第24回「バイデノミクスのレガシー(3)―― インフラ・気候変動・移民をめぐるトランプの逆張り」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

移民と難民への強硬な姿勢

トランプはゼノフォビア(外国人嫌悪)を捲し立てて選挙戦を勝利しました。

不法滞在移民(1100万人、その労働力人口は830万人)が「アメリカの血を汚す」「犯罪者になる遺伝子を持っている」と喧伝しました。オハイオの小さな町では、ハイチ移民が他人のペットの犬を捕まえて食べている、という嘘を繰り返し捲し立てました。

不法滞在移民の大量海外追放(mass deportation)を宣言しています。また、憲法解釈を変更し、アメリカ生まれの子供、または帰化した人に市民権を認める現行制度を止める方針を示しています(連邦地裁が「憲法違反」の判決)。

トランプ1期目には、不法滞在の移民の親とアメリカ生まれの子供を引き離す、という非人道的な施策を強行し、非難されました。憲法の解釈変更は、その施策をめぐるトランプ的「反省」です。

2017年2月18日、約3000人がミネソタ州ミネアポリスにあるパウダーホーン公園に集まり、ドナルド・トランプの移民禁止令や、米国とメキシコの国境で進む軍事化への反対を訴えた。
(Fibonacci Blue from Minnesota, USA, CC BY 2.0 https://creativecommons.org/licenses/by/2.0, via Wikimedia Commons)

難民の受け入れについても、認定の「厳格化」を宣言しています。2010年代には難民申請が拒否される比率は平均50%未満でした。ところがトランプ時代には、70%以上(2020年)が拒否されました。イスラム系、そしてアジア系の順番でトランプの排斥の対象になります。

排斥はアメリカに何をもたらすか

アメリカは、長期的に少子高齢化社会に向かっています。白人の出生率が低下傾向にあります。それを補っているのはアジア、ラテン、イスラム系移民です。人口の自然増が維持されているのは、移民のおかげです。移民の流入を抑制したり、停止したりすると将来の少子高齢化に拍車が掛かります。

その影響は、以下の3点です。

1)労働力人口の減少

労働力人口の減少が進みます(65歳未満の労働力人口比率:1970年=18%、2020年=28%)。
トランプは「移民がアメリカ人から仕事を奪っている。不法滞在移民が低賃金で働くのでアメリカ人の賃金が低く抑えられている」と言い散らしています。

コロラド州・デンバーで行われた移民排斥反対デモ
Unsplash / Colin Lloyd

しかし、それは嘘です。
アメリカ人は、社会インフラの維持に関わる3K労働(きつい、汚い、危険)に就くのを忌避します。3K職場で働くのは、もっぱら移民労働者です。特に夏の炎天下で働く建設/農業労働に就業しているのは、多くは不法滞在移民です。不法滞在移民の大量海外追放は、両産業に多大な影響を及ぼします。労働力不足はインフレにつながります。

2)社会保障の持続可能性低下

人口構成が逆ピラミット型になれば、ソーシャルセキュリティ(社会保障による給付制度)の持続可能性が危うくなります。将来的にソーシャルセキュリティの持続可能性は、もっぱら移民の動向にかかっています。

3)ハイテク研究の人的資源喪失

アメリカのスタートアップを含めてハイテクビジネス、さらには大学や研究所でのハイテク研究は、移民に大きく依存し、発展してきました。トランプの移民規制の強化は、その人的資源を喪失することにつながります(P. Krugman, How hostility to immigrants will hurt America’s tech sector, New York Times, Nov. 21, 2024)。

トランプ政権が「移民の流入を2025年は100万人、2026年は50万人に減少させると、実質成長率や潜在成長率がこれまでのところ2.5-3%のところ25年は2%、26年は1.0-1.5%に下がる。このインパクトは市場で過小評価されている」(「米成長減速で利下げ再開へ 市場は「移民抑制」過小評価」、日本経済新聞、2025年3月22日)。

