第24回「バイデノミクスのレガシー(3)―― インフラ・気候変動・移民をめぐるトランプの逆張り」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』
EV補助の廃止がもたらす影響
気候変動危機を「フェイク(嘘)」と決めつけるトランプは、EVsの開発と普及に冷淡です。バイデンは2030年までに新車販売の50%をEV車にする方針を決めていました。そのためEV車の購入に対して7500ドルの税額控除を用意しましたが、トランプはこの施策の廃止を宣言しています。
経済誌のForbesは「甚大な誤りになる」という警告記事を書いていました(Eliminating the electric vehicle tax credit would be a huge mistake, Nov. 15, 2024)。
Forbesの記事は、「フォード、GMは大規模なEVs投資をし、EVs市場に既に大きくのめり込んでいる。トランプが税額控除を廃止すれば、多大な影響を被る」「世界の自動車産業はEVsに軸足を移す。トランプのミスジャッジは、アメリカがEVsの分野で市場を失い、技術開発で中国などの後塵を拝すことになる」「自動車産業は雇用機会を喪失し、アメリカの製造業全体に甚大な影響がある」という論旨です。
同記事は、「トランプに寄り添うE.マスクのテスラは、低コストの生産システムを確立している。EVs技術でも先行している。他の自動車メーカーに対して競争優位にある。したがってトランプの税額控除は、むしろテスラに有利に働く可能性がある」と指摘していました。
一方、政権入りして連邦職員の首切りに奔走するマスクに反発し、テスラ叩きが広がっています。「テスラに乗るのは恥である」というトレンドが生まれ、テスラの業績が悪化しています。

カリフォルニアが翻す反旗
EVsの税額控除の廃止は、価格志向の強い消費者を、価格の安いガソリン車の購入に向かわせることになります(EVsがガソリン車に比べて中長期的には経済的になる、と指摘されているが)。アメリカの地球温暖化ガス削減の取り組みを後退させます。
トランプがEVs購入に対する税額控除を廃止する方針を示したことに対し、カリフォルニア州知事のG.ニューサムが直ちに反旗を掲げました。
ZEV(Zero Emission Vehicle=排ガスゼロ車:電気自動車、水素自動車、プラグ・イン・ハイブリッド=ガソリンエンジンと電気モーター、それに電池を搭載し、充電スタンドや家庭で充電可能な車)の購入に対し、州独自のリーベート(割り戻し)制度を復活する方針を示しました(知事室、Nov. 25. 2024)。新車の購入に対して上限7500ドル、中古車の場合は同4000ドルの支援策です(所得制限がある)。同様の動きが他州に広がっています。
「車が大気汚染の最大の加害源になっている」という理解を踏まえ、カリフォルニアは歴史的にアメリカで最も厳しい排ガス規制ルールを施行してきました。

(Missvain, CC0, via Wikimedia Commons)
ZEVをめぐっても他州に先行しています(アメリカで販売されるZEVの30%強はカリフォルニで売られている)、例えば2024年第三四半期に州内で11万5000台のZEVが販売され、売られた車全体の26.5%がZEVでした。
アメリカの車社会を先導してきたロサンゼルスでは、登録車両の25%がZEVです。サンフランシスコ湾岸では30%に達しています。ニューサムは、トランプの登場でこの流れが止まることを憂慮し、州独自の、ZEVの購入を促す施策を打ち出すことになりました。
興味深いのは、トランプの腰巾着になっているマスクのEVs会社のテスラがこの制度の適用対象から除外されたことです。知事室は、(前述のForbesの解説と同様に)「1)テスラは低コストの生産システムが確立している、2)EVs技術で先行している――ことを踏まえ、他のZEVメーカーがテスラと対等に競争することがZEVビジネスの進歩により貢献する、と説明しています。
カリフォルニアは車の排ガスをめぐって連邦法(Clean Air Act)を上回る厳しい規制(the Advanced Clean Cars Ⅱ、ACC Ⅱ)を持っています。それによると自動車メーカーは、2026年モデルからカリフォルニアで販売する新車(軽量車=普通乗用車とバン)の35%をZEVにしなければならなくなります。2035年には100%になります。
カリフォルニア以外に11州が同様の車排ガス規制を実施します。そうしたブルー州の先進的な取り組みに対し、バイデン政権は「州政府が連邦法に上乗せする規制をすること」に「OK!」を出しました(知事室 Dec. 18, 2024)。

(Office of the Governor of California, Public domain, via Wikimedia Commons)
アメリカで売られる車の50%がカリフォルニアで販売されています。カリフォルニアで販売される車の仕様がそのままアメリカの標準モデルになります。さらにグローバルスタンダードになります。ZEVの普及でも、カリフォリニアはアメリカの平均を遥かに凌いでいます。
経済学に「カリフォルニア効果」の研究があります。カリフォリニアは、いろいろな分野でリベラルな、そして進歩的な政策を打ち出します。それに止まらず、その経済力を駆使して国内外に追随を求めます。当然、企業はカリフォルニアの市場を失うことができないので、その厳しい、リベラルな規制を遵守することになります。その研究です。
同じことが自動車でも起きます。実際にACC Ⅱについてカリフォルニア州政府は、フォード、ホンダ、フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーと排ガス規制を守ることで約束を取り付けています。
しかし、石油、天然ガス、石炭業界と徒党を組むトランプは、「カリフォルニアの車排ガス規制は馬鹿げている」と非難し、就任後にバイデン政権が認めた「上乗せルール」を廃棄する方針を示しています。カリフォリニアはそれに対抗し、裁判を起こします。
カリフォルニアは、1)2036年までにディーゼル燃料を使うバスやセミ トランクの新車販売を禁止する、2)2030年までにふるいディーゼル機関車を廃止する――方針を決め、この「上乗せルール」を認めるように連邦政府に上訴していましたが、連邦の対応が遅れ、トランプ政権で承認される可能性がないため、申し出を取り下げた(California pulls diesel phase-out request to EPR ahead Trump administration, Guardian, Jan. 15, 2025)。