第23回「バイデノミクスのレガシー(2)―― 救えなかった住宅危機が脅かす“都市の権利”」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

所得の半分以上が家賃に消える

ニューヨークタイムズがニューヨークのワシントンハイツ(マンハッタンの北にある住区)に暮らす家族の話を紹介していました(It was a haven for New Yorker families. Now they can’t afford to stay, Dec. 19, 2024)。

バーナード大学(コロンビア大学と兄妹の連携女子大学)でダンスと音楽を教える夫婦です。年収10万ドル+α(副業)稼ぐ。しかし、家賃に年5万ドル払い、2人の子供のデイケアに年3.6万ドル支払い、やり繰りが厳しい。いよいよ引っ越しを考えている。
以前のワシントンハイツは、子連れ家族が暮らすのに「天国」だったが、昨今は中間所得階層の家族がアパート暮らししながら子育てするのが難しくなっている。子連れ家族の転出が常態化し、2000-2020年に18歳未満の子供が48%減になった。市内全体では、子供の数が同じ期間に10%減少した。子連れ家族が市内に暮らせなくなっている状況は、ニューヨークに限らない。大きな都会に共通する傾向になっている。

当然、住宅価格の高騰は、家賃に跳ね返ります。家賃が高騰し、暮らせなくなって引っ越しをする、最悪の場合はホームレスになる、ということが起きています。
また、学生は家賃の支払いに困窮し、2人でワンルームを賃借し、カーテンで仕切ってシェアしている、という話をしばしば聞きます。
そこでは都市に暮らす権利が剥奪されています。

Unsplash / Jon Tyson

アメリカ全体の賃貸住宅の1/4に当たる1200万戸で、居住者は所得の過半を家賃の払いに当てています。連邦が定義する「住宅貧乏」に属します。各地で、家賃の中間値が最低賃金で週45時間1ヵ月働いた時の稼ぎにほぼ相当しています。

したがって家賃を払った後は、手元に1銭も残らない、という計算になります。住宅極貧です(Biden suggests a bigger Federal role to reduce housing costs, New York Times, March 21, 2024)。

バイデン政権が取り組んだ危機緩和策

賃貸住宅危機を緩和するための緊急対応としてバイデン政権は、議会に対し家賃の引き上げにキャップを被せる法律を提案しました。悪徳不動産業者が賃貸住宅の供給不足を逆手にとって家賃を大幅に引き上げし、支払い困窮者を追い出している、という判断です。

50戸以上の住宅を賃貸している会社を対象に、当面(2年間)、家賃の引き上げを5%未満にするように指導し、守らない場合は、連邦が賃貸住宅ビジネスに提供している減税措置を奪取する、という厳しい内容でした。

バイデン政権は、住宅危機を都市政策の最重要課題と位置付け、危機緩和を目指す政策を立て続けに打ち出しました(Biden-Harris administration announced new actions to boost housing supply and lower housing cost, Feb. 24, 2024、Biden-Harris administration takes new actions to lower housing costs by cutting red tape to build more housing, August, 13, 2024)。

住宅都市開発局と財務省が連携を強化し、

  • 住宅ローンをめぐる融資環境を改善するために(高金利対策、融資に対する保険の助成)、州政府、都市政府の住宅関連機関に対する支援を強化する。
  • 州政府、都市政府が住宅供給の妨げ(例えば、住宅開発規制のゾーニンング=土地利用計画など)を排除するのを側面から支援する。
  • 連邦、州政府が所有する公有地を住宅開発用地に放出する施策を促進する。
  • 規格化された住宅を工場で量産する(manufactured. Houses)のを促進する。