第24回「バイデノミクスのレガシー(3)―― インフラ・気候変動・移民をめぐるトランプの逆張り」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

この連載について

アメリカで展開されている都市政策の最新事情から注目の事例をひもときつつ、変容するこれからの都市のありよう=かたちをさぐります。

筆者

矢作 弘(やはぎ・ひろし)

龍谷大学フェロー

前回の記事

 

バイデン政権の遺産「インフラ投資雇用法」

インフラ投資雇用法=The Infrastructure Investment and Jobs Act(2021年、5年の時限立法、IIJA)には、交通インフラ(鉄道、道路、港湾、水運路、空港、サプライチェーン)の新規投資、及びふるくなって舗装が剥がれ、凸凹になっている道路や崩落の心配がある橋などの改修投資、それに気候変動対策が含まれています。

「小さな政府」を信奉する共和党の要求に妥協し、当初案からかなり縮退しましたが、それでも民主/共和両党の合意で成立しました。インフラの劣化がビジネス活動の足かせになってマクロ経済の生産性にもマイナスの影響を及ばしている、という認識が共和党側にもあり、両党合意案がまとまりました。

バイデンはIIJAを政権4年間の最大のレガシーの1件と評価しています。社会変革のために「大きな政府」を先導したルーズベルト/ジョンソンの2人の大統領に自分を比肩する時に、その証左としてしばしばIIJAに言及します。

IIJAに署名するバイデン(Public domain, via Wikimedia Commons

公共交通への投資に後ろ向きなトランプ

そうしたバイデンの栄誉を、トランプがどのように引き継ぐのかに注目が集まっています。
1期目のトランプは、B.オバマの業績をことごとくひっくり返し、逆張りの政策を打ち出しました。「バイデン憎し」のトランプですから、バイデンのレガシーを嫌悪し、間違いなく大量に廃棄する挙に出ます。

IIJAから資金の配分を受ける州政府、都市政府は、期待と心配を半々に抱き、トランプの言動に注視していました(What the Trump administration might mean for the future of the bipartisan infrastructure law, Brooking Institute, Nov. 25, 2024)。

しかし、これまでのところIIJAの取り扱いに直接言及する大統領令も、またトランプ発言も伝えられていません。

バイデン政権の3年間に、6600件のプロジェクトに5680億ドルが資金配分されました(Statement from president Joe Biden on bipartisan Infrastructure Law anniversary, Nov. 15, 2024)。

  • 車依存のアメリカを公共交通重視に転換するための施策として鉄道の強化を打ち出しました(都市間鉄道の強化:例えばボストン-ワシントン間の高速鉄道の整備、アムトラックの強化、都市内交通の拡充)。
  • 舗装が剥がれガタガタになっている道路(196000マイル)の改修、及び交通安全対策に多額の配分をしました。
  • インフラ対策を兼ねてサプライチェーンを増強するために、港と空港、水運の整備に取り組む方針を示しました。
  • 耐用年数を過ぎ、ふるくなって崩落の心配がある橋梁がアメリカ全土にありますが、その営繕(11400件)を急ぎます。
  • 都市と地方の社会経済格差の一因になっている情報通信網を改善するために、地方のブロードバンドの普及を支援します。
  • ふるくなった鉛管を使い続けているために飲料水の鉛汚染が報告されていますが、その鉛害対策として水道管の取り替えを促進します。
  • 送電網の整備を進めます。
2024年1月25日木曜日、ウィスコンシン州スペリオルにて、同州スペリオルとミネソタ州ダルースを結ぶブラトニック橋の建設計画について、選挙関係者や組合幹部から説明を受けるジョー・バイデン大統領(当時)。
(Official White House Photo by Adam Schultz)

しかし、トランプは公共交通の充実には後ろ向きです。バイデンが決めた政策が撤回されるのではないか、という推測が流れています。

特にブルー州でその危惧が広がっています。カリフォルニアの場合、サンフランシスコ-ロサンゼルスを高速鉄道で結ぶプロジェクトが進行していますが、トランプ1期目には、この計画に対する連邦支援にストップがかかりました。今度も、連邦運輸省がこの高速鉄道をめぐって連邦補助金の支払いを精査する、という方針を示しています。

また、サンフランシスコのダウンタウンでは、この高速鉄道の導入を含めて大規模なターミナル駅の開発プロジェクトが進行していますが、ここでも連邦の助成が止まるのではないか、という心配の声が上がっています(‘Portal’ underground rail project rolls on as Trump funding questions loom, SF Standard, Jan 2, 2025)。

ニューヨークで2025年1月、マンハッタンに混雑税が導入されました。これまでのところ車の交通量が抑制されるなど予想以上の効果が報告されています。

ニューヨークのマンハッタンに設置された車両認識用のカメラ
(Jim.henderson, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons)

しかし、トランプは混雑税を目の敵にし、「廃止!」を要求しています。この要求に応じなければ、ニューヨークの公共交通を担当する都市圏局(MTA)に対する補助金を削減する挙に出るのではないか、と危惧されています。