第21回「高速道路は時代遅れになる?!(3)―― 道路を拡張/延伸すると交通渋滞はさらに悪化する?!」連載『変わりゆくアメリカからさぐる都市のかたち』

拡張を推進する交通局の論理は正当か

拡張計画の必要性についてTxDOTは、

  1. オースチンは公共交通の整備が遅れている(北の外郊外と都心を結ぶ単線の鉄道CapMetroが2010年に運用開始になったが、都市圏の公共交通はバスが中心)
  2. 郊外にオフィスパークがさらに開発され、人口が増え、交通渋滞のさらなる深刻化が避けがたい

――と説明しています。

現状を放置すると、

  1. 2035年には、ダウンタウンから30kmほど北の郊外都市まで行くのに2時間半かかるようになる
  2. 2045年には、現在の交通量が50%増加する
  3. 毎日、30万台がダウンタウンのI-35を走るようになる

という試算を示しています。

反対派の市民運動は、この試算を「根拠が乏しい」と批判しています。「郊外の人口が増えると言って道路を造る。道路を新設、あるいは拡張/延伸すれば、その界隈では人口が増える。その繰り返し――堂々めぐりになっている」と主張しています。

「30km走るのに2時間半かかるようには決してならない。それほど渋滞が酷い道路を、だれも走らない。そこまで渋滞が悪化する以前に、人々は他に迂回するか、公共交通を使うようになる」と訴えています。反対派が説く、いずれの筋書きにも合理性があります。

オースチンは2020年に住民投票を実施し、Project Connect計画(10億ドル投資)を承認しました。この計画は、住民投票でそれまでに幾度か否決されてきましたが、オースチンの道路事情が悪化し、市民の間に「いよいよ公共交通を整備しなければならなくなった」という認識が広まったのです。それで漸く成立しました。

計画では、LRTを2新線整備するなど公共交通の拡充に力を入れることになっています。そのタイミングにI-35の大規模拡張計画が浮上しました。市民グループは、20車線化計画の代替案としてボストンの「Big Dig」に学び、ダウンタウンを走るI-35を地下に埋める案を提起しています。

「車交通をめぐる誘発理論」

交通混雑を緩和するはずの高速道路の拡張/延伸ですが、実際は逆に「さらなる車交通を誘発し、交通渋滞が一段と悪化する」という〈車交通をめぐる誘発理論〉があります(California Freeway expansion projects induce travel, and underestimate impacts of additional driving, Streetsblog. Dom, Feb. 7, 2021、Widening highways don’t fix traffic. So why do we keep doing it?, New York Times, Jan. 6 2023、Why traffic never gets better, Planetizen, De, 12, 2024)。

カリフォルニアの高速道路を調べた実証研究によると、交通当局は、拡張/延伸の計画段階では、そのマイナスの影響(誘発による車の増加)をとかく無視、あるいは過少評価します。「特に環境アセスメントでその傾向が強い」と研究は指摘しています。

誘発理論については、幾つもの実証事例が報告されています。