第21回「高速道路は時代遅れになる?!(3)―― 道路を拡張/延伸すると交通渋滞はさらに悪化する?!」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

Alfred Twu, CC0, via Wikimedia Commons

ロサンゼルスのダウンタウンを避けて南北に走る迂回道路のI-405は、ロサンゼルス空港、エッジシティ(都市機能を完備した自己完結型郊外都市)、オフィスパーク、倉庫街を縫って走る郊外型の高速道路です。

港へのアクセス道路に接続しています。そのため大型トラックが多い。常々、渋滞が深刻です。交通事故が一度起きると最悪です。車が1時間以上動かなくなります。普段から空港までの所要時間を読めず、時間にかなり余裕を持って空港に向かうことになります。その時間ロスは、ビジネスには大きな費用負担になっています。

2015 年に、I-405の拡張が完工しました。ロサンゼルス郊外の峠越えの25km(I-10とI-101の間)に、運用道路をそれぞれ1車線、双方向に増設する工事でした。開業直後は交通渋滞がしばらく緩和しましたが、それも束の間のことでした。

その後、状況は、拡張前よりも悪くなっています(Traffic on 405 Freeway got worse since expansion project, study shows, NBC News, May 7, 2019)(Five years after Sepulveda Pass widening, travel times on the 405 keep getting worse, la.curbed.com, May 6, 2019)。

拡張前には時速45km(午後3-4時)で峠越えをすることが出来ました。ところが2019年には、同じ時間帯に時速30kmのノロノロ運転でしか走れなくなりました。車から出る排気ガスも増加しています。

その理由を記事は、「道路の拡張がさらなる交通悪化につながっている(高速道路の能力が10%向上すると長期的には車の交通量が10%増える)」という誘発理論で説明していました。

I-405については、ロサンゼルの南に接するオレンジ郡でも拡張工事がありました。双方向にそれぞれ1車線拡張し、さらに双方向に2車線(I-73とI605の間)の有料道路(乗車人数と時間帯によって通行料が違う)を増設するプロジェクトが2018年に着工し、2023年に完工しました。拡張された距離は25km、うち有料道路は12km、総工事費21.6億ドルでした。

I-405が走る南カリフォルニア(ロサンゼルスとその周辺郡)は、郊外のスプロール開発と車の普及が相互に誘発し、肥大してきた「車社会の最進地域」です。しかし、交通問題の研究者に加え、道路政策の担当者の間でも、「州内ではこの1-405の拡張が、高速道路の、最後の大型拡張工事になる」という認識が広がっています(Mammoth $2-billion 405 project marks an end to Southland’s big freeway era, Los Angeles Times, Dec.2, 2023)。

「高速道路投資」信奉の時代は終わるか?

高速道路を拡張/延伸するための空き地が乏しくなっていることがありますが、「そもそも時代が基本的に変わった」という考え(気候変動危機、車依存の暮らしからの脱却)が支持を得るようになったためです。「高速道路投資がゼロになることはない。しかし、これからの交通投資は、自転車道、鉄道、バス専用道などとのバランスを考えながら取り組むようになる」という話です。

実際のところ、典型的な車社会都市だったロサンゼルスでは、最近、I-710の拡張計画が破棄された一方、鉄道、LRT、高速バス、自転車専用道向けの投資が急拡大しています。この認識の変化には、誘発理論も影響しています。

高速道路の担当部局の間でも、渋滞対策として拡張/延伸することに限界を感じ、さらなる高速道路投資を諦める、あるいは徒労感が広がっているのではないか、と思わせる発言が聞かれるようになりました。

カリフォルニア州議会下院環境正義委員会では、州政府が高速道路の新設/拡張投資をする、あるいはそれを認めることを禁止する法案が審議されました(CA Bill Would Outlaw Freeway Expansions through Environmental Justice Communities, streets blog.com, Feb.3 2022、上院交通委員会で否決)。法案は趣旨説明で、「車交通をめぐる誘発理論」「高速道路が起こすコミュニティの分断、不平等な立ち退き」に言及していました。

高速道路が起こすコミュニティの分断が、都市経済に及ぼす外部不経済を試算する調査も行われています。その成果は、高速道路解体や拡張/延伸反対の運動を、理論的に支援する材料になっています(Urban highways cost billions in lost home value, property taxes, CityLab, August 16, 2023)。

ワシントンD.C.を走るI-395とI-695は、1960年代初期にマイノリティの住宅、少なくても1400戸を解体して完工しました。NPOのSmart Growth Americaが、住宅解体の経済ロスを調べています。その試算によると、現在価格で14億ドル相当の住宅を失ったことになり、ワシントンD.C.は、毎年、760万ドルの不動産(住宅)税を逸失しています。

Evening rush hour on I-395 and Route 27, with the Pentagon in the background.(Aude, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons)

サンフランシスコでは、11月の選挙で草の根運動が主導した住民投票のProposition Kが成立しました(Prop. K; passes stretch of Great Highway will close to car, SF Standard, Nov. 8, 2024)。市に西側を走る高速道路(the Great Highway)の3.2kmを閉鎖し、自転車道、犬連れの散歩道、ローラースケート道、それにオーシャンビーチ公園を造る提案です。

「交通渋滞が加速する」と提案に反対し、裁判に訴える姿勢を示す郊外派と「アーバンアメニティが向上する」と住民投票の成立を喝采する都会派の対立が先鋭ですが、ニューヨークタイムズや全国ネットのテレビがProposition Kの成立を伝え、高速道路撤去運動に追い風になっています。

(つづく)

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