アメリカの人口動態―移民と自然増減(トランプの反移民政策は反映していない)
出典:Congressional Budget Office

トランプ政権と交通・環境政策の関係の整理

Planetaizenは、交通政策、及び環境政策(気候変動対策、Green Economyなど)について以下のように書いています(How the Trump Presidency Could Impact Urban Planning, Jan 19, 2025)。

交通対策

1)公共交通と道路投資のバランス:

バイデン政権は、交通政策をめぐっては、都市間の公共交通の拡充に力を入れる、交通の安全対策と排ガス規制の強化、移動をめぐる社会的公平性を重視する――方針を示しましたが、トランプは真逆で、公共交通の軽視、むしろ弱体化、ガソリン車の復活強化、したがって鉄道より道路投資に偏重する。

2) 連邦政府の政策シフトの影響:

ただし、交通政策は、基本的に州政府、都市政府の管轄下にあるため、連邦政府が政策シフトし、影響を与えることのできる規模には限りがある。幸い、地域レベルでは、公共交通などに対する関心の高まりがある(2024年11月の選挙では、交通に関する住民投票が25本あったが、18本が成立し、9本は公共交通対策(250億ドルの予算規模)をめぐってだった。

3) 連邦の補助金の振り分け:
  • 道路の整備などをめぐっては、地方の、白人の多い地域への配分が多くなる。
  • 気候変動、公共交通、移動砂漠地域(公共交通が脆弱で貧困層の多い地域)への配分がゼロ、あるいは大幅に削減される心配がある。
  • 鉄道については、都市内交通は州政府、都市政府の役割が大きいが、長距離、あるいは高速鉄道の開発が影響を受ける可能性がある。
  • 基本的にブルー州を走るThe Northeas 回廊(ボストン-ニューヨーク-ワシントン)の拡充
    • 高速鉄道:ラスベガスー南カリフォルニアは30億ドルの補助が決まっている(しかし、トランプ1期では、配分済み予算を9億2900万ドル削減を試み、「25億ドルを削減するぞ」と脅した)
    • ミネアポリス/セントポール―シカゴ の新路線開設(Amtrak)
4)バイデンへの逆張りの限界:

Investment and Jobs Act (IIJA)、the Inflation Reduction Act(高速道路解体支援やCommunity強化策など)は、別称「バイデン・インフラ法」と呼ばれているためトランプは目の敵にしているが、両党合意で成立した法律なのでトランプは叩くにしても限界がある。

環境対策

1)反Green Economyの宣言:

バイデン政権は、Green Economyでがんばったが、トランプは反Green Economyを宣言している。環境政策(気候変動、生物多様性、水資源などをめぐって時計の針が大幅に巻き戻されることになる。

2)環境規制・予算・人員の大規模な削減:

1期目には、環境政策部局の予算が大幅に削減され、関連の環境規制が100本以上破棄された。今度もトランプは、3月下旬までにバイデンの、30件以上の環境政策を大統領令で覆し、環境政策部局の縮小、地球温暖化対策などの高等研究所のスタッフ1000人余のレイオフに動いている。

3)州政府との対立:

カリフォルニアなどブルー州との間で訴訟合戦になる。

4)化石燃料採掘への回帰:

バイデン政権は、連邦用地で化石燃料の新採掘を禁止したが、トランプは「掘って、掘って、掘りまくれ!」に方針転換。

5)EV支援の廃止:

EVs.の普及を目指す購入補助(500ドルのTax Credit)を廃止。

6)Green Economyの成長抑制の困難さ:

しかし、Green Economyの成長に圧力を加えるのは難しい。

  • 風力発電などはトランプ支持のレッド州で集中投資が起きている
  • 再生可能エネルギーの生産コストが急ピッチである
  • 既に大きなビジネスチャンスになっているため、これを潰すことに影響は大きい

(つづく)

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