題を引きずっていることが、市人口の回復に足かせになっています。

(つづく)

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