第24回「バイデノミクスのレガシー(3)―― インフラ・気候変動・移民をめぐるトランプの逆張り」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

配分の“正義”は守られるか

IIJAは、トランプ2期目に2年間継続します。2940億ドルの未配分投資の行方が、トランプの判断に委ねられます。うち872億ドルは、競争的な補助金(プロジェクトの実施体が提案し、政権が決める)です。トランプの意向が直接反映される資金配分になります。

トランプは、大統領選挙で彼に貢献した州に多くを配分する政治的に偏向した判断をするのではないか、と嫌疑されています。

バイデンは、IIJAの資金を2024年の選挙対策に利用する、という政治的な配分を回避しました。実際はむしろ逆でした(The Bidenomics boom in red America, Brookings Institute, Dec. 11, 2024)。

選挙結果を左右するスイング州(ミシガン、アリゾナ 、ノースカロライナ、ペンシルベニア)では、州民当たりの配分額が全国平均以下でしたが、逆に山岳州(共和党支配)には、全国平均を上回って配分されました。配分に正義がありました。

配分が決まったプロジェクトも、実際に執行されるまでに時間がかかります。その間に既決の配分をめぐっても、トランプ好みの介入でプロジェクトの変更があるのではないか、と州政府、及び都市政府は、新政権の動きに戦々恐々としています。

トランプが目の敵にする気候変動対策

アメリカでは、年々、ハリケーン、豪雨、旱魃の自然災害が激しくなっています。フロリダなどの南部では保険料が高騰し、住民が住宅保険に加入できない、損害保険会社が住宅保険市場から撤退する――などのニュースが流れています。気候変動対策が喫緊の課題になっています。

2024年10月10日、ハリケーン「ミルトン」上陸後のパトリック宇宙空軍基地付近(フロリダ州)の洪水。
(U.S. Space Force photo by Tech. Sgt. Zoe Russell)

しかし、トランプは気候変動危機を認めません。「バイデンのGreen New DealはGreen New Scam(詐欺)である」と公言しています。
環境対策に後ろ向きで連邦環境保護庁(EPA)を脆弱化させます。関連省庁の閣僚に、化石燃料の増産、新規開発に意欲を示す反Green New Deal派を指名しました。パリ協定から再離脱し、いよいよバイデン政権の環境規制を尽く葬る、と宣言しています。

実際のところ1期目のトランプは、オバマ時代の環境政策――100件以上の環境関連ルールを破棄、及び緩和しました。バイデン嫌いのトランプは、バイデンのレガシーに泥を塗ることに奔走しますから、気候変動対策はその第一の標的になります。

例えば、バイデン政権は、連邦所有の沿岸部(東西海岸、メキシコ湾岸)の土地を中心に化石燃料の新規開発を禁止しました。トランプは、当然、撤回に動きます(オバマ政権が北極海沿いで採掘を停止し、1期目のトランプが大統領令を発して撤回を目指したが、連邦裁に阻止されたことがある)。

バイデンは、大統領就任式の当日にパリ協定に復帰を宣言し、2050年までに地球温暖化ガス(greenhouse gas)のゼロエミッション、それに先立ち2030年までに2005年比50%削減する方針を確認しました(その後、2035年までに61%削減を掲げる)。

IIJAとインフラ削減法(the Inflation Reduction ACT, IRA)に気候変動対策が盛り込まれています。2024年秋までに3900億ドルがEVs(電気自動車)、蓄電池、再生可能エネルギー、クリーンコンクリート/クリーン鉄、水素発電の開発、実装化、普及のための投資に配分されました。州政府/都市政府が取り組む環境行動計画に対する支援にも資金が配分されました(What’s Trump’s victory means?, New York Times, Nov. 24, 2024)。

IRAの成立後、それに誘発され、クリーンエネルギー産業で大型投資が起きています(再エネの新増設投資に減税:10年間で600億ドル)。

実際のところ2024年には再生可能エネルギーの生産がこれまでにない伸びを示し、太陽光/風力発電が石炭火力発電を上回りました(In 2024, more electricity than ever came from renewable sources, Governing, March 21, 2025)。

実は気候変動対策の恩恵を受けるレッド州

アメリカ製造業が構造転換し、新しい産業革命を予見させる――製造業のランドスケープを大きく変革する動きになっています。IRAが民間投資と伴走し、風力発電タービン、ソーラパネル、蓄電池、EVs、原発関連、炭酸ガスの回収・貯蔵などで今後10年間に1兆2000億ドルの官民投資がある、と予測されています。

興味深いのは、IRAの恩恵をより多く受けているのは、共和党が支配しているレッド州です(風の強い山岳州、太陽光がいっぱいの南部州)(This Red Midwestern State Is a Global Paragon of Clean Power, Governing Jan. 6, 2025)。

クリーンエネルギー製造業投資の80%が南部、及び山岳地方で行われています(Clean Energy is booming in the U.S. The election could change that, New York Times, Oct. 30, 2024)。これまで製造業が希薄で弱かった地域で、21世紀型の新しい産業集積が始まりました。ジョージアのEVs、サウスカロライナの蓄電池などの大規模工場投資がその例です。

トランプがIRAの執行(再エネ投資に対する減税政策)を停止すれば、あるいは配分を変更すれば、大統領選でトランプ支持に回った州がより多くマイナスの影響を受けることになります。恩を仇で返すことになりますが、それでもバイデンの業績潰しに熱心なトランプは……